働き方改革事例アイコン人的資本経営の促進・開示事例

「人」中心の社内改革を推進 使命を深く共有し、社員のやりがい創出へ

三工電機株式会社

  • 製造業
  • 呉市
  • 31~100人
ウェルビーイング個人の成長エンゲージメントの最大化社員の安全・健康次世代リーダー人材の育成イノベーション人材の育成組織風土の醸成

本社外観

所在地
〒737-0921 呉市苗代町126-30
URL
https://www.sankodenki.com/
業務内容
舶用電気機器の設計、製造
従業員数
83人
レポート
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目次

 
上川社長​船舶用電気機器の設計・製造を手掛け、分電盤は国内シェア70%以上を誇る三工電機株式会社。
2022年に就任した上川博之社長は、それまでの現状維持の文化から脱却し、
売上高15億円規模から「100億円」という圧倒的な高みを目指す経営方針を掲げた。
年商を超える規模となる新工場建設と、そこで展開される「社内大学」など、
未来を見据えた攻めの投資の裏には、「人」を中心に据えて全社員の可能性を広げたいという
熱い「ミッション(使命)」があった。

1. 経営戦略の真ん中に「使命」を据える

会社外観​「人的資本経営」という言葉が広まる前から、上川社長の中では「人」を
中心とした改革が始まっていた。就任の3年前から悩み抜いて定めたミッションが、
「思いやり、情熱、技術で世の中に無くてはならない会社になる」という言葉だ。
「どれだけAIの時代になろうとも、最後の最後で価値を生むのは人であり、
ロボットにはない情熱こそがやりがいにつながると信じています。
格好をつけるわけではなく、人で会社をつくるんだという強い思いが
大前提としてあります」と上川社長。
社員の誰もが「三工電機に入って本当に良かった」と思える会社づくりが、
あらゆる取り組みの原点だ。
 
​上川社長が「人」や「働きがい」にこだわる背景には、自身の原体験がある。学生時代はプロ野球選手を目指して野球に打ち込み、その後は商社で海外経験を積んだ。32歳の時、苦労している父の力になりたいと、自ら三工電機への入社を決意したが、両親からは「頼むからやめてくれ」と反対されたという。
「かつて当社は資金繰りをはじめ、社員との関係性などさまざまな苦労を抱えながら、経営を維持してきたという歴史がありました。だからこそ両親からすれば、わざわざそんな苦労をしに帰ってくるなという思いだったのでしょう。実際に入社してみると、毎月社員が辞めていくような、殺伐とした暗い環境でした。それでも会社を変えようと空回りしている私に、周囲はアレルギー反応を起こし、無視もされていました。」

 

それでも「会社を良くして、みんなを幸せにしたい」という軸がぶれることはなかった。社長就任時、全社員の前で自身の人生や挫折を包み隠さず伝える「自己開示」を行い、本気でミッションを語りかけた。社長の熱意に涙を流す社員も現れ、ここから組織改革に火がついた。

 

模型勤務風景①

2.GPTW調査で見えた「二極化」の課題と評価制度改革

組織の現状を客観的に把握するため、2025年度にGPTW(働きがいのある会社)調査を実施した。周囲の経営者からは「社員からネガティブな意見が可視化されて精神的にきついから辞めたほうがいい」と反対の声もあったが、「大きく変えるなら現実に向き合わないと何も始まらない」と実施に踏み切った。

結果、「働きがいのある会社」認定企業への選出には一歩届かなかったものの、組織の重要な課題が浮き彫りになった。それは「自分が何をやったら評価されるのか分からない」という現場の不安・不満だった。回答を分析すると、会社のビジョンを自分事として捉えて貢献したいという高い視座を持つ社員と、まずは目の前の待遇や個人の評価に関心がある社員との間で、仕事に対する視座のギャップが鮮明だった。GPTWの調査結果を踏まえ、広島県の「人的資本経営促進補助金」を活用し、経営層向けに社員の働きがいを高める研修を実施した。

「特定の人だけが評価されていると感じさせてしまったのは、私自身の反省です」と語る上川社長。単に目先の不満を収めるのではなく、会社のビジョンに向かって努力した社員が正当に報われる仕組みづくりへと突き進んだ。年齢給の廃止や360度評価の導入など、行動や姿勢をしっかりと評価する人事評価制度改革を現在推し進めている。

3.「立候補制」から始まる、主体的に学ぶ文化

勤務風景②​社内研修のあり方も進化させている。従来の「上司から指示されて受けるもの」
から、本人が自発的に手を挙げる「立候補制」へ大きく舵を切った。
これはドラッカーの「行動と計画を分離させない」という思想に基づいた決断だ。
「やれ」と言われて動くのではなく、自ら「変わりたい、やりたい」と
主体性を持って臨むからこそ、学びの成果が出ると考えた。
「会社を引っ張っていくリーダーになりたい人」を募ったリーダー研修では、
当初の想定を大きく上回る数の立候補が集まった。入社当時の社内環境を
考えれば信じられない変化であり、粘り強くビジョンを伝え続けたことで、
社員の意識に変革が起き始めている。
またGPTW調査の匿名コメントに寄せられた「組織の一体感を生むために、
経営計画発表会を復活させてほしい」という声を反映し、2026年3月に発表会を再開。
 
社長がビジョンを明確に示したことで、終了後に社員から「新規事業に挑戦したい」という提案書が上がってくるなど、部署の枠を超えた改善提案が日常的に生まれる好循環が始まっている。

4.新工場と「社内大学」で社員の可能性拓く

​現在、本社隣に4階建ての新工場を建設中だ。その3階の食堂では、料理人の経験を持つ栄養士を直接雇用し、
将来は地域のお年寄りにもお弁当を届けるような構想もある。「田舎だから人が来ない」という諦めをなくし、人が自然と集まる
コミュニティーの場を目指している。また、同社の学ぶ文化を体系化するための「社内大学」の設立プロジェクトを進めている。​
 
増築中の工場勤務風景③
 
入社当時、既存の社員たちに志望動機を尋ねると、「家から近いから」「ここなら入れると思った」と受動的な答えが目立ち、社員たちが自らの可能性を狭めている事実にショックを受けたという。一方で、いざ現場に目を向けると、そこには製品に対する並々ならぬ情熱と確かな職人技が息づいていた。前職の商社時代には触れることのなかった、ものづくりへの純粋なこだわりと技術の高さに感動した上川社長は、「この人たちが体系的に学ぶ環境さえあれば、とんでもない会社になる」と直感した。

 

「製造業は普段なかなか外に出られない環境にあります。以前、『人生の可能性は移動距離に比例する』という考え方に触れ、強く共感しました。だからこそ設立する社内大学は、新入社員向けやリーダー向けなど、役職や階層に応じた研修をしっかりと体系化した教育の仕組みを設ける計画です。さらに、さまざまな世界で経験を積んできた外部の方々も積極的にお招きし、社員の視野を広げたい。将来的には地域の人たちも巻き込み、共に学ぶ地域貢献の拠点にしていきたいです。」

勤務風景④集合写真

5.高い目標だからこそワクワクする

勤務風景⑤直近の売上高約15億円に対し、今期は20億円前後を見据える。
新工場建設を含む今回の総投資額は、その直近の年商を大きく超える規模にのぼる。
経営者仲間からは「夜も眠れなくなるだろう」と心配されるが、上川社長は
「その恐れはない。むしろワクワクして眠れないくらいです」と笑う。
「なぜ怖くないかと言えば、この投資がすべて『人への投資』だからです。
投資は未来を創るためのもの。社員を信頼し、彼らが生き生きと働いて
技術を高めていけば、必ず回収できると確信しています。」
 

 

 

 

集合写真②​実は上川社長が就任した1期目、それまで8億円だった売上高を9億円へと
拡大させた実績がある。しかし、「1億伸びた」と伝えても社内の反応は
冷ややかで、大きな変化には至らなかった。足元の数字を積み上げるだけの
目標では組織を根本から変えられない――。そう痛感したからこそ掲げたのが、
「売上高100億円」というビジョンだった。
毎年1回戦負けの弱小野球チームが「次は1回戦突破」と現実的な目標を立てても
変化は起きないが、「甲子園に行くぞ」と掲げれば、日々の練習も集まる人材の
質もガラリと変わる。現状の延長線上にない高い目標があってこそ健全な
新陳代謝が生まれ、その挑戦のプロセス自体を全員で楽しめるのだという。

 

6.使命が仕事への「自分事化」を促す

上川社長は、これから人的資本経営や情報開示に取り組もうとする経営者に対し、本質的なメッセージを投げかける。

「行政の方の意向に、もしかしたら逆行してしまうのかもしれませんが、『補助金があるからやる』ではうまくいかないと思っています。大切なのは『たとえ補助金がなかろうが、何が何でもこのプロジェクトを成し遂げるんだ』という強い意志。それがあるからこそ、補助金というありがたい制度が並走してくれたときに初めて、事業が本当の成功へと向かうのだと確信しています。」

同社は、県の情報開示ツールを用いて平均勤続年数、平均残業時間、有給消化率、社員1人当たりの教育投資額などを示した人的資本開示レポート*を作成・公開している。一般的に情報開示に抵抗を持つ経営者が多いことに対しても、上川社長は「開示は経営者の本気度の証明」と言い切る。

数字をオープンにするからこそ、社員も本気になる。「生産性を上げろ」と言うだけでなく、「今がこれくらいで、ここまで上げたらこれだけ利益が出て、みんなにこれだけ還元される」という指標を共有するからこそ、社員は経営を自分事として捉えられるのだ。

*人に関する方針や取組をまとめたレポート

 

勤務風景⑥​上川社長が「私はあえて口を出さないようにしている」と見守るなか、
経理と設計のトップである2人の社員が主体となり、新たな「開発事業部」
を立ち上げた。さらに彼らは部署を手伝うメンバーを社内から「1人限定」で
募集するインターンシップ制度まで自発的に作り、現場を巻き込んだ
新たな挑戦をスタートさせたばかりだ。
「仕事に使命を持っているかいないかで、仕事の質は大きく変わります。
たとえばサンタクロースが、単に『おもちゃを配る人』という認識なら
『寒いな、早く終わらせたいな』と思いながらただ配って終わりです。
ですが、『子供たちを笑顔にする』という使命があれば、配り方もガラリと
変わる。」
 
高い使命感を抱き、挑戦を楽しむ組織の先に見据えるのは、使命に明記した、
地域や社会にとって「無くてはならない会社」になることだ。
 
「世の中に無くてはならない会社になれたとき、そこで働く社員たちもまた、誰かから必要とされる『無くてはならない人』になれる。自ら学び、未来をつくり出す仲間たちと共に、この広島から、もっともっと面白いことを仕掛けていきたいです。」