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新規の育種法導入による輸出用清酒の品質向上に寄与する清酒酵母の開発

印刷用ページを表示する掲載日2023年10月27日

山崎梨沙、荒瀬雄也、大土井律之

1 背景

 大正期に広島の酒蔵から分離された広島6号酵母(H6)は、現在主流の協会系酵母とは遺伝的に近縁ながら、協会系酵母が持たない胞子形成能を持つ稀有な菌株です(図1)。発酵性はやや緩慢ですが、清酒醸造に十分使用可能な発酵力を有しています。また、清酒の貯蔵劣化臭の主要成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)の生成量が少ないという優れた特徴が見出されました1)。H6の胞子形成能と貯蔵劣化臭低生産性を活用し、従来の清酒酵母では困難であった交配育種を行い、製成酒の貯蔵劣化臭の生成が緩やかな実用酵母の開発を目的として研究を実施しました。

図1胞子形成顕微鏡写真

2 方法

 図2に示す交配育種手法を開発し、育種を実施しました。
 まず初めに、H6の一倍体と優れた醸造特性を持った協会系酵母の一倍体との交配株を胞子形成させ、四分子分離を行いました。得られた一倍体2)の醸造特性と貯蔵劣化臭低生産性を選抜指標とし、交配に用いる一倍体を選抜、交配株の取得を試みました。
 得られた交配株を小仕込み試験で選抜した後、選抜株2株を総米100kgのパイロットスケール醸造試験に供試し、醸造特性と貯蔵劣化臭生成について、実規模での実証を行いました(対照株:広島吟醸酵母13BY)。

図2広島6号酵母を活用した交配育種手法

3 結果

  1. 醸造特性
     もろみ経過については、対照である広島吟醸酵母13BYよりも後半の酵母死滅率が低く、発酵力が高い傾向が見られました(図3)。また、製成酒は、アミノ酸度が低く、リンゴ酸の生成量が多い「軽快でさわやかな酒質」でした(表1)。得られた交配株が清酒醸造に使用可能な菌株であることが確認されました。
    図3発酵経過(比重)・表1製成酒分析値
  2. 貯蔵劣化臭生成
     交配株の製成酒のDMTS生成ポテンシャル(70℃1ヵ月貯蔵酒のDMTS生成量)は閾値以下でした(図4)。さらに、製成酒の45℃貯蔵を行ったところ、対照株と比較して、有意にDMTS生成速度及び生成量が小さい傾向が確認されました(図5)。同じく45℃3ヵ月貯蔵した製成酒の官能評価を行ったところ、「硫黄様の香り」が対照と比較して有意に低いという結果が得られました(図6)。交配株による製成酒のDMTS生成が緩やかである理由については考察中ですが、もろみ中の酵母死滅率が低いこと等が原因であると推察しています。
    図4DMTS生成ポテンシャル・図5DMTS生成量・図6官能評価「硫黄の香り」

4 食品企業へ向けたPR

 得られた交配株は、高泡形成能を有しているため、泡なし化を施した株を取得し、実規模での確認を行っています。新酵母の醸造特性の確認が終わり次第、酒造会社様に使用していただけると考えております。輸出用の製品や常温流通製品などへの活用が期待されます。

 

※本研究は、JST研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEPトライアウトの支援を受けて実施されたものです。

 

【参考文献】

1) R. Yamasaki, et al.: Biosci., Biotech., Biochem., 84 (4), 842-853 (2020)

2) R. Yamasaki, et al.: J., Biosci., Bioeng., 129 (6), 706-714 (2020)。

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