このページの本文へ
ページの先頭です。

13-5 自分のミスで会社に損害を与えたが,全額賠償しなければいけないか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

  

 労働相談Q&Aに戻る

13-5 自分のミスで会社に損害を与えたが,全額賠償しなければいけないか

質問

先日,顧客から修理のため預かっていた物品を不注意で壊してしまいました。顧客には,会社が弁償しましたが,社長から,「会社が立て替えた全額を支払ってもらうことになる。」と言われました。従わなければならないものでしょうか。

回答

<ポイント!>

使用者は,従業員が会社の事業の執行について第三者に損害を与えた場合は,自らもその損害を賠償する責任を負います。

使用者も責任を負います

使用者は,従業員が会社の事業の執行について第三者に損害を与えた場合は,民法の規定によって,その損害を賠償する責任を負うので,会社は顧客に対して損害賠償金を支払うこととなります(同法第715条)。

↑ページのトップへ

労働者に対する使用者の求償権は制限されます

この場合,使用者は,自分が第三者に対して支払った賠償金について,もともとの行為者である労働者にその返還を求める(求償する)ことができます。
ただし,学説によると,使用者が労働者に対して無制限に求償することができるとすることは適切ではないとし,権利濫用の法理などを用いて,使用者の求償権を制限しようとしています。
この点,最高裁も「事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他の諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において……求償の請求をすることができる」と判示しています。(茨城石炭商事事件・最一小判昭和51年7月8日)
したがって,会社が従業員に対して求償することが認められているとしても,従業員に故意やそれと同視できるような重大な過失がある場合を除き,全額の求償が認められることはないようです。

こんな対応を!

  1. 顧客に与えた損害額はいくらか,
  2. 損害発生に関して自分の責任割合はどのくらいなのか,
  3. 類似の事例について,これまで社内でどのように扱われてきたか,

を可能な範囲で確認し,弁償額を減額してもらうよう,使用者側と話し合ってみましょう。
ただし,弁償額としていくらが妥当であるかは,非常にむずかしい問題であり,うまく話し合いがまとまるとは限りません。そうした場合は,労働相談機関や弁護士などに御相談ください。

↑ページのトップへ

更に詳しく

使用者責任

民法第715条では,使用者は,従業員が会社の事業の執行について第三者に損害を与えた場合は,その損害を賠償する責任を負うと規定されています。これが,「使用者責任」と呼ばれるものです。
会社が責任を負うといっても,労働者が実際に生じた損害の賠償をする必要がないということではありません。民法第715条第3項には,会社が支払った賠償金について,行為者である労働者にその返還を求めることができる(この権利を求償権と呼んでいます。)と規定されているからです。
ただし,使用者は労働者の行為から利益を得たり,あるいは労働者に危険な活動をさせているわけですから,使用者の求償権を何らかの形で制限しようとするのが一般的な考え方のようです。
なお,従業員が業務遂行過程で行った行為により,第三者ではなく,使用者自身に損害を与えた場合(会社から貸与されているパソコンを壊したなど)についても,判例は同様に考えています。すなわち,使用者は当該従業員に損害賠償を請求することはできますが,「諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」でしか賠償請求できないとしています(前掲茨城石炭商事事件・最一小判参照)。