法人名 | 社会福祉法人尾道さつき会 |
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所在地 | 尾道市久保町1786番地 |
URL | http://www.satukikai.com/ |
業務内容 |
1978年に設立された社会福祉法人尾道さつき会は、尾道エリアを中心に、以下の4つの事業を柱として、幅広い事業を展開している。 1.障害関係事業 2.高齢関係事業 3.教育事業 4.生活保護事業 |
従業員数 | 516名(2019年4月1日時点) |
女性従業員比率 | 71.9%(2019年4月1日時点) |
女性管理職比率 | 47.4% |
(2019年10月現在)
「女性の活躍推進先進事例ノウハウ導入ブック(2015年3月発行)」事例掲載先進企業を再訪問!
社会福祉法人尾道さつき会は、当時の課題として「現場へのこだわりが強く、管理職になりたいという意識を持つ人が少ない」、「管理職の責任や業務量の多さ、長時間労働」、また「制度を『使う』側と『カバーする』側の間に軋轢が生じ、両立支援制度が利用されにくい事業所がある」ことを挙げていた。これらの課題に対する現状について、2019年に再取材を行った。 (→前回取材記事)
尾道市内を中心に、高齢者及び障害者向けに、36施設を運営する社会福祉法人尾道さつき会(以下、尾道さつき会)。医療・福祉業界の女性従業員平均比率は75.5%(※1)、女性管理職平均比率は50.3%(※2)と多くの女性が活躍する業種であり、尾道さつき会も女性従業員比率は71.9%、女性管理職比率は47.4%と、ほぼ平均と変わらない。
医療・福祉業界は、女性管理職の占める割合が他業界に比べて高いが、他業界と同様、最初から昇進を望む女性の割合は高くないようだ。介護職従事者に対して行った調査では、「現在就いている職種以外に、チャレンジしてみたい他の職種がある」と回答した者のうち、「サービス提供責任者」(同業界における管理職に該当)と回答した割合は、7.5%(平成29年度)にとどまっているという統計もある。
※出所:公益財団法人 介護労働安定センター「平成29年度 介護労働実態調査」
尾道さつき会においても、職場における課題を洗い出すため、2014年から事業所単位での職員満足度の分析(→「自己点検ツール」の記事)を毎年実施している。その結果、「自身の働きを正しく評価されていないと感じる」など、キャリアに対する不満と、管理職に限らず「業務量が多い」ことに対する不満を持つ職員が多いことが判明した。この2つの課題を解決することが、女性管理職比率アップにもつながると考え、法人全体の喫緊の課題として取り組んできた。
「働きが正しく評価されていない」と職員が捉えている課題への対策として、尾道さつき会は2015年にキャリアパスの定義を明文化した給与制度及び人事考課制度(以下、人事評価制度)の見直しに着手した。職種と等級を新たに設定し、人事評価に応じて等級が上がる仕組を構築。「等級と昇給を見える化したことで、職員のモチベーション向上だけでなく、離職率の低下にもつながりました」と、総務部次長の永井孝一氏は話す。
次に着手したのが、「人事評価の透明化」だ。前述の通り、尾道さつき会は36もの施設を運営しており、それぞれの事業所でサービス内容が異なるため、事業所で求められるスキルもさまざまだ。事業所間異動も多く、同じ職員であっても、異動先により全く違う評価を受けてしまうといったこともあり、評価者によるバラつきが大きい点が課題だった。
この課題を解決するため、2018年にクラウド型人事考課システムを導入した。職種に応じた行動目標を、管理者と被評価者の面談の中ですり合わせ、求められる役割を明確化した。その結果、管理者による定性的な評価が占める割合を引き下げることにつながっただけでなく、評価者と被評価者双方が、同じシステムを利用することにより、被評価者が、自身に関する評価を確認することができるようになった。
こうして、年功序列型の従来の制度から、能力や働きぶりを正しく評価し、能力の高い人を積極的に管理職に登用する環境が整いつつあり、「各事業所の仕事に合わせた評価項目の設定について、今後も随時更新していきます」と、総務部主任の川口達也氏は言う。
女性管理職登用への障害として、管理職の業務負担が大きいことが挙げられているが、それ以前に、全職員の業務量の削減も課題だった。
尾道さつき会の高齢事業部では、毎月、各事業所のユニットリーダーによる合同会議を開催している。具体的には、各現場における課題に対し、改善のためのアクションプランをリーダー全員で議論し、各事業所に戻って実行するというPDCAを回しているのだ。
職員の業務削減についても、まずコア業務と周辺業務を整理し、どこまでを職員が担うかについての方針を話し合い、物品調達や清掃といった周辺業務のアウトソーシングを進めた。次に、コア業務の中でも業務削減、業務効率化できるものがないかを精査した。例えば、体力的な負担が重く、時間もかかる入浴介助は、残業の原因の1つにもなっていることが分かった。そこで、リフトを導入することで、職員自身の移譲(被介護者を移動させること)の負担が減り、20~30分の時間短縮につながった。また、業務上大きな負担となっていた介護記録については、2018年からタブレットを利用することにし、効率化を実現した。
さらに管理職の業務量削減に向けて、一般職員の教育にも力を入れている。若年時から、高度な専門知識を習得し、現場でのパフォーマンスを高めることを目的に、事業所内の看護師やケアマネジャーといった専門職員を活用した研修を開催している。また、従来は管理職が新人教育のOJTを担うことが多かったが、それを領域ごとに得意なベテラン職員が行うことにしたところ、管理職の負荷が軽減されただけでなく、新人の育成もスムーズになったそうだ。
尾道さつき会の女性管理職数は、2016年は6名だったのに対し、2019年には9名と3名増加している。しかし、法人として事業所の拠点数を拡大しており、それに伴って管理職数も増加しているため、全体として女性管理職比率はアップしておらず、今後も継続的な取組が必要だ。
被評価者にとって透明性と納得感の高い人事評価制度の導入により、評価面の課題は、制度上整備された。また、業務量の多さに対する課題についても、現場を中心に改善のための取組を進めている。さらに、女性のライフステージに応じた役職の変動に対しても、柔軟に対応している。例えば、子育てに手間と時間をとられる時期は、いったん管理職を離れ、子育てが落ち着いた段階で、再び管理職登用するといったことも可能だそうだ。
「働きやすい環境や人事評価制度を整えた後は、女性自身の上昇意欲をいかに引き出すかがポイントです」と総務部次長の永井氏は言い、職員の日々の働きぶりを、ユニットリーダーや責任者が評価し、チャレンジできる資質を持った職員に対し、定期面談や日常的なコミュニケーションを通じて、粘り強く働きかける取組をこれからも続けていくそうだ。
尾道さつき会が5年前の取材時に抱えていた課題のうち、「管理職の責任や業務量の多さ、長時間労働」、と「両立支援制度が利用されにくい事業所がある」について、いわゆる働き方改革により、着実に成果を出している。そこで、女性管理職登用に向けた次なる課題としては、「管理職昇進への関心が薄い点をいかに変えていくか」であるようだ。医療・福祉業界に限らず、最初から昇進を望む女性の割合は多くない。そのような中でも、上司からの評価や励ましが、「やってみよう」と決意する最初に一歩になるケースも多いのではないか。「仕事をしている時間は、笑顔でいることが本当に多くて。それがこの仕事のいいところかもしれません」と話す、課長の村上佳代さんのようなロールモデルを増やしつつ、「なりたい」人が増えることを願う。
●取材日 2019年10月
●取材ご対応者
社会福祉法人尾道さつき会 総務部 次長 永井 孝一氏
社会福祉法人尾道さつき会 総務部 主任 川口 達也氏