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3-6 管理職組合からの団体交渉の申し入れには,応じなければならないか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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3-6 管理職組合からの団体交渉の申し入れには,応じなければならないか

質問

先日,既存の労働組合の規約によって非組合員とされている課長級以上の社員数人が,新たに第二組合を結成したとして,団体交渉を申し入れてきました。会社側としては,課長級以上は管理職に当たるので,団体交渉に応じる必要はないと思っていますが,それで問題はないでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 管理職組合が労働組合法上の労働組合に該当する場合には,会社側が団体交渉を拒否することは,不当労働行為となります。
  2. 勤労者の団結権は,憲法で保障された権利であり,労働組合法上の労働組合でなくても,誠実に団体交渉に応じることが必要です。

団交拒否と不当労働行為

労働組合法は,使用者は,「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒む」行為をしてはならないと定めています(第7条第2号)。この規定に違反して団体交渉を拒否した場合には,労働組合側は,不当労働行為として,労働委員会に救済を求めることができます(第27条)。
ただし,このような救済を受けるためには,その前提として労働組合法上の労働組合と認められることが必要です。

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労働組合の要件

労組法第2条は,労働組合の要件について,「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と規定しています。
そして,同法ただし書によって,労働組合に該当しないものを次のとおり列挙しています。

  1. 次の者(以下「利益代表者」といいます。)の参加を許す労働組合
    ア.役員
    イ.雇入・解雇・昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者
    ウ.労働関係についての計画・方針に関する機密事項に接するために,その職務上の義務・責任が組合員としての誠意・責任に直接抵触する監督的地位にある労働者
    エ.その他使用者の利益を代表する者
  2. 使用者から経理上の援助を受けるもの
  3. 福利事業のみを目的とするもの
  4. 主として政治運動・社会運動を目的とするもの

これによると,お尋ねのケースは1に該当し,労組法上の労働組合と認められないのではないかと思われます。

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管理職と利益代表者

しかし,会社の定める管理職が,すべて利益代表者に該当するとは限りません。また,ある一定の職名以上の労働者が一律に利益代表者になるというものでもありません。具体的に,どのような場合が利益代表者になるかの判断は,なかなかむずかしい問題で,結局のところ,労働者の担当する職務の実質的内容に即して,個別的・具体的に判断するほかはありませんが,労働委員会や裁判所はその範囲を厳しく限る傾向にあります。おおまかにいえば,上記イに該当するのは人事権を持つ上級管理者(人事について意見具申するだけの管理職は該当しません),ウに該当するのは労務・人事の部課の管理者などです。
この点,会社側が管理職組合からの団体交渉の申し入れを拒否したセメダイン事件において,中央労働委員会は,人事部,総合企画部,総務部の次長・課長・担当職の一部は利益代表者に該当するとした上で,本件管理職組合は,これらの者を対象者とはしておらず,また実際にも参加していないとの理由で,労組法上の労働組合と認め,会社にこの組合と団交することを命じました。会社はこれを不服として裁判で争ったのですが,結局,最高裁も含めて裁判所は労働委員会命令を維持しました(東京高判平成12年2月29日,最一小決平成13年6月14日)。

法外組合の地位

労組法は,同法の規定に適合する労働組合でなければ,「この法律に規定する手続に参与する資格を有せず,且つ,この法律に規定する救済を与えられない。」と規定しています(第5条第1項)。
それでは,労組法上にいう利益代表者が参加している労働組合に対しては,団体交渉を拒否しても何ら問題はないのでしょうか。
そもそも,勤労者の団結権,団体交渉権,団体行動権は,憲法によって保障された基本的人権であって,労組法上の要件を欠くからといって,労働組合としての実質までもが否定されるものではありません。したがって,労働者が主体となって自主的に組織した労働組合である限り,労働法上の保護はともかく,憲法に規定された権利の保障を受けるのは当然です。具体的にいうと,利益代表者が参加している労働組合は,使用者が団交を拒否した場合,不当労働行為制度による救済(労働委員会による救済)は受けることはできませんが,裁判所による救済は閉ざされているわけではないのです。
更に,利益代表者といえども役員を除けば労働者であることにはかわりはなく,一般の労働者が結成する労働組合には参加は望ましくないとしても(利益代表者が参加すると,その影響を受けて労働組合が「御用組合」化するおそれがある),自分たちだけで労働組合を結成し(管理職組合)自らの労働条件に関して交渉することには問題がないと解されます。
前掲のセメダイン事件東京高判は,使用者の団交義務を定める労組法第7条2号は「労働組合」の文言を用いず,より緩やかな「労働者の代表者」の文言を用いていること,利益代表者も労働者である限り憲法第28条によって団交権等の権利を保障されていること,労組法第7条2号は使用者と労働組合との間の私法的効力をも定めるものであることなどに照らすと,利益代表者の参加を許す労働組合も「労働者の代表者」に含まれるから,仮に同事件の管理職組合に利益代表者が参加していたとしても,そのこと自体は,当然には団交拒否の正当理由とはならないことは明らかであると判示しています。

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こんな対応を!

以上のように,管理職が参加したり組織する労働組合は,すべて労組法上の労働組合には当たらないと即断するのは間違いです。管理職組合が労働委員会から,第2条及び第5条第2項の規定に適合する旨の決定を受けている場合(第5条第1項)は,正当な理由がなく団体交渉を拒めば,不当労働行為に当たります。
また,仮に労組法上の組合でなくても,団交権など労働3権は憲法上の権利ですので,労働者の団体としての本来的要件を満たしている団体から団交の申し入れがあったときには,誠実にこれに応じることが必要です。

更に詳しく

昭和24年制定の労働組合法においても,同様に,利益代表者の参加を許すものは労働組合ではない旨規定されていましたが,それに関して,次のような行政解釈が出されています(昭和24年2月2日 労働省発労第4号)。
「管理又は監督の地位にある者,機密の事務を取扱う者,使用者による労働条件の決定に直接参画する者等,即ち概ね次のものがこれらに該当する。

  1. 総ての会社役員,理事会又は之に類似するものの構成員
  2. 工場支配人,人事並びに会計課長及び人事,労働関係に関する秘密情報に接する地位にある者
  3. 従業員の雇用,転職,解雇の権限を持つ者及び生産,経理,労働関係,対部外関係,法規その他の専門的事項に関する会社の政策決定についての権限を有し或はこれに直接参画する者
  4. 労務部(名称を問わず之に該当する部課)の上級職員
  5. 秘書及びその他の人事,労働関係についての機密の事務を取扱う者
  6. 会社警備の任にある守衛

この行政解釈は,法改正時の通達によって,「改正法第2条第1号の範囲とは解釈上異なるところがない。」とされ,現行法のもとでも判断基準となっています。