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8-9 人員整理のための解雇は,どこまで許されるか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

労働相談Q&A

8-9 人員整理のための解雇は,どこまで許されるか

質問

私の会社は経営状態が思わしくなく,先日,私を含め社員数人が社長から,来月末で解雇すると通告を受けました。人件費を削減しないと倒産を免れないから仕方がないと社長は言うのですが,このまま,言いなりになるしかないのでしょうか。

回答

<ポイント!>
1. 合理的な理由のない解雇は,権利の濫用になり無効とされます。
2. 整理解雇については,4つの要件を満たしていない場合は,合理的な理由がないとされ,解雇は認められません。
 
解雇権濫用の法理
解雇については,労働契約法で,客観的に合理的な理由を欠いて,社会通念上相当であると認められない場合は,権利の濫用として無効であると定められています。
この規定は,これまでの数多くの裁判例の積み重ねによって確立した「合理的理由のない解雇を無効とする」解雇権濫用の法理を明文化したものです。最高裁はこの理由を,「普通解雇事由がある場合においても,使用者は常に解雇しうるものではなく,当該具体的な事情のもとにおいて,解雇に処することが著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,当該解雇の意思表示は,解雇権の濫用として無効になる」(高知放送事件・最二小判昭和52年1月31日)と判示していました。
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整理解雇の4要件
判例は,整理解雇については,次に掲げる4要件を満たさない場合は,「合理的な理由」が認められず,解雇権の濫用に当たり,無効としています(大村野上事件・長崎地大村支判昭和50年12月24日,東洋酸素事件・東京高判昭和54年10月29日など)。
1.人員整理の必要性
会社の維持・存続にとって,人員整理が必要であり,やむを得ない措置であると認められることが必要です。
 
2.解雇回避の努力
整理解雇に踏み切る前に,解雇を回避するための努力を十分尽くさなければなりません。回避手段としては,希望退職の募集,新規採用の停止,配転,出向,一時帰休などがあります。回避努力をせずに,いきなり指名解雇した場合は,その解雇は無効と判断されています。
 
3.人員整理基準と人選の合理性
解雇対象者は,客観的,合理的な基準により,公正に選定する必要があります。基準をまったく設定しないで恣意的に人選する場合や,基準があっても運用が公正でなく,個人的感情で選定するなどした場合には,合理性はないとされます。
 
4.労働者との協議手続
労働協約で,労働者側との協議を必要とする旨の規定がなくても,使用者は,労働者に対して,整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)について十分に説明を行い,誠意をもって協議しなければなりません。
なお,最近の裁判例の中には,必ずしも上記の4要件をすべて満たしていなくとも,総合的に判断して合理的な理由があり,社会的にも相当であると認められるときは,整理解雇を有効とする(この場合は,4「要件」ではなく,4「要素」となる)など,整理解雇規制を緩和するものが増えてきました(ナショナル・ウエストミンスター銀行(3次仮処分)事件・東京地決平成12年1月21日ほか)。とはいえ,現在でも,4要件説にたつ裁判例は健在ですし,4要素説にたつ裁判例においても,具体的な判断では,たとえば解雇回避努力が不十分であればそれだけで解雇を無効とするなど,実質的に4要件説と変わりない運用をしているものも多く見られ,この問題では規制緩和も部分的なものにとどまるといえましょう。
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こんな対応を!
整理解雇の4要件のうち,一つでも満たしていない場合には,その解雇は無効とされる可能性が強いので,4要件を満たしているかどうか確認し,納得できない点があれば,使用者に説明を求めましょう。
使用者との話し合いには,労働組合あるいは従業員全員,整理解雇を通告された人たちが団結して臨みましょう。
使用者が作成した退職願や退職届の用紙を手渡されたとしても,御自身に退職する気がない場合には,絶対にそれに署名・押印をしてはいけません。一度提出してしまった退職願などの撤回は,なかなか難しいものです。
 
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