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「風土」あっての酒づくり 消えゆくタカラを残したい

「風土」あっての酒づくり 消えゆくタカラを残したい

株式会社今田酒造本店 代表取締役/杜氏

今田美穂 さん

2022年8月25日

メインビジュアル

技術の進歩とともに、世界各地に広がる小酒蔵の酒たち

個性豊かなお酒の数々

広島杜氏発祥の地と言われる東広島市安芸津町。瀬戸内海に面した港町にある小さな酒蔵、「今田酒造本店」からは、個性豊かなお酒の数々が国内、さらに世界20カ国にまで送り出されています。​

地元の名産・カキに合う日本酒がコンセプトの「海風土(シーフード)」、長年途絶えていた広島の酒米を復活させた「HATTANSO(八反草)」シリーズ、地元メーカーの精米技術を前面に出した「サタケ」シリーズ…。いずれも、4代目蔵元・杜氏の今田美穂さんが、「富久長」の名で知られる明治元年創業の家業に飛び込んでから生み出したお酒です。​

富久長

「技術は洗練され、進歩していくべき。同じことをやるのは退化だし、新しいものを創らなければ」。それらのお酒からは、今田さんの酒造りの信念を感じることができます。

酒造りを支える「土台」。故郷に戻って気づいた豊かさ

今田酒造本店入り口

28年前、今田さんは東京での会社員生活に終止符を打ち、後継問題が勃発した実家に戻りました。一度は飛び出した故郷ですが、酒造りに没頭するうちに、気づいたことがあると言います。「瀬戸内海には、海の幸も野菜も果物も、一年を通じて何かの旬がある。こんなところは他にない」。

幼い頃から実家に魚を売りに来るおばさんは、魚に触れただけで、活きの良さがわかるそうです。季節による繊細な味の変化がわかる人たちが、この酒を飲み支えてきたことを、大人になってから知ったと今田さんは振り返ります。「そういう風土が、吟醸酒の旨味、綺麗な香りと軟水ベースの口当たりの優しさに収斂していく。そんな味わいこそ未来につなぎたい」。

颯爽と羽織る今田さん

しかし最近、そうした風土を形作ってきた1次産業の衰退を、目の当たりにし、悩んでいると言います。「夏のおかずは手作りの干しエビが定番だったけど、最近は職人不足で手に入らない。酒造りの土台となる、地元の味そのものが崩れている気がして」。

酒造りに向かないと言われた軟水での醸造法を確立した先人たち。広島では皆そうして困難を技術で乗り越えてきた強みがあります。足元の財産をどう守りつないでいくか、業種を超えて議論し、明日の広島につなげたいと今田さんは考えています。

今田酒造本店杉玉

紹介人物画像

今田美穂(いまだみほ) さん

株式会社今田酒造本店 代表取締役/杜氏

広島県東広島市安芸津出身。大学進学を機に上京し、アーティストの展覧会や能楽など舞台に関わる仕事に就く。1994年に帰郷後、普通酒の生産終了等の経営判断を行い、「味で選ばれる酒」に向け舵を切る。また、酒を造る杜氏になり、安芸津らしい酒を造りたいとの思いから、広島生まれの酒米「八反草」を使った酒を造って看板商品に。その後も伝統と革新を両立させた日本酒造りを行い、様々な商品を生み出している。英国BBC放送の2020年「今年の女性100人」に日本人として唯一選出。世界からも注目を集めている。