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8-1 ミスが多いことを理由に解雇できるか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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8-1 ミスが多いことを理由に解雇できるか

質問

私は,先日,会社から,仕事でのミスを理由に懲戒処分を受けました。ミスをしたのは確かですが,私としては,それほど重大なミスだとは思っておらず,処分を受けるのは納得できません。ミスを犯せば懲戒処分を受けなければならないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 懲戒処分をするためには,処分の対象となる事由と,これに対する懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていなければなりません。
  2. 懲戒事由に当たる場合でも,客観的に合理的な理由を欠き,又は社会通念上相当と認められない懲戒処分は,懲戒権の濫用として無効とされます。

懲戒処分の主な種類

  1. けん責・戒告
    義務違反に対して警告し,将来を戒めるものです。
  2. ​減給
    制裁として賃金から一定の額を差し引くものです。労働基準法では,「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え,総額が一賃金支払期における賃金の10分の1を超えてはならない」と定められています(同法第91条)。
  3. ​出勤停止
    労働契約は継続させたままで,出勤を一定期間停止させ,その間の賃金を支給しないものです。自宅謹慎とか停職とも呼ばれます。
  4. ​懲戒解雇
    懲戒処分の中で最も重いもので,労働契約を打ち切ることです。通常は,解雇予告も予告手当の支給もせずに即時に行われ(ただし,所轄の労働基準監督署長の認定は必要です(労働基準法第20条)。),また,退職金の全部又は一部が支給されないのが普通ですが,判例によれば,懲戒解雇イコール退職金不支給ということにはなりません。この点については,後掲の「懲戒解雇と退職金」の項を参照してください。

懲戒処分の要件

使用者は,服務規律違反に対する制裁として,労働者に懲戒処分を課することができます。ただし,次の要件を備えておくことが必要とされます。

  1. 根拠規定の整備
    ​懲戒処分の事由となる行為と,それに対する懲戒の種類・程度が就業規則等に定められていることが必要です(労働基準法第89条第9号参照)。
    なお,労使当事者間において,解雇についての事前の予測可能性を高めるため,就業規則に「退職に関する事項」として「解雇の事由」を記載する必要があると定められました。(第89条)
    (注意)既に作成している就業規則に,「退職に関する事項」として「解雇の事由」を記載していない場合には,「解雇の事由」を記載した上で,改めて,労働基準監督署へ届け出なければなりません。
  2. ​事由・手段の合理性
    ​懲戒の対象となる行為,制裁の手段が合理的で,社会通念に照らして常識的であることが必要です。
  3. ​相当性の原則
    ​処分理由となった違反行為の種類・程度その他の事情に照らして相当なものであることが必要です。1度の遅刻やささいなミスなどに対して,重すぎる処分を行った場合には,バランスを欠いたものとして無効となると考えられています。
  4. ​平等取扱いの原則
    ​類似の事例については,懲戒処分も同じ程度であるべきです。特に理由もないのに,人によって処分の重さを変えたりしてはいけません。
  5. ​適正手続の原則
    ​懲戒処分に先立ち,本人に弁明の機会を与えなければなりません。処分事由やその根拠をはっきりと開示し,不服申立に対しては適正に対応した上で,処分を行いましょう。就業規則や労働協約に定められた手続を経る必要があることは,いうまでもありません。

こんな対応を!

まずは,就業規則等に懲戒処分の根拠規定があるかどうかチェックしましょう。一般に,就業規則などに記載されている事由以外の理由に基づいて処分を行うことはできないと解されています。
また,適正な手続を取った上で処分が行われたかどうかを確認しましょう。なんらの説明もないままに処分が行われた場合には,懲戒の理由を示すように求め,また,弁明の機会を与えるよう要求しましょう。
更に,社内で類似の事例に対して,これまでどのような処分が行われたかを調べた上で,取扱いが平等かどうかを考え,また,処分の原因行為と懲戒処分の重さとがバランスが取れているかも考慮してみましょう。
これらの点を確認し,懲戒処分の内容や程度に納得がいかない場合は,会社側に処分の撤回を要求しましょう。

更に詳しく

懲戒解雇と退職金

懲戒解雇の効力を判断するに当たって裁判所は一般に慎重で,懲戒解雇は「その者を企業内に存置することが企業の経営秩序をみだしその生産性を阻害することが明白であって,かつ,その者に将来改善の見込みがとぼしい場合にかぎって,許される」と判示した裁判例もあります(大村タクシー事件・長崎地判昭和38年8月27日,同旨=嶺工業事件・東京高判昭和47年9月29日ほか)。したがって,一度の遅刻やささいなミスを犯した程度では,懲戒解雇の事由には該当しません。
また,懲戒解雇の場合,退職金の全部又は一部が支給されないのが普通ですが,退職金は賃金の後払い的な性格も有するため,退職金の全額ないしは一部の不支給が認められるのは,これまでの勤続の功労を帳消しにし,又は減殺してしまうほどの違反行為があった場合に限られると解されています(最近の裁判例として,電車内で繰り返し痴漢行為を働き迷惑防止条例違反で執行猶予付きの懲役刑の判決を受けた電鉄会社社員につき,懲戒解雇は有効としたが,退職金に関しては全額不支給を認めず3割支給を命じた,小田急電鉄(退職金請求)事件・東京高判平成15年12月11日があります)。したがって,必ずしも「懲戒解雇」イコール「退職金不支給」ということではありません。​