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広島県障害児教育構想策定委員会

平成14年2月8日
広島県障害児教育基本構想策定委員会

広島県障害児教育基本構想策定委員会中間報告

 はじめに

 本委員会は,平成13年6月5日,広島県教育委員会教育長から諮問を受け,6回の委員会,8回の専門委員会において諮問項目について慎重に審議を行ってきた。
 ここに,これまでの協議内容を中間まとめとして報告し,答申までの課題を明らかにするものである。

 1.障害児教育の現状と課題

 本県の障害児教育は,昭和54年の養護学校教育の義務制実施を節目として,整備・充実が図られてきたが,20余年が経過した現在,障害のある幼児児童生徒の能力や可能性が十分に発揮されていない状況もあり,一人一人の教育的ニーズに応じた取組みが十分であるとはいえない。
  一方,近年,障害児教育においては,幼児児童生徒の障害の重度・重複化や多様化への対応,早期からの適切な教育的対応,職業的自立の推進,学習障害(LD)児等への指導の充実が課題としてあげられている。
 このような課題を解決するために求められるものは,障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて能力や可能性を最大限に伸ばすための教育を行うこと,さらに障害のある幼児児童生徒が自己のもつ能力や可能性を最大限に伸ばすための教育システムと教育内容を創造することである。

 2.障害児教育基本構想策定の視点

(1)能力や可能性を最大限に伸ばす教育

 障害児教育は,障害のある幼児児童生徒一人一人の能力や可能性を最大限に伸ばすための教育である。
 本県においては,どこで教育を行うかという教育の場の論議が先行し,障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた教育内容の創造が十分に行われず,結果として障害児教育における専門性が軽視されてきた状況がある。
 今後は,教育的ニーズに応じた適正な就学指導を図り,専門性に基づく障害児教育を展開する必要がある。

(2)「生きる力」を培う教育

国においては,障害のある幼児児童生徒が,自己のもつ能力や可能性を最大限に伸ばし,自立し,社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うことをねらいとして,障害の重度・重複化への対応,早期からの適切な対応,職業的な自立の推進等の観点から,盲・ろう・養護学校の学習指導要領の改訂が行われた。
 今後は,新学習指導要領の趣旨を踏まえ,「盲学校」「ろう学校」「養護学校」「小・中学校の障害児学級」「通級による指導」において,障害児教育の専門性に基づく教育の充実に向けて取組むことが必要である。
また,通常の学級に在籍する学習障害(LD)児等への指導の充実が求められており,積極的な取組みを行う必要がある。

3.今後の障害児教育の基本的方向性

(1) 障害の種類,程度に応じた適正な就学指導について

 障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた就学先を決定するために,次の事項に取組むこと。
○ 市町村教育委員会は,就学指導委員会の機能を充実することによって,障害の種類,程度を的確に把握し,一人一人の教育的ニーズに応じた適正な就学指導を実施すること。
 保護者等が早期から安心して相談できるようにするために,次の事項に取組むこと。
○ 教育,福祉,医療等の関係者が一体となった相談支援体制を整備すること。
○ 相談機関についての情報提供に努めること。

ア 就学指導委員会
 県及び市町村に設置されている就学指導委員会は,障害のある幼児児童生徒の就学すべき学校を判断するための調査や審議を行い,教育委員会に助言を行っている。
 適正な就学指導を行うためには,一人一人の教育的ニーズを的確にとらえるとともに,適切な教育を提供するための場を判断していくことが重要である。そのためには,就学指導委員会の助言は,専門的立場からのものでなければならないが,地域によっては,専門医や障害児教育の専門家が十分に確保できていない状況もある。複数の市町村が共同で委員会を組織するなど,就学指導委員会からの専門的な助言を得ることのできる体制づくりが求められる。
イ 相談支援体制
 障害のある幼児児童生徒及び保護者等が安心して生活していくためには, 県内どこに住んでいても,早期からの相談と支援を適切に受けられることが求められ,教育,福祉,医療等の関係者が一体となった相談支援体制を整備することや適切な情報提供に努めることが望まれる。
 相談支援体制を整備することにより,就学指導委員会は,早期からの相談や支援の状況を参考として,より適切な就学指導を行うことができる。

(2) 総合型の養護学校及び高等養護学校の設置並びに盲学校,ろう学校及び養護学校の適正配置について

 複数の障害に適切に対応できる養護学校が必要であり,次の事項に取組むこと。
○ 総合型の養護学校の設置を検討すること。
○ 複数の障害の種類,程度に応じた教育課程を検討すること。
○ 医療,福祉等関係機関との連携を図ること。
 軽度の知的障害のある生徒の職業的自立,社会的自立を目標とする養護学校が必要であり,次の事項に取組むこと。
○ 高等養護学校の設置を検討すること。
○ 職業教育を中心とした教育課程を検討すること。
○ 雇用等関係機関との連携を図ること。
 専門性を備えた盲・ろう・養護学校を適正に配置するために,次の事項に取組むこと。
○ 幼児児童生徒数の現状及び今後の見込み,学科等や学校の設置形態,地域の実情等から学校配置を見直し,統廃合を含めた適正配置を検討すること。

ア 総合型の養護学校
 近年,障害の重度・重複化が進む中で,通学にかかる時間を考慮することや,児童生徒の障害の種類,程度に応じた指導の一層の充実を図ることが求められている。そうした中,全国では,知的障害養護学校や肢体不自由養護学校等が培ってきた指導内容・方法を活用しながら,様々な専門性を有する教員の協力体制や複数の障害に対応した施設・設備を整備し,知的障害養護学校と肢体不自由養護学校等を合わせた形の養護学校を設置している事例がある。
 本県においても,一人一人の教育的ニーズにきめ細かく対応できる総合型の養護学校の設置が望まれる。
イ 高等養護学校
 全国では,軽度の知的障害のある生徒への対応や,職業的自立の推進等の観点から,職業に関する専門学科やコースを備えた高等養護学校の設置が進んでいる。
 本県においても,中学校障害児学級等を卒業した軽度の知的障害のある生徒を対象とした高等養護学校の設置が望まれる。
ウ 盲・ろう・養護学校の適正配置
 本県の盲・ろう・養護学校については,一人一人の障害の種類,程度に応じたきめ細かな指導を充実していくために,各学校の在籍者数やその教育効果,地域性等を勘案してより適正な配置とし,重点的・拠点的な学校の整備を図る必要がある。今後,すべての本校・分校・分級・分教室の配置について見直すことが望まれる。

(3) 特殊教育教諭免許状取得の推進,研修の充実など,教員の専門性の向上について

 盲・ろう・養護学校における特殊教育教諭免許状の保有率の向上を図るために,次の事項に取組むこと。
○ 免許法認定講習の充実により,当該校種の特殊教育教諭免許状を保有していない教員が,一定期間に免許を取得できるようにすること。
 教員の専門性の向上及び盲・ろう・養護学校における指導体制の充実のために,次の事項に取組むこと。
○ 国,大学及び教育センター等が主催する長期研修等への計画的な派遣に
 より,人材の育成を図ること。
○ 各学校における研修・研究体制を確立すること。

ア 特殊教育教諭免許状
 盲・ろう・養護学校の教員は,幼児児童生徒の障害の種類,程度に応じて,教育的ニーズに応える教育を行う必要があることから,より高い専門性が要求される。
 このため,教育職員免許法において,盲・ろう・養護学校の教員は,小・中学校等の教員のいわゆる基礎免許状に加えて,盲・ろう・養護学校の学校種ごとの特殊教育教諭免許状の所有が必要とされている。
 しかし,同法附則の規定により,当分の間,特殊教育教諭免許状を保有していなくても,盲・ろう・養護学校の教員となることができることから,本県の保有率は31%で,都道府県別の順位は全国第44位である。今後,特殊教育教諭免許状の保有率を高めていくことが望まれる。
 県教育委員会では,教員の資質の向上を図るとともに,盲・ろう・養護学校の教諭の免許状(一種・二種)を取得させることを目的として免許法認定講習を毎年開催している。より一層の充実を図ることにより,当該校種の特殊教育教諭免許状を保有していない教員が,一定期間内に免許を取得する体制を整えることが必要である。
イ 教員の専門性及び各学校の研修・研究体制
 盲・ろう・養護学校の専門性を充実させていくためには,障害の種類,程度に応じた自立活動等の指導理論や技法を修得することが必要であり,各種研修会への参加や長期研修への計画的な派遣が望まれる。
 盲・ろう・養護学校においては,教育センター等の研修講座や研究会への参加体制を確立するとともに,障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた指導の充実をめざしたテーマを設定し,研修・研究を推進することが必要である。

(4)その他障害児教育の推進に関することについて

ア 盲・ろう・養護学校のセンター的機能
 盲・ろう・養護学校が,地域における障害児教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすためには,各学校に専任の教育相談主任を置き,関係者による研修・研究体制を組織することにより,資質の向上及び学校間,関係機関との効果的な連携に努めることが望まれる。
イ 「障害児学級」「通級による指導」「学習障害(LD) 児等への指導」の充実
 障害児学級は,通常の学級では適切な教育を受けることが困難な児童生徒のために,学校教育法第75条の規定により編制された学級であり,同法施行規則により,特別の教育課程によることができることとされている。
 通級による指導とは,通常の学級に籍を置いて学びながら,障害の種類,程度に応じた内容を,別に設置された教室で学ぶ形態で,本県においては,「言語障害」「難聴」「弱視」「情緒障害」の教室が小学校に設置されている。
 障害児学級や通級による指導を充実し,効果的な指導を行うためには,教員間の連携等,学校全体で取組む体制が必要である。
 学習障害(LD)については,「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指す。」と定義されている。今後は,教育センター等において,学習障害(LD)児の実態把握に基づき指導内容・方法の研究を進め,学校支援や理解啓発に取組む必要がある。
ウ 開かれた学校づくり
 盲・ろう・養護学校等が,障害のある幼児児童生徒及び保護者のニーズに応え,地域から信頼されるためには,専門性に基づく特色ある教育活動の情報を発信していくことが必要である。
 また,学校の自己評価と外部評価をとおして,学校の教育課題を明らかにし,その結果を教育活動に生かしていく必要がある。
 このような体制を確立することは,学校をより開かれたものとし,学校の果たす責任を明確にすることとなる。

 おわりに

 国においては,平成13年1月「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」からの最終報告を受け,障害児教育の充実に向けた新たな取組みが進められているところである。
 本県では,平成11年には義務教育,また,平成13年10月には高校教育がそれぞれに改革をめざし,協議会からの提言を受けている。これから障害児教育が向かうべき方向性も,義務教育改革,高校教育改革と調和のとれたものとして策定されるものである。
 平成13年6月,本委員会は,長期的な観点から本県における望ましい障害児教育の在り方について諮問を受け,これらを慎重に検討してきた。
 協議の過程においては,各委員がそれぞれの立場から提言を行い,真摯な意見交換により,深まりのある議論が展開できた。
 「県民の願いや期待に応える障害児教育は,一人一人の教育的ニーズを把握し,必要な教育的支援を行わなければならない。」という基本認識は,本委員会の底流をなすものであった。ここで明らかにしたものは,本県における障害児教育の基本構想についてである。
 今後,本委員会ではさらに議論を深化させ,本年3月に答申をまとめるが,県民の信頼に応える本県の障害児教育の基本構想を明らかにしていきたいと考えている。

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