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「心豊かな青少年を育む家庭・学級・地域社会の連携の在り方について」(平成12年2月)

広島県社会教育委員の会議提言
21世紀初頭に向けた社会教育の振興方策
-心豊かな青少年を育む家庭・学校・地域社会の連携の在り方について-(提言)

コンテンツ

はじめに

I  なぜ,家庭・学校・地域社会の連携なのか
1 新しい世紀を拓く心豊かな青少年像
2 連携した取り組みの意義
3 連携を進めるための社会教育委員の役割

II  いま,家庭は,学校は,地域社会は
1 家庭の教育力
2 学校の教育力
3 地域社会の教育力
4 家庭・学校・地域社会の連携の現状

III  家庭・学校・地域社会の連携を進めるために
1 連携のための仕組みづくり
2 社会教育における取り組み
3 社会教育を越えた地域ぐるみでの取り組み

IV  家庭・学校・地域社会の連携方策
1 家庭と学校の連携方策
2 地域社会と学校の連携方策
3 家庭と地域社会の連携方策
4 家庭・学校・地域社会の連携方策

おわりに

バック

はじめに

 21世紀を迎えようとする今日,核家族化,少子化,都市化など社会構造の加速的な進展は,人々の価値観に大きな影響を与え,こうした変化に対応するため,あらゆる分野で既存のシステムを改正することが求められています。現在の教育システムも過度な受験競争を招き,子どもたちに様々な問題が指摘されており,その早急な見直しと県民あげての取り組みが望まれます。
 このような状況に対処するために,学校教育において,生涯にわたって学習活動を続けるための基礎・基本を培い,社会教育などで学習活動を継続していく生涯学習社会の構築が急がれております。
 県教育委員会では,平成11年11月に「21ひろしま教育プラン未来への新たなかけ橋」を策定して,義務教育改革の取り組みを進めています。
 一方,社会教育においては,完全学校週5日制を2年後に控えて,家庭や地域社会の教育力を充実させるとともに,地域で子どもを育てるための体制づくりが緊急の課題となっています。
 このため広島県社会教育委員の会議では,21世紀初頭に向けた社会教育の振興方策として,「心豊かな青少年を育む家庭・学校・地域社会の連携の在り方について」という提言を取りまとめました。
 真に平和で豊かな未来を築くには,次代を担う子どもたちが,情報や知識はもちろんですが,個人として,社会人として,豊かな「心」を育てていくことが大切です。
 そのためには,学校にのみ頼るのではなく,家庭や地域社会が連携・協力し,それぞれの責任と役割を果たしていくことが必要です。
 この提言では,社会教育委員自らもその役割を深く自覚し,家庭・学校・地域社会の連携を進める仕組みづくりの必要性を呼びかけています。
 幸いにも,昨年の10月7日から11日までの5日間,中国・四国地方で初めて本県で開催した第11回全国生涯学習フェスティバルでは,117万人を超える参加があり,県民の教育や学習に対する熱意の強さが伺えました。家庭・学校・地域社会の教育力を結集し,県民総ぐるみとなって地域で子どもを育てるための取り組みを開始していきたいと考えております。
 この提言がそのための参考になれば幸いです。

平成12年2月
広島県社会教育委員の会議
議長 池田 秀男

I  なぜ,家庭・学校・地域社会の連携なのか

1 新しい世紀を拓く心豊かな青少年像

 21世紀は科学技術が一段と進歩し,生活は益々便利になることが見込まれますが,政治・経済・社会の変化は予測しがたいものがあります。
 このような先行き不透明な時代に,子どもたちがたくましく生き,新しい世紀を拓く青少年には,
・美しいものや自然に感動する心など豊かな感性
・正義感や公正さを重んじる心
・生命を大切にし,人権を尊重する心など基本的な倫理観
・他人を思いやる心や社会貢献の精神
・自立心,自己抑制力,責任感
・他者との共生やすべてのものへの寛容な心
・直面する環境に創造的に対処し,希望と夢を育み,自らの将来をたくましく切り開く心
など様々な力を身につけていくことが望まれています。

2 連携した取り組みの意義

 社会が急速な変化を遂げる今日,家庭教育,学校教育,社会教育が,それぞれの役割をより一層明確にしながら生涯学習社会を構築することが求められています。生涯学習社会は,生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができる社会です。そのため,家庭教育では基本的な生活習慣を,学校教育で人間の基礎・基本を意図的・計画的に培い,社会教育などで学習活動を拡充・発展できるよう,家庭教育と学校教育と社会教育は,お互いがよきパートナーとなって相互に補完しながら,21世紀を拓く心豊かな青少年を育む必要があります。
 しかしながら現在の子どもは,依然として厳しい受験競争の中での塾通いで忙しく,たまの自由な時間もテレビ,テレビゲームなど自分一人や限られた仲間同士の遊びに向けられ,青少年がその成長過程で,様々な人々とのふれあいを通じて身に付けていく社会性や他人への思いやりなど内面的な成長がはばまれています。
 そのため,平成4年9月から学校週5日制が導入され,子どもたちの「ゆとり」と家庭や地域社会における学校外活動の充実が叫ばれるようになってきました。
 子どもの成長にとって不可欠な学校外活動の内容としては自然体験,生活体験,社会体験,職場体験,ボランティア活動体験などがあげられます。子どもたちが,こうした体験活動に参加することを通じて「自然との出会い」「人との出会い」の機会を増していくことが,今求められています。
 そのためには,子どもたちの生活の場となる家庭・学校・地域社会それぞれが役割を認識し,子どもの教育環境を整え,他方でこれを支援する大人の教育の見直しと充実を図るために緊密な連携が必要です。
 子どもの育成の基盤となる家庭・学校・地域社会は,それぞれ独自の教育力を持っています。ここでいう連携とは,心豊かな青少年を育むために,独自の教育力を発揮するだけでは十分ではなく,相互補完的に協力することを意味します。さらには,学校教育と社会教育の関係において,両者の要素を部分的に重ね合わせながら一体となって子どもたちの教育に取り組んでいこうという「学社融合」の考え方も求められています。

3 連携を進めるための社会教育委員の役割

 家庭・学校・地域社会の連携を進めていくためには,社会教育サイドからの計画的・組織的な取り組みが必要であり,その計画の策定にかかわる県及び市町村の社会教育委員が果たすべき役割はきわめて重要な意味を持っています。
 社会教育委員は,「社会教育に関し教育長を経て教育委員会に助言する(社会教育法17条1項)」という職務があります。とりわけ,市町村の社会教育委員には,「青少年教育に関する特定事項について社会教育関係団体,社会教育指導者その他関係者に対し,実践的な助言や指導を与えることができる(社会教育法17条3項)」と規定されています。
 これまでも青少年の育成のために家庭・学校・地域社会の連携の必要性が提唱されてきましたが,未だに具体的な連携が進まない理由の一つとして,要となる人や推進組織が整備されていないということがあげられます。一過性に終わることなく,日常的かつ継続して連携を進めるための体制や組織づくりが急がれます。
 完全学校週5日制が2年後に迫った今,県教育委員会は,この制度について趣旨の徹底とともに,県内に連携のための推進組織を計画的に整備するよう積極的な施策を展開する必要があります。また,市町村教育委員会にあっては,地域の様々な機関・団体に呼びかけ,子どもたちの多様な学校外活動が可能になるよう,大人と子どもを併せた地域ぐるみの体制を整えていくことが求められています。
 そのために,まずは我々県の社会教育委員は,約1,130人の市町村の社会教育委員とともに,率先して三者連携の要となることが大切と考えます。

II  いま,家庭は,学校は,地域社会は

1 家庭の教育力

 家庭は,乳幼児期の親子の絆の形成にはじまる家族とのふれあいを通じ,生きていくうえでの基礎的な資質や能力を育成する場であり,すべての教育の出発点です。
 しかし,核家族化,少子化の進行による家族構成員数の減少,子どもの生活ダイヤの過密化等により,家族間のふれあいや関わり合いが希薄になっています。
 調査によれば我が国において,家庭の教育力が全般に低下していると指摘されていますが,その理由として最も多く挙げられるのが,「過保護・甘やかせ過ぎな親の増加」や「しつけや教育に無関心な親の増加」であるといわれています。※平成5年総理府「青少年と家庭に関する世論調査」
 これと関連して,悪いことを悪いと毅然とした態度でしつけることができない親や保護者が増え,子どものとき身につけておくべき善悪のけじめや価値・規範を身につけることがむずかしくなっている現状があります。
 この問題はこれまでの大人の価値観や生き方と密接に結びついており,子どもの心の教育は大人の心豊かな生き方と

2 学校の教育力

 学校は,子どもが大人になる過程で人間として必要な知識・技術及び価値や態度の基礎・基本を組織的・計画的に教育する場です。
 しかし,これまでの学校教育が,過度の受験競争の流れの中で,知識偏重傾向になりがちであったことは否定できません。
 それと同時に,大人社会が学校教育に依存しすぎた結果,学校の役割が肥大化していきました。
 このことは,家庭や地域における子どもの生活・社会体験の機会を減少させたり,家庭や地域社会の教育力の低下を招いています。子どもたちの体験の不足は,社会で生きていくための様々なことに対応する力が不足することを意味しています。
 そのため,学校は,本来の教育の責任が果たせなくなってきており,その再生のために,完全学校週5日制に向けた教育内容の厳選について,重要な意味があります。現在,学習指導要領が改訂され,ゆとりの中で一人一人の子どもたちに〔生きる力〕を育成する学校に変わろうとしています。

3 地域社会の教育力

 地域社会は子どもにとって,多様な体験をとおして社会人として必要な知識や技術を身につける場であり,家庭や学校だけでは身につけることができない様々なルールや社会慣習について学ぶことができます。
 大人にとっても日常的な生活の場であり,学習の場として重要な意味を持っています。
 しかし,子どもは今や地域社会から疎遠な存在となり,同時に大人は職住分離により地域社会との関わりが希薄になってきました。
 その結果,地域の人々が助け合って暮らす機会が少なくなり,教え合ったり学び合ったりする関係はもちろん,声を掛け合うなどのふれあいや連帯感が薄れてきています。
 加えて,青少年への配慮に欠けた営利優先の地域開発や,興味本位でのマスコミの報道などが子どもの豊かな体験や生育環境を阻害する現状もあります。子どもたちに豊かな人間性を育成するという方向に沿っての取り組みを大いに期待します。

4 家庭・学校・地域社会の連携の現状

 家庭では,社会の変化により物質的な豊かさを求める中,家庭の教育力が低下し,しつけや心の教育がなおざりにされつつあります。
 学校においても,人間のトータルな心を豊かに育む教育よりも受験・選抜の教育機能が突出し,その肥大化は子どもの成長発達の偏りや歪みを生み出すという問題を内在化させています。
 地域においても社会の変化に伴い,大人たちが地域の子どもを叱らなくなるなど,地域の子どもは地域で育てるという意識が低下してきています。
 その結果,家庭と学校と地域社会の教育力が相互に補完しながら,心豊かな青少年を育むように機能しない状況になっています。
 このような状況を克服し,家庭と学校と地域社会がそれぞれの責任と役割を果たしながら連携・協力することにより,それぞれが持つ教育機能の相互補完と相乗効果が期待されています。

III 家庭・学校・地域社会の連携を進めるために

1 連携のための仕組みづくり

 家庭・学校・地域社会が連携して心豊かな青少年を育むためには個別な取り組みを越え連携を推進するための仕組みづくりが不可欠です。
 たとえば,市町村単位に家庭・学校・地域社会の連携を促進するための体制を整備する必要があります。また,PTAなどの既存の組織を活性化することも考えられます。
昨年11月に策定された義務教育改革ビジョンでは,各学区ごとに「子ども支援センター」を設置し,「学習支援ボランティア」を派遣するコーディネート機能を設ける等,地域と学校が連携するための施策が盛り込まれました。
 青少年の育成は教育だけでは達成できません。青少年を取り巻く社会全体の環境整備も重要です。そのためには,青少年の健全育成に関わる組織はもちろん,女性団体,高齢者団体,NPOや各種の団体がそれぞれの責任と役割を果たしながら,連携の幅を広げていく必要があります。

2 社会教育における取り組み

 連携を進める際の役割として,「もの」「人」「情報」のコーディネートが考えられます。このコーディネートに際しては,社会教育のリーダーである社会教育委員や社会教育主事の手腕が問われるところです。
 「もの」は公民館・図書館・美術館・博物館など住民に身近な社会教育施設などであり,「人」は各種の社会教育指導者やボランティアなどを意味します。
 「情報」については,「子どもセンター」などのように子どもの体験活動や子育て支援のための情報提供と相談を意味します。
 連携を推進するためには,これらの計画的な取り組みが必要です。その計画の策定においては目的を明確にし,タイムスケジュールを含む実施過程と成果の適切な評価が重要です。また,関係者にこの計画を十分に周知し,積極的な協力を得ることにより,具体的な取り組みを進める必要があります。
※「子どもセンター」は文部省が推進する全国子どもプランの中の一つの施策で広域的な情報センター

3 社会教育を越えた地域ぐるみでの取り組み

 子どもの生活や経験は,家族や地域社会の人々との相互作用の中で行われるので,地域ぐるみの取り組みが必要です。家庭・学校・地域社会の保護者や大人は,子どもたちの正義感や規範意識を育てていくために,自分の子どもだけでなく,地域の子どもに対しても,やってはいけないことや間違った行いをした場合には,勇気を持ってきちんと指導することが大切です。
 また,心豊かな青少年を育む取り組みの中で,子どもたちの「ために」してあげるという考え方よりも,子どもと「ともに」大人も自ら育っていくという考え方に立つことも必要です。
 心豊かな青少年の育成は,子どもとともに,子どもを取り巻く人々すべての心豊かな生き方やライフスタイルの再構築なしには達成することはできません。
また,社会が心豊かにならなければ,心豊かな青少年は育ちません。
 たとえば,子どもの生活や体験に大きな影響をもたらすショッピングセンター,コンビニ,JR,マスコミなどは,心豊かな青少年を育むという観点からの協力が特に求められます。
 幸いにして,今日の社会はマルチメディアなど高度な情報伝達の技術や人々の連携を可能とするインフラストラクチャー(社会生活基盤)が発達してきており,社会の潜在的な教育力は,昔と比較すれば遙かに強力になっています。
 青少年を健全に育成するためには,こうした社会の潜在的な教育力を結集するとともに,大人一人一人が,現状を深く認識し,できることから具体的に取り組むことを期待します。

IV 家庭・学校・地域社会の連携方策

1 家庭と学校の連携方策

 子どもの成長にとって,生活時間の多くを占める家庭と学校での教育,そしてその両者の連携・協力は極めて大切です。
 連携の基本としては,学校はそれぞれの子どもたちの家庭での教育についての考え方,実態などを理解して学校での指導に生かし,保護者は学校に対する要望を伝えるとともに,学校の指導方針を理解し,協力することになります。

【具体的方策】
保護者と協力できる学校づくりをめざそう!

〇 情報をもっと保護者にオープンに,保護者の意見が反映できる学校づくりが必要です。
・ 学校をよく知ってもらうために,テレフォンサービスやホームページ,学校通信をもっと活用しよう。
・ 学校のようすを保護者に理解してもらうため,家庭訪問の在り方,参観日の在り方を見直してみよう。
・ ファックスやインターネット等により保護者の声を学校へ提言できるシステムを作ろう。

〇 保護者を学校へ積極的に引き込む学校づくりが必要です。
・ 保護者のための「一日体験入学・オープンキャンパス」などを積極的に開催しよう。
・ あいさつ運動等の活動に保護者と教職員がともに参加しよう。
・ スポーツ大会,保護者研修会等を保護者と教職員がともに企画運営しよう。
・ 学校に授業公開週間を設け,授業,部活動,給食の時間,保健室,職員室等を公開しよう。また,その期間中に会議室等に保護者のための相談窓口を設け,カウンセラー等の専門家による相談事業を実施しよう。
・ 保護者による「学校支援ボランティア」などの制度を設け,保護者の得意な分野で,教壇に立てるよう依頼しよう。

〇 学校と家庭の緊密な連携の中で教育活動を進めていく必要があります。
・ 家庭,学校の連携により子どもたちの生活体験・自然体験・勤労体験の機会を広げよう。
・ 子どもたちを自然の中で伸びやかに遊ばせる機会を設けよう。
・ 子どもの良さを伸ばすよう,良いことは常に誉め,悪いことは注意しよう。
・ 積極的に「読書の時間」を学校や家庭で設け,豊かな人間性,正義感や公正さを重んじる心,他人をおもいやる心を育てよう。
・ 週一回は,鉛筆を持たない日,テレビを見ない日を設け,屋外活動を推進しよう。
・ 子どもが「ゆとり」を持って学習ができるようにしよう。
・ 環境にかかわる教育を積極的に実施し,地球に優しい行動を考えよう。
・ 赤い羽根共同募金や歳末助け合い運動,ユニセフ募金などに協力し,社会共存について考えよう。

PTA活動を家庭と学校の連携の架け橋としよう!

〇 PTA活動を見直し活性化するとともに,積極的に「子育て研修」を実施しよう。

〇 保護者,教職員はPTAの役割の重要性を再認識し,子どもの健全育成のための実行委員会(保護者,教員,地域住民)をつくり,地域の子どもたちの実体にあった特色ある活動を計画しよう。

《連携事例》
◎ 佐伯郡沖美町「子ども会リーダー研修」

 教育委員会職員,教職員,保護者が指導者となり,複数の学校の子どもたちのふれあい,様々な体験活動をさせることを通して,子ども会のリーダーとしての資質を養う。

◎ 沖縄県立豊見城高等学校PTA「学校情報提供サービス」

 豊見城高等学校PTAは,学校やPTAの行事,生徒たちの活動の様子などについての学校情報を電話で提供サービスしている。半月ごとに内容を更新している。

◎ 東京都文京区立第6中学校「授業公開週間」

 各学期1回の割合で「授業公開週間」を設け,その週は,学校への出入りを自由にし,授業はもちろん,給食,部活動まで何でも見学可能としている。平成8年以来実施。毎回,保護者らにアンケート用紙を渡して感想を求めている。

◎ 鳥取県米子市福生中学校PTA「職場体験事業」

 福生中学校PTAは,学校と連携して,夏休み期間中2日間,2年生を対象に,校区内にある様々な事務所や施設での職場体験事業を企画・運営している。職場体験先の検討,訪問,事後のアンケートなど。

◎ 新潟県小千谷市立小千谷小学校PTA「保護者の学習参加日」

 月1回程度の保護者の学習参加日(保護者が子どもとともに授業に参加,教員の指導補助を行う)や学級担任からの学習参加要請があったとき,教員のアシスタントとして,教材を創ったり,子どもたちと一緒に活動する。

◎ 静岡県細江町立伊目小学校PTA「生き生き学校」

 全校生徒が参加する1泊2日の自然体験学習をPTAが主催して運営している。活動は,遠泳・いかだ遊び・夕食づくり・老人会との交流などとなっている。指導全般は,PTA会員や地域の様々な団体からのボランティアにより行われる。

2 地域社会と学校の連携方策

 学校は,生涯学習社会において期待される教育機能を発揮するために,地域に根ざした学校として,地域社会が持つ多様な教育力を生かすとともに積極的に地域づくりに貢献することが大切です。
 また,地域社会における多様な人材,社会教育施設,文化・スポーツ施設,地域の産業施設,さらには,森林・河川・海浜などの自然の持つ教育機能などを有効に活用することが望まれます。

【具体的方策】
地域に開かれた学校づくりを進めよう!

〇 学校が地域社会へ積極的に近づく取り組みをしよう。
・ 積極的に学校開放を進め,教育力と教育施設を活用し,「学校開放講座」「市民農園」「体験農場」等を行い,地域へ還元しよう。
・ 職場体験実習を推進しよう。
・ 地域の伝統的行事や伝承文化の継承等,特色ある学校づくりを行おう。

〇 学校は,子ども会などの各種団体との交流活動を推進しよう。

〇 生活科や総合的な学習の中で,地域の幼稚園・保育園,お年寄り宅や養護施設等の訪問,地域の公園の清掃や空き缶拾いといった体験的ボランティア活動を推進しよう。

〇 夏休みはコミュニティスクールとしてできるだけ学校施設を開放しよう。

〇 教職員と校区町内会代表者とで子どもの健全育成のための委員会をつくり,共同イベントを開催したり,非行防止をしよう。

〇 学校施設を開放し,シルバーセンター登録者,老人大学の修了生など,多彩な人材を講師として,工芸,工作,語学,絵画,パソコン,手話,文学等だれもが参加できる講座を開講しよう。

〇 教職員は,自分の生活している地域においてもその力を発揮しよう。
地域の教育力を学校に取り込もう!

〇 地域の団体等で活躍している人,地域(県・市町村)ゆかりの人等や各種技術を持つ人,行事に協力的な人たちを登録する人材バンクを設け,学校教育(授業・クラブ活動)で活用しよう。

〇 保護者,PTA,学校外の有識者などの意見を聞くための「地域教育連絡協議会(仮称)」などの機関を設けよう。
地域と学校の情報の流れをスムーズにしよう!

〇 校内新聞を希望者に配布し,行事や校内の様子を周知しよう。

〇 みんなが集う身近な生活拠点(スーパーマーケット,郵便局,JR駅構内など)を活用し,学校の活動情報を提供するための掲示板やコーナーを設けよう。

《連携事例》
◎ 広島県立西条農業高等学校 西農「市民農園」

 西条農業高等学校では,「学校週5日制の受け皿としての機能の一部を担う」,「農業に対する新たな理解者・共鳴者を求める」,「生徒たちに社会性とコミュニケーション能力の育成を図る」という目的で,平成5年から学校の農場の一部を市民に開放し,西農「市民農園」を開園している。

◎ 沼隈郡沼隈町「ふれあい農園」

 学校と公民館が連携し学校教育の一環として,地域の高齢者を指導者として,芋畑の準備から芋の収穫まで,芋づくりを通しての世代間交流と体験活動を行っている。

◎ 賀茂郡北部4町「わくわくチャレンジ」

  賀茂郡北部4町で広域連携し,小・中学校教職員,地域の民間数団体,大学生ボランティアを指導者として,4町の自然・施設を利用した野外活動を行っている。自然に親しみ,探求心や冒険心を培い,初めて出会う新しい仲間との集団生活を通じて,社会性や協調性を育成している。

◎ 千葉県習志野市秋津小学校「秋津コミュニティ」

  秋津コミュニティは,秋津小学校が地域の大人に余裕教室「秋津小学校コミュニティールーム」を提供したことからできた任意団体である。秋津小学校と秋津小学校区では,秋津コミュニティが中心となり,学校と地域が連携をした子育てを進めている。

◎ 神奈川県川崎市「地域教育会議」

 地域教育会議は,中学校区ごとに,PTA・子ども会・町内会等の代表者,住民委員(教育に関心を持ち,地域の人々の推薦で参加する),教職員,子ども文化センターや市民館の職員などからなる会議体である。市民の教育に対する意見を,行政や学校,青少年団体等に反映させるとともに,地域の学習・教育についての人々のネットワークをつくることにつとめている。「教育を語る会」の開催,学校での行事への参加,広報誌の発行,地域の教育への住民のニーズの調査などを行っている。

◎ 岡山県神郷町「ワクワク科学ランド」

 岡山県の新見市,阿哲郡内の小中学校教員と社会人8~9名がグループを作り,神郷町地域福祉センターで,科学実験教室「ワクワク科学ランド」を開講している。ドライアイスとフィルムケースでのロケット,ポリエステルのコップと銀紙を使ってのコンデンサーづくりなど,身近にあるものを使い,教科書には載っていない実験を行い,科学実験のおもしろさを伝えている。

3 家庭と地域社会の連携方策

 家庭や地域社会の教育力の低下がともに著しいとの認識が一般化しています。
 21世紀に向けた教育改革の中では,子どもたちに「生きる力」を身につけさせるため,学校教育のスリム化や家庭・地域社会の教育力の向上の必要性が指摘されています。
 特に,平成14年の完全学校週5日制の実施が目前に迫っている今日,それらは緊急に取り組むべき課題です。この円滑な実施のためには,家庭・地域社会が適切に連携し,実効ある活動を展開し,実績を積むことが必要になります。

【具体的方策】
地域の子どもを教育できる地域社会の構築をめざそう!

〇 子どもを育てる地域ネットワークを構築しよう。
・ 家庭の教育力と地域の教育力を高めるため,相互の連携を強めよう。
・ 地域関係団体等によるネットワークを構築しよう。
・ 広報誌を発行しよう。
・ 子育てサークルの活動を支援しよう。

〇 家庭を引きつける地域行事を開催しよう。
・ 「ふるさと教員」(町職員として採用した教員を町内の学校に配属する。)による地域のよさを知らせる「ふるさと学習」を充実しよう。

〇 地域活動の拠点となる公民館や図書館の活動の充実を図ろう。

〇 大人は,町内会やPTA,体育協会,その他の地域内の各種団体の役を積極的に引き受け,地域社会の活動を自主的に担おう。

〇 地域で「ふれあいの日」を設けよう。

〇 ボランティア活動への参加や情報提供をし,団体活動の振興を地域のみんなで支援しよう。

〇 地域で子育てを支援するための家庭教育学級やホームページを設けよう。

〇 子どもと一緒に活動できるプログラムや子どもの役割分担を考慮しながら地域行事(祭り,町おこし)への参加を促進しよう。

〇 子ども会活動やボーイスカウト・ガールスカウト活動等の地域の青少年活動を充実しよう。
・ 小学生だけで活動が終了するのではなく,中・高校生や青年もリーダーとして活動できるようにしよう。
・ 子どもたち自身で企画運営させるようにしよう。

〇 夏休み,冬休み,土曜,日曜の夜など,PTA,地域子ども会の役員,警察官などで「ふれあいパトロール隊」をつくり,歓楽街,公園等子どもたちの溜まり場になっているところをパトロールをし,非行を防止しよう。

家族で地域活動に参加しよう!

〇 自然体験プログラム,山村留学,国内ホームステイなど,異年齢集団で切磋琢磨する機会に積極的に参加しよう。
〇 積極的に地域内の団体(スポーツ少年団,ボーイスカウト,ガールスカウト,みどりの少年団,交通少年団,エコクラブなど)に子どもたちを加入させるとともに,保護者も同じ団体の活動に協力し,集団生活や野外活動を  ともに経験する機会を設けよう。
〇 家族で行楽に出かける場合,できるだけ公共交通機関を利用し,公共マナーを親子で勉強しよう。大人も社会全体のモラルやルールを守ろう。

地域の伝統行事を積極的に継承しよう!

〇 ふるさとの祭り,町内会行事に親子で積極的に参加しよう。
〇 町内会代表者に対して,地域文化やスポーツを振興していくための学習や研修のための機会をつくろう。

《連携事例》
◎ 双三郡三良坂町「家庭の教育力充実事業」

 地域の民間団体と連携し,ボランティアの参加のもと保護者間のネットワークづくりを推進し,子育て広場の開設や,子育てセミナーを開催することにより,家庭の教育力の充実を図っている。

◎ 三原市「ファミリー体験教室」

 地域の方々を指導者とし,家族で自然体験・社会体験を行うことを通して家族の絆をいっそう深めながら心のふるさとづくりを行っている。

◎ 廿日市市「なかよし広場」

 PTAを含むコミュニティ団体の青少年部が地域で,子どもたちの様々な体験活動を行っている。

◎ 佐伯郡湯来町「自然と遊ぼう湯来の里・夏祭り」

 湯来西小学校PTAが実施主体となり児童数減の対策として,広域からの転入者発掘を進めるとともに,児童・保護者・地域が一体となり,体験活動を中心とした夏祭りを行う。

◎ 神奈川県川崎市おやじの会「いたか」

 川崎市宮前区菅生子どもの文化センター主催の「父親家庭教育学級」に参加した父親たちが,学級終了後も父として・市民としての活動を継続して行うために,自主的に会をつくり,地域の子どもとともに遊び,玩具づくり,ハイキングなど様々な活動を行っている。
 同様な経緯で生まれた多摩地区の他の二つの父親の会と「川崎おやじ連」を結成し,相互の連絡,共同の活動(「おやじサミット」)などを行っている。

◎ 岐阜県「地域子育て支援システム」

 岐阜県では,子育てを終わった女性が「コミュニティーママ」として登録し,(1)保護者の病気に伴う子どもの世話,(2)保育所の保育時間前後の子どもの世話,(3)保育所への送迎,(4)妊産婦家庭の家事,(5)学校放課後の児童の世話,(6)育児相談などの子育て支援や子どもを通したまちづくりを行っている。

4 家庭・学校・地域社会の連携方策

 子どもの「生きる力」を育むためには,学校でも,家庭でも,地域社会でも,それぞれの立場で,それぞれの教育力を十分に発揮しながら子どもを育成していかなければなりません。そのための連携が緊急の課題となっています。
 三者が連携し,学校,PTA,自治会など様々な団体が集まり,地域ぐるみで,子どもの健全な育成を図っていく必要があります。

【具体的方策】

三者連携の組織づくりをしよう!
〇 教育委員会に「社会教育主事兼指導主事」を配置し,学社連携・融合を推進しよう。
〇 学校に「社会教育主事の資格を持つ教員」を配置し,三者の連携を進めるよう校務分掌に位置づけよう。
〇 子どもたちや保護者に生活体験・社会体験・自然体験の機会など,多様な情報を幅広く提供するため,市・郡単位に「子どもセンター」を設置しよう。
〇 子どもたちに生活体験・社会体験・自然体験などの多様な機会を提供するため,学区に「子ども支援センター」を設置しよう。
〇 社会教育委員の研修会等を開催し,その職責について考えるとともに,広報等を通じて,その活動や意見をPRしよう。
三者で子どもを育てよう!
〇 家庭・学校・地域社会の連携のため,町民運動会・一日清掃・祭り等,三者が一体となった行事を推進しよう。
〇 ちびっこ広場や地域の公園をつくる際は,構想の段階から住民に参加を依頼し,実際に利用する地域の子どもたちの意見も取り入れよう。
・木登り,川遊び,魚・昆虫取り,どろんこ遊び,巣作りなど,ギャングエイジにふさわしい遊びができる場をみんなでつくろう。
〇 高校生・大学生のプレイリーダーをつくろう。

《連携事例》
◎ 双三郡君田村「君田村塾」

 村内の各地域子ども会組織を整理・統合し,行事の効率化を図るとともに村内の子どもたちの健全育成の枠を広げ,家庭・学校・地域社会が互いに協力しあい,子どもたちに様々な体験をさせるとともに,子どものための村づくりを推進している。

◎ 比婆郡口和町「口和町子ども地域活動促進事業」

 首長部局との連携のもと,幅広い分野から実行委員会を組織し,土曜日や日曜日等休日に,子どもたちが地域の自然や伝統,人材を活用して,水辺での活動,農業体験,地域の歴史や伝統を学ぶ活動等を通じて地域を愛する子どもを育成する。

◎ 安芸郡倉橋町「チャレンジ教室」

 教職員,行政職員,高校生,地域のボランティアを指導者として,保護者も巻き込み,学校週5日制完全実施を視野に入れ,土曜日,日曜日に子どもたちが様々な体験活動ができる事業を開催し,ふるさと“くらはし”の再発見と子どもの交流を図る。

◎ 安芸郡9町「安芸っ子チャレンジキャンプ」

 安芸郡内9町が広域連携し,9町の公民館・教育委員会職員,小中学校教職員,大学生ボランティア,地元漁業関係者の指導のもと,安芸郡内9町の児童・生徒が,異年齢・異集団で自然の中で野外活動を行う。

◎ 高知県「地域教育指導主事」

 県教育委員会が教員を「地域教育指導主事」として市町村教育委員会に派遣し,学校・家庭・地域社会の連携の要として,地域の教育力の向上に係わる事業を進める。
 市町村の「地域教育推進協議会」(行政,学校,PTA,教育相談員,子ども会の指導者などからなる市町村の組織で,開かれた学校づくりのための事業等を企画実施する)への指導助言,青少年の地域活動の企画,家庭教育支援,ボランティアとの連携,PTAとの連携などを行う。

◎ 栃木県「社会教育主事有資格教員の全校配置計画」

 栃木県では,公立学校教員に社会教育主事の資格を取らせて,県内の公立学校全体に計画的に配置することとしている。このことにより,学  校では,教職員の社会教育への理解を高め,児童生徒の社会教育活動への参加奨励・援助を図ることができ,また,社会教育施設での集団宿泊研修,地域学習・体験学習の企画・推進,学校開放講座の企画実践等が円滑に行われるようになる。同時に,社会教育への支援についても,家庭教育学級の講師,青少年の地域活動での指導など,積極的な対応が可能となることが期待されている。

◎ 兵庫県「トライやる・ウィーク」

 公立中学校2年生の生徒全員を対象に,6月の第1週を「トライやる・ウィーク」とし,学校・家庭・地域社会三者連携のもと,生徒の興味・関心に応じた職場体験活動などを1週間させることを通して「生きる力」を育成している。この事業を推進するにあたっては,県に関係団体の代表など51名の委員からなる「推進協議会」を設置し,市町に自治会・関係団体の代表者など20名程度の委員による「推進協議会」を設けるとともに,中学校区にはPTA・地域団体の代表者など10名程度の委員での「推進委員会」をおき,地域の指導ボランティアの協力のもとにこの事業を実施している。

おわりに

 心豊かな青少年を育むためには,家庭・学校・地域社会のそれぞれが自己の責任と役割を果たしつつ具体的に連携していくことが必要です。
 しかし単に連携すればよいというものではありません。時には,連携することによって,かえって青少年や社会の成長発達を阻害することもあり得ます。そのため連携の推進計画は,弾力的であって場合によっては途中で変更もしなければなりません。誰に対しても説明できるよう開放的な計画にしておく必要があります。ただ,青少年を取り巻く環境の浄化,青少年の心をゆがめたり阻害するものへの断固とした対処,青少年自身の自己主導的な努力への支援,これらを推進計画の中にきっちり位置づけておくことが肝要です。
 社会教育における連携した取り組みは,将来子どもたちが社会人となり,21世紀における変動社会の中で「心豊かに生きる力」を育めるよう長期的な展望を持つことが必要不可欠です。
 この提言は社会教育委員の会議として大綱を取りまとめたものです。その具体化に向けては,それぞれのセクションにおいて検討を深めていただき,この提言の趣旨が効果的かつ適切に実現されることを期待いたします。

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