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8-10 希望退職とはどのようなものか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

労働相談Q&A

8-10 希望退職とはどのようなものか

質問

近年の不況のあおりを受けて,我が社でも,ある業務部門を統廃合することになり,来月1日から2週間にわたって,従業員全員を対象に希望退職者を募集するようです。
希望退職に応じれば退職金を優遇されると聞いたのですが,制度そのものがよく分からないので,応募しようかどうしようか迷っています。希望退職とは,一体どのようなものなのでしょうか。

回答

<ポイント!>
1. 希望退職とは,労働者の自発的な意思による退職の申し出を誘引することです。この際,通常の退職条件よりも有利な条件を提示して退職を誘引するのが普通です。
2. あくまで労働者の自由意思に委ねられますので,使用者が応募することを強く迫ったり,脅しまがいの行為をすると,解雇とされたり,退職の意思表示の取消が可能となったりします。
 
希望退職の募集は,合意退職申込の誘引
希望退職とは,労働者の自由意思による自発的な退職の申込みを誘引することをいいますが,労働者の退職のインセンティブを高める方法として,退職金の増額等,通常の退職の場合よりも有利な退職条件が提示されるのが普通です。多くの場合,人員整理の手段として整理解雇に先だって行われます。なお,雇用調整に当たって,希望退職の募集などを行わずに,いきなり整理解雇を行うと,解雇回避努力義務を怠ったとして無効とされる場合があります(詳しくは,「人員整理のための解雇は,どこまで許されるか」の項を参照してください)。
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希望退職の法的性質
希望退職の法的性質については,使用者による合意解約の申込みであり,これに対する労働者の応募の意思表示が使用者に到達すれば,その時点で合意退職が成立するとの見解があります。しかし,このようにとらえるべき場合もあるでしょうが,一般的には,希望退職募集は,労働契約の合意解約に向けて使用者が労働者に対して申込みの誘引をなしたものであり,労働者が希望退職を申し出れば,これが合意解約の申込みであり,使用者の承諾で合意解約が成立すると考えるべきでしょう(津田鋼材事件・大阪地判平成11年12月24日参照)。したがって,使用者の承諾を得ずに退職した場合は,希望退職手続きにそった退職とはいえず,割増退職金などの特典は受けられないことになります(アラビア石油事件・東京地判平成13年11月9日など)。
 
希望退職に応じるかどうかは,労働者の自由
希望退職に応じるかどうかは,あくまでも労働者の自由であって,そのまま会社に留まりたいと思うのなら,応じる必要のないことは言うまでもありません。使用者が希望退職に応じるように圧力をかけたり,応募しなかったら不利益に扱うなどと脅したりした場合には,実質的に解雇と認められたり,強迫による意思表示として取消が可能となったり(民法第96条),不法行為に当たるとして損害賠償の責任が認められたりします(下関商業高校事件・最一小判昭和55年7月10日)。
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こんな対応を!
希望退職を募集する場合,退職金の上積みなど通常の退職よりも有利な条件が提示されるのが通例ですので,会社側から示された条件を熟慮し,慎重に判断した上で,希望退職に応じるかどうかを決めましょう。
希望退職に応じた場合の優遇条件などが具体的に文書で示されていない場合には,詳細な内容を書面で明示し,説明会の開催などの方法により周知するよう会社に求めましょう。
 
更に詳しく
早期退職優遇制度について会社側の承諾を要件とした大和銀行(退職支援金)事件において,裁判所は,「本制度の利用について被告(会社側)の承諾を要件とした趣旨が,退職により被告の業務の円滑な遂行に支障が出るような人材の流出という事態を回避しようというものであって,それ自体不合理な目的とはいえない。そして,承諾が要件となっても,被告行員にとっては,不承諾の場合には,従前の退職金を受領して退職するか,雇用契約を継続するかという選択は可能であり,また,承諾となる前であれば,申し込みを撤回することも可能であって,いずれにしても従前の雇用条件の維持は可能であることから行員に著しい不利益を課すものとはいえない。したがって,本制度について承諾という要件を課すことが公序良俗に反するものとはいえない。」と判示しています(大阪地判平成12年5月12日)。