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ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究

印刷用ページを表示する掲載日2011年12月1日

ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究

発表概要

 
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究1 ここでは、「ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究」について報告する。このテーマに関して大きく3つの研究を行ったが、ここではそれらのうちの2つについて報告したい。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究2 まず、ソーシャル・キャピタルについて説明する。これは社会科学における新しい概念である。日本語としては「社会資本」と訳される場合もあれば、「社会関係資本」と訳される場合もあるなど、研究領域によって様々であるため、ここでは英語をカタカナ書きして「ソーシャル・キャピタル」と呼ぶことにする。
 このソーシャル・キャピタルは3つの構成要素からなる。第1の要素がネットワーク、つまり人と人とのつながりである。第2の要素が規範、特に「お互い様」やあるいは「情けは人のためならず」といった言葉で表現される規範である。このような規範のことを社会科学では「互酬性」規範と呼ぶ。第3の要素が信頼である。これには「人は一般に信頼できる」という気持ちを表す「一般的信頼」と「長くつきあっている人だから信頼できる」という気持ちである「個別的信頼」の2種類が考えられている。
 これら3要素からなるソーシャル・キャピタルは、共通の目標に向けての社会組織の協調行動を導くとされている。また、このソーシャル・キャピタルが豊かな社会ではボランティアなどの市民活動が活発であり、翻って市民活動が活発な社会ではソーシャル・キャピタルが豊かであるという相互的な関係がある。そのため、市民活動の活発さはソーシャル・キャピタルの指標として用いられることが多い。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究3 ソーシャルキャピタルは具体的にはどのような効果を持つのだろうか。これまでいくつかの効果が指摘されてきた。たとえば、健康増進の効果があることが知られている。ネットワークの強さと健康との間には正の関係があるということである。また、教育効果も指摘されている。ネットワークの広がりと多様性が、子どもの学習体験の機会を広げるということである。そして、今回の研究のテーマである犯罪の抑制効果である。ソーシャル・キャピタルの豊かな地域では、相互のネットワークの強さが犯罪抑制効果を持つということである。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究4 3つめの犯罪抑制効果については、2003年の内閣府の調査報告書にも記されている。この図は横軸が全国の都道府県におけるボランティア活動行動者率であり、縦軸が各都道府県の刑法犯認知件数である。図から見て取れるとおり、ボランティア活動行動者率の高い都道府県ほど刑法犯認知件数が低いことが見いだされている。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究5 なぜソーシャル・キャピタルが豊かな地域では犯罪が少ないのだろうか。これについては次のように考えることができる。
 かつての社会は左上の図のような形をしていた。この図で1つ1つの○は地域社会を意味している。地域社会はそれぞれ厚い壁のようなものを持ち、他の地域との間に境界を設けていた。そのため、それぞれの地域は閉鎖的で相互に排他的であり、地域内部では住民同士の豊かな相互扶助がみられた。それは別の観点からみれば相互監視の状態にあったということであり、そのことが住民の匿名性を低くするという効果を持っていた。
 このようなかつての社会は結合型ソーシャル・キャピタルが豊かな社会ということができる。結合型とは、地域内部で住民同士が強く結びついていることを意味する。このような結合型ソーシャル・キャピタルが豊かな地域は、地域外部の人々は中に入りにくく、かついったん中に入ったら周囲から見られてしまうという性質を持っていた。そしてこのことは潜在的な犯罪者にとっては罪を犯しにくい地域、犯罪機会が少ない地域として見なされ、結果的に犯罪が抑制されるということになっていた。
 これに対して、今の社会の形は左下の図に示されるようなものになっている。つまり、相互間の境界が薄く、開放的で人々の流動性が高いという特徴を持っている。またプライバシーが尊重され、相互の独立性が重視されている。これは別の見方をすれば、住民同士が相互に無関心であり、匿名性が高い社会になっている。つまり、結合型ソーシャル・キャピタルが低下した社会であるといえる。
 このような社会は、かつての社会とは異なり、出入りが自由であり、またある地域社会の中に入っていっても、それが地域内部の人なのかそれとも外部から来た人なのかが分かりにくいという特徴を持っている。このような社会は潜在的な犯罪者にとって罪を犯しても目立ちにくく、また逃げやすい地域、犯罪機会が多い地域として見なされ、結果的に犯罪が抑制されないということになっている。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究6 では、このような特徴を持つ現代の社会においては、どのようなソーシャル・キャピタルを醸成することが犯罪抑制に効果的なのだろうか。1つの考え方は、犯罪機会を減らすために、かつてのような結合型の社会に戻すというものである。しかし、それはおそらく非現実的な考え方だろう。そのことは時計の針を逆戻しすることであり、実現できるとは考えにくい。また、仮に実現したとすると、開放的で人材が流動的であるからこそ得ることのできる種々のメリット(たとえば経済活動の活発さなど)が失われることになる。
 こう考えたとき、結合型とは違った形のソーシャル・キャピタルの醸成が重要となってくる。それは橋渡し型ソーシャル・キャピタルというものである。これは、結合型ソ-シャル・キャピタルの低下した多くの地域から人々が集まる場を作り、その場でそれぞれの地域の情報を交換しあい、それらを各地域に持ち帰ることで、自らの地域への関心や社会に対する当事者意識を高めることができるという考え方に基づくものである。その中心となる場が、各地域間の橋渡し機能を持つのであり、このような橋渡し機能を持つ場としてボランティアなどの市民活動が機能すると考えられている。
 このような橋渡し型ソーシャル・キャピタルは時計の針を逆戻しすることなく、また狭い地域に閉じたものでもない、より大きな広がりを持ったものであり、これからの社会の目指すべき1つの方向であるといえる。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究7 さて、以上のように説明されるソーシャル・キャピタルが具体的に犯罪の抑制にどう関わっているのだろうか。これを調べたのが、最初に報告する研究1である。
 研究1では、全国の都道府県の統計データの分析を通じてソーシャル・キャピタルの犯罪抑制効果を検証した。具体的にはソーシャル・キャピタル変数として、1)地縁的活動者率(地域内部での町内会活動など)、2)ボランティア活動者率(過去1年間の間に1度でもボランティア活動に携わったことのある人の割合)、3)一般的信頼(「一般に他人は信頼できる」という項目に「はい」と答えた人の割合)の3つを用いた。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究8 ついで、犯罪変数として2004年の窃盗犯認知件数、粗暴犯認知件数、凶悪犯認知件数を統計データポータルサイトより入手した。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究9 以上のソーシャル・キャピタル変数と犯罪変数との関連をパス解析によって分析した結果がこの図である。
 図に示したとおり、ボランティア活動者率が3罪種の認知件数と負の関連を持つことが明らかとなった。つまり、住民のボランティア活動者率の高い都道府県ほど犯罪が少ないことが示されたのである。一方、地縁的活動者率は粗暴犯認知件数と負の関連を持っていた。地域内での活動に熱心な住民の多い都道府県ほど、粗暴犯が少ないということである。
 なお、これらの関連性は、第1次産業従事者率を指標とする地域差をコントロールしても認められた。さらには、住民の一般的信頼の高い都道府県ほどボランティア活動者率が高いことも示された。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究10 以上の研究1の結果をまとめると次のようになる。
1. 市民の一般的信頼の程度が高い都道府県ほどボランティア活動者率が高い。
2. ボランティア活動者率の高い都道府県ほど3罪種の認知件数が少ない。
3. 地縁的活動者率の高い都道府県ほど粗暴犯の認知件数が少ない。
4. 2、3の効果は、産業形態を指標とする地域特性を統制してもなお認められる。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究11 さて、以上のようにボランティア活動の活発さと刑法犯認知件数との間には関連があることが、全国47都道府県の統計データの分析から確認された。では、広島県の実態はどうだろうか。ここに示した図は、内閣府の調査報告書にあったソーシャルキャピタル総合指標の値を都道府県別に記したものである。横軸は全国の47都道府県を、縦軸はソーシャル・キャピタル総合指標を示しており、ゼロが全国の平均値となるように標準化されている。図から明らかなように、東京、大阪、愛知といった都会はいずれもソーシャル・キャピタルの水準は低い。広島県の総合指標得点は全国平均を下回り、中国地方5県の中では最下位である。
 本研究では、研究2として広島県民を対象とした大規模なアンケート調査を行い、地域のソーシャル・キャピタルと防犯との関連を分析した。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究12 具体的な調査については次の通りである。
 まず調査期間は本年の1月中旬。調査対象者は、広島県運転免許センターおよび、広島県内の22の警察署の窓口に運転免許更新手続きに訪れた人であり、今回の分析の対象となったのは欠損データ等のない2483名である。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究13 まず、各調査対象者が地域の中で治安維持活動をどれくらい行っているかについて、ここに示した12の活動のうち実際に行っているものに○を付けさせることによって調べた。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究14 また、地域内での活動、地域を越えての活動のそれぞれについて、どれくらい活発に行っているかを問うた。さらには、各調査対象者の対人的なネットワークの多様性を調べるために、15種類の職種を示し、知り合いの中にその職種に就いている人がいる場合には○を付けるよう求めた。この○の数がネットワークの多様性の指標である。
 これらの変数に加えて、個人の信頼の程度を一般的信頼と個別的信頼について答えるよう求めた。
 これら諸変数の関連性についてパス解析を用いて分析したところ、地域内活動、地域間活動、ネットワークの多様性のいずれもが治安維持活動への熱心さと正の関連を示した。また、一般的信頼は地域内、地域間活動とネットワークの多様性と正の関連を示し、個別的信頼はネットワークの多様性とのみ関連した。
 これらの結果は、ソーシャル・キャピタルの豊かさが治安維持活動の活発さに影響する可能性を示唆するものである。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究15 以上の結果は、個人としてどれくらい市民活動に熱心であるかの程度と、個人としての治安維持活動への熱心さとの関連を探ったものであった。では、個々人の周囲の環境は治安維持活動にどう影響するのだろうか。
 この問いに答えるため、本研究では、調査対象者の居住地域の地域内活動と地域間活動の活発さの程度に基づいて、地域を4群に分類した。地域内活動、地域間活動ともに活発ではない地域、地域内活動は低調だが地域間活動は活発な地域、逆に地域内活動だけが活発で地域間活動は不活発な地域、最後に地域内、地域間活動ともに活発な地域の4群である。
 なお、これら4群のうち2番目の地域間活動のみが活発な地域は少なく、そこに居住する調査対象者の数も他と比較して極端に少ないため、これ以降はこの群のサンプルは分析対象としていない。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究16 さて、分析対象となった3群の地域住民それぞれについて、個人としての治安維持活動への熱心さの平均値を図に示した。横軸は、調査対象者の住む地域における地域内活動・地域間活動の活発さの水準を示し、縦軸はそれぞれの地域に住む調査対象者個人の治安維持活動への積極性を示している。図から明らかなとおり、地域内・地域間活動ともに低調な地域に住む住民は最も治安維持活動に不熱心であり、逆に両活動ともに活発な地域に住む人々は最も治安維持活動に熱心だった。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究17 では、地域内・地域間活動ともに低調な地域に住む人びとを治安維持活動に向けて動機づけるには何が必要なのだろうか。ここでは、犯罪や防犯についての情報の利用可能性の効果に着目した。そして、それらの情報を入手する媒体としてインターネットを取り上げ、インターネットからそれらの情報をどの程度入手しているかが治安維持活動への積極性に及ぼす効果を検討した。具体的には、それぞれの地域住民を「インターネットを使っていない、あるいはそれを使ってはいるが犯罪・防犯情報を入手していない」群と「インターネットで消極的・あるいは積極的に犯罪・防犯情報を入手している」群とに2分し、両群の治安維持活動への積極性を比較した。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究18 結果は図に示すとおりである。図の左端の2本の円柱が地域内・地域間活動ともに低調な地域の住民を示している。この地域の住民であってもインターネットで犯罪・防犯上を入手している人ひとは、そうでない人びとよりも治安維持活動に熱心なことが分かる。なお、図で見る限り両群の差はわずかしかないように受け取られるかもしれないが、この差は統計的に意味のあるものであることが確認されている。
 さらに、図の右端の2群、つまり地域内・地域間活動ともに活発な地域の住民においては、インターネットによる情報入手の効果はより顕著である。地域が市民活動に活発であるという環境的な要因に加えて、個人として犯罪・防犯情報に入手しようとすることが治安維持活動への積極性を押し上げていることが分かる。
ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究19 以上の研究1,2の結果から、次のように結論づけることができる。
1.一般的信頼の高さは、個人としても地域としても、市民活動を活性化させる。
2.市民活動が活発は都道府県では、刑法犯認知件数が少ない。
3.地域内活動、地域間活動の活発な地域に住む人は、治安維持活動に積極的に取り組んでいる。
4. 防犯、犯罪に関する情報の利用可能性を高めることが、治安維持活動の活性化に寄与する可能性がある。

発表要録浦 光博教授の写真

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