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食品の冷蔵・冷凍保管の協和冷蔵、冷凍・塩干水産物の卸売りのダイイチ、
不動産管理の大一で構成する大一グループ。広島市と福岡市に
物流・流通加工拠点を構える。広島エリアの冷蔵倉庫全体の収容量の5割を担い、
地域の食を影から支えている。グループ売上高は95億円規模だ。
物流センター建て替えなどの設備投資を進める一方で、「自律」をテーマに
従業員一人一人が考え、行動できる環境の整備にも力を入れる。
目指すのは十年後、百年後も続く会社だ。田中陽子社長、総務部の税所佳宣係長に
話を聞いた。

同社が人的資本経営に目を向けるきっかけとなったのは、採用活動だった。
人事を担当する総務部の税所係長は、「法人向け事業のため学生からの知名度は
決して高くありません。採用活動に当たり、福利厚生や働きがいを感じられる
処遇水準の整備といった当社の魅力を、客観的なデータとして伝える必要がある
と感じていました。」
例えば、直近5年間で28人の新卒採用者に対し、離職者はわずか3人と定着率は
高いが、その強みが学生に伝わっていなかった。
狙いはもう一つあった。税所係長は、「今後の事業成長を見据え、
会社の良いところだけではなく、足りないところを知りたいとの思いも
ありました。課題が分からなければ改善できませんから。」
取引銀行や社労士法人から人的資本開示レポート*¹や広島県の
「人的資本経営促進補助金*²」について紹介されたのを機に、本格的に
取り組みを始めた。
*¹人に関する方針や取組内容をまとめたレポート
*²人的資本情報の開示指標等を改善するための取組にかかる費用を補助
レポートを作成する前にまず、組織が抱える課題を把握することにした。各部署長に人材育成で困っていること、評価制度への考え方といった内容を
聞き取った。話を聞いていくと、どの部署でも共通して挙がったのが「評価の仕方が分かりにくい」という声だった。
税所係長はこう振り返る。「グループで倉庫、卸売、不動産管理など異なる事業を展開しており、必要なスキルも育成のスピードも異なります。例えば、営業職では5~10年かけて一人前になりますが、倉庫部門では
比較的短期間で業務を習得できます。そのため、会社や部署ごとに評価の考え方が異なり、『係長になれる人』や『S評価になる人』の基準も
まちまちで属人的になっていました。SやAの評価を付けても、その理由を客観的に説明できる管理職はかなり少なかったと思います。」
これまで担当者の感覚で行ってきたという新卒の育成にも課題があり、めったに新人が入らない部署では最も若い上司が45歳というケースもあり、「教え方が分からない」との悩みが聞かれた。

ヒアリングを受け、まず評価制度の見直しに着手。最初に行ったのが、
「どのような人材を育てたいのか」を明確にすることだ。これまで明文化
していなかった、求める人物像を再定義し、「問題意識と気付き力」、
「自主性・主体性」、「柔軟さ」の3点を中心に据えた。
また、グループの採用、育成、評価をつなぐ軸として「自律」を定め、
一貫した考え方で運用することにした。

次に、厚生労働省のコミュニケーションシートも参考にしながら、等級や
職種ごとに求めるスキルを整理し、評価項目に落とし込んだ。
その際、売り上げなどの数値だけではなく、現場の無駄を省く
「改善」への寄与、部下の育成など数字には表れにくい部分にも
光を当てるようにした。例えば、営業担当が需要の低くなった季節商品を
割引販売した場合、個人としての売り上げは下がる。一方で、
冷蔵保管コストが減り、全体の利益確保につながる。
これまでは見過ごされていたこうした貢献を適切に認められる制度に
変え、自律的な成長を促す設計とした。併せて、従来の5段階から
〇・△・×を基本とした分かりやすい形式に改めた。
評価制度はまだ本格運用前だが、評価を基にした上司との面談を通じて
社員が自分の課題を理解し、主体的に成長していく仕組みにしたいという。

同社はかつて、社長がすべてを決め、従業員はただそれに従う、典型的な
トップダウン企業だったという。田中社長は約8年前の就任時、
前社長である父から「業績よりも、皆が仲良くできる環境をつくってほしい」
との願いを託されたという。
田中社長は、「特に『人的資本経営』を意識しているわけではありませんが、
『人を大切にする会社をつくる』という芯はぶれていません。同じゴールに
向けて忌憚ない意見を言い合える空気感があってこそ、社員が認め合い、
個々のポテンシャルを伸ばしていけるのではないでしょうか。」
こうした考えの下、評価制度の刷新に先立ち、組織風土そのものを
変える取り組みも進めてきた。

「自律」の基盤となる、風通しの良い職場づくりの一環として始めたのが、
「未来プロジェクト」だ。中堅を中心にさまざまな部署から集まったメンバーで
改善活動を行うもので、これまでに制服のリニューアル、清掃活動、
DX(システム)導入などを形にしてきた。
また、2024年春の本社事務所改装では、家具の選定からレイアウトまで社員
が主体的に担った。
進行中の物流センターの建て替えや倉庫の増築でも
部門横断のプロジェクトチームを発足。
現場の意見を採り入れながら計画を進めている。
もちろん、座組を作っただけでは会社の風土は変わらない。田中社長は管理職一人一人に思いや目指す方向を丁寧に説明し、時には個人的に相談にも乗った。こうした積み重ねによって、少しずつ社員の意識が変わってきたという。会議では発言が増え、社員の表情も明るくなった。税所係長自身も変化を感じている。「旧態依然としていた会社の雰囲気が大きく変わり、今回の補助金への応募もそうですが、私自身、以前より気軽に上司に提案ができるようになりました。部署間の垣根も低くなっています。」
ここ数年、グループの売上高は右肩上がりで推移。田中社長は要因をこう分析する。「現在、センターの建て替えなど設備投資を積極化していますが、それだけでは会社は成長しません。企業は人なり。会社を動かす人への投資こそ重要だと考えています。おかげさまで業績も良い形で推移していますが、それは社員が『自分たちで会社を良い方向に変えていこう』と主体的に行動してくれている結果ですし、そういう社員がいることが当社の最大の強みです。」
今後は課題とする管理職のスキルアップに向け、外部研修への参加などを強化していく方針だ。管理職から部下へ学びが広がる好循環を目指している。
税所係長は未来を見据える。「設立当初から会社を支えてきたメンバーが少なくなり、今は第二の変革期だと感じています。今後は現役で活躍するベテランに育成の役割を担ってもらいながら、属人的な仕事を減らしていきたい。10年後、20年後、その先も会社が続くような仕組みをつくっていきたいですね。」