1-2-3.成羽川ブロック河川環境に関する現状と課題
成羽（なりわ）川ブロックには，多種多様な動植物の生息・生育環境のほか，帝釈峡（たいしゃくきょう）のように周辺環境と一体となった河川環境が形成されています。この豊かな自然環境を維持・継続するとともに，人と川とがふれあうことのできる川づくりを進めていく必要があります。以下に，成羽（なりわ）川ブロックの河川環境の現状について示します。
（1）水質
成羽（なりわ）川及び帝釈川が，水質環境基準のＡ類型（ＢＯＤ75％値2mg/リットル以下）に指定されています。対象河川内の５ヵ所の水質観測結果によれば，近年10ヶ年（平成元年～10年）のＢＯＤ（75％値）は，ほぼ環境基準を達成しており，水質については概ね良好な状況にあると考えられます。しかし，地域住民へのアンケート調査によると，多くの方々が従来より河川の水質が悪化していると意識しており，住民による水質改善のための取り組みも行われています。
ブロック内の多くの地域を占める東城（とうじょう）町では，平成７年３月に「東城町水道水源保護条例」を制定し，良質な水源の確保と水質の汚濁防止の取り組みを始めており，合併処理浄化槽の設置の推進，公共下水道事業の早期供用開始など，水質向上のための各施策を展開しています。
ＢＯＤ(75％値)の推移を下図に示します。
図-1.2 BOD（75％値）の推移
（2）生物
上流域には，成羽（なりわ）川の源流であり，国定公園である道後（どうご）山がそびえ，その低木群落としてリョウブ，コマユミ，カシワ，ヤマウルシなどの植物が繁茂し観光地として多くの人が訪れています。その山間部を流れる道後川や持丸（もちまる）川の沿川は集落も少なく，国指定特別天然記念物であるオオサンショウウオのほかゲンジボタルも確認されています。また，山地特有のアマゴや絶滅危惧種に挙げられているゴギも生息しています。
中流域には成羽川を挟んで東城（とうじょう）町の市街地が広がっていますが，河岸や砂州にはクズやツルヨシが繁茂し小動物の生息の場となっているほか，アオサギなども飛来し，魚を捕食する様子が見られます。夏期には漁が解禁になり，街中の早瀬や平瀬がアユ釣りを楽しむ人で賑わいます。
下流域では，帝釈峡（たいしゃくきょう）をはじめ，神石（じんせき）町の星居（ほしのこ）山，油木（ゆ き）町の権現（ごんげん）山，豊松（とよまつ）村の魚切（うおぎり）渓谷が鳥獣保護区として指定されています。なかでも帝釈峡は，鳥獣保護区の特別保護地区であるほか，国定公園にも指定されており，ミヤマイラクサ，コクサギ，ヤマブキなどの峡谷植生が繁茂しています。動物では，帝釈川の上流部の湿地には，日本一小さなトンボであるハッチョウトンボが生息するほか，帝釈川ダムのダム湖周辺にはカワセミなどの水辺の鳥が多く，絶滅危惧種にもあげられているカワシンジュガイの生息も確認されています。
（3）河川空間及び利用状況
東城町の市街地付近は，比較的平地が開け河川沿いにも家屋が密集しています。そのほかは，全体的に山地が迫っており，わずかな平地に宅地・水田などが点在している状況です。
帝釈川中流部の帝釈峡は，カルスト台地のため長年に渡る雨水の侵食を受けて窪地となったポリエやドリーネのほか，国指定天然記念物である雄橋（おんばし）のように特殊な地形を形成しています。また，帝釈川ダムの湖水開きのイベントや，遊覧船や遊歩道を利用して，四季折々に自然の織りなす雄大な景色を楽しむことができ，多くの観光客が訪れています。また，仁吾（に ご）川の魚切渓谷では，冷涼な気候と清涼な川の水を利用し，豊松（とよまつ）村が地域住民と協力してゲンジボタルの生息できる環境作りに取り組んでおり，夏場にはホタル祭りが開催されています。
（4）歴史・文化財・伝統芸能
流域の歴史は古く，帝釈台地を中心とした帝釈峡（たいしゃくきょう）遺跡群から2万年前の刃器，縄文・弥生期の土器や遺物が多数出土しています。帝釈峡遺跡群の遺跡は，馬渡（まわたり）川，未渡（みど）川などを含む帝釈川流域の上流域と粟田（あわた）川，戸宇（とう）川などを含む成羽（なりわ）川(東城（とうじょう）川)流域の二つの群からなっています。
文化財・伝統芸能としては，成羽川（戸宇川合流点上流～粟田川合流点下流）の河床に，県指定天然記念物の甌穴（おうけつ）（ポットホール）があるのをはじめ，帝釈川の雄橋（おんばし）などが存在します。また，比婆荒神神楽（ひばこうじんかぐら）（東城町・西城（さいじょう）町・油木（ゆき）町），東城の大山供養田植（だいせんくようたうえ）（東城町）などがあり，地域の暮らしや祭りを通じて伝承されています。