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8-13 強要された退職願を撤回したい|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

労働相談Q&A

8-13 強要された退職願を撤回したい

質問

先日,上司から「会社の経営が思わしくない。退職届を出してもらえないか。出さないなら,解雇することになる。」と告げられ,つい退職願を出してしまいました。一度出した退職願は,撤回できないのでしょうか。

回答

<ポイント!>
1. 一度受理された退職願の撤回は,かなりむずかしいものです。
2. 強迫に当たるほどの強要がなされた場合は,退職の取消を主張できます。
 
退職承諾の後は,撤回はできない
退職願は,労働者側からする労働契約の解約の申し入れであり,これに対して,使用者側の承諾がなされ,両者の意思が合致すれば原則として退職が成立します(合意解約)。
したがって,会社側の退職承認の意思表示が労働者側に伝わるまでは,退職願の撤回はできるものと思われます。
これまでの裁判例でも,退職勧奨に応じて従業員が退職願を提出した場合,「会社側がこれを承認し,これを当該従業員に通知したとき(例えば,人事部長の承認の連絡があったとき)」に,法的に退職が成立するものと判示されていますので,会社側の通知を受けるまでは,退職願の撤回ができると考えて良いようです(大隈鉄工所事件・最三小判昭和62年9月18日を参照してください)。
なお,合意解約の申込みではなく,退職の意思表示は,撤回することはできません。合意解約と退職とは実際には区別することがむずかしいケースも多いのですが,理論的には次のように区別できます。前者は労使合意の上で労働契約を解約することを指すのに対し,後者は労働者の一方的意思により労働契約を解約することを指します。退職は,このように労働者の意思だけで解約の効果を生じるものですから,前言をひるがえすことを自由に認めれば,使用者が大変迷惑することになりますので,撤回できないとされているのです。
ただ,退職の意思表示についても,それが強迫などによるものであるときは,取消等が可能になります。
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退職勧奨に応じるかは,労働者の自由
いわゆる「肩たたき」や希望退職募集など,会社が労働者に対して退職を勧めることは,「退職勧奨」と呼ばれます。退職勧奨に応じるか応じないかは,自分の意思で自由に決めることができます。したがって,会社から勧められたからというだけで,安易に退職願を提出するのではなく,会社から提示された条件などを考慮した上で,慎重に考えましょう。
 
強迫による退職願は,取り消せる
民法の規定によると,強迫を受けて行った意思表示は,取り消すことができるとされています(同法第96条)。したがって,労使の間で合意解約が成立した場合であっても,労働者が強迫を受けたために退職願を出したときは,労働者は,退職の意思表示を取り消すことができ,その結果,退職は,効力を失うことになります。
「強迫」とは,「他人に害悪を示して恐怖心を生じさせ,その人の自由な意思決定を妨げる違法な行為」であり,具体的な例としては,長時間にわたって,一室に隔離して執拗に退職を迫る行為などが挙げられます。
「退職願を出さなければ解雇する。」と言うのが強迫に当たるかどうかは,判例では,ケースバイケースで判断しているようですが,解雇事由もないのにあるように偽って言ったのではない限り,この発言だけでは強迫に当たらないとするものが多いようです(ニシムラ事件・大阪地判昭和61年10月17日など。同様のケースで労働者に錯誤(民法第95条。勘違いのこと)があったとして無効としたものに,ヤマハリビングテック事件・大阪地決平成11年5月26日があります)。
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こんな対応を!
退職は,労働者にとっては生活の糧である職を失うという一大事です。「一度提出した退職願の撤回は,むずかしい。」ということを念頭に置いて,会社から退職勧奨を受けたからといって,納得しないままに退職願を提出したり,会社が作成した退職願の用紙に署名することは絶対に避け,退職の意思のない場合には,それをはっきりと会社に伝えましょう。
また,自分の意思に反して退職願に署名してしまった場合は,できるだけ早く撤回することを会社に申し出ましょう。
退職勧奨に当たって,会社から,ひどい強要を受けた場合は,そのときの会社の発言や行動,それを受けた時期などをメモしておき,のちの証拠となるようきちんと整理しておきましょう。
 
更に詳しく
雇用保険の取扱い
会社から「業績が悪いので退職してほしい。」と言われた場合,それが「自主退職をお願いする」ものか,「会社の都合で辞めさせる」ものであるのか“あいまい”なケースもよくあるものです。この場合,どちらであるかによって,雇用保険の取扱いに差が生じてしまいますので,会社側に十分に確認してみましょう。
離職の理由が倒産,解雇など自己の都合によらない場合,ハローワークに離職票を提出してから7日が経過した後に雇用保険の支給が開始されますが,自己の意思で離職した場合は,7日間の待機期間満了後,更に1ヶ月以上3ヶ月以内の範囲内でその期間が経過した後から支給が開始されます。また,給付日数についても,年齢と被保険者であった期間によっては,「会社都合」の方が手厚い場合があります。
「会社都合」を理由とする離職であると思っていたのに,実際には「自己都合」扱いにされていて納得がいかないというケースが,まま見受けられます。自分の退職がどちらに扱われるのか,その点も会社に確認しておくことが必要でしょう。