「元気なひろしま」インタビュー

杉村 佳南 さん
ティーエスアルフレッサ株式会社 地域アクセス・コンサルティング部
広島市出身。管理栄養士、栄養経営士。大学時代は運動生理学を研究し、2017年ティーエスアルフレッサ(株)に入社。低栄養に悩む人や医療・介護現場の声を丁寧に聞きながら、商品開発に取り組む。

「おいしさ」で笑顔になれる栄養補助食品を届けたい
どんな状況にある人にも、食べることは「楽しみ」であってほしい。そんな思いから広島県の補助制度を活用し、乳製品メーカーのチチヤス株式会社と一緒に、おいしく栄養補給ができる『栄養応援アイス』を開発しました。
すっきりとした甘さのアイスは、時間が経っても溶けにくい独自製法。病院や介護施設でも提供しやすく、自宅でもゆっくり楽しめます。地元企業が力を合わせることで、地域の健康に新しい形でアプローチできる手応えを感じています。

地元メーカーが思いに共感して、コラボレーションが実現
入社してからは、病院や介護施設に栄養補助食品などを提案する営業として働いていました。栄養補助食品の主流はゼリーやドリンクですが、少量かつ高カロリー・高脂質なため「甘すぎて食べにくい」「独特の食感が苦手」という現場の声を多く聞いていたんです。
そんな言葉を耳にするたび、「もっと食べるのが楽しみになるような栄養補助食品を届けたい」という思いが次第に強くなっていきました。
転機となったのは2年前です。上司の松村部長から「自分たちだけで作れないなら、誰かと協力したらいい。失敗してもいいから、新しいことに挑戦してみよう」と背中を押され、「食品メーカーさんと連携して理想の栄養補助食品を作ろう!」と考えたんです。
まずは地元の製造会社に相談することから始めました。和菓子や調味料など、さまざまなメーカーとお話をさせていただく中で、チチヤス株式会社とのコラボレーションが決まったんです。
営業の現場で得た「アイスで栄養が摂りたい」というニーズや管理栄養士としての知識、そしてチチヤスさんの商品開発ノウハウを活かしながら、栄養補助アイスづくりへの挑戦を決めました。

おいしく、溶けにくく、栄養たっぷりのアイスを目指して
アイスは溶けやすいため、病院や介護施設では食事と一緒に提供するのが難しく、もし出せたとしても、溶けた状態で食べることになってしまったり、アイスとして味わうには食事より先に食べてもらう必要があったりします。
「アイスで満腹になって肝心の食事から栄養を十分に摂ってもらえない」「溶けた液体が誤嚥を招く危険性もある」といった課題を解決するため、私たちは「溶けにくいアイス」を開発することにしました。

同時に、どんな栄養素を加えるべきかを検討するため、地元のクリニックと連携し、在宅療養患者の方々を対象とした調査を行いました。朝・昼・夕の3食を毎日ご本人やご家族に撮影していただき、アプリで栄養価を算出。毎週ご自宅に伺い、体組成も測定し、2~3カ月かけて不足しがちな栄養素を割り出していきました。
開発にあたり、もっとも重視したのは「おいしさ」です。しかし、栄養素によっては入れすぎると味が変わったり溶けやすくなったりするため、おいしさと栄養の両立には想像以上に苦労しました。
チチヤスさんと重ねた試作は、60回以上にもおよびます。約2年の試行錯誤を経て、ようやくオリジナル商品『栄養応援アイス』が完成しました。

広島県のみならず首都圏や関西からも大きな反響
『栄養応援アイス』の内容量は90mlで、エネルギーは130kcal。甘すぎずさっぱりしたヨーグルト風味と、ふんわりなめらかな食感に仕上げています。
1カップで、高齢の方に不足しがちなタンパク質を5g、1日分のビタミンDを手軽に補給できるほか、アメリカでの食品安全認証制度GRASの認証を所得した「乳酸菌EF-2001」も配合しました。
そして、最大の特徴は「溶けにくさ」。冷凍庫から取り出して約1時間経っても液状にならない独自製法を開発しました。言語聴覚士の先生からも、「中間のとろみ」を嚥下できる人に提供可能という評価をいただいています。
7月に発売した『栄養応援アイス』はメディアに取り上げられたこともあり、発売前から広島県内だけでなく、首都圏や関西からもお問い合わせが多くありました。
実際に食べてくださった方からは、「とてもおいしくて、食欲が落ちていても完食できた」「溶けにくいから焦らずに楽しめる」「経管栄養の家族が、口から味わう楽しみを久しぶりに体感できた」といった声をたくさんいただきました。
中には心のこもったお手紙を送ってくださる方や、わざわざ遠方から展示会まで会いに来てくださる方もいて、涙が出るほどうれしかったです。苦労も数えきれないほどありましたが、「必要とされるものを作れて良かった」と心から報われた気持ちになりました。
『栄養応援アイス』は現在、広島県内の調剤薬局で販売しています。7月7日に発売開始となり、まだ一部の限られた薬局でのお取り扱いとなっていますが、中国地方をはじめ、今後は全国に順次お届けしていく予定です。
お子さんの偏食に悩む親御さんが購入されるケースもあると聞き、私たちが想像していた以上に、さまざまな方の「食べる楽しみ」を応援できていると感じています。

お互いの得意を持ち寄ることで、新しい可能性が広がる
チチヤスさんにとっても初めての取り組みだったにもかかわらず、「一緒にやろう!」と二つ返事で受け入れていただき、本当に感謝しています。そのほかにも、多くの方々が「低栄養で困っている人のために」と力を貸してくださいました。
この事業は広島県の補助金制度を活用しましたが、申請書類の書き方に悩み、毎日県庁に足を運んでいたんです。担当課の方々は書類作成のサポートだけでなく、「在宅療養者さんを調査すると、さらにニーズが分かるのではないか」と具体的な提案もしてくださいました。こうした親身な伴走に、何度も助けられました。
さらに、商品を広く流通させるため、冷凍品の物流に強い商社さんにも飛び込みで商談に行きました。普段はライバルの立場にもかかわらず、「求めている人がたくさんいるはずだ」と取り扱いを決めてくださったときは、胸が熱くなりました。
現在、県内の食品メーカーと協力して、新たな食品開発にチャレンジするために動き出しています。おいしいものを食べると、体だけでなく心も元気になりますよね。私たちだけでできることには限りがありますが、地元企業や行政と力を合わせることで、新たな「おいしさ」や「楽しさ」を生み出し、地域の活性化につなげていきたいと思います。
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