企業名 | 医療法人松村循環器・外科医院 |
|
住所 | 広島市佐伯区楽々園2−2−19 | |
事業内容 | 循環器科、外科、内科を中心とした一般外来診療 訪問看護やデイサービスほか、介護老人保健施設の運営など |
|
売上高 | 6億3,600万円 | |
従業員数 | 80人(2025年6月時点) | |
企業HP | http://www.matsumura-cc.jp/ |
地域のかかりつけ医として循環器内科、外科を中心とした一般外来診療や訪問看護ステーション、訪問リハビリステーション、介護老人保健施設などを運営する医療法人松村循環器・外科医院(佐伯区楽々園)。医療・福祉業界は、団塊世代全員が75歳以上になる「2025年問題」など、超高齢化社会の進行に伴い医療や介護の需要が一層高まっており、職員一人当たりの業務負担も増している。
こうした厳しい労働環境から業界での離職者が相次ぐ中、同医院では広島県の「リスキリング推進宣言制度」が2022年に始まる以前から、松村誠理事長を中心に長期的なキャリア形成を見据えた資格取得支援に取り組んできた。これらの施策が功を奏し、離職者は3年間で7割減。離職率の大幅改善につながったその取組とは、どのようなものだったのか。
厚生労働省の調べでは、2024年上半期の主要な産業別での離職者数は「医療、福祉」が709万5000人と、「卸売業、小売業」の822万1000人に次いで多かった。こうした業界全体での現状に、以前から危機感を抱いていたという松村理事長。「残念ながら、この業界は若者の敬遠する『きつい』『汚い』『危険』な3K労働のイメージが昔から根強く残っています。当院に限らない話ですが、今は就労者を増やす前に、現在働いている職員にどうやって残ってもらうかというところが大きな課題です。」と話す。
リスキリング推進担当の向井みどり事務長は「私が入職した10年ぐらい前は新しい人が入っては辞め、人の出入りが多かったですね。事務長に就いてからは人事業務に携わる機会が増え、外来看護師などの職員からは『今はまだ大丈夫ですが、体力負担が大きい仕事なので、将来いつまで続けられるか自信がないです。』という声も上がっていました。」と振り返る。
そこで離職防止策として考えたのが、資格取得支援である。保持資格を増やし、医療と福祉の両分野をまたいで勤務できるようにするというスキームだ。例えば、体力を要する外来看護師や訪問看護、訪問リハビリに携わる職員が若いうちにケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を取得すれば、将来はケアプランの作成や各種事業者の手配といった身体的負担の少ない事務業務を担える。この仕組みにより、同医院で長期的に働くことが可能になるという。
同医院の資格取得支援制度は、職員が自ら希望して手を挙げる方式だ。対象は介護支援専門員、主任介護支援専門員、介護福祉士、看護師、心臓リハビリテーション指導士など多岐にわたる。
学習時間を勤務扱いとするほか、外部研修費の半額負担、交通費の実費支給、合格祝い金2万円の支給などで支援を行う。外部研修や試験日程はシフト調整で対応し、業務との両立を図っている。
松村理事長は「こうした資格の中には、心臓リハビリテーション指導士のように取得まで平均2年ほどかかるものもあります。通常業務と両立できるよう、まずは学習時間の確保から着手しました。」と話す。
例えば看護師の場合、着目したのは診療の合間の昼時間だ。状況によっては2時間の空き時間が生じることがあり、そのうち1時間を学習に充て、座学(テーマ:ケアマネになるまで)をeラーニングで受講してもらう。また、資格取得に関する外部研修にも参加し、いずれも勤務時間として扱っている。
リスキリングに取り組む上で課題となるのが、同僚からの理解をどう得るかだと松村理事長は語る。「外部研修に参加すると通常業務ができないため、その日の業務を他の職員に任せることになります。当初は『自分に業務のしわ寄せがきている』と感じ、職場の雰囲気が悪くなるのではと懸念していました。ですが、勉強中の職員が分からない箇所を同僚や先輩に質問するなど、その真剣な姿を見て『合格に向けて支え合おう』という良い雰囲気が生まれています。」とほほ笑む。
一方で、子育てや親の介護などを理由に、資格取得の勉強を望んでも取り組めない職員もいる。向井事務長は「自分だけが取り残されたと感じないように」との思いから各職員と面談し、「お子さんが小学生になったタイミングで始めましょう」などとアドバイスを行い、メンタル面での支援も行っている。
2025年はケアマネジャーの資格に2人、介護福祉士に1人が合格した。ケアマネに合格したのは、看護師の藤岡佳奈さんと理学療法士の山田愛さんだ。藤岡さんは「資格取得には資金が必要で、複数の資格となると自己負担が大きく迷いもありましたが、法人が費用を負担してくれたことで大変助かりました。来年は心臓リハビリテーション指導士の取得を目指し、患者さんや当院に貢献できるよう励んでいきたいです。」と意気込む。
山田さんは「実務研修は計87時間と長丁場でしたが、当院で働くケアマネジャーに都度相談ができ、職場の人からの応援も励みになり、集中して取り組めました。現在は将来を見据えてケアマネの業務にも携わっています。キャリアの選択肢が増え、とてもありがたい支援です。」と話す。
資格取得は日々のサービスの質的向上にもつながっている。例えば、将来の介護に不安を抱える外来患者に対し、ケアマネ資格を持つ看護師が介護保険制度の説明を行うといったメリットも現れている。
松村理事長は新たな医療サービスの提供にも期待を寄せる。「将来は心臓リハビリの提供を目指しています。現在(2025年6月)は心臓リハビリテーション指導士の合格者はいませんが、今後合格者が出れば、提供に向けて一歩前進できるはずです。」と語った。
ケアマネに合格した藤岡さんや山田さんの声からも分かるように、同医院への帰属意識は確実に高まっている。これが職員の定着率向上につながり、直近3年間の離職者数は2022年度は12人だったが、2023年度は8人、2024年度は3人と大幅に減少した。かつては毎年、新卒や中途採用を行う必要があったが、現在は欠員が出たタイミングでだけ募集を行っている。
その一方で、新たな課題となっているのが人事評価制度。向井事務長は「リスキリングによる成果を適切な評価方法で給与や昇進・昇格に反映してほしいという職員からの意見があり、現在その仕組みを作成中です。ようやく各業務内容の洗い出しが終わった段階で、次の賞与(2025年冬季)までには完成させたいです。」と語る。
松村理事長は最後にこう語る。「リスキリングの推進は、人材定着や業績アップに必ずつながります。人手不足や離職者の増加は業界全体の課題でもあるため、他の医療・社会福祉法人にもぜひ取り組んでもらいたいですね。」こうした取組の広がりが、業界全体の持続可能性を高める鍵になりそうだ。
医療法人松村循環器・外科医院が実践しているリスキリングの取組を、県が示しているリスキリングの取組手順のどこに該当するか整理しました。自社の取組の参考にしてください。
STEP1 リスキリングの方針を決定する |
|
(医)松村循環器・外科医院の具体的な取組 |
STEP2 リスキリングのための環境を整備する |
|
(医)松村循環器・外科医院の具体的な取組 |
STEP3 知識・スキルの習得機会を提供する |
|
(医)松村循環器・外科医院の具体的な取組 |
STEP4 習得した知識・スキルを業務に活かせるよう、評価・処遇の見直しを行う |
|
(医)松村循環器・外科医院の具体的な取組 |
取組手順以外の重要ポイント |
|
(医)松村循環器・外科医院の具体的な取組 |