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田中牧場の比婆牛

「比婆牛」の美味しさを支える地域循環型農業

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比婆牛 (ひばぎゅう) の故郷である広島県庄原市で、40年以上にわたり和牛の肥育に携わられているひば高原田中牧場さんを訪問しました。「幻の和牛」と称され、めったに市場に出回らない比婆牛が、どんな土地でどんな風に育てられているのか、肥育農家の田中さんにお話を伺いました。

毎日の努力を継続すること、それが大切

話をする田中さん
株式会社 ひば高原田中牧場:田中髙志さん

田中牧場さんの一日の流れを教えていただけますか。

朝は6時ごろからはじまります。1時間ほどかけて牛を見回りながら全員を起こしていくのですが、その時に「風邪気味じゃないかな」とか、彼らの様子を見ています。

見て分かるものなんですか?

不思議と、毎日見ていれば「何かが違う」って分かるんですよ。

なるほど。

8時30分ごろからエサやりをして10時に一服。その後、牛舎の散らかったエサを整えて午前を終えます。午後からは畑の作業とか事務周りの業務をして、17時に夕方のエサやりがはじまります。18時に見回りをして一旦帰宅。24~25時に再度、深夜の見回りをします。

夜も見回りされるんですね。

夜中に体の重心が上手にとれずに起き上がれなくなって、自然に死んでしまうことがあります。それを防ぐために、基本的には6時間単位で見回るようにしているんです。最近はこの習慣を「6時間の法則」といって、肥育業界でも注目されているみたいですね。

田中さんはその「6時間の法則」をずっとされてきたのですか。

はい。子供を育てるのと一緒で、小さな変化に気づいてあげることが大事です。結局それが儲ける秘訣だと思います。実際に「6時間の法則」を実践していないところは事故率も高いですし。

作業をする田中さん

風邪くらいで牛が死ぬことはないですが、長引くと体重が増えなくなるし、そうならないために全力を尽くす。努力は毎日しないと意味がなくて、364日努力したのに、たった1日をおろそかにしたばかりに全てがダメになるんじゃ、意味がない。そういうもんです。

地域の一員として、共に循環していく

濃厚飼料
小麦やとうもろこしなど独自で配合している「濃厚飼料」

エサはどんなものを与えていますか。

大きくは2種類です。小麦や大豆、とうもろこしなどの「濃厚飼料」と藁 (わら) や牧草などの「粗飼料」です。牛はヤギや羊と同じで反芻をする動物ですが、草を食べて肉がつくから不思議な生き物ですよね。

確かに、言われてみればそうですね。エサのこだわりって何かありますか。

粗飼料については、輸入品は買わないようにしています。地域で調達するのが私たちのポリシーです。肥育業は濃厚飼料が主なエサで、粗飼料は反芻をさせるくらいですが、それでも1日200㎏ (年間で73,000㎏) 必要です。藁一束で100㎏ほどなので、1年間で730束の計算ですね。

倉庫の様子
倉庫で保管している藁 (一束100㎏)

それを全て地域で調達するとなれば地域との連携が必要で、連携ができていなければエサがもらえないこともあるわけです。もちろん自分たちでも作っていますが、全部は作れないですからね。

餌を食べる比婆牛

地元の農家さんに藁を確保してもらっていたり、近所の木材工場で樹皮をいただいたりする一方で、こちらからは堆肥を提供して土を肥やしてもらったりと、資源を上手く循環させていくこと。

ピンチのときは互いに助け合いながら40年かけて築いてきた関係性を大切に、地域の一員として共に循環していく農業形態を目指しています。

比婆牛は「美味しい遺伝子」を持っている

こちらを向く比婆牛

比婆牛の特徴ってありますか。

性格がおとなしいですね。それはたぶん、血筋なんだと思います。おとなしい牛だからこそ、この地域 (広島県庄原市) に広がったのかもしれません。

性格は味わいにつながりますか。

それはあると思いますよ。喧嘩もほとんどしないですし。あとはやっぱり「美味しい遺伝子」を持っているんじゃないでしょうか。同じように育てても、血統で味わいに違いが出てくることは確かです。実際に「比婆牛」は、MUFA (脂の口どけ) の割合が高いことも科学的に実証されていますしね。

広島県としても、比婆牛料理の実証実験を実施していまして、召し上がったお客様からは「脂があっさりしていて美味しい」と好評だったようです。

脂があっさりしているのは、そうですよね。昔は「霜降りの牛肉がいい」という風潮がありましたが、最近は健康志向も高まって、あっさりと美味しく食べられる牛肉が人気なのかもしれません。

我が家の定番は「比婆牛雑煮」

田中さん

地元の皆さんにとって比婆牛は、身近な存在なのですか。

そうですね。帰省客が来たときは、よく比婆牛の焼肉で迎えていました。うちは、正月の比婆牛雑煮が定番です。

比婆牛でお雑煮ですか!? なんと贅沢な…羨ましいです。

肉で出汁をとるのですが、ちょっと脂があったほうが美味しいのでバラ肉の薄切りで作るのがおすすめですよ。

他に、田中さんおすすめの比婆牛の食べ方はありますか?

まずは、ローストビーフですね。モモブロックで作るパターンとサーロインブロックで作るパターンがありますが、サーロインが最高です。独特の美味しさがあって本当に美味しいですよ。

あとは、スネ肉であれば比較的安く購入できますし、煮込みにすると美味しいですよ。スネ1本分くらい買って、少し厚く切って、煮込む。って、僕が料理するわけじゃなくて奥さんが作るんですけど (笑) 牛肉料理が上手なんです。

それはぜひ食べてみたいです!

地元では肉の部位で買えるのが、いいですよね。庄原市にお越しの際には、ぜひ比婆牛を買ってみてください。

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インタビューを終えて

はじめて比婆牛を見ましたが、真っ黒な毛並みと可愛らしい瞳が印象的でした。子供を育てるように日々牛たちと接している田中さんのまなざしや地域循環を大切にされている思想に触れて、「美味しさ」が一朝一夕で作られているわけではないと実感するとともに、多くの学びを得ることができました。田中さん、そして田中牧場のみなさん、ありがとうございました。