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果皮酢製造技術の開発と商品化

印刷用ページを表示する掲載日2023年3月20日

坂井智加子,藪宏典,大坂隆志

1 背景

 広島県は柑橘の生産が盛んであり,地元産の「柚子」や「橙(だいだい)」などの柑橘果汁を使ったポン酢等が作られています。柚子や橙の搾汁率は15~20%と低く,搾汁残渣が大量に発生します。果皮の一部は利用されているものの,大半は廃棄または堆肥化されており,未利用果皮を活用したい要望がありました。また,ポン酢は,果汁,醤油や出汁などを混ぜ合わせ製造しますが,果汁の酸度によっては,醸造酢を加えて調整する必要があり,醸造酢由来の香りが立ち,柑橘の香りが乏しくなってしまうことがあるため,ポン酢の柑橘の香りを増強したい要望がありました。そこで,当センターでは2013年度に,柚子を含む柑橘の果皮を原料に酢を製造する技術の開発に取り組みました。

2 方法

 柑橘由来の香りを減衰させないため,酢の製造のための酢酸発酵は,アルコール添加による静置発酵を選択することにしました。果皮酢の製造工程は,図1に示すとおりとし,果皮を液状化するための酵素剤選定と酢酸発酵する菌株の選定を行いました。

図1 果皮酢製造工程

3 結果

(1) 果皮の液状化

固形である果皮を液状化するため,果皮にセルラーゼやペクチナーゼなどの酵素剤を作用させて,回収率と香りが良い酵素剤を選定しました(図2)。酵素剤は,ペクチナーゼやヘミセルラーゼの分解が良好でした。また,セルラーゼを加えることで,分解率の向上が見られました。

図2 柚子果皮(冷凍品)細断物の酵素反応後の分解率

分解率(%):{(初発の乾燥果皮重-乾燥果皮重)/初発の乾燥果皮重}×100

(2)酢酸発酵

 果皮を液状化した液にエタノールと種酢を加えて,酢酸発酵を行いました。酢酸菌株は,Acetobacter aceti (NBRC14818),企業から提供を受けたAcetobacter pasteurianus(以下,提供菌株),Acetobacter pasteurianus(NBRC3283)の3株を用い,そのうち,Acetobacter pasteurianusの2株が酸添加培地でも生育することを確認しました。発酵終了日は,エタノール濃度が1%以下になった時点として発酵させたところ,提供菌株では8~11日,NBRC3283株は8~23日で,使用する酵素剤によって異なりました。

(3) 果皮の特徴について

試作品の柚子果皮酢の官能評価では,酵素剤の種類により,苦みや雑味や旨味などの味や香りの違いがありました。劣化臭が感じられるものもありました。また,選定した酵素剤で製造した柚子果皮酢は,旨味が強く,やや苦く,塩味があり,柚子の香りがする評価でした。また,旨味成分としてアミノ酸濃度を米酢や穀物酢と比較したところ,アスパラギン酸,グルタミン酸,アラニン,GABAが多く検出されました。

4 商品化

 尾道造酢株式会社から,橙果皮を原料にした酢を製造したいとの要望を受け,技術移転を行いました。橙果皮酢は,酸っぱくて苦く,橙特有の風味をもつ酢となりました。

また,橙果皮酢の販売にあたり,ひろしま感性イノベーション協議会の支援により,感性工学を活用してKAHISU®が販売されました。

KAHISUの写真

写真 KAHISU®

5 食品企業に向けたPR

(1) 未利用資源の活用に貢献できます。

 通常廃棄されていたものの価値を見直すことが出来ます。柚子果皮や橙果皮だけでなく,他の柑橘にも応用できます。

(2) 通常の酢では味わえない新しい味覚です。

 通常の酢にある酸味に加えて,原料由来の苦味が加わります。柑橘の苦味をもたらす成分は,ポリフェノー類ルやリモノイド類です。

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