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声を掛け合うだけで、その地の印象は大きく変わる

声を掛け合うだけで、その地の印象は大きく変わる

雪月風花 福智院 店主
ひろしま食べる通信 副編集長

吉宗 五十鈴 さん

2022年3月29日

メインビジュアル

「カメラ女子」に来てもらい、まちを楽しく​

吉宗さん写真1

三重県出身の吉宗さんは、2004年、結婚を機に世羅町に移住。夫の誠也さんが営む観光農園「世羅高原農場」では、農場での作業の他、ホームページや広報も担当していました。
ホームページ用の写真を探していたときのこと。写真をもっと上手く撮りたいと思うと同時に、「もっと気軽に写真を楽しみたい。同世代の女性と一緒に農場の写真を撮りたい」と思ったそう。2011年、写真家とともに世羅高原農場や近隣市町を巡る、女性限定の撮影会を企画。「カメラ女子」に美しい花畑を撮影してもらい、SNSなどで発信してもらうことで、イメージアップやPRにつながると考えたのです。撮影会は大成功に終わり、翌年以降は、参加者が世羅の農家民宿に宿泊したり、バスで町内を周遊したりするツアー「世羅高原カメラ女子旅」も企画・開催することに。有名な写真家と一緒に世羅高原の撮影ができるとあって、関西や関東、九州から「カメラ女子」が集結し大盛り上がり。「参加者と地域の人たちが交流。農家民宿で、夜、飲み会が開催されたり、ワイナリーで醸造長と会話がはずんだりと、とても楽しそうな姿を見てうれしかったです」
「世羅高原カメラ女子旅」は、その後も活動を続け、発足して今年で10年。ここ最近はコロナ禍で活動ができていませんが、今後も撮影ツアーなどを続けていく予定です。

「当たり前」になっていた地域の魅力を積極発信

吉宗さん写真2

あるとき、母子手帳の発行数より、町内放送で数件流れるお悔やみの数の方が多いのではと気付いた吉宗さん。「世羅に住んでいる人が減っていくという危機感を持ちました。お客さんに来ていただき、地元で経済を回さないといけないと思いました」と振り返ります。
世羅には、農業の6次産業化で地域活性化を目指す「世羅高原6次産業ネットワーク」があります。吉宗さんは運営マネージャーとして2015年から約3年間、情報発信を中心に活動しました。72の団体が所属する同ネットワークで多くの人と交流する中で、「例えば、世羅のお米や梨がとてもおいしいことが、世羅の人にとっては当たり前になっている」と気付きます。それではもったいない、ならば移住してきた自分が代わって魅力を伝えようと、積極的に情報発信。世羅の特産品や生産者のことを、より深く知ることもできました。
2016年、食の作り手を紹介する食べ物つき情報誌「食べる通信」が広島でも創刊。同誌の取り組みに関心があった吉宗さんは、資料作りのため農場を訪れた編集長に「誌面制作に関わりたい」とアピール。副編集長として、取材対象者の人選やコーディネート、取材などを担当するようになりました。今まで紡いだ人とのつながりを発揮し、今も紙媒体での情報発信を続けています。

世羅や広島の食材、世羅のお茶。市街地にも観光スポットを

吉宗さん写真3

吉宗さんの夫・誠也さんは、「観光農園がある山間部だけでなく、世羅の市街地にも観光スポットを」と考えていました。そこで、築約170年が経ち、傷んでいた今高野山の宿坊の改修に着手。しかし、農場の規模が拡大し多忙を極め、改修後しばらくは何もできずにいました。せっかく手をかけて改修したのに、放置していては屋内が傷んでしまうと思った吉宗さんは、誠也さんに代わってこの空間を使うことを決意。「世羅のものを提供したい」「誰もやっていない、世羅在来茶を出す店にしたい」と2018年にオープンさせたのが、日本茶カフェ「雪月風花 福智院」です。提供するのは、世羅での活動やひろしま食べる通信の取材で出合った食材を使ったメニューや、香り高い世羅在来茶。持ち前の情報発信力でPRしていくと、多くの人が世羅観光と一緒に福智院に立ち寄るようになりました。
コロナ禍でも、車のアクセスが良く、野外・自然のイメージがある世羅には、県内のお客様が訪れるように。大型バスのツアーでやってくる人たちが減り、逆にマイカーを使い少人数で訪れる人が増え、個性的な世羅の魅力が再認識されていきました。農場の花が見ごろになると、観光協会が各施設に『●分咲き』と連絡してくれたり、施設側がパンフレットを設置してくれたり。コロナ対策で農場が閉園を余儀なくされたときは、「カメラ女子旅」のメンバーが花を購入して支援してくれたことも、忘れられない出来事でした。

人と人のつながりを大切にした関係づくり

吉宗さん写真4

吉宗さんの歩みにはいつも「人」との関わりがあり、そのつながりをここ世羅でどんどん強固にしています。「カメラ女子旅」参加者が世羅の人とつながることで、世羅を第二のふるさとのように思ってもらったり、「ひろしま食べる通信」を介して広島のものを食べてもらうことで生産者の方に親しみを感じてもらったり。福智院でも、お客様にできるだけ声掛けをするようにしているそう。人と人が出会い、声を掛け合うだけで、その地の印象は大きく変わるものだと考えるからです。毎日発信するSNSでは、「いいね」の数を気にするのではなく、来てほしい人のことを思い浮かべ、その人に届くような内容を心掛けています。
「わが子が将来、県外に出たとしても、広島はいいところだと思ってもらいたい。帰って来られる場所を残しておきたい。世羅に移住してきた人には、いろんな人を紹介したいし、移住者同士でつながるお手伝いもしたいです」。移住者として世羅に来て、たくさんの人との縁を紡いできた吉宗さんだからできること、分かることがあります。
かつて、世羅の人口が減って行く現状を憂い、「地域で人が交流し、人を呼び込みたい」と思った吉宗さん。その願いは、声を掛け、人との関わりを大切にしてアクションを起こしてきたことで、少しずつ実現しています。

紹介人物画像

吉宗 五十鈴(よしむね いすず) さん

雪月風花 福智院 店主
ひろしま食べる通信 副編集長

女子限定撮影会「世羅高原カメラ女子旅」の運営、食べもの付き定期購読誌「ひろしま食べる通信」副編集長、人気カフェ「雪月風花 福智院」の経営など、世羅から広島を舞台に積極的に活動中。その原動力は、世羅の人口が減っていることへの危機感と、母として子どもたちに「いいところに住んでいること」を感じてもらいたいとの思い。人との関わりや声掛けを大切にしながら、世羅の美しい写真と共に情報発信を続け、リアルでもオンラインでも、たくさんのファンを獲得している。