法人名 | 新広島ヤクルト販売株式会社(令和4年に(株)ヤクルト山陽に合併し解散) |
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所在地 | 広島市西区福島町1-23-13 |
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業務内容 | ヤクルトレディが一般家庭や職場に商品をお届けする宅配事業を中心に、お客様のニーズに合った商品アドバイスや健康情報の提供を行い、地域の皆様の「健康アドバイザー」として健康のお手伝いをする。広島県内33センター(営業拠点)のうち、11カ所にヤクルト保育所(保育園・託児所)が併設されており、仕事時間に合わせて保育園を利用可能。 |
従業員数 | 130名 |
女性従業員比率 | 73.1%(※) |
女性管理職比率 | 41.2%(※) |
(2019年8月現在) ※社員、嘱託社員、パート社員のみ。他に販売スタッフ(ヤクルトレディ)458名が委託契約により、販売業務に従事。
「女性の活躍推進先進事例ノウハウ導入ブック(2015年3月発行)」事例掲載先進企業を再訪問!
新広島ヤクルト販売株式会社において、当時課題として挙げていた「女性従業員へのキャリアパスの提示によるさらなる活躍」と「管理職(次長、部長等)へのキャリアップを踏まえた事業所間の異動経験」の現状について、2019年に取材。(→前回取材記事)
職場や一般家庭を訪問し、笑顔とともに乳酸菌飲料を届けるヤクルトレディ。1963年から「女性による販売組織」を始めていたというから、その歴史は50年以上と長い。当時のお客様の多くは主婦であったため、同じ立場の女性が商品を届けたほうが継続的な信頼関係を築くことができると考えたそうだ。
この制度により、古くから女性の社会進出を支える企業であったヤクルト。新広島ヤクルト販売株式会社(以下、同社)においても、女性従業員比率73.1%、女性管理職比率41.2%と、多くを女性が占めている。
ヤクルトレディと呼ばれる販売スタッフは、同社と委託契約を結ぶ個人事業主(従業員数に含まない)としてスタートする。出来高制の報酬体系で、自身である程度は業務量を調整することができ、ヤクルト保育所等を利用し、子育て、介護などのプライベートと両立しながら働く販売スタッフが多い。また、実績によりスカウトされ、社員であるセンターマネージャーをはじめステップアップする道もあり、「当社の女性社員の90%以上はヤクルトレディからの登用です」と、広島本社宅配営業部の畠中伸吉取締役は話す。さらにセンターマネージャー(社員)から次長・課長にも登用される流れは前回記事以降も続けられており。現在の女性管理職7名のうち、ヤクルトレディ経験者は6名となっている。
図1 ヤクルトレディから社員・管理職への登用(例)
幹である宅配事業は女性の労働力に支えられており、女性活躍はビジネスモデルそのものといえる。「自宅近くで」「日中の時間帯に」「保育所付きで」「未経験からでも」活躍できる、ヤクルトレディは、“ちょっと働きたい”というニーズにもマッチする。完全に担当地区が分かれているため、他の販売スタッフとの競合はないが、子供が病気のときなどは、自分の担当地区を回ってもらえば、助けてくれた方の収入が増えるため、お互い様の協力関係ができている。家庭、子育て、仕事などについて相談できる仲間や先輩の存在は心強いだろう。注目したいのは、個人事業主で自分の働き方・仕事に対して自律的であること。収入を増やしたければ、その方法を考えて自ら実行するだろうし、プライベートを重視したいと考えれば、労働時間を減らすこともできる。
そんなヤクルトレディの経験・実績を積み、社員であるセンターマネージャーへとステップアップするチャンスもある。子供が成長し、落ち着いた頃にキャリアアップという例も少なくないそうだ。「センターマネージャーは管理職へと向かう大きなステップとなっています。実績を上げたヤクルトレディの中からスカウトすることが多いのですが、“何で私が?”と驚かれることも少なくありません」と、畠中取締役は話す。ここで、一拠点を取り仕切る責任者として、マネジメント経験を積んだ後、さらに各センターを取りまとめるブロックマネージャー(係長以上)へと進む道もある。
図2 新広島ヤクルトにおける販売組織
ヤクルトレディを経て、現在は女性管理職の一人として活躍する神田善子さんは「最初は、扶養控除の範囲内でと考えてヤクルトレディの仕事をしていました。“センターマネージャーにならないか”と言っていただきましたが、自分には務まらないと考え、1年ほど悩みました。しかし、チャレンジしてなんとか成果を上げたことが自信になり、次の係長、課長代理という役職については、躊躇しませんでした。」と話す。
ヤクルトレディに定年はなく、同社には、40年以上続けている80代の方もいる。また、前回取材時に部長相当職を務め、60歳の定年を迎えた2名の女性も、引き続き組織に貢献し続けている。1名は事業所内保育施設の拠点拡大を主に行い、またもう1名は直販営業のサポートや若手育成に従事しているという。同社が長年社員とのエンゲージメントを大切にし続け、キャリアに応じて役割を与え続けている結果といえる。
このように、女性のライフステージに寄り添った働き方を提供するとともに、キャリアアップを見据えた成長の場もあり、自然と女性が活躍できる仕組がヤクルトにはあるようだ。
女性管理職の登用のために、センターマネージャーの育成は必要不可欠。そうしたビジョンを具現化するため、前回取材時以降の2016年から企画推進課で神田善子さん がさまざまな切り口で注力している。社員へと登用されたばかりの元ヤクルトレディは、約一年間同課に所属し、各センターに数カ月派遣される。そこで、センターのマネジメントや業績アップのための施策などを神田さんからOJTを受けながら実践しつつ、OFF-JTでも商品知識や基本マナー等を学んでいるそうだ。「私がセンターマネージャーとなった頃は、育成の仕組がなく、就任当初は苦労も少なくありませんでした。新人センターマネージャーが無理なく務められるように、少しでも多くのことを身に付けてほしいと思っています」と神田さんは言う。
また、前回取材 の時点では、女性管理職の転居を伴う事業所間の異動は家庭の事情等で実現しておらず、多様な経験を積み、さらなるステップアップを目指すという点では課題があった。しかし現在は、例えば広島市から福山市への女性管理職の異動など、事例が出てきつつある。女性管理職も課長レベルから、部長、さらには役員へと成長し、同社におけるさらなる女性活躍が期待される。中野健代表取締役社長は、「これからも魅力ある職場づくりをさらに進めていきます。そのために、1.魅力ある処遇、2.センター施設や保育園等を含めた労働環境整備、3.教育(研修や成長が実感できる体験)、4.本人の適性を生かす働き方の多様性、の4つを実現します」と語り、ヤクルトレディからキャリアアップできる仕組づくりを深耕していくそうだ。
●取材担当者からの一言
50年以上前から、プライベートと無理なく両立しながら働ける職場を提供し、女性活躍のパイオニアともいえるヤクルト。近年は多くの企業が女性の力に注目し、職場の選択肢が増えたり、幼児教育無償化になったりと外部環境が変化する中、同社は魅力的な仕事・職場を提供する企業として、さらなる進化を目指しているのだろう。
●取材日 2019年8月
●取材ご対応者
代表取締役社長 中野 健 氏
広島本社 宅配営業部・取締役 畠中 伸吉 氏
広島本社 宅配営業部 企画推進課 課長代理 神田 善子 氏