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救急車が走る様子

【新病院】広島の救急医療の現状って?新病院ができたら課題は解消するの?

ひろしまを学ぶ |

今後、広島県の救急患者が増加することが予想されている中、2030年度に新しく建設される新病院では、マンパワーや設備を集約して「断らない救急」を目指します。

今回は、広島県の救急医療の現状や新病院についてご紹介します。

新病院ってなに?

新病院のイメージ

広島県では、全ての県民が、質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる、そんな未来の実現を目指しています。

その拠点となるのが、2030年度に新しく建設される新病院。全国トップレベルの医療を、ここ広島で受けることができる未来がもうすぐやってきます。

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「救急医療」と聞くと、真っ先にイメージされるのは「救急車での搬送」ではないでしょうか。

救急医療とは、突然の病気、けがなど、緊急を要する患者に対応するための医療全般を指します。「救急車での搬送」は、救急外来にかかるときの手段の一つです。

実は、救急医療は重症度に応じて、「初期 (一次) 救急」「二次救急」「三次救急」と対応する医療機関が3つに分類されています。

一次救急は、入院の必要がなく、受診後そのまま帰宅できる患者に、二次救急は、入院治療を必要とする重篤な患者に、三次救急は、二次救急医療機関では対応が困難な複数の診療科領域にわたる重篤な患者に、と対応が分類されています。

現在、本当に医療を必要とする重篤な患者に適切な医療を提供する体制の確保が難しい状況になりつつあります。

医師の不足に加えて、本来は「初期 (一次) 救急」で対応するべき比較的軽症な患者が、夜間や休日に二次救急や三次救急を利用することが増えているためです。

比較的症状の軽い方は、できるだけ医療機関の通常の診療時間内に受診しましょう。

広島の救急医療の現状について詳しく聞いてみました!

広島大学救急集中治療医学の志馬伸朗先

今回は、広島大学救急集中治療医学の志馬伸朗先生に、救急医療について詳しくお話を伺ってきました!

志馬先生は、広島県の救急医療の体制や今後の救急搬送状況について、どのようにお考えでしょうか?

今後、広島県の救急患者数は増えていくと予想されています。特に救急車の出動台数、中でも高齢者の中等症・重症患者の搬送数が増加する見込みです。

一方で、医師を取り巻く状況について、2024年4月から、医師の残業時間に上限を設ける「医師の働き方改革」がスタートします。これまで、特に二次救急の現場は、医師の長時間労働や過度な時間外診療によって支えられてきた事実があります。

もちろん現場も地道に、他職種との協力や、タスクシフトと呼ばれる医師の業務の一部を看護師や薬剤師をはじめとする他のスタッフに任せたり分担したりする「業務移管」等により、医師の負担を減らす工夫は行ってきていますが、2024年4月以降は、これまでのような長時間労働ありきの働き方ができなくなります。

そうした状況の中で、救急患者を受け止めるキャパシティがそれぞれの医療機関でどれほどあるのか、懸念されているところです。

救急患者の増加の懸念と、医師の働き方改革が始まる、という2つのポイントがあるということですね。

それらの変化に対応する、潤沢な数の医師が各医療機関に配置されているのが理想ですが、広島県は医師の総数が少なく、救急科医も他県と比べて少ない状況にあります。

高度な知識や経験、技術を有する専門医になるための育成・認定等を担っている専門医機構の救急科プログラムを専攻する医師は増加していますが、その多くが関東、関西の都市圏での勤務を指向している、という実態があります。

なぜ、専門医は関東、関西の都市圏に勤務する傾向があるのでしょうか?

大都市にはある程度の医師数が確保できている大きな医療機関も多いです。医師の数が多ければ、一人ひとりの医師が無理な働き方をせずに、余裕を持った働き方ができます。

つまり、それだけ医師にとって魅力的な職場環境を提供できているのだと思います。勉強する機会が多いことや、便利で刺激的な都会への憧れも少なからずあるでしょう。

しかし、広島県の医師数は減少傾向にあるという課題があります。医師が無理な働き方をせずに、いわゆる働き方改革に合った働き方で、患者さんを受け入れてていくには、まずは医師を広島に集め、広島県の医師の総数を増やさないといけないと感じています。

マンパワーの集約は、目的ではなく、医師にとって魅力的な環境を作り上げるための手段ということですね。

現在の広島県の医療資源を見渡したときに、マンパワーの集約化は避けて通れない道だと感じています。マンパワーの集約化と地域医療体制の確保については、一見相反するように見えるかもしれません。

ですが、まず地域の医療体制を確保するためには、その地域を支える県内の医師の総数を増やさなければなりません。

広島県が掲げる「新病院」 (高度医療・人材育成拠点) は、その医師の総数を増やすコアな施設になります。広島県全体の医師の数が潤沢になると、地域の医療機関でも働きたいという医師が出てくるはずです。

キーワードは地理的アクセスではなく、医療的アクセスです。つまり、いかに患者さんにとって医療機関への地理的アクセスが良くても、そこに患者さんが望む医療を提供できる体制が構築されていない限りは、今後増えていく救急医療需要に対応することが極めて困難になってくるということです。

その他医療機関の集約化に伴い、その他どんなメリットがあるのでしょうか?

これは救急科医の話に限ったことではありませんが、残念なことにこれまで広島県には、全国の若手医師が「ここで勉強したい」と思うような施設がありませんでした。

いわゆるメガホスピタルと呼ばれる、症例数も豊富で若手医師に指導を行う指導医もたくさん在籍している医療機関は、若手医師から見てとても魅力的に感じます。

広島にそういったメガホスピタルと呼ばれる病院ができることで、若手医師に「広島のあの病院で勉強したい」と思ってもらえ、広島に来て、働けるような環境が整うことがメリットだと感じています。

新病院が出来上がる前から救急医療の強化が必要ですが、具体的にはどのような道筋をたどっていくべきでしょうか?

新病院が開院した際に劇的な改善を目指すのは、現実的ではありません。やはり新病院の開院に向けて、広島県の医師数を徐々に増やしていかなければならないと思います。

また、これまで以上に、救急科医と他診療科とのコラボレーションは重要になってくると思います。他診療科のいわゆる専門医に力を発揮してもらうためには、その周辺をサポートする救急科医、あるいは総合診療科医などの総合医の力が絶対に必要です。

今後増加していく救急医療需要に対して対応するためには、各診療科一体となった救急医療体制を構築していく準備を早期に行っていくことが必要でしょう。また、広島県の若手医師を増やすためには、若手医師が勤務したくなるような環境を具体的に示してあげる必要があると思っています。

新病院に勤務することで、自分はどんな成長を描けるのか、そのためにどんな指導をしてもらえるのか、そうした点を示していくことが、若手医師に対する一番のアピールになるのではないでしょうか。

新病院の救急医療はここがすごいんです!

広島市では、救急車で搬送される救急患者の受入れ先の病院が決まるまでの時間が長いという課題を抱えています。その理由の一つとして挙げられるのが、医師の人手不足などによる処置困難です。

また、志馬先生もおっしゃられたように、今後、救急患者数は増えていくと予想されています。医師や医療設備が分散していると、個々の医療機関では、救急患者を受け入れることが難しくなります。

そこで、新病院では、マンパワーを集約し、基幹病院と連携の上、特に夜間・休日の救急医療体制をバックアップし、4~5台の救急車を同時に受け入れることができる設備により、「断らない救急」を実践します。

新病院は、全ての県民が、質の高い医療・介護サービスを受けることができ、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる広島県の実現に貢献します。

最後に、「県民の命を守る救急」をテーマに、「新病院セミナー」を先日開催しました。今回インタビューを受けてくださった志馬先生もご登壇されていらっしゃいます。

本セミナーは、見逃し配信を行っておりますので、さらに救急のことについて詳しく知りたい方は、次のYouTubeからご確認ください。