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4-8 年俸制とはどのようなものか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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4-8 年俸制とはどのようなものか

質問

来年度から年俸制に移行することが決定しました。プロ野球選手のように毎年交渉し,契約更改しなければならないのでしょうか。また,ボーナスや超過勤務手当などもなくなるのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 年俸制でも賞与や超過勤務手当,家族手当など諸手当について従来型の賃金制度で必要なものは支給することができます。
  2. 賃金は,毎月払わなければならないと定められているので,年俸制でも毎月支払わなければなりません。
  3. 賃金交渉については,プロ野球選手のように個別に毎年契約する場合も考えられますが,一般的にはなじまないため,一定の型を設けて運用する場合が多く,したがって,一般的には相対交渉を行う必要はありません。

年俸制とは

年俸制とは,業績評価や本人の役割に応じて,1年単位で賃金総額を決定する賃金制度で,その特徴として,

  1. 賃金を年額表示する,
  2. 定期昇給がない,
  3. 降給もありうる,

の3点があります。
ただし,日本型年俸制の場合,基本的に業績評価を賞与部分で行う型が多いので,上記の特徴がはっきりと現われることは多くありません。

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賃金の支払い

年俸制では,賃金の額は年単位で決定されますが,実際の賃金の支払いは労働基準法第24条第2項により毎月1回以上定期日に支払わなければなりません。

賃金制度の移行

年俸制に移行したということですが,賃金制度の変更に当たっては,基本的な労働条件である賃金に関する変更となるので対象労働者の個別の同意が必要です。
年俸制の導入は,このほか,労働協約や就業規則の改訂によっても可能です。むしろ,一般的なのは就業規則の改訂によるものでしょう(賃金の種類・決定方法等は就業規則の絶対的必要記載事項となっています(労基法第89条第2号))。労基法所定の就業規則の変更手続に従って改訂作業を進める必要がありますが,最大の問題は,年俸制の導入が就業規則の不利益変更にならないかどうかということです。「就業規則の不利益変更の問題」については,「就業規則の不利益変更を会社が一方的にできるか」の項で扱っていますので,詳しくはそちらをご覧いただきたいのですが,この問題が裁判にかかりますと,裁判所は,「不利益変更は原則として無効,しかし,合理的な変更であれば有効」との考え方によって処理します。この合理性の判断は,基本的には,就業規則変更の必要性とこれによって被る労働者の不利益を比較し,いずれが大きいかによって行われています(前者が後者を上回れば合理的変更であるというように)。年俸制の導入についても同様に判断されることになりますが,これまでの賃金計算方法の変更に関する判決(特に,第一小型ハイヤー事件・最高裁判決平成4年7月13日)などを参照しますと,年俸制導入前の賃金総額より導入後のそれが減少したり(一方的な賃金切下げであると判断されます。),そうでなくとも,年俸制導入により急激かつ大幅な賃金切下げとなる労働者が出ているのに従前の賃金水準を維持する経過措置などを講じないままにしているときは,会社が深刻な経営危機状態にあるなどの場合を除いて,労働者の被る不利益が大きいとして合理的変更とは認められない可能性が強いと思われます。
年功的賃金制度を年俸制など成果主義賃金制度に切り替える就業規則改訂の効力について,これまで幾つか下級審の裁判例がでていますが,結論はまちまちですが,慎重な判断がなされています(経営不振の改善策として労働生産性をあげるために賃金制度を変更する必要があったこと,経過措置が講じられるなどして不利益が生じたとしてもさほど大きくはないこと,労働組合への説明・団交を積み重ねていることなどから,能力・成果主義型賃金体系の導入が合理的で有効とされた,ハクスイテック事件・大阪高判平成13年8月30日,証券不況で給与を削減する必要はあったが,なお企業存亡の危機にはなく,引き下げ幅が大きく,代償措置もないことから,能力評価性の導入が合理性を欠き無効とされた,アーク証券(本訴)事件・東京地判平成12年1月31日,経営状態改善のため賃金体系変更の必要はあるが,緩和措置もとられないなど,中高年齢層の不利益は大きく,改訂手続に多数労働者の意見が反映していないことから,業績重視型の賃金体系導入が合理性を欠き無効とされた,キョーイクソフト事件・東京高判平成15年4月24日など参照)。

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諸手当の扱い

年俸制でも,家族手当や通勤手当など必要な手当は支給することができますし,時間外勤務や休日勤務には割増賃金を支払わなければなりません。時間外勤務や休日労働に対する割増賃金を支払わなくともよいのは,管理監督者など(労基法第41条)や,みなし労働時間制の適用を受ける労働者(労基法第38条の2~第38条の4)だけです。
ところで,最近,高額の年俸で(基本給年額2000万円,ほかに裁量業績賞与約5000万円)自己の判断に基づいて業務に従事する労働者について,時間外労働手当は基本給に含まれているという判決がでました(モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件・東京地判平成17年10月19日)。契約書に時間外労働に関する記述がないこと,会社は当該労働者の労働時間を管理しておらず,労働者も独自の判断で活動していたこと,時間外労働手当を支給しないのが業界の慣行であったこと,基本給が高額であることなどの諸事情に照らすと,時間外労働手当は基本給に含まれているというのです。あくまでも事例判断にとどまるのですが,判決が挙示するような事実があると他のケースでも同様の結論がでてくる可能性があります。

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年俸労働者の解雇

年俸労働者を解雇する場合,民法第627条第3項の規定(6か月以上の期間をもって報酬を定めた場合の解約の申し入れ)により,3か月以上前の予告を要します。もとより,解雇が法令に反する差別的なものであったり,濫用にわたるものであってはならないことはいうまでもありません。

こんな対応を!

まず,賃金制度の移行が適正に行われているかどうか,つまり労働者の同意は得たのかどうか,就業規則の改訂によったのであれば,その変更が合理的であるか等を確認することが必要です。
また,年俸制が適用された場合,評価により決定するので評価基準や評価方法をよく知り,適正に運用されているかどうか確認することが必要です。