地域の健康を守る!公衆衛生医師の使命とは?
スーパーに行くと、お客さんの健康や生活の様子が気になる。食品を選ぶときには衛生管理が気になる。なぜ気になるのか。彼女の職業は「公衆衛生医師」だから!どんなお仕事か、知っていますか?
目次
公衆衛生医師ってどんなお仕事?
「彼女」とは、公衆衛生医師歴10年の、平本恵子さん。これまで脳外科医として様々な病院で勤めたのち、今は広島県西部厚生環境事務所・保健所の所長をしています。
公衆衛生医師は、病院ではなく行政機関で働く医師のことです。一人一人の患者の治療ではなく、地域全体の安全と住民の健康を守るための仕組みを整えています。医学の専門的知識や経験を生かし、地域住民の命と健康を守る重要な役割を担っています。
身近な存在 実はこんな業務も
公衆衛生医師の仕事は多岐に渡ります。当たり前と思っている安全な暮らしも、実は公衆衛生医師たちが支えてくれているから。主な仕事を紹介します。
感染症対策
新型コロナウイルス感染症のような未知の大規模感染症が発生した時には、地域全体の健康を守るための仕組みづくりを行います。例えば相談窓口の設置、衛生物品の確保、車両や宿泊施設の確保、感染対策のルールなどを決定します。
インフルエンザやノロウイルスなど急激に増加する集団感染症に対しては、感染拡大を抑えるために、疫学調査や施設調査を行います。
また、立ち入り調査や施設指導を行うこともあります。これらの感染症情報を速やかに取りまとめ、「インフルエンザ注意報」を発令するなど必要な情報を地域に提供し、感染予防を広く呼びかけます。
災害時の公衆衛生支援
災害時には、県庁や保健所の対策本部において「避難所での健康管理」や「保健、医療、福祉」の仕組みを整える等、二次被害を防ぐ役割を担います。
例えば避難所の情報を収集し、避難者の健康管理、感染症対策、洗面・トイレ等の衛生管理、プライバシーの確保や熱中症・防寒対策などの環境調整等を行います。さらに在宅避難者の個別訪問情報を用いて、健康状態や生活状況の確認をします。
また、避難所情報や在宅避難者の情報に加え、“避難者数”や“物資”の状況、“傷病者の状況”などをまとめ、災害対策本部へ伝える役目もあります。これらの情報から、被災地のニーズを理解し、支援を最適にする調整役として活躍します。
医療計画の管理
誰もが安心して医療を受けられるように、地域の医療システムを構築しています。 医師確保に努め、医師不足の地域で受け入れ環境を整え、医師会や大学医局と連携して支援策を打ち出します。
また、救急の役割分担や搬送体制を確保するのも重要な役目です。地域の人口構造や医療需要を分析し、地域における病床機能の分化・連携を推進しています。広島市東区で30年度に予定する新病院の開設に向けて準備も進めています。
健康教育・啓発活動
公衆衛生医師は、生活習慣病予防、がん対策、薬物乱用予防、禁煙推進や栄養改善など、様々な“健康”に関する情報を発信しています。 また、広島県の健康データを分析し、地域の実情に合わせた重点対策を行う等、それぞれの特徴に合わせた病気を防ぐ仕組みを作っています。
食品や環境の衛生管理
住民が安心して生活できるよう、安全の基盤を支えています。保健所では、「飲食店やスーパー、弁当屋」などが、HACCP※ (ハサップ) を取り入れた衛生管理などを行える体制になっているかをチェックし、最終的に、営業許可を出す判断を行っています。
販売されている商品の衛生調査や、牡蠣や貝類などの貝毒検査を行い、食中毒などの健康被害を未然に防ぐことも知られざる仕事です。また、公共施設の衛生監視も担っており、例えば「旅館、公衆浴場、プール」などの施設の衛生状態が適切に保たれるよう指導しています。
※食品を扱う際の危害を事前に予測し、予防するためのシステム
公衆衛生医師インタビュー
公衆衛生医師の役割ややりがいについて、広島県西部保健所長の平本恵子さん、広島県健康福祉局医療機能強化推進課の髙橋一剛さん、同局健康危機管理課小山智士さんに聞きました。
社会の病に立ち向かい 270万人の「生きる全て」を守る
平本恵子さん
公衆衛生医師の役割は。
人だけでなく環境、社会システムも含めて「守るべき対象」と捉えています。例えば、感染症の流行時には、医学的な知識だけでなく、経済や教育、福祉といった社会全体への影響を考慮し、地域全体で最適な対応策を講じる必要があります。
こうした社会に潜む病 (課題) を見つけ出し、解決することが仕事です。医師であり、行政官でもあるという2つの視点から、医療・行政・地域との間を「つなぐ」役割ができると考えています。
仕事の魅力や今後の展望は。
私たちは、健康危機、少子高齢化、障害福祉、疾病予防といった社会の課題を、様々な関係者とともにアイデアを出し、企画を立て、実行する・・・この、あらゆる役割を果たすことに、スケールの大きさと自由さ、クリエイティブさを感じます。また、どの課題も一人では解決できません。仲間との「つながりの力」で乗り越えることが、この仕事の最大の魅力です。
現在私は、全国保健所長会人材確保育成事業班の一員としても活動しており、全国の様々な行政の医師とともに、全国規模のセミナーや広報の企画運営を通じて、公衆衛生の魅力やキャリアパスを伝えています。また、大学医学部での学生講義や実習も担当し、行政機関の役割や、医療と行政との関係性を、学生時代から理解できるよう努めています。
今後も、様々な活動を通じてつながりを増やし、多様な私たちが支えあって実現する、「“生きる”を衛 (まも) る=公衆衛生」の仕組みを、様々な場所・形で、作っていきたいです。
現場の「声」を政策の「言葉」に変える、翻訳家という使命
髙橋一剛さん
どのような仕事を担当していますか。
地域の医療体制を整えるため、医療現場と行政を繋ぐ「翻訳家」として施策を考えています。医療現場の難解な専門用語や行政の複雑なルールは互いに理解しにくく、言葉の壁を取り払うことで、双方の意思疎通がスムーズになり、より精度の高い政策が実現できます。
今は、2030年度に予定されている広島駅北口の新病院開設に向け、体制づくりや意見集約などの準備を進めています。
公衆衛生医師として実現したいことは。
中山間地域や離島に住んでおられる方が、都市部で受けることができる医療を諦めることは決してあってはならないと考えています。消化器外科医として11年間、病院で勤務をしておりましたが、医療へのアクセスは中山間地域の勤務で大きな課題を感じました。
広島県庁に赴任後、県内の各地に家族とのドライブなども通じてお伺いしましたが、実際に自分で各市町や集落の位置、そこまでの道のり、インフラの状況を体感することは施策を検討する上で重要だと思います。
また救急搬送や手術件数、人口推移などのデータを分析し、数十年先を見据えた持続可能な医療体制についても考えています。月に一度、県内の病院で救急の日当直を担当していますが、救急隊や看護師の方との対話から、データだけでは見えないリアルな実情も伺っています。行政組織という大きな仕組みを、医師の専門性を持って支えることにやりがいを感じています。
災害現場を知るからこそ挑む、命を守る仕組みづくり
小山智士さん
2025年4月から公衆衛生医師。志したきっかけは。
学生時代、東日本大震災でボランティア活動に行った時、被災地で奮闘する医療従事者を目の当たりにし、救急・災害医療の医師を目指しました。その後、救急専門医として臨床に従事する中で、能登半島地震では災害派遣医療チーム (DMAT) の一員として派遣されました。
その時、保健・医療・福祉に関わる人材や物資の支援、患者搬送の調整など、現場だけでは対応できない社会的な仕組みが整うことで、より多くの命を救うことにつながると実感しました。有事の現場を裏側から支える制度の課題を解決したいと考え、行政の立場で医療に関わりたいと思ったのがきっかけです。
経験を生かせていますか。
今は、救急隊と医療機関をデジタル技術で迅速につなぐ救急搬送支援システムの導入や、災害時の病院の事業継続計画 (BCP) 策定支援などを担当しています。
救急現場や災害時に何が起こるかを具体的に想像できるため、現場の医療従事者が動きやすい仕組みを考えることができます。臨床と行政を繋ぐ架け橋となり、日本全体の救急・災害医療をより良いものにしていきたいです。
社会を診断 企画を処方
公衆衛生医師は、個人の治療を超え、地域全体に目を向け、人々の命や安全を守る「仕組み」をつくることを使命としています。見えないところで「命のインフラ」を整え、みなさまの「当たり前の安全」を守ります。
