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★★開催レポート★★ 妊活応援フォーラム「夫婦で考える不妊治療」

印刷用ページを表示する掲載日2015年11月6日

ロゴマーク平成27年9月26日アステールプラザ中ホールにて,妊活応援フォーラム「夫婦で考える不妊治療」を開催しました。

男性不妊を含む不妊治療の基礎知識に関する講演や,不妊治療を体験された方をお招きし夫婦で考える不妊治療についてパネルディスカッションを行いました。

スペシャルゲストは,不妊治療の末1女2男の父となったロックシンガーのダイアモンド✡ユカイさん。

当日の模様をレポートします!

 基調講演 「男性も知っておきたい不妊治療の基礎知識」

 講師:井口 裕樹先生(いぐち腎泌尿器クリニック 院長)

 県内で数少ない男性不妊の専門診療を行っておられる井口先生から,不妊治療の現状,男性不妊の原因や治療方法,日常生活で気をつけておきたいことなどを丁寧に,わかりやすく御講演いただきました。

井口先生講演写真

【講演内容から~ポイント~】

■男性の年齢も妊娠に影響する

 ・最新の研究では,35歳頃から精子数が減ってくることや,40歳以上の男性での流産率が上昇することが分かっている。

不妊治療においては,男性側の検査も必須

 ・自然妊娠が見込めるのは,精子(数・運動率・正常形態率)が一定以上の状態の場合。男性の状態を確かめるため男性側の検査は必須。複数回の精液検査,問診,ホルモン検査などで,基本的に痛い検査ではない。

日常生活で気をつけること

 ・喫煙や過度の飲酒(妊娠率や流産率への影響)

 ・膝上でのパソコン作業やぴったりした下着(熱が精子に悪影響),

 ・ストレス(EDの原因になる場合も) など

不妊治療は夫婦二人で行うもの

 ・妻がどのような治療をしているか無関心な男性も多い。男性側に原因があっても治療が大変なのは女性側。男性は,妻が今どんなことを行い,どんな思いをしているか聞いてあげてほしい。

 ・男性が治療に消極的なのは,自分に不妊の原因があることを知るのが怖い,検査や治療内容がわからないので怖いなど,男性不妊をよく知らないため,あと一歩が踏み出せないでいる。治療は少しでも早い方がいい。悩むだけでは解決しないので,まずは専門の医療機関で相談を。

参加者のみなさまの感想~アンケートから~

 ・噂話などで聞く情報しかなかったので,正しい知識を教えてもらえてよかった。間違った情報も多いことがわかった。(30代男性)

 ・男性もきちんと検査して原因を明らかにして治療に取り組むことで,女性側の治療の軽減にもつながることが分かった。(30代女性)

 ・男性も女性も正しい知識を持つことの大切さを知った。まず一歩踏み出してみようという気持ちになった。(30代女性)

パネルディスカッション「夫婦で考える不妊治療」

 パネリストとして,ダイアモンド✡ユカイさんをはじめ,生殖医療専門医である絹谷正之先生,男性不妊の専門家である井口裕樹先生,不妊治療の経験を生かして不妊カウンセラーとしてご活躍の堀田敬子さんをお迎えし,国光かよこさんをコーディネーターに,不妊治療や夫婦のコミュニケーションなどについて,お話いただきました。

シンポジウム写真1

【男性の不妊治療】

国光さん

 ダイアモンド✡ユカイさんは,無精子症の診断を受け,不妊治療をご経験されていますが,どうして自分のプライベートのお話をしようと思うようになったのですか?

ユカイさん

 自分自身の男性不妊については,話すべきかとても悩みました。周りの方にどのように受け止めてもらえるか,また自分達は奇跡的に子供を授かることができたけど,大変な治療を続けても授かることができなかった方達も大勢いる。妻と何度も話し合いをしました。発表するきっかけとなったのは,東日本大震災の時に瓦礫の中から産声をあげた赤ちゃんのニュースを目にしたことでした。改めて命の大切さを実感し,自分の使命も自覚しました。

国光さん

 精子ゼロと分かった時は,やはりご自身はショックだったわけですよね?

ユカイさん

 いやショックどころじゃなかった。全然自分に思い当たるふしがない。ロックンローラーなんで,いい気になって男をウリに生きてきて,現在の妻とファミリーを持つべく再婚した。当時俺は40代半ば,妻も30代半ばで,妻が高齢出産を気にしてクリニックに行くというので,つきそいで行ったら,妻は健康そのもの。ご主人もと言われて受けてみたら,なんと俺が精子ゼロ。ちゃんと元気で,何にも悪いところはない。なのに,精子ゼロって,男としての自信みたいなものが,いきなりポキンと折れちゃった。

国光さん

 井口先生,無精子症っていうのは,初めから無精子症なわけですか?

井口先生

 ほとんどの方の場合は生まれつきですが,後天的なもの,抗がん剤の治療を受けた方とか,ほかの病気の手術などで,精子の通る管が詰まってしまうというケースもあります。

ユカイさん

 ヘルニアの手術をしている人の確率が高いですよね。

井口先生

 そ径ヘルニアというのは,足の付け根の筋肉の膜が弱くなり,そこから腸が飛び出てしまう病気で,お子さんかご高齢の方に多いのですが,手術すると,精子の通り道である精管のすぐ脇なので,手術の影響で炎症が起き,精管は非常に細い管なので,つぶれてしまうということがあります。

ユカイさん

 ファミリーを持つべく結婚したのに,妻は俺と別れた方がいいんじゃないかって思ってね。無精子症だし,別れようよって話をしたんです。そしたら,「ユカイさんは子供みたいだし,ユカイさんを子供だと思って二人で生きていきましょう」って妻が言ってくれた。でもね。そう言われても,その時は妻の温かい言葉が理解できなかった。人間ってその立場にならないと分からないじゃない。だから,こいつ何言ってんだって気持ちになったんだろうね。

 その後,ネットで無精子症についていろいろ調べたら,無精子症って100人に1人だって。びっくりした。かなり確率高いよ。それから,無精子症でも子供を授かる可能性があるっていうことを知った。可能性があるんだったら挑戦してみよう。それで,不妊治療を始めることにしたんです。

国光さん

それで実際に受けられた治療というのは?

ユカイさん

 手術なんだけど,ネットで調べたら,男性の大事なところ,陰嚢にメスを入れて,中から精子を取り出すという作業をする。想像しただけで,もう怖いなんてもんじゃない。キャッチボールで急所に当たったときのあの痛みって,覚えてるでしょ?(会場笑)それ以上の痛みだって。その手術を受けた人が写真まで載せていて,なんと睾丸の部分がサッカーボールのように腫れ上がってる。どうすんだよ?しかも,壮絶な痛みとか書いてあるわけで,もう手術の前は死刑執行の気持ちでしたよ。

 主治医の先生に,俺痛いのダメなんで,痛みがなくなる麻酔やってくださいよって言ったんですよ。先生が「わかりました。当日は朝食をとらずに来てくださいね」と。前日は恐怖心で眠れなくて,朝起きてテーブルに座ったら,妻がいつものように,ご飯とみそ汁を出してるんですよ。で,俺,食っちゃったんだよね(会場笑)。麻酔効かねえよって,恐怖におののいて手術を受けましたよ。

国光さん

 井口先生,そういうときは局所麻酔になるんですか?

井口先生

 私のところでは全部,局所麻酔でやりますが,局所麻酔の技術自体も今の方が進歩しているので,痛みでどうにもならない方はほとんどいないですね。腫れ上がるというのも,おそらく中で出血していると思いますが,腫れ上がってお困りなった方っていうのは,私は経験がないですね。

ユカイさん

 そうなんですね。手術が始まるまでの間が一番恐怖。でも,いざ始まってみたら,麻酔を打つのは痛くないってのは嘘だけど,手術が始まってみたら,あれ,なんともないじゃないか。こんなもんかって感じで。情けなかったですね。(会場笑)

国光さん

 井口先生,ユカイさんがなさった治療方法についてご説明いただけますか

井口先生

 精管が詰まった閉そく性無精子症,原因はそ径ヘルニアの手術だと思いますが,治療方法は主に二つで,一つは精管を繋ぎ直すという選択肢もあったと思います。ただ,精管を繋ぎ直す手術の場合には繋ぎ直せる場所は非常に限られていますので全員が対象になるわけではない。それから,詰まってから繋ぎ直すまでの期間が短い方が,繋がりやすい,繋いだ時に精子が出る可能性が高いといわれています。子供の頃のそ径ヘルニアの手術が原因であれば,繋ぎ直しても精子が出ない可能性も十分考えられるので,おそらく主治医の先生は,より確実な方法ということで,睾丸や精巣上体からの精子の回収,そして顕微授精ということを考えられたのだと思います。

【不妊治療と夫婦のコミュニケーション】 

国光さん ユカイさんはご夫婦の不妊治療からお子様を授かるまでの夫婦関係というのはどんな感じだったんですか?

ユカイさん

 詳しくはわが著書「タネナシ。」にも書いてありますが,最初はそんなに難しいものだと思ってなかった。自分の手術とかがクリアできれば,あとは普通にいけるのかなと。でも,妻の不妊治療の段階に入ったら,顕微授精で,卵子を取り出すんだけど,それは壮絶でしたよ。俺の手術なんかたいしたことないんだと肌で感じました。卵子を取り出すまでも,ホルモン注射を打ったり体温を測ったりね。「不妊治療」のための毎日,不妊治療のために生きてるみたいな感じでね。

 でも,男性と女性で違うので,パートナーとしての気持のケアをしているつもりでも,なかなか分からない。女性も,排卵誘発剤とか打つと更年期障害みたいな状態なる場合もあるので,感情もちょっと高ぶったりしてね。これをずっと続けるのは辛いなって感じでしたね。

国光さん

 堀田さんはご自身の不妊治療のご経験を生かして不妊に悩む方のカウンセリングをなさっていますが,治療の辛さやストレスを旦那様にわかってもらいたいけど,どんなふうに話していいかわからないって方も多いと思うんですよね。そのあたりのアドバイスをお願いします。

堀田さん

 私の場合は夫婦のコミュニケーションの失敗例になるのかもしれません。10年間の不妊治療でしたが,30歳から始めて,最初の5年間は仕事をしながら,治療は先生にお任せ,病院に通っていればいつか妊娠するんだという気持ちだったので,そんなにストレスは溜らなかったんです。ストレスが溜って辛くなったのは,仕事を辞めて不妊専門クリニックに移って,体外受精・顕微授精を始めてからです。ユカイさんがおっしゃってたように,毎日治療するだけの日々なんですね。不妊治療ってうまくいかなければ,ずっと失敗体験の連続で,何が悪かったのか答えが見つからず,肯定感が何も持てないっていう精神状態になるんです。夫に対しても,治療のために仕事を辞めたのは私だけ,病院に行くのも私だけ,痛い思いをしているのは私だけ,夫は何も環境変わらないし,お酒もたばこも全然やめようとしないで,私の気持ちなんてわかってくれないってずっと思ってました。

 まわりにもわかってほしいと思っても,不妊治療は特別の世界だから普通の人はわからなくて当然みたいな空気があり,あまり話せず,一緒に治療をやってた人達もどんどん卒業していくような気がして,私だけそこにとどまって,劣等生なんだってずっと思っていました。そうなると,感情のコントロールもできないし,出口が見えないトンネルってよくいいますが,ゴールが見えない,ゴールがあるかどうかさえわからない。自分がしんどすぎて,夫がどう思っているかなんて気がまわっていなかったですね。

 その後治療を終結し,心理学を学んでカウンセリングを受けた時,不妊治療のことを何も知らない先生に,夫に何にもわかってもらえてなくて,こんなにしんどかったんだと切々と訴えて,思い切り泣いて,話したら,すごくすっきりしたんです。治療をやめて4年後でしたが,モヤモヤと心に残っていたものを吐き出してすっきりしたら,不妊治療をやっていた過程も全部違って見えた。それまで「私だけが」とずっと思っていたのですが,治療中の私の隣に夫がずっといてくれたんだなということを思い出せたんです。その後,カップルカウンセリングを一緒に受けましたが,その時夫が,子供がほしくて結婚したわけじゃなく,家族になりたいと思って一緒になった,だから子供がいてもいなくても夫婦なんだって話をしてくれたんです。二人で話している時には,絶対そんな話は聞けなかったと思うんですが,ああ,子供がいてもいなくても夫婦なんだったら,これでいいんだと,そこでやっと安心できたんです。

 治療中にうまくコミュニケーションができてたら,もっと私のストレスは減っていたと思います。後からでもカウンセリングを受けたりして修復は可能ですが,治療中にもっと言葉でコミュニケーションをとるということは必要だと思います。

ユカイさん

 でも,やっぱり男女って分かりあっているようで分かってないところがありますよね。

堀田さん

 一番身近にいる人だから分かってるだろうと思ってしまうけど,それが難しいですね。言葉でコミュニケーションできれば,本当は一番いいのですが,不妊治療に関しては,まず一緒に行動してみるっていうのも,いいのかなと思うんです。

【不妊治療~医師の立場から】

国光さん

 絹谷先生,女性の不妊治療の大変さについて,簡単にわかりやすくご説明いただけますか。

絹谷先生

 妊娠するのは当然女性ですから,女性が検査や治療を受けることが多くなります。また,妊娠に関する特徴として,排卵に合わせていろんな検査や治療をする必要があるので,月経周期に合わせて進めていく,そのため通院も不定期になることが多くて,仕事をされている方にはかなり負担になるかと思います。それと,まだまだ妊娠して当たり前みたいに社会では思われているので,そういう中で悩みを抱えて,なおかつ不定期な治療に通って,精神的にも肉体的にもつらい立場に置かれているのではないかと感じています。

 もう一つ,妊娠しなかった時の原因全てをはっきりさせてあげることができない。理由がなかなか明確に分からない。ユカイさんのように無精子症だったという場合は,明確に方針を立てていけますが,分からない部分があるということを前提として不妊治療を進めていくということで「出口が見えない治療」というふうに感じられるのかなと思います。

国光さん

 お医者さんの立場から,患者さんへどういう思いを感じていますか。

絹谷先生

 やはり正しい知識を身に着けていただきたいと思います。ネットの中にも有益な情報はあるでしょうが,中には誇大なものもあるでしょうし,きちんと学んで,情報を見極めていくということをお願いしたい。

 それから,やはり早く妊娠するに越したことはありません。卵子の老化で妊娠しづらくなるということもわかっているので,正しい知識を持った上で,ぜひ,まだ検査など始めていない方は始めてほしいなと思います。

 また,夫婦二人で同じ目標に向かってやっているわけですから,やはり夫婦でよく話しあって,一人で考え込まず,男性側も女性の気持ちをなるべく理解してもらって,ぜひ一緒に取り組んでもらいたいと思います。

国光さん

井口先生,今度は男性不妊で治療されている方に対しては,医師の立場からどんな思いを感じていますか。

井口先生

 確かに男性にとって精子が無い,少ないという話をすると,とてもショックだと思います。ただ,不妊治療を始めても,奥さん任せで当事者意識がない方が多いです。精液検査をして男性側が原因かもしれないという場合,原因を突き止めるため,また,治療はどれがいいか,治療ができるどうかということも含め検査をしないといけない。それで,検査を勧めると,それをお受けになる方はだいたい1/3くらいですね。2/3は,ちょっと妻と相談してきます,ちょっと考えてきますといってお帰りになります。そのうちの半分くらいの方は,しばらくしたら来院されますが,残りの方はそれきりになってしまう。

 おそらくそういう方は,産婦人科側の不妊治療で妊娠をめざすのだろうと思いますが,でも,男性側の治療で多少はよくなるかもしれない。よくなれば,それで不妊治療も効率的にできるかもしれない。それは奥さんの治療の負担を減らすことになるんです。やはり不妊治療がしんどいのは奥さんなんです。奥さんを思いやるというか,少しでも楽になるようにしてあげてもらいたいなと思います。

 だから,私は,デリケートな問題だからといって優しく言うと,じゃあ奥さん任せでという方も多いので,比較的厳しめに言うことが多いんです。患者さんも一人ひとり違いますから,それがいいのかわかりませんが,でも,きちんとした検査を受けて,少しでも女性側の不妊治療を手助けするという方が増えないかなと思っています。

【治療中の気分転換・リラックス法】

国光さん

 治療中はそれ一色になってしまうと言われてましたが,気分転換の仕方とか,コミュニケーションの方法とか,どんなことをしていましたか?

ユカイさん

 気分転換はなかなか難しかったですね。でも,自分達には,旅行に出るというのが一番よかった。場所が変わる,景色が変わると気分が変わるじゃないですか。だから頻繁に旅行に行ってましたね。

 治療していた期間は,実際には2年くらいだったけど,ものすごく長く感じました。初めは,近くのクリニックに行って,手術を受けて顕微授精をやったんだけど失敗しました。その時は,ほんとに悲惨な気持ちになりましたね。不妊治療って,精神的,肉体的,それから金銭的にも負担がかかるんです。1回目のときは,妊娠できるかもって,妻も感情的にMAXまで跳ね上がってましたしね。

堀田さん

 体外受精などは,胚をおなかに戻すので妊娠したのと同じ気持ちになるんです。母親に一回なって2週間過ごして,妊娠判定で陰性だったら,そこで流産と同じような経験をして,気持ちも底に落ちる。それで,不妊治療中の気持ちはジェットコースターに乗っているようだって言われますよね。

ユカイさん

 その思いは男性には理解したくても理解できないところがありますよね。2回チャレンジしたんだけど,2回目も失敗して。その2回が壮絶だったんですよ。妻ともギクシャクして離婚寸前のところまでいきました。で,もうやめようと。二人で生きていく人生についても妻とたくさん話しました。それで,しばらく旅行したりして,夫婦二人だけの生活をしていてね。

 俺はもういいと思ってたんですよ。でもある日,妻が最後にもう1回だけ挑戦させてくださいと。治療が大変な妻が言うならばと,男性不妊の第一人者って言われている先生の病院に行って挑戦することにしました。でも,挑戦するってことは,俺もまた手術するわけで,今度こそ朝食を食わないようにして行くぞとかね(会場笑)。病院は北九州だったので,旅行に行くような気分で向かいました。おかげでリラックスして臨むことができて,なんと娘を授かることができたんです。

国光さん

 リラックスした気持ちの部分も影響があったんですかね。

井口先生

 もちろん全部が男性の精液所見に反映するわけではありませんが,ご夫婦共にリラックスしていたということがいい結果に結び付いたのかもしれないですね。

国光さん

 堀田さん,治療中のよいストレス解消方法や気持ちの切り替え法ってありますか?

堀田さん

 ストレス解消法って切実な問題ですが,これがいいですという断定的なものがあるわけじゃないので,やはり自分が心地よいと思うことをするというのをお勧めしています。運動がいいよといわれて運動が嫌いな人が無理やりしてもリラックスできないし,楽しめない。自分がやってて楽しいこと,しゃべって楽しいという人と会うとか,そういうリラックスの仕方がいいと思います。

 気持ちを切り替えるという意味では,一番切り替えが難しいのは,治療がダメだった判定の後ですね。そういう時泣くのを我慢して,卵子も老化するし,次の治療に向けて気持ちを切り替えなきゃってことで,立ち止まらずに気持ちを封じ込めてしまう人が多いと思います。でも,頑張ってやったことがダメになったんだから悲しいのは誰だって悲しいんです。当然の感情なんだから,それは抑えることはないと思う,泣きたいときは思い切り泣いていい,それも心のセルフケアのための大事なことなんだというふうにお話します。

 もちろん楽しむことも大事なことで,思いっきり楽しむ。治療中ってお金がかかるので,旅行に行ったり楽しむことを控えちゃうんですよね。でも気持ちを切り替えるために,これは必要なことだって,思い切って楽しんでいいと思います。

【治療はいつまで・・】

国光さん

 絹谷先生,体外受精って何回まで続けられるものでしょうか。

絹谷先生

 たまごが取れる限りは,可能といえば可能かもしれません。しかし,統計的には,体外受精という治療で,どれぐらいの回数までに妊娠されているかというと,もちろん女性の年齢に大きく影響を受けるんですが,採卵でだいたい4回くらいまで,胚移殖では7回くらいまで,その回数を過ぎてからはうまくいく方が少なくなるということが分かっています。

 でも,あくまでも一つの目安で,個々の状況に応じてだと思いますので,ぜひ,治療を受けている方は,医療機関で自分の状態についてよくよく相談してみることがいいのではないかと思います。

国光さん

 どこかで区切りをつけたほうがよいのでしょうか

絹谷先生

 妊娠に対する思いは人それぞれ,さまざまに違うと思います。何歳だからとか何回だからとかいうことで,きれいに線が引けるものではなくて,カウンセリングとか心理的なサポートも受けて,やはり夫婦二人で,自分たちを見つめ直してみる時間を持って,治療を続けていくかどうかを決めていくことが大事かなと思います。

国光さん

 堀田さんは治療を辞めるという選択をした時,どのように気持ちの区切りをつけられましたか。

堀田さん

 私は治療をやめようという選択をしたとき,自分で気持ちに区切りがきちんとついていたかというとそうではなかったです。治療をやめようと思ったときは,失敗ばかりで治療がなかなかうまくいかなくて,次が成功するってイメージができず,逆にダメになるところを想像していた。それにもう耐えられないなという気持ちにもなっていたし,なにより,先生からもうこれ以上治療しても授からないよ,ってダメ出しをされるのがすごく怖かったんです。まだ可能性が残っているうちに治療から離れよう,子供は産めなかったけど,違う人生を選んだ私でいたい,違う人生を探そうって思ったんです。

 でも,常に気持ちが揺れていて,不安定な時期が長かったのですが,ようやく気持ちが切り替わってきて,見つけたのが心理学を学ぶということでした。学ぶうちに,カウンセラーという職業があるんだということに気付き,不妊治療の時って,本当に誰かに援助してほしかったし,カウンセリングが必要とされていると思い,それで不妊カウンセラーになろうと思ったんです。

 不妊治療があったから,この職業で仕事してる私がいて,援助できる私になっている。治療やめてすぐの時は思い出したくない,なくしたい過去だったけれど,今はそれがあったから今の私がいる,「なくてはならない過去」にすることができています。

 私の場合は,自分の気持ちを保留にして,違う道を探して目を背けていたので時間がかかったと思いますが,でも少しずつですが気持ちは切り替わるし,全部自分の人生だったって受け止めることもできるように絶対になるので,一人で悩まずに,カウンセリングだとか相談窓口を利用するとか,話ができる仲間とか友達を探すとか,そういうところから始めるのもいいと思います。

【メッセージ】

国光さん

 井口先生,男性が検査や治療を受けたがらない場合,奥様はどのように話したらいいんでしょうか。

井口先生

 男性が受診しないというのは,ひとつは怖いんですね。自分に原因があったらどうしよう。そして,プライドもある。また,自分がどんな検査を受けるのか知らない。どんなことをされるのかわからないと不安が強くてなかなか受診したがらない。突き詰めて考えると男性不妊のことをよく知らないということですね。だから,知ってもらわないといけない。このフォーラムのような機会や本とかで,ご夫婦で少しずつ正しい知識を学んだ上で,受診を勧めてもらえば,受診しやすくなるかもしれません。

 それと,女性としては,女性側が受けた診療の結果とか気持ちとか,旦那さんにきちんと話をしてほしい。治療の効率化ということもありますが,やはりそういうことを聞いていないと男性はわからない。不妊治療は二人でするものということが前提ですから,コミュニケーションやスキンシップをしっかりとって,治療を勧めていただきたいと思います。

 不妊治療でしんどいのは女性です。男性側は痛いことは手術くらいですが,肉体的な痛みは共有できなくても,精神的な痛みというのは,ご夫婦で分かち合うことができるかもしれない。ぜひ二人の問題として,男性も当時者意識をもっていただきたいと思います。

国光さん

 最後に,会場の皆さまにメッセージをお願いします。

絹谷先生

 これから不妊治療を考えている方に対して,不妊治療ってもちろん大変な部分もありますが,まず,一歩,検査などに踏み出していただきたい。

 不妊に悩むカップルは6組に1組ともいいますが,実際に,ほんのちょっとしたことを解決するだけで,すぐに妊娠する場合もあるんですね。ですから,ぜひ一歩踏み出して検査を受けていただきたいですね。

ユカイさん

 今は,働いて活躍している女性が多いですよね。学校卒業して仕事を始めて,脂が乗ってくるのって30歳くらい。で,やっと余裕が出てくるのが35歳くらいかな。そういうことを考えると,35歳なんてすぐになっちゃいますよね。そして,そのころから子供を・・・って思っても,もし俺みたいな無精子症の旦那だったら,いくら頑張っても絶対ダメなんですよ。で,あっという間に5年くらい経っちゃいますよね。もし,その5年間に旦那さんが検査とか受けなかったら,大切な5年間が無駄になっちゃいますよね。

 検査を受けて原因が分かれば,授かる可能性だってある。だから,男性は積極的に検査を受けてほしいですよね。悔いが残らないように。

 参加者のみなさまの感想~アンケートから

・ユカイさんの話は,男性側の妻に対する申し訳ない気持ちなど大変共感できました。改めて妻を思いやって気遣って行く姿勢の大切さを実感しました。(30代男性)

・夫婦で参加できて,治療に対する二人の意識が今後変わればいいなと思います。改めて二人で話し合おうと思いました。(30代女性)

・実体験や専門的な話が聞けてよかった。不妊治療は夫婦二人の悩みだけど,理解してくださっている方,応援してくれている方がいると思えました。(30代女性)

関連リンク

NPO法人Fine~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~ 活動報告

不妊検査費助成事業のお知らせ

 県では,なかなか赤ちゃんを授からないとお悩みの方を支援するため,夫婦で不妊検査を受けた場合の自己負担額の一部を助成する制度を始めました。

 「もしかして不妊かも・・・?」とお悩みの方は,まずは不妊検査から始めてみませんか?

 対象者,助成額など詳しくは ⇒ 不妊検査費助成事業のページ

不妊検査費助成事業リーフレット (PDFファイル)(386KB)

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