企業名 | 株式会社フレスタ |
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住所 | 広島市安佐南区緑井5-18-12 | |
事業内容 | 食品スーパーマーケットの経営 | |
売上高 | 870億1100万円(2025年2月期) | |
従業員数 | 4950人(2025年2月時点、パート含む) | |
企業HP | https://www.fresta.co.jp/ |
広島、岡山、山口で食品スーパー65店を経営する。業界では、全国大手の寡占化が進み競争が激化している上に、物価高に伴う消費者の生活防衛意識の高まりや労働人口の減少など、多くの課題に直面している。こうした中で、同社は従業員のリスキリングに力を入れている。その必要性について、執行役員で管理本部本部長の渡辺裕治さんは次のように話す。「小売業は多くの労働力を必要とする労働集約型産業と言われますが、昨今は働き手の確保が難しくなっています。また、低価格での商品販売やより良い店づくりの観点からも、生産性の向上が欠かせません。そこで従業員一人一人が知識や能力を身に付け、業務を高度化していける状態を目指そうと考えました。」
デジタル化の進展やAIの台頭により、小売り現場で求められるスキルは大きく変わりつつある。例えば、店舗運営の省人化に向けて全店でセルフレジ導入を進めている。引き続き接客業務の人員は必要だが、レジ作業自体はなくなってしまう可能性もある。また、販売部長を目指してキャリアを積んでも、いずれはその役割をAIが担うかもしれない。こうした不確実性の高い時代において、社員自らの成長を主体的に考える「キャリア自律」を促し、意図的に異なる分野に挑戦し、できる事を増やしてほしいという。
スーパーの業務は、生鮮や総菜の加工、接客、レジなど多岐にわたる。そのため、効率的な動き方などマニュアル化しにくいものが多く、これまでは先輩社員が日常業務を通して新人を育てるOJT(職場内訓練)が中心だった。外部で学ぶ機会は限られており、組織はどうしても内向きになりがちで、行動や組織の仕組みそのものを変えるようなイノベーションが生まれにくいという課題を抱えていた。
そこで7~8年前から、オタフクソース、タカキベーカリー、キリングループなど多業種の企業との合同研修を実施している。新入社員や係長など、各社から同じ階層の人材を集め、研修は持ち回りで行う。テーマは問題解決、コミュニケーションスキルのほか、キャベツの収穫体験など多岐にわたる。渡辺さんは「多様なバックグラウンドを持つ人材と議論・交流する中で、自分とは異なる価値観や考え方に触れ、『井の中の蛙』だったと気付けます。頑張っている同年代と接することで自然と感化され、成長意欲やモチベーションも高まります。以前から店舗や各部署にパソコンを置き、eラーニング環境を整えていましたが、普段の業務で忙しい中、学習を押しつけても反発を生むだけでした。やる気を引き出すには、自ら意思決定することが何より重要。とにかく刺激を与え、きっかけをつくることに力を入れています。費用もさほどかかりませんし。」と笑う。
実際に、自らの意思でeラーニングを受講する社員は年々増加している。今後も合同研修は、加盟する共同仕入れ機構CGCグループの所属企業をはじめ、参画先を増やしていく計画だ。
こうした外部との交流を通じて学習意欲が高まったこともあり、7人が志願して大学院の夜間コースで学んだほか、資格取得に挑戦する社員も増えている。学費の半額を会社が補助し、ある30代の若手社員は大学院での学びを生かして人事評価業務のクラウド化を提案。また、マグロの専門知識を持つプロを育成する認定制度「まぐろコンシェルジュ」に合格したスタッフが顧客サービスの向上に向けて店舗での解体ショーを企画するなど、具体的な成果も見え始めている。
その他の研修も年々充実させており、2025年は先輩社員との懇親会、3~5年目の若手研修、マネジメント理論を学ぶチーフ向けなど計1680時間分を拡充する。発注方法、肉の切り方など、初歩的な店舗業務を学べる動画コンテンツも充実させる方針だ。資格の難易度に応じた報奨金も検討している。
これまでのように会社からの指示で配属を決めるのではなく、社内公募による手挙げ制を導入し、希望する職種に挑戦できる機会を広げている。店舗の青果担当からマーケティング部に異動した正岡旺典さん(28)は、制度のメリットを次のように話す。「現在は、会員アプリなどウェブマーケティング関連を担当しています。異動に際して、独学で他社のマーケティング事例を学んだほか、広告代理店やウェブサイト制作会社の方からトレンドを教えていただきました。新しいことを学ぶ中で、より広い視点や高い視座を得られたと感じています。仕事で触れる情報はもちろん、プライベートで見聞きする物事の捉え方にも変化がありました。今後は、AIを用いたデータ分析や、現状はあまり活用できていないウェブ広告にも挑戦したいと考えています。慣習や通例にとらわれず、フレスタの魅力を広く伝えていきたいですね。」
渡辺さんは「あくまで構想段階ですが、将来的には新店舗の店長やチーフの立候補を募り、彼らに完全に経営を一任し、利益の一部を本人や店舗スタッフに還元するといった権限委譲も進めたいと考えています。」と先を見据える。
3年ほど前、人事考課の仕組みや階級ごとに求める能力、給与、教育支援制度などを体系的にまとめた「キャリアブック」を作成し、全従業員が見られるよう社内イントラネットに掲示している。どのような能力を身に付ければ評価につながるのかを明示したことで、待遇に対する理解が深まりつつあるという。必要なスキルを身に付けた希望者を対象に、毎年4~5人をパートから正社員に登用している。
こうした取組を通じて、自らリスキリングに取り組む社員は着実に増えている。一方で、研修受講率7割以上、人的資本ROI(従業員への投資が企業にもたらす利益を可視化する指標)21%といった会社が目指す数値目標にはまだ届いていない。渡辺さんは「会社から評価されることで従業員が努力しようと考え、それがお客さまからの評価にもつながるのが理想です。そのために、学びの提供だけでなく、賃上げや休暇を取りやすい環境の整備も併せて進めていきます。」と話す。
2025年2月期決算でグループ年商1000億円を突破し、業績は順調に伸びている。しかし、規模拡大に偏ることなく、地域に根差した堅実な経営を続けている。
渡辺さんは「当社は『正直な商売と進取の気性』を創業の理念としており、25年前に地域の同業に先駆けて移動販売車のサービスを始めました。当初は採算性に課題がありましたが、『必ず世の中の役に立つ』と信じて試行錯誤した経験から、現在、力を入れるネットスーパー事業につながる知見を得ることができました。こうした創業の精神を次世代に引き継ぐためにも、常に学び、新しいことにトライしていく姿勢が欠かせません。4年前に定めた行動規範『ENJOY』の通り、失敗を恐れず、挑戦を楽しむ人材を増やしていきたいですね。」と話す。
株式会社フレスタが実践しているリスキリングの取組を、県が示しているリスキリングの取組手順のどこに該当するか整理しました。自社の取組の参考にしてください。
STEP1 リスキリングの方針を決定する |
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(株)フレスタの具体的な取組 |
STEP2 リスキリングのための環境を整備する |
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(株)フレスタの具体的な取組 |
STEP3 知識・スキルの習得機会を提供する |
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(株)フレスタの具体的な取組 |
STEP4 習得した知識・スキルを業務に活かせるよう、評価・処遇の見直しを行う |
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(株)フレスタの具体的な取組 |
取組手順以外の重要ポイント |
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(株)フレスタの具体的な取組 |