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熱心にパソコンを見つめる学生

「AI人材を育てる!」産官学連携で実現したハンズオン勉強会に密着

ひろしまを学ぶひろしま自慢 |

広島県が実施しているAI人材育成の取組の一つ「ひろしまQuest」。

ここでは、広島版AI人材開発プラットフォームとして、オンラインとオフラインを組み合わせながらナレッジを共有し、一緒に解を探求 (Quest) しています。

パソコンの前で笑顔な男性

ひろしまをアップデートせよ!AI人材を育てる“ひろしまQuest”とは!?

デジタル人材育成のため広島県ではある取組が行われています。

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この取組の一環として、データサイエンティストや教員など、様々なバックグラウンドを持つ講師から直接学ぶことができる場「ハンズオン勉強会」を設けています。

8月24~26日に開催されたハンズオン勉強会は、広島市立大学の産学連携教育科目の1つである「課題解決型演習」を広島県と連携して集中講義の形式で実施しましたので、その様子をご紹介します。

課題解決型演習の目的は?

大学内の講義の様子

課題解決型演習の目的は、プログラミング言語PythonやAIの基礎・応用を学ぶこと、また、行政や企業が抱える課題を解決するために、データの活用方法や考え方を学ぶことです。

今回のデータ分析のテーマは「Jリーグの観客動員数の予測」。分析の方法や仮説の検証方法、モデル作成の方法などについて学びながら、グループワークを通して予測モデルの精度を向上させていきました。

3日間のカリキュラム

データ分析の流れ

3日間にわたる課題解決型演習の初日は、分析の方法や仮説の検証方法、モデルの作成方法について解説。2日目にグループワークを通して予測精度を上げる解決策を検討した後、最終日にはグループ毎に成果発表を行いました。

グループワークをする学生

受講した学生は情報科学を専門に学んでおり、またe-ラーニングで事前に学習していたこともあって、データ分析については一定の理解がありました。

しかし、そのデータが何を意味しているのかを考えるのは難易度の高い課題。頭を悩ませながらも、グループのメンバーと積極的にディスカッションしながら取り組んでいました。

課題解決型演習の魅力は?

課題解決型演習の感想や今後への期待について、受講した学生、授業を担当した講師とプログラム開発責任者、そして講義の導入を決めた先生にインタビューしました。

グループで協力して取り組むことの楽しさを学んだ

広島市立大学情報科学部3年生 田村春乃さん
広島市立大学情報科学部3年生|田村春乃さん

まずは、グループリーダーとしてディスカッションをリードしている姿が印象的だった、〈広島市立大学情報科学部3年生〉の田村春乃さんに、今回の課題解決型演習に参加した感想をお聞きしました。

課題解決型演習の感想を教えてください。

田村さん|プログラミング言語Pythonについての勉強はしていましたが、課題がなかなか難しかったです。苦労しながらもグループのメンバーとアイデアを出し合いながら協力することで、学びある時間を過ごすことができました。

データ分析を実践する場として、企業などでのインターンも選択肢としてありますが、挑戦することにハードルを感じる人もいると思います。今回のように授業の一環で実施されれば、安心して踏み込めると思います。

今回の講義を今後どのように活かしていきたいですか?

田村さん|課題で扱ったデータが実際のJリーグのものであることがとても面白いと思いましたし、データ分析を実社会で活かせると実感できました。卒業後は行政や民間企業など組織の中で、データ分析の経験を活かしたいです。

「勉強」と「実践」は全く違うことを感じてもらいたい

 <small>(左)</small> 広島商船高等専門学校|岸拓真先生  <small>(右)</small> 株式会社SIGNATE|髙田朋貴さん
(左) 広島商船高等専門学校|岸拓真先生
(右) 株式会社SIGNATE|髙田朋貴さん

課題解決型演習で講師を務めた〈広島商船高等専門学校〉の岸拓真先生と、課題解決型演習のカリキュラム作りやひろしまQuestで提供した「SIGNATE Cloud」の開発を行っている〈株式会社SIGNATE〉のプロダクト責任者である髙田朋貴さんに、AI教育の重要性や講義に込めた思いをお聞きしました。

ハンズオン勉強会の魅力は何だと思いますか?

岸先生|汎用性がある王道のスキームを勉強できることが魅力の1つだと思います。「勉強した!」で終わるのではく、今回勉強したことが他のデータ分析に応用できることを、手を動かしながら体感できます。テーマについては、実データでありかつ汎用性のある好事例をSIGNATEさんが選んで作成されているなと思います。

「データ分析」と聞くと分析の手法に意識が向けられると思いますが、何よりもまず重要なのは「そもそも何のためにデータを分析するのか?」という目的と課題を設定することです。私自身はデータ解析やシミュレーションが専門で、縁あってひろしまQuestに約2年間関わっていますが、高等専門学校でもAI教育をしていく必要性を感じています。

井の中の蛙になってはいけないという思いから、課題解決型演習の講師を務めながら自分も勉強しているという状況です。

講義を通して学生に何を得てもらいたいですか?

高田さん|講座の中でとても大切にしていることは「実践」です。データ分析を通して、「勉強」と「実践」は全く違うことを感じてもらえるような講座にしたいと考えています。「知っていること」と「できること」には乖離があることを認識した上で、自ら調べていくことが学びになるので、その学びを持ち帰っていただきたいです。

またデータサイエンスは一人で黙々と向き合う印象があるかもしれませんが、ビジネスにおいて決してそんなことはありません。様々な人が絡み合って協力しながらモノづくりを行っていくという意味では、データサイエンスも例外ではありません。

グループワークをする学生

データ分析は最終的には人に説明をする仕事であり、説明の訓練は必要です。自分たちでコミュニケーションをとって「どうやったらうまくいくだろうか?」と話し合うことがとても大事であり、今回の課題解決型演習ではグループワークの時間を多く設けたので、協働の大切さや楽しさを感じてもらいたいです。

岸先生|広島市立大学の学生さんはモチベーションも能力も非常に高く、やる気と熱意を感じました。事前課題にもしっかり取り組み、着眼点も鋭く、ディスカッションのレベルも高度で、積極的な様子が印象的でした。

学生の手元の画像

Society5.0における人材育成を考えた時に、企業としてもDXを進めたいという考えがある中で、社員にデータについての理解がないとDXは進まないことは実感しています。この状況の中で橋渡し役、あるいはそれ以上の役割を担う人材が重要であり、一番動くべき人材にこの講義を受講してもらっているという認識はあります。

熱心にパソコンを見つめる学生

講義ではデータの読み取り方やデータ分析の型を身につけてもらって、データが溢れる今の社会の中で、それらをしっかりコントロールできる人になってもらえたらと思っています。この講義を「砂場のように、失敗を許容しながら何度でも試行錯誤できる場」であるひろしまサンドボックス事業として行う意義は非常に大きいと思っています。今回の講義が学生の皆さんの今後の卒業研究や社会実装の礎になれたら嬉しいです。

今後の展望を教えてください。

高田さん|もともと分析コンペティションをサービスとして提供していました。その中で「コンペティションにハードルを感じている初学者の方も育成していく必要があるのではないか?」と考えていたので、広島県で「課題解決ができるAI人材」を育成していくプログラムを作っていきたいという思いに共感しました。

AI人材の育成を考えた時、「学びたい人はいるのに、学びたい人を補えるだけの教える側の人材が不足している」ことが課題だと感じています。各地域が自律的な教育活動を進めていけるための支援をしていきたいですし、今後は広島県のオリジナルの教材をみんなで創っていけたらと考えています。

学生をフォローする高田さん

岸先生|広島市立大学の先生方が感じていらっしゃる課題感に共感しますし、こうして実現できているのも先生方の思いがあるからこそだと思います。今後もっと広げていけたらいいですね。

産官学でIT人材を育てる仕組みづくりを

広島市立大学情報科学部学部長|前田香織教授
広島市立大学情報科学部学部長|前田香織教授

最後に、〈広島市立大学情報科学部学部長〉の前田香織教授に、ハンズオン勉強会を授業として導入することを決めた理由をお聞きしました。

ひろしまQuestの一環として授業を実施することを決めた背景は何ですか?

前田教授|情報分野の学生を育てて輩出することは情報科学部の使命です。世の中ではここ何年もIT人材不足が叫ばれ、人材がなかなか地域に根付かないという課題があります。しかし、学生にとっては地域の産業界との接点がなかなかないため、「地域の課題は何なのか」「どうして自分がIT人材として求められているのか」が分からないというのが正直なところです。

この課題解決のため、IT人材学生の育成を産官学で行う仕組みづくりを行い、早いタイミングで地域の企業と学生がマッチできるようにしたいと考えました。

熱心にパソコンを見て意見を交わす学生

今回の課題解決型演習では生きたデータを扱っており、普段勉強していることが社会で役立つことを学生に実感してもらう点で意義があるでしょう。先生方にはとても面白いテーマを考えていただいて、学生も前向きに取り組んでいるように思います。

そもそも産官学が連携する意義は何ですか?

前田教授|産官学の連携は、全てのステークホルダーにとってプラスの効果をもたらすと考えています。地域の企業が直面している現場ベースの課題に学生と一緒に取り組むことで、IT企業ではない企業もIT人材の必要性を考えていただく機会となると思います。

特に今、AI人材については、企業の経営課題が明確ではないのにも関わらず専門人材を採用してしまったが故に、その人材があまり活躍できないケースが見られます。

学生にとっては課題設定能力がとても大事です。今後、企業が直面している課題を授業のテーマとして扱っていくことで、学生にとっても有意義な機会になると考えています。

今後の展望を教えてください。

前田教授|学生が企業と一緒に取り組んだテーマを卒業研究に発展させたり、大学と企業での共同研究に発展させたりできればと考えています。一般的に共同研究は企業にとって敷居が高いものだと思われており、一方の大学は、企業が高度な技術を求めて研究に関心を持ってくれないのではないかと思っている場合があります。

このアンマッチを解消するためにも、今後も積極的に産官学連携を推進していきたいと考えています。

インタビューを終えて

キャンパス外観の画像

今回のハンズオン勉強会は、広島市立大学の産学連携教育科目の1つである「課題解決型演習」という形で実施しました。広島市立大学情報科学部は、社会ニーズと学生の成長機会を考え、今後も新たな取組に対して前向きに挑戦していかれるそうです。

株式会社SIGNATEさんや広島商船高等専門学校の岸先生は比較的早いタイミングからAI人材育成を実施されてきました。広島県としても、県内の情報系の学部や学科がある教育機関と積極的に連携して、産官学一体となってAI人材育成を進めていきたいと考えています。

このような機会を活用して学びたい方はもちろんのこと、ハンズオン勉強会の開催に関心がある教育機関や企業の皆様はぜひお問合せください!

お問合せ
ひろしまサンドボックス事業事務局
電話:082-513-3348
メール:syo-innovdig@pref.hiroshima.lg.jp