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被爆者の被爆体験や平和への思いを次の世代が語り継いでいく「伝承者」の存在

 

会場の様子2023(令和5)年6月 尾形さん1回目の講話

 

被爆者の被爆体験や平和への思い、被爆の実相を後世に伝えるため、広島市は2012(平成24)年度から被爆体験伝承者等養成事業を行っており、自らの被爆体験等を伝える「被爆体験証言者」、被爆体験証言者の体験や平和への思いを受け継いで伝える「被爆体験伝承者」の養成に加えて、2022(令和4)年度からは、家族の被爆体験等を受け継いで伝える「家族伝承者」の養成にも取り組み始めました。

家族伝承者の募集が開始されてすぐに応募し、2023(令和5)年4月、最初に委嘱を受けた7名のうちの1人が尾形健斗(おがた けんと)さんです。1990年生まれの34歳で、委嘱当時は32歳の最年少家族伝承者でした。尾形さんが母方の祖父・松原昭三(まつばら しょうぞう)さんから初めて被爆体験について聞いたのは、小学4年生の時。昭三さんは16歳の時、原爆投下翌日から1週間、叔母を探し歩いて入市被爆しました。

「平和学習の宿題で、身近な人に戦争体験を聞くというのがきっかけでした。まだ幼かった私はすべてを理解することができず、辛い体験をしたんだということだけが記憶に残りました。おじいちゃんが険しい表情で語るのを見て、聞かない方が良いことなんだと思って、それから話を聞くことはなくなっていきました」。

 

正面を向いて話す家族伝承者になるきっかけを話してくれた尾形さん

 

進学先の関東で暮らした時は、広島とは戦争や被爆、平和に対する思いに温度差があると感じ、一方で留学先のニュージーランドでは「広島」を知っている人がいて驚いたという尾形さん。自らが広島に生まれた意味を考え、平和についてもっと知るべきだと感じたといいます。「またおじいちゃんの話を聞きたい」と強く思う一方で、「聞いたところで自分に何ができるのか」という無力感も感じていました。転機が訪れたのは、2022(令和4)年1月でした。

「自分も30歳を過ぎ、おじいちゃんも90歳を超えていて、焦りが募ってきていたときに、家族伝承者という制度を始めるという新聞記事を見ました。やるのは今しかない、おじいちゃんの話を聞く良いきっかけだと思って応募しました」。

 

おじいちゃんと尾形さんおじいちゃんの昭三さんから原爆投下時の話を聞く尾形さん

応募者は、被爆の実相や放射線の人体への影響等に関する講義、アナウンサーによる話し方講座のほか、被爆者の話を聞くなどの研修を受けた後、広島市の担当者によるサポートのもと講話の原稿を作成します。その原稿を使って実際に講話を行うテストを受けて、合格すると家族伝承者として委嘱状が交付されます。

家族伝承者として活動する場の1つが、広島平和記念資料館の東館地下1階で毎日開催されている定時講話(予約不要、無料)です。2023(令和5)年6月、尾形さんは初めての講話に臨みました。

「被爆者の女性が聞いてくださっていて、「若い人がこうやって話してくれるのが嬉しい。どんどん広めていってください」と涙ながらに言ってくださったんです。意味のある活動なんだと自信が持てました」。

定時講話は約260人の被爆体験伝承者と家族伝承者が交替で行い、2カ月に1回ほどのペースで順番が回ってきます。尾形さんはこれまでに約10回の定時講話を行ったそうです。他に派遣講話の機会もあり、広島に修学旅行で来た小学生に話をしたり、修学旅行の事前学習のため、関東の中学校へ派遣されたりすることもあったとか。

「先日は、東京の東大和市に行きました。被爆者の話は初めてという生徒さんが多く、真剣に聞いてくれました。届いた感想文をおじいちゃんに見せたところ、活動の意味をより理解してくれて、私もやりがいを感じました。今年初めに行った神奈川県相模原市では、講話を聞いた先生の紹介で来年また別の学校に呼んでもらえることになり、それも自信になりました」。

 

手元を見ながら話す派遣講話では講話先の情報を調べて講話に織り込むという

 

派遣講話の際は、必ずご当地の話題をプラスするという尾形さん。東大和市では、同市内の戦争遺跡「旧日立航空機株式会社変電所」の話をしました。機銃掃射や爆弾の破片による無数の穴が外壁に残る建物です。

「100人以上の方が亡くなった、「西の原爆ドーム、東の変電所」と言われるほどの酷い空襲だったそうです。変電所の横には広島から贈られた被爆樹木のアオギリが植えられています。そのことにも触れて、つながりを感じてもらいました。講話では、自分とは無関係の遠い話ではないと感じてもらえるように伝えることを心がけています」。

これからも長く活動を続けていきたいという尾形さん。被爆者の高齢化が進み、体験談を直接聞ける機会が減りつつある中、どう引き継いでいくかが大きな課題だと言います。

「おじいちゃんも96歳になりました。今のうちにしっかり体験談を聞いておきたいです。私が受け継がなければ、おじいちゃんの壮絶な体験もなかったことになってしまうので、より多くの方に講話を聞いていただいて、残していくことが私の役割だと思っています」。

 

【被爆体験伝承者等養成事業についてお問い合わせ】
広島市市民局 国際平和推進部 平和推進課被爆体験継承担当
広島市中区中島町1番5号 広島国際会議場3階
Tel:082-242-7831 Fax:082-242-7452
peace@city.hiroshima.lg.jp

 

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