


―半信半疑から始まった、採用力強化に向けた挑戦―
2023年、広島県庁の紹介で人的資本経営研究会*に入会しました。
*広島県商工労働局が事務局を務める、県内の人的資本経営の促進を目的としたコミュニティ
当初は「中小企業に何ができるのか」と半信半疑でしたが、
ワークショップを通じ、労働人口の流出という社会課題が自社の採用課題にも
直結していると気づきました。
そこで、求職者に当社の魅力や仕事の目的を伝え、
入社後も「自分はこの仕事で社会に貢献したい」と思えるようにするため、
開示に取組むことを決めました。
―「良く見せる」より「正しく見せる」ことが、真に自社のためになる―
当社は廃棄物処理という社会的に必要な仕事を担う一方で、
かつてはマイナスな印象を持たれることもありました。
「良い社員が良い仕事をしてこそ良い会社」との信念のもと、
「品質・品格を高め、世のために役立つ」という方針を掲げています。
しかし、虚偽報告など信頼を損なう事案も発生し、根本的な改善が必要だと
痛感しました。
「ありのままを開示することで外部からの指摘を受け、課題を見直すきっかけにしたい」と考え、恥を恐れず正直に人的資本開示レポート*を開示することを決意しました。
*人に関する方針や取組内容をまとめたレポート
―開示でつなぐ、社員と会社の想い。自律的な行動は、共感・納得感から―
最大の目的は、社員が自社の魅力と仕事の意義を理解し、誇りを持って働けるようにすることです。
外見的な「きちんとした姿勢」だけでなく、知識や見識を深め、
地域やお客様の課題を解決できる“中身のある社員”を育てたいと考えました。
学ぶ姿勢を大切にし、研修参加を制度化するなど、学びへの投資を続けています。
しかし、思うように行動変化が伴わない場面もあり、
開示によって社員が会社の想いを理解し、自ら行動するきっかけをつくりたいと考えました。
―社員は財(たから)、会社は公器。
どちらも他人様からの預かりもの―
前職で多くの企業を見てきた経験から、「会社は社員の人格を預かる公器である」と強く感じています。
会社は社員の成長を支え、地域に貢献する存在でなければなりません。
社員は会社の最も大切な財産であり、学び成長することで唯一“資本”となります。
人的資本経営の取組を通じ、「人」は成長し付加価値を生む唯一の「資本」であることを実感しました。
―「オガワエコノスが好き」。そう言って使命を果たし続けてくれる社員を、守りたい―
当社の最大の強みは、「会社が好き」と語るまじめで誠実な社員が多いことです。
社員は「自分のため」ではなく、「会社の使命を果たすため」に働いています。
現場ではお客様から「待っていたよ」と声をかけられることも多く、地域に欠かせない存在となっています。
こうした使命感と仲間を想う気持ちが、次世代へと受け継がれ、会社の原動力になっています。
―(1)伝えなければ、気づけなかったことがある。
開示レポートがもたらした、自ら考え、発信する文化―
開示レポート完成後、全社員に内容を説明するため各部署を回り、
対話を重ねました。
「今までこのような資料はなかった」との声も多く、会社の背景や目的を共有するきっかけになりました。
現在は工場でも朝礼で読み合わせを行い、社員間で意見交換をする文化が生まれています。
明文化と数値化により、社員が現状と目的を正しく理解し、行動につながることを期待しています。
―(2)数字の先に、社員一人ひとりの人生を見た。
社員に本気で向き合う、更なる人的資本経営の実践へ―
開示を通じて、課題の整理と改善の方向性が明確になりました。
特に、「男女間賃金格差の是正」、「障がい者雇用の見直し」、
「Integrity(誠実さ)を軸にした評価制度改革」など、具体的な改善に着手しました。
健康経営から一歩進み、「社員そのものを大切にする」経営へと意識が変化しました。
―(3)理解の一歩先へ。求職者が知りたい“これから”を届ける重要性―
大学生や求職者からは「HP以上に深く理解できた」と好評でしたが、今後は「これからどう変わるのか」という未来志向の情報発信が重要だと感じています。
―(4)求められる前に、見せられる。信頼を獲得し、選ばれる企業へ―
大企業が求める情報を先回りして開示することで、信頼性が高まりました。
「上場企業より進んでいる」と評価されるなど、時代の変化に対応できている実感があります。
―恥ずかしさより、大切にしたいものがある。
完璧でないからこそ、正直に取組むことに意味がある―
まだ課題は多く、開示や受賞に恥ずかしさを感じることもあります。
それでも、「ありのままを開示し、外部の意見を受け止めながら社員を守る」という使命感が原動力です。 社内からも理解と支援を得て、前向きに取り組むことができました。
―人の心を・行動を変えることは難しい。
“なぜ”(背景にある想い・目的)を伝えることの重要性―
今回の開示レポートでは特に「Well-being」の発信では、目標数値だけでなく、なぜ大切なのかという背景を伝える工夫をしました。
その結果、社員の理解と意識が深まり、行動の変化にもつながりました。
開示の取組は時間も労力もかかりましたが、考えを整理し前進できた喜びが
_______________________________苦労を上回りました。
_______________________________悩んだ際に助言をくださった研究会事務局の存在も大きな支えでした。
―健康も仕事のうち。社員が楽しく幸せに働き続けるために―
2013年から健康経営を開始し、社員が病気や怪我をしても
安心して復帰できる環境を整えてきました。
喫煙率の課題に対しては、健康体操の導入に踏み切り、
「健康になることも仕事の一部」という意識を浸透させました。
今では新人研修にも取り入れ、全社的な健康意識の向上につながっています。
―感謝の見える化が生んだ、社員気持ちと仕組みの変化。
家族にも誇れる会社を目指して―
感謝を伝え合う「サンクスカード」を導入し、感謝を可視化しました。
かつては社員の家族にもカードを郵送し、社員の努力を伝える工夫も行いました。
その過程で「家族に誇れる会社であるために」と賃金体系の見直しが進み、
10年連続で賃上げを実施しました。
―“自分事化”から始める。若手が創る、未来のオガワエコノス―
当社では、入社3~5年目の社員を中心に新卒採用のリクルーターを任せ、
若手が主体的に活動しています。
学生にとっては働くイメージが湧きやすく、若手社員にとっても
「どうすれば一緒に働きたいと思ってもらえるか」「後輩をどう育てたいか」を考える機会となり、自律性の向上につながっています。
その結果、自ら考え行動し、役割分担やミーティング運営を自主的に行うなど、
姿勢の変化が見られ、経営方針である「謙虚・感謝・学ぶ心で社員力を高める」実践にも結びついています。
―外の知恵を取り入れ、内から強くなる。
多様な人財が交差し、成長し続ける―
兼業・副業制度を導入し、外部人材との交流や外部視点の導入で組織を活性化しています。
外部専門家を部長職に登用するなど、知識と経験を柔軟に取り入れる仕組みを整えました。
私自身も他社支援を通じて知見を深め、会社の発展に還元しています。
開示2年目となる今回は、取組が着実に前進していることを示す レポートにしたいと考えています。
Integrity項目を追加した新しいサーベイ結果も反映し、
今後も「ありのままを開示し、改善し続ける姿勢」を貫いていきます。
―これから人的資本経営・開示に取組まれる皆様へー
まずは「社員に伝える」ことから始めてみてください。
自社を客観的に知る機会になり、きっと会社をより良くする第一歩になります。
人的資本経営を通じ、県内企業全体で広島をもっと良くしていけたら嬉しいです。