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8-8 事故の後遺症を理由に解雇を言い渡された|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

労働相談Q&A

8-8 事故の後遺症を理由に解雇を言い渡された

質問

交通事故による後遺症から,今までの業務を継続することは困難なため,会社に配置転換を求めたのですが,聞き入れられない上に解雇を言い渡されました。後遺症に関係なく業務遂行できる部署はあると思うのですが,解雇を受け入れないといけないのでしょうか。

回答

<ポイント!>
1. 傷病や障害に起因する労働者の労務提供不能は,解雇の合理的理由となります。
2. 会社が解雇を言い渡す上でその回避措置を講じたか否かが,解雇の合理性判断の重要な基準となります。
 
私傷病の場合
労働者が業務上の傷病以外の傷病(「私傷病」といいます。)で労務提供が困難となった場合,解雇もやむを得ないことになるのでしょうか。会社によっては,このような解雇を避けるため,一定期間,治療に専念できる期間(「私傷病休業期間」と呼んでいます。)を設け,この間に傷病が治癒すれば復職できるような措置を講じています。それでは,このような制度が設けられていない場合,即解雇ということになるかというと,判例はそのようには考えず,傷病の治癒の見込み(治るのかどうか,治るとしてどのくらいかかるのか),労務提供できないことによる同僚への影響の有無・程度,会社の規模(従業員が多ければ代替は容易であるなど)・経営状態など諸般の事情を考慮して,使用者は解雇を我慢すべきであると判断したとき(例えば,しばらく辛抱すれば傷病は治癒し,その間は人員をやりくりすれば何とかなる,会社の経営状態もまあまあだ,といった事情のとき)は,にもかかわらずなされた解雇は無効とされているようです(私傷病休業期間明けの「自然退職」に関する事件ですが,エール・フランス事件・東京地判昭和59年1月27日参照。逆に,従業員が数名程度しかいない企業で,復職してきた労働者を数ヶ月間軽作業にもっぱら従事させ,通院の都合もはかってきたが,完治の見込みもはっきりせず,同僚から苦情がでるなどした事情のもとで行った解雇が有効とされた,大阪築港運輸事件・大阪地判平成2年8月31日参照)。
次に,業務遂行が可能な部署への配置転換を申し入れたが聞き入れられず解雇されたとのことですが,使用者は解雇に先立ち,少なくとも労働契約の範囲内であなたが就労できる職務がないか探す義務はあると思われます。私傷病を理由とする休職命令に関する事件で,最高裁は次のような判断を示しています(片山組事件・最判平成10年4月9日)。バセドー氏病で現場監督はできない,事務ならできるから仕事を変えてくれと申し出てきた労働者に対し,使用者である建設会社はいきなり休職を命じたのですが,この労働者は現場監督に職務を特定して雇用された者ではないから,申し出のあった事務職も含めて労働契約の範囲内で就労可能な職務を探す義務が会社にはあった,この義務を尽くさないでいきなり休職を命じたのは違法である,と。この考え方を参考にすると,就労可能な部署への配置転換を考慮することなく会社が解雇したのであれば,解雇権の濫用と判断されることもあります(脳出血の後遺症がある労働者につき,発症前に従事していた修理業務に従事することは困難だが,修理工場で工具管理などの業務を行うことは可能であるとして,復職を命じた,東海旅客鉄道(退職)事件・大阪地判平成10年4月参照)。
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業務上の傷病の場合
業務上の傷病によって労働者が療養のため休業している場合は,労基法第19条により,使用者は同期間中及びその後30日間はその労働者を解雇できないこととなっています。ただし,同法第81条の打切補償を支払う場合や,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は除かれます。詳しくは,「解雇の法令上の制限」の解説を参照してください。
 
こんな対応を!
傷病や後遺症によって従来のような労務提供が困難となった場合でも,解雇やむなしとすぐにあきらめず,就労可能な部署への配置転換,施設改善,訓練機会の保障などを使用者に求めていきましょう。使用者にはこのような解雇をできるだけ避けるように様々な措置を講じる義務があるのですから(障害者雇用促進法第5条参照)。