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パリからの御婦人

・「頼山陽の生涯」の展示室に先に入ったのを追いかけて入り,「基本的なレベルですが」と当方から案内を申し出たお客さまです。様子は観光客というより,研究者のようにすら見えました。一つひとつの頼山陽の展示に真剣な目を向け,熱心に質問をしてくれました。
  家系図、展示物の日本語と中国語の関係、日本外史は今でも読まれるか、外国語の翻訳はあるか、など写真撮影しながら食いつきの強いお客さまです。Samurai  は英語の音でしょうけれどフランス人には Samugai といってくれた方が伝わりやすいのよ、と音声指導も受けました。

・刀剣の展示に案内すると、ちょうど三上刀匠が訪ねてきていたので引き合わせることができました。三上刀匠が数年前パリで刀剣の展示会を開いたことが話を盛り上げることになり,双方の距離が近づいた感じが生まれました。おふたりはフェイスブック等でもしかしたら連絡するかもしれない、とアドレス交換にまでつながりました。

・刀匠という職業からの連想でしょう,artisanという職人の中でもマスターレベルの集団がフランスにあることも懸命に伝えようとしてくれましたが、もうひとつ当方の理解が深まらなかったのが残念です。そのこと自体はおおむね理解しましたが,少々弁解するなら同時に,partisan という言葉との関連を考えているうちに細部をとらえ損なった部分がある,と弁解しておきます。おそらく,artisanはartを,partisanはparty を語幹とし,それが語源でもある,と考えることで当座のモヤモヤを整理することにします。

・「日本でこういう刀を持って日本で歩いていたらどうなるの?」という問いがありました。その答えを確かめたかどうかわからないうちに、彼女から中近東オマーンのお国事情を紹介してくれました。お話によると,原油のおかげもあり豊かな国であることはもちろん、多くの男性がふだんでも腰に短刀を帯びて歩いている。あの国で刀を作って売ると大きなビジネスになるのではないか?とまで発展したのです。三上刀匠もその刀を御存知で、以前、問い合わせを受けたことがあるが、丁重にお断りしたのですよ、と笑っていました。刀身の断面を比べると、日本の刀は菱形に近いのだが、話題の短刀は刀身の中央に筋状の突起が走っている、と図示してくれたおかげで、御婦人も当方も明確に納得することができました。
〇検索学習したところ、ハンジャル( khanjar ) または janbiya という名称がありました。短剣を意味するアラビア語で,アラビアンナイトなどの絵本や映画で見るのと同じタイプです。実際に腰に差している男性の絵もすぐに見つかりましたが,腰というよりはヘソの前で帯に差している絵で,しかも50センチくらいの長さでした。文化人類学のひとときでした。

・「刀の写真を撮ってよろしいですか?」という女性からのことばがきっかけで,「フードポルノ」という言葉の連発とともに,懸命にその説明をしてくれました。要は,レストランで注文した料理の写真を客が無断で写して,ネットや著作物に上げることは,料理という作品の著作権という観点から許されないという,そういうことですね,と念押しして当方も理解できた次第です。最近の風潮として,フランスでも地域によっては罰金,あるいは刑務所行きよ,と笑って教えてくれました。

〇事後学習によると,<kotobank.jp>の解説として紹介されていたのは,
<レストラン等で料理や調理・食事風景の写真・動画を撮影し、個人のブログやSNS等に投稿・公開する行為を指す造語。おいしそうな料理の写真や動画が見る人の食欲を刺激することから、性欲を刺激するポルノ鑑賞に例えて「フード・ポルノ」と呼ばれるようになった。主に欧米で使用されている用語である。近年は、SNSを介したフード・ポルノが一般化している。2014年には、SNSを介したフード・ポルノについて、欧米のレストランでは宣伝につながると歓迎する声とともに、撮影マナーの悪さや知的財産の侵害を問題視する声も上がっていると報じられた。(2014-2-19) >とありました。

・打刀(うちがたな)を見たとき話題です。彼女の説明を正しくとらえられた,初めのうちは不安がありましたが、フランスでは大きなセレモニーなどでシャンペンのボトルを開けるのに50センチあまりのナイフでボトルの首を切るのですよ、とのこと。「コルク栓とボトルをテープ状の紙(実際はハリガネ)で止めてあって、それをナイフで切るのでしょう?」と返したが、どうもボトルそのものを切る、と主張したのです。

 〇いつものごとく検索学習すると、シャンペンを華やかに開けるのに、サブレ(日本語でいうサーベル)と呼ばれる方法がある。コルクを抜いて開けるのではなく、サーベルでコルクごとボトルの口を切り落とすやり方。フランス語では sabrer le champagne (シャンペンをサブレする) 名詞は sabrage サブラージュ。包丁の長さの刃物を使うこともあるが、専用の一メートル近いものシャンパンサーベルも販売されている。などの雑学知識を仕入れました。 
”ブルゴーニュの日々” http://www.bourgognissimo.com/Bourgogne/1ARTL/BR_055_8.htm

ちなみに動画サイトにも紹介があるのを見て,彼女の説明が納得できました。

・中根金作氏作庭の庭園を紹介すると、「ほかの地でも大きな庭を見ました。Onsyu から橋を渡ったところにある matsu  なんとかという町の、ほらこの庭園!」とスマホの写真を見せてくれました。しばし当方との間で話が混信しましたが、「本州」から海を渡った「高松」市のこととわかりました。庭園は栗林公園。「京都で東京駅はどっちと聞くと日本人にきょとんとされたり、日本語は紛らわしい名前が多いのよね。」とも。それは何処でも同じでしょうと内心で思いましたが、実に感嘆に値する好奇心です。

・別れ際に、資料館のURLを貼付して用意していた安価な扇子を差し上げました。「あら、私も自分で持ち歩いているのよ、ほら、でも壊れかけているけどね。だからちょうど良かった。知っている?スペインではほとんどの女性が扇子を持っていて、例えばコンサートホールなどに行くとちょっとしたウェーブが起きるのよ。」と、この方の話はきっと豊富な旅行経験からなんとも底知れず 、話し上手でもあります。
 弁護士というご自分の職業と専門分野まで紹介してくれましたが、許されるなら座り込んで話すと面白そう、とは想像だけにしておきます。