企業名 | 株式会社リノベートファーム |
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住所 | 広島市西区横川町2-12-3 | |
事業内容 | 空調設備の企画設計・工事、内外装リフォームなど | |
売上高 | 4億3300万円(2024年9月期) | |
従業員数 | 13人(2025年7月時点) | |
企業HP | https://renofarm.co.jp/ |
業務用の空調機器をIoT端末でつなぎ、空調のサブスク(月額制)サービスを実現させる―――。大手空調メーカーですら手掛けていなかったこのビジネスモデルに、社員10人にも満たない空調機器設置工事会社のリノベートファーム(西区横川町)が挑んだ。
中小企業や小規模事業者向けの経営支援機関である「広島県よろず支援拠点」を活用して社内にない知見を補いつつ、社内ではウェブ関連に知識のある人材をIT専任として雇用。実践での学びを深めながら、新サービスの立ち上げへの歩みを進めた。岡田真規社長は「意図的にリスキリングを進めたというより、社員が学びと実践を繰り返しながら、目の前の課題を一つ一つ解決していきました」と語る。
このリノベートファームの取組は、「リスキリングは大手企業のもの」と考える経営者もいる中で、中小企業でありながら社員たちの学びを促し、外部の支援機関も有効に活用しながら新サービスを立ち上げた特徴的な事例だ。岡田社長、IT専任担当の松重さん、そして伴走支援を担った広島県よろず支援拠点の瀬戸一威さん(中小企業診断士)に話を聞いた。
リノベートファームは2009年に設立。主にオフィスや飲食店などの商業施設向けに、空調設備などの販売・設置工事を手掛ける。業務用が主力だったため、2020年春からのコロナ禍は同社に多大な影響を及ぼした。取引先の多くが休業したため、空調は使われず、売上の約4割が消えた。途方に暮れる気持ちを抑えつつ、急きょ生まれた人的な余剰を生かそうと、岡田社長は創業間もなくから構想していたビジネスモデルの実現に動き出す。
そのビジネスというのが、「空調機器のIoT化によるサブスクサービス」だ。使用状況をリアルタイムで把握できるIoT端末を空調機器に接続することで、例えば、コロナ禍の定期的な休業要請期間に、使わなかった月額利用料を請求せずに済む。こういったサービスは国内外でも類例がなく、自社の差別化や競争力強化につながると考えた。「ありがたいことに、コロナ前は事業が順調に成長したため、新しい領域に人を回す余力はありませんでした。コロナで仕事がなくなったため、逆にチャンスだと気持ちを切り替えて突き進みました。とはいえ、現場作業を主とする当社にとって、IoTはこれまで取り組んだことのない未知の領域でした」と岡田社長は振り返る。
そこで事業の構想を相談した金融機関を通じて、広島県よろず支援拠点の紹介を受ける。リノベートファームの最初の印象について、瀬戸さんは「さまざまな規模、業種の経営者から相談を受けるが、ここまで練り上げられた事業計画は珍しく、感心した。私も惜しまず協力したいと素直に感じた」と話す。
IoT化の検討を進める一方で、リノベートファームは社内のデジタル化にも課題を抱えていた。そこで岡田社長はIoT事業と、社内のデジタル対応の両方を担う「IT専任担当者」の採用を決断。営業と現場工事が中心の10人足らずの会社に、1人のIT専任を置く経営判断について、岡田社長は「そりゃあ営業を雇って、直接的に売上を増やしたい気持ちはありました。しかしコロナ禍を機に、ウェブマーケティングやオンライン商談がいっそう増えるだろうと予測していました。決断に迷いはありませんでした」と話す。
ウェブ制作の実務経験を積んだ後、IT専任担当として入社した松重さんは、こう語る。「ウェブ制作にはある程度の知識はありましたが、IoTは全くの未経験。分からないことばかりでした。ただ、新しいことを学び、それを事業化につなげる仕事にはやりがいを感じました」
こうして、IoTサービスの事業化と社内のデジタル化が本格的に動き出す。決裁者の岡田社長、実務担当の松重さん、サポート役の瀬戸さんの三人四脚で、空調メーカーやシステム会社との交渉・調整、サービスの骨子作成などを進めた。リノベートファームにとって分からないことばかりだったが、瀬戸さんの熱心な伴走もあり、試行錯誤を重ねながら着実に前に進んだ。
推進役を担った松重さんは「社長とゴールの共通イメージを描き、そこまでの過程は私にある程度の裁量権をもらいました。『失敗してもいい』との言葉も添えてもらったおかげで、楽しみながら取り組めました。また、すぐに瀬戸さんや社長に相談できる体制はありがたかったです」と、チームでの連携体制のメリットを振り返る。
約2年弱の歳月をかけ2021年12月、使った月だけレンタル費用がかかる月額制の業務用エアコンサービス「ネクストRプラス」をリリース。同様のサービスは全国でも例がなく、画期的な取組になった。
リノベートファームには、社員の学びを促すためのいくつかの制度が設けられている。その一つが、一般職、管理職、経営幹部といった社員の等級(役職)ごとに、必要な資格や職責などを整理し、明文化した「キャリアパス」だ。経営幹部の育成を進めたいという岡田社長からの相談を受けた瀬戸さんが作成を勧めた。
同業大手を含めて多くの会社を参考にし、岡田社長が独自のものを仕上げた。同社のキャリアパスには、各等級の目安の年収まで加えているのが特徴だ。「これを作った効果は大きかった。それまで私の裁量で社員の給与を決めており、ある程度は正確に評価できていたと思いますが、その説明が簡単ではありませんでした。これがあれば、社員はどんな資格を取り、どんな職責を果たせれば昇進・昇給できるかということが一目で分かるように。給与の目安と必要な資格が同列で書かれているため、資格取得に向けた意欲も高まりました」と手応えを得る。
瀬戸さんはキャリアパスを作るメリットについて、「若手からマネジメント層までの育成、モチベーションの向上に直接的につながる。こういったキャリアの「見える化」は採用面にも有利に働きます」と語る。
作成後、社員の資格取得が加速した。その口火を切り、組織全体のモチベーションを引き上げたのは、営業チームの佐藤直哉部長だ。もともと管工事の施工管理技士2級を取得しており、率先垂範で1級の検定に挑戦。5回続けて落ちたものの、あきらめずに勉強を続け、6回目のチャレンジで見事に合格を果たす。こうした佐藤部長の粘り強い姿勢は、他の社員のやる気にも火をつけ、「挑戦の連鎖」へとつながっていった。
同社の属する建設業にとって、社員の保有資格は、業務を認められる種別と連動するため、資格取得は経営戦略に強く紐づく。ある社員は、当時のリノベートファームの事業に直接関係のなかった施工管理技士を受検すると社長に報告。2級を受けるはずが、併願が可能だった1級にも同時に挑戦し、見事に合格。この資格取得によって、同社は建設業の16品目の種別の業務受注が可能になった。現在、空調工事だけではなく、内外装工事に領域を広げ、売上の拡大につながっている。
その後は「私も続こう」と、資格取得に挑戦する社員が続々と現れている。岡田社長は「皆が熱心に勉強してくれています。家だと子供がいるからと、平日の朝早くや土日に出社している社員も。勤務時間のわずかな合間を見つけて、細かく勉強をする社員もいます。そこまで努力できた社員は、ほとんどが合格を勝ち取っています」と胸を張る。合格者には資格に応じた報奨金を出し、さらなるモチベーション向上につなげている。
人材育成の一環で、2022年からは社員とともに中期経営計画のビジョン策定に取り組んでいる。瀬戸さんが伴走し、内閣府が提唱する「経営デザインシート」を一同で作成。経営の「これまで」と「これから」を可視化することで、岡田社長の考えを社員と共有できるようになり、社員自身も主体的に事業の展望を描くきっかけになっている。
岡田社長が「やってよかった」と語るもう一つの取組が、全社員が参加する「全社会議」だ。月に1回、社員全員が集まり、自由に意見を出し合う。例えば、「会社の残業を減らしたい」や「業務効率を高めたい」など、意見の種類は問わず、どんな内容でも歓迎されるルールだ。ただし、意見を出すときは「その提案が会社にどう貢献するのか」までを含めて説明してもらう。
岡田社長は「面白い提案がたくさん出ますよ。これまでには給料を増やしてほしい、なんてストレートな意見も(笑)。そんなときは『それによって会社がどう良くなるのか』を併せて説明してもらいます。自分だけが得するようではいけません。この会議がきっかけで導入した業務ソフトもあります」と話す。「失敗してもいい」という前提を伝えた上で、発言者をリーダーに指名し、主体的に会社の改善活動に取り組んでもらっている。こうした取組を支えるのも、日々の学びと挑戦の積み重ねにほかならない。
他社に先駆けて展開したIoTの新サービス「ネクストRプラス」がきっかけとなり、同社への問い合わせは着実に増え、主力事業の受注にもつながる好循環が生まれている。今後は、現在のWi-Fi形式によるデータ送信をSIM形式に切り替えるなど、さらなる機能強化を図る方針だ。
岡田社長は「私の力足らずで、すぐに社員が辞めてしまう時期もあったが、ようやく空気が変わったように思います。社内でみんながやる気になり、主体的にいろいろと勉強してくれて、ありがたいです」と笑う。昨年力を入れた採用活動にも成果が出ており、10人を切っていた社員数は、社長を含めて14人体制にまで拡大した。
これからは人事評価制度の見直しも進める方針だ。「社員数が増え、いよいよ目が届かなくなってきた」とし、社長による最終評価の前段階で、部門やチームごとで評価ができる基準の体系化を目指す。
リスキリングについて、岡田社長は「中小企業は少ない人数で全部をこなさないといけません。どこの会社も、これもせんといけん、あれもせんといけん、こんな資格で…と、日々の業務をこなすのに精一杯、というのが現実ではないでしょうか。当社もそうした状況の中でチャレンジを重ね、結果としてリスキリングに取り組んでいた、というのが正直なところです。これから一層、リスキリングを意識して取り組み、さらなる事業成長を果たしたいと思います。」と意欲的に語った。
株式会社リノベートファームが実践しているリスキリングの取組を、県が示しているリスキリングの取組手順のどこに該当するか整理しました。自社の取組の参考にしてください。
STEP1 リスキリングの方針を決定する |
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(株)リノベートファームの具体的な取組 |
STEP2 リスキリングのための環境を整備する |
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(株)リノベートファームの具体的な取組 |
STEP3 知識・スキルの習得機会を提供する |
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(株)リノベートファームの具体的な取組 |
STEP4 習得した知識・スキルを業務に活かせるよう、評価・処遇の見直しを行う |
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(株)リノベートファームの具体的な取組 |
取組手順以外の重要ポイント |
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(株)リノベートファームの具体的な取組 |