企業名 | ヤマネホールディングス株式会社 |
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住所 | 広島市南区出島1-21-15 | |
事業内容 | 住宅事業、木材加工、家具販売、デイサービス | |
売上高(グループ全体) | 111億円(2025年1月期) | |
従業員数 | 280人(2025年7月時点) | |
企業HP | https://www.yamane-m.co.jp/ |
人口減少やデジタル化の加速により、仕事に必要な能力やスキルが大きく変わる中、「ジョブ型人事制度」が注目されている。職務と人材を見える化する人事制度だ。年齢や性別に捉われず、能力に応じた適材適所を実現できる。「年功序列」「終身雇用」「新卒一括採用」などに象徴されるメンバーシップ型雇用が根付く日本では導入の難しさが指摘されるが、1910年創業の老舗であるヤマネホールディングス(南区出島)が全面導入し、注目を集めている。
人事を担う岡田宏隆専務は「1年をかけて全職務を棚卸しし、現在必要な能力に加え将来の変化も見据えて職務要件化し、制度設計しました。」と振り返る。そうして生み出したジョブ型雇用はキャリアの幅を拡大させたほか、社員満足度の向上や人材獲得力の強化にもつながっている。
同時に、社員が自ら手を挙げて希望部署へ異動できる公募型の「オープンポジション制度」も導入。部門を問わず異動する社内転職を可能にし、社員の希望に基づくキャリア形成を後押しする。人事制度の抜本的な改革を主導した岡田専務に背景や狙いを聞いた。
ヤマネホールディングスは1910年創業の木材店を母体に、住宅建築、木材加工、家具販売、介護サービスなど多角化を進めてきた。現在は「山根木材ホーム」や「広島ランバーテック」など7社を傘下に持つ。
毎年、新卒と中途を合わせて約20人をグループ7社で一括採用する。岡田専務は「まだ採用できてはいるものの、徐々に厳しくなっています。中でも、ITやマーケティング、経営企画といった、企業の持続的な成長に関わる人材の確保が難しい状況です。」と明かす。そこで、「会社が選ぶだけではなく、人材から選ばれる会社にしよう」と人事制度の改革をスタートし、ジョブ型人事制度を2023年4月に導入した。約200におよぶ全職種について、職務内容をはじめ、求められる知識やスキルなどを示す職務記述書を作成。役割やポイントのほか、業務フロー、部下の数なども細かく定義するとともに、築いてきた企業ブランドや経営方針における位置付けなども記載し、分かりやすさにも配慮したという。
採用におけるメリットも大きい。地方での採用が難しいマーケティングやITといった分野については、職務記述書の評価項目の「専門性」や「革新性」のポイントが高く設定され、そこにウエートを置いて評価する形で等級が上がり、給与が高くなる仕組みだ。岡田専務は「市場に合わせた職務の評価や給料水準を提示することができる上、首都圏の相場とのギャップが少なくなり、キャリア人材を採用しやすくなりました」と前を向く。
職務記述書で全職務を、人材の代替性、革新性、専門性などの項目でそれぞれ5段階に評価する。評価点に応じて8つの等級に分け、等級に応じて給与が決まる仕組みだ。社員は給与を上げようと思えば、目指す職務に必要な知識や技術の獲得に向けたリスキリングが必須となる。
必要な人材やスキル、昇給のポイントが明示され、モチベーションが上がる制度になった一方、気にかかるのが、勤務年数の長いベテラン層の反応だ。ジョブ型人事制度は「人」ではなく「仕事」に対して賃金が支払われる制度。年齢給の廃止に伴って給与が下がる社員もいる。反発が予想されることから、「急に給与が下がらないよう、導入から3年間の調整期間を設け、金額を維持する措置を講じました。」とする。これは「3年の間に職務に必要な能力を身につけてほしい」という会社からのメッセージでもある。
さらに、職務記述書は社員へのヒアリングなどを通して現場の状況に合わせて更新していく。「職務記述書の質が上がれば、評価の精度も高まり給与に反映されるため、納得感も得やすくなります。」と岡田専務。将来的には生成AIを活用して最適化することも視野に入れる。
部門を問わず希望部署への異動を可能にする「オープンポジション制度」は、1年ごとに空きポジションを社内公募し、希望者を募る仕組みだ。対象は全社員で、応募は直属の上司を通さず本人が直接人事部に申し出ることができる。異動理由やこれまでの経験、希望する職務などを記載した申請書を提出し、面談を経て配属が決まる。
この制度を使って2025年4月に異動したのが「山根木材ホーム」設計課の風呂井薫さんだ。戸建て住宅の設計職を目指して2020年に入社し、5年間は建物の安全性や耐震性を確保する構造計算を担当する部署に在籍した。戸建て住宅の構造計算は、将来の設計業務に役立つと考えて従事していたが、経験を積むにつれ、福祉施設や集合住宅の構造計算も任されるようになっていった。
自身のキャリアプランとずれていく仕事の内容に迷いを感じ、「今後のキャリアを考えて転職も頭をよぎっていたときに、ちょうどオープンポジション制度で意匠設計職の募集が出たので、手を挙げました。」と明かす。
岡田専務は「社員の異動希望は、通常は上司や管理職を通して人事に上がってきますが、その過程で上役のフィルターがかかります。オープンポジション制度では直接本人が手を挙げられるため、風通しよくキャリア形成をサポートすることでエンゲージメント向上につなげています。」と語る。2025年で28歳を迎える風呂井さんは「30歳までにはお客さまを担当して、設計だけでなく、住宅資金を含めたライフプランのご提案までできるようになっていたいですね。」と先を見据える。入社2年目に取得した二級建築士に加え、設計職の職務記述書を参考に、宅地建物取引士の取得を目指して通信教育を受講している。
風呂井さんが利用するのが、通信講座を修了した場合に受講費用の全額を会社が補助する制度だ。職務や将来のキャリアにひも付けたメニューを推奨している。これまで会社が8割を負担していたものを、2025年4月から全額を会社負担に変更したところ、受講者が増え、正社員の約6割にあたる約150人が受講しているという。
2025年4月、定年を60歳から65歳に延長した。定年後は再雇用で給与が3割減となる「60歳の崖」をなくし、平均で5年間に約1000万円に及ぶ収入減を回避した。これにより経済的な不安の解消に加え、人材活用や技術継承、モチベーションの維持にもつなげる。
そのほか、50歳を迎えた社員を対象とするキャリアサポートにも乗り出す。60歳に向けてどう取り組んでいくかを見える化し、計画を立てることを支援するもので、50歳から5歳刻みのキャリアプランを作成し、そのために必要な学習の機会やプログラムを提供して後押ししていく。従来はファイナンシャルプランナーを招いたセミナーなどで「将来の経済設計のために配偶者さんと一緒に聞いてくださいね」といったスタイルでやってきたそうだが、「皆さん60歳になるまで考えない傾向が強かったので、50歳の時点でセカンドキャリア形成を自主的に考えてもらうのが目的です。」と意図を説明する。
生産性の向上に向け、グループ全社を対象に生成AIに関する研修を実施して活用を後押ししている。「気になっているがどう使えば良いのか、という社員が多いため、まず使い方を知ってもらって不安を取り除いています。リスキリングの波に乗り遅れないよう、浸透を図ります。」とする。そのほか、幹部を対象に生成AIを相手に思考を整理する「壁打ち」研修も企画している。
人事の領域では、新卒者を対象にAI面接を導入している。応募書のふるい分けではなく、人事担当2人による面接の後、AI面接を実施して役員面接につなぐ。岡田専務は「初回面接者の主観に基づく判断をいかに客観化するかという点に加え、応募者の情報を正確かつ過不足なく共有するためにAIを活用しています。」と説明する。さらに、「採用の可否に利用するのではなく、AIによる評価を応募者にフィードバックすることで客観的な自己分析になると好評な上、企業としての先進性のPRにもなります。」と狙いを明かす。
ジョブ型人事制度を「会社が必要とする人材像を明確に提示する」ための厳しい制度と捉える向きもある。しかし、変化の激しい時代、従来のやり方を続けるだけでは、社員はキャリア形成やスキル向上の機会を逸し、会社は競争力も失っていく。
ヤマネホールディングスは「木と住まいの文化の継承発展を図り、社会に貢献する人間中心企業を目指す」という経営理念を掲げ、2022年には「お客さま一人ひとりの暮らしの豊かさをカタチにする」をブランドコアに据えた。岡田専務は「お客さま一人ひとりに寄り添う姿勢は、社員に対しても同じです。皆がいきいきと働ける環境を整備して成長してもらい、その結果、会社も成長していくというスタンスで事業を展開しています。」と述べる。さらに「選択の機会を与え、挑戦の風土を育み、未来の人材に選ばれる企業になる」という目標を掲げ、リスキリングやアップスキリングなど「ジョブ型の人的投資」によって、持続的成長を支える競争力の向上に磨きをかけている。
ヤマネホールディングス株式会社が実践しているリスキリングの取組を、県が示しているリスキリングの取組手順のどこに該当するか整理しました。自社の取組の参考にしてください。
STEP1 リスキリングの方針を決定する |
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ヤマネホールディングス(株)の具体的な取組 |
STEP2 リスキリングのための環境を整備する |
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ヤマネホールディングス(株)の具体的な取組 |
STEP3 知識・スキルの習得機会を提供する |
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ヤマネホールディングス(株)の具体的な取組 |
STEP4 習得した知識・スキルを業務に活かせるよう、評価・処遇の見直しを行う |
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ヤマネホールディングス(株)の具体的な取組 |
取組手順以外の重要ポイント |
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ヤマネホールディングス(株)の具体的な取組 |