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令和4年度 働き方改革先進企業経営者ミーティング 第3回イベントレポート

印刷用ページを表示する掲載日2023年2月15日

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 「働き方改革先進企業経営者ミーティングHIROSHIMA」(第3回)を令和5年1月13日に開催し、広島県働き方改革実践企業(認定企業)の経営者層27名にご参加いただきました。
  

特別講演 (サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久 氏)

サイボウズ株式会社の青野社長に、オンライン特別講演としてお話しいただきました。​

「働きがい」を生む働き方改革とは

青野氏(チラシから)青野氏(スクリーンショット)

  • 深刻な離職率をきっかけに職場改革をスタート

  「チームワークあふれる社会を創る」を経営理念に掲げ、グループウェアを主力サービスとして展開する同社。同社はGreat Place to Workジャパンが実施する「働きがいのある会社ランキング」に8年連続ランクインするなど、働きがいのある職場としても有名だ。
 そんな同社も、創業当時はごく普通のITベンチャーだったという。「徹夜や土日勤務は当たり前、寝袋を持って働くのがかっこいい、それが働きがいという価値観だった」と青野氏。しかし2005年に離職率が28%に達する危機的状況に直面。「上司が嫌だから」「両親の近くで働きたい」など辞める理由もバラバラだったが、「せめて辞める前に一言言ってくれれば対処できた」と考えた青野氏は「離職率を下げたいので、辞める前に理由を言って欲しい」と全従業員に伝えたという。すると従業員から驚くほど沢山の「わがまま」が噴出したという。「残業したくない」「子育てで定時まで働けない」「週3日しか働きたくない」「家で仕事したい」など従業員の様々な「わがまま」を聞き、反論したい思いは抑え、残業無し、短時間勤務、週3日勤務など働く時間を選択できる制度、在宅勤務、最大6年の育児休業とといった多様な働き方の制度を整えていった。
 従業員の声に個別に対応するため、議論を重ねることに時間を費やした結果、28%だった離職率が現在では10年連続5%弱と、IT業界としては極めて低い離職率を維持している。従業員の要望を多く受け入れ、仕事が回るのかとも思ったが、結果的に売上も伸びたという。同社の人事ポリシーである「100人いれば100通りの人事制度があって良い」という考え方はこうした経緯によりできた。
 しかし、順調なことばかりではない。2008年にリーマンショックが起き、ソフトウェア保守契約が次々と解約される。さらに追い打ちとしてGoogleがグループウェア市場に本格参入。新たなクラウドサービスで破壊的イノベーションを引き起し、同社は5、6年に渡って売上が上がらない時期が続いたという。青野氏は、この時期は売上が低迷しているのにみんな楽しそうに仕事をする不思議な時期だったと振り返る。2010年になると社内から「Googleを超えるクラウドサービスを作りたい」という声が上がり開発に着手。それが「kintone」等のサブスクリプションモデルとして成功し、業績も次第に回復。現在に至るまで継続的に売上を伸ばしているという。こうした経験から青野氏は「従業員が会社のことが大好きならば、ビジネスがピンチでも辞めないし、ピンチになった職場を何とかもう1回良い形に戻そうとして、アイデアを出し、自らチャレンジしてくれる」との教訓を得たという。

  • 多様な個性を活かすダイバーシティ経営

 従業員一人ひとりの個性を活かす「ダイバーシティ経営」を実践してきた青野氏は、次のように説明する。「ダイバーシティと言うと『うちの職場は同世代ばかりだから』と言う人もいるが同世代でもスキルも違えば、考え方も多種多様で、その個性を引き出せるならば必ず面白いアイデアは生まれてくるはず。問題はメンバーに多様性がないことではなく、多様なメンバーを一律にマネジメントしている点にある。」そしてダイバーシティ経営を成功に導くためには、先に紹介された多様な「人事制度」だけでなく、「ツール」や「風土」も併せて重要だと説明する。
 まず「ツール」について、多様な働き方をリアルオフィスで行うのは限界があるという。時間や場所に関わらず情報共有できるように、ICTツールを徹底的に活用してバーチャルオフィス化を推進する重要性を説かれた。次の「風土」づくりについて、同社でも様々な試行錯誤を行った結果「➀理想への共感」「➁多様な個性を重視」「➂公明正大」「➃自立と議論」の4つの風土が、わがままを「チーム力」に変える上で重要だったと語る。
 4つの中でも特に重要なのが「理想への共感」だ。人は理想に向かって行動するもので、理想がバラバラだとチームは動けない。「企業理念とは、決して石碑に刻まれた文字や、創業者が昔に残した言葉ではない。もっとこんな仕事をしたい、もっとこんな会社や社会にしたいという、今働いている一人ひとりの心の中にある思いこそが理念であり、それが働きがいの源泉だ」という。一人ひとりの理念を引き出してみんなで共感しあうことが、多様な個性を活かすための一番大切な仕組みであるという。
 また多様な働き方でチームワークを発揮するには、お互いにウソをつかない「公明正大」な風土も重要となる。そこで同社では「アホはいいけど、ウソは駄目」というスローガンを掲げる。例えば、寝坊をした場合も、正直に「寝坊しました。すみません」と言うようにと伝えており、今では毎日のように寝坊の報告がグループウェア上に上がっているという。これはチームの心理的安全性が高いという証拠であり、このような積み重ねで「公明正大」な風土が形成される。そして、このような風土が根付くことで、業務上のトラブルもすぐに報告が上がるなど、事業活動上で大きな損失を生まないといったメリットが得られるという。
 そして最後のポイントは従業員一人ひとりの自立だ。自分で考え、責任をとる「自立マインド」を育成することが、ダイバーシティ経営には不可欠となる。そこで、同社では「自立と議論」の風土づくりのスローガンとして「質問責任と説明責任」を果たすように全従業員に伝えている。思ったり、感じたりしたことがあれば「わからないままにせずに、質問すること」という質問責任が、従業員の自立を促す。さらに、説明責任によって感情的対立が引き起こされないように、事実と解釈を分けて議論するためのフレームワークも採用しているという。URL
 「複業(副業)」も従業員の自立を促すためには有効だ。同社では、複業は「自分はどんな仕事をしたいのだろうか?」と主体的に考えチャレンジする機会になると考えており、約3割の従業員が複業経験者である。
 このように従業員に「あなたは一体何をしたいのか」を突き付けるダイバーシティ経営は、決して甘くなく、むしろ厳しい。しかし、だからこそ働きがいにもつながるという。一人ひとりの個性は、均一なブロックのように同じ形をしているのではなく、とがっていたり、丸かったりと様々だ。こうした多様な個性を出し合ってうまく組み合わせるときに、ブロック塀より強い石垣がつくられる。個性的な石同士がガツガツとぶつかれば当然痛いが、その感覚を持ってマネジメントするときに、働き方改革は単なる「働きやすさ」改革から「働きがい」改革へと変化するという。
 最後に青野氏は「当社もここまでくるのに15年以上かかりました。決してIT企業だからできたわけではありません。できるところから対話をし、一歩ずつ進めてください」と参加者にエールを贈り、締めくくられた。

【受講アンケートより】特別講演について気づき・印象に残ったことなど

  •  これまで実践された中での、取組の変遷と本音、改革の目的、意義等、腑に落ちるキーワードが多く、これから取り組むうえでの自信になりました。(広島電鉄株式会社 執行役員 人財管理本部長 八木康夫様)
  •  固定概念や先入観を取り除いた対応に感銘を受けました。(マイライフ株式会社 人事部部長 長友康至様)

スペシャルトークセッション  ~人的資本経営の時代に求められる働きがいのある組織づくり~

  人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」をキーワードに特別講演講師の青野氏、県立広島大学大学院の木谷教授と湯崎知事の3者によるトークセッションが行われました。(注)湯崎の『崎』の右側は「大」が「立」​

トークセッション

個人のモチベーションややる気、自主性を高める取組としてまず、何をすべきか?

青野氏 大事なのは経営者の覚悟。風土を変えたいと覚悟を決めることだ。私自身も2005年に社長に就任してから2年くらい失敗し続け、昔ながらのベンチャーのような風土ややり方ではなく、もっと一人ひとりの多様な個性を活かすと覚悟を決めたところが出発点だった。覚悟を決めると従業員のわがままが聞けるようになる。経営者に覚悟がないと、せっかく従業員がわがままを言ってくれても聞く耳を持てず、そのうち誰も言ってくれなくなる。

湯崎知事 風土は経営者が設定していかないと変化しない。その土台の上にハードや、ソフトができてくる。青野さんがおっしゃるように経営者がまず「こういう風土にする」と決意することが大事ではないだろうか。

木谷教授 「覚悟を決める」を言い換えると「パラダイムを変える」という言い方ができる。ITベンチャーの例で言えば、寝ずに仕事をすることが自慢になるような働き方の価値観を変える。この覚悟を決めることは非常に難しく、きれいごとではできない。

従業員の能力を引き出し、活躍を促進する取組の一つにリスキリングがある。リスキリングに対する考えや所感は?

青野氏 大学で学んだことが社会では通用しない。情報システムの分野は日進月歩で、過去に学んだことはほぼ通用せず、学び直しをしなければ生き残れない。22歳のときの最終学歴はほぼ意味がない。大事なのは『最新学習歴』。「あなたは最近、何を学んだのですか?」ということに重きを置く。これこそがパラダイムシフトで、学びを加速させていく。学びたいという人が学べる環境を整えている。

湯崎​知事 1900年頃のニューヨークの写真には馬ばかり写っているが、新型フォードが登場した1913年の写真に写っているのは車。馬の蹄鉄や餌を売るビジネスが板金や塗装、ガソリンを売るビジネスに取って代わっていった。これは、時代の変化に合わせたものを提供しなくてはならないという例えだが、今、デジタルがそういうものになってきている。どの企業もデジタルを学び、応用していかなければ、競争できない社会になってきている。

木谷教授 本来、人はみな、持続的に知識やスキルを更新していかなければ、良い仕事なんてできないということを理解しているがあらゆる仕事や職務にリスキリングが求められるシグナルが出ているのに、まあいいかと個人も組織も覆い隠して今までの蓄えで生きてきたところがある。デジタルは馬から車と同じくらいか、それ以上の大きな環境の変化となっている。経営者がそれをチャンスとして捉え、今の仕事を上に高めるか、ただ横に広げるのではなく、斜め上に極めていく必要がある。

変化の大きい時代において、地域企業が働きがい向上に取り組む意義や必要性とは?

青野氏 今までの「収入を得て食べていくために働く」という考え方から、「自分がやりたいから働く」、「あの人を幸せにしたいから働く」という考え方へのパラダイムシフトが起きている。働きがいを作り出せない企業は若者を集めることができないし、消えていくだろう。逆に働きがいやビジョンを生み出せる企業にどんどん人が集まり、伸びていくのだろうと思う。これだけネットが発達すると、東京も地域も関係なく、どこからでもスーパー企業が出てくる社会になったと思う。

湯崎​知事 突然働きがいが大事になったわけではなく、昔から働きがいは重要だった。働きがいのあり方は企業によってそれぞれ違う。多様な人が働きがいを持つには、どうすればいいかをそれぞれの会社が考えていく必要がある。​

木谷教授 地域とは現場。東京主導ではなく、これからは地域=現場主導になっていくのが当たり前となり、面白くなっていくという気概を持つべき。もともと人間は働きがいを持って仕事をしたいと思っている。放っておけば自然と従業員の働きがいは生まれてくるのに、それを阻害する要因があるのではないだろうか。今までのような硬直的な働き方や同質性みたいなものが阻害要因だとしたら、それをとっぱらってやれば良い。

参加者による「働きがい向上宣言」の発表

 イベントの集大成として、参加経営者ら30名から「働きがい向上宣言」と宣言に込められた想いを発表いただきました。参加各社が今後どのように働きがい向上に向けて取り組んでいくのか、多種多様な宣言や想いが全体にシェアされ、さらに多くの気づきや会場の一体感につながりました。登壇者からは各社の宣言に対する感想やエールが送られました。

働きがい向上宣言発表の一部をご紹介します

働きがいで輝かせ、家族も照らす!それがジャスティス /社会保険労務士法人ジャスティス様

 働いている親や子どもが、働きがいを感じてイキイキと輝いていれば、その影響で自ずと家族まで明るく元気になります。本人だけでなく、家族も照らせるほどの働きがいを実現する。それを目指すのがジャスティスであるという想いを込めました。

社員皆で「乗心地」の追求!そして、社員皆で「居心地」の探求! /株式会社ワイテック様

 「乗心地」については開発~量産まで手掛ける弊社のミッション。そして「居心地」の探求は働き甲斐やエンゲージメントの向上を意味します。そもそも会社の居心地とは社員みんなが「いい会社」と誇れること。いくら福利厚生が立派でも、そこで働く人たちの心が通う場所でないといけません。「いい会社」とは社長や経営層だけがするのではなく、社員も役員も社長も全員で取り組むことが大事だと考えます。​

宣言一覧

集合写真

第3回参加者と登壇者のみなさま

【受講アンケートより】全3回を終えて参加者の声

  • このイベントを通じて事例企業3社の発表がありました。素晴らしい状況を実現しておられましたが、いずれも長い月日をかけて取り組まれた結果であり、やはり「継続が大切」であることを改めて実感しました。(宗盛電気サービス株式会社 代表取締役 宗盛文幸様)
  • 時代の変化の加速にあわせ、働く人たちのマインドも大きく変わっている。人が居てこその企業。その気持ちを忘れず、変えていくべきものと、変えるべきではないものを明確にし、早急に改革に取り組む必要があると感じた。(ゼネラルスチール株式会社 代表取締役社長 明石 依子様)
  • 3人の講師の皆様のお話を聞かせて頂き、気づいたのは、会社は社長の個性で決まると感じました。それだけに心から思う良心を、具体化するスキルをこのような形で吸収でき、実践できれば、世の中は変わっていくものだと思いました。環境整備は社長しかできない仕事。これを胸に、生涯継続してまいります。(中国シンワ株式会社 代表取締役 太原 真弘様)
  • 社員の皆さんの働きがい向上を目指し、社員の皆さんが幸せになることが、経営者の生きがい、会社の価値向上につながっていくと、あらためて思いました。(楠原壜罐詰工業株式会社 代表取締役社長 楠原雄治様)

参加企業一覧 (五十音順)

企業アイコン一覧

イベントレポート (第1回・第2回)

  •  第1回 特別講演:伊那食品工業株式会社 塚越 英弘氏 「いい会社をつくりましょう」
     意見交換:「自社の社員にとっての働きがいとは何か?」 
    第1回
  •  第2回 特別講演:ダイヤ精機株式会社 諏訪 貴子氏 「町工場が実践する『社員のモチベーションの高め方』」
     意見交換:「どのような取組が社員の働きがいの向上につながるのか?」 
    URL

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