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高温登熟障害に強い多収穫酒造好適米の開発について

印刷用ページを表示する掲載日2023年3月20日

*荒瀬 雄也,大土井律之,山崎梨沙,大場健司

*本研究は,広島県立総合技術研究所農業技術センター,農研機構西日本農業研究センター,広島県酒造協同組合,JA全農ひろしま及び広島県穀物改良協会と共同で実施しました。発表者は,当センターの関係者のみ表示しています。

1 背景

 清酒は国内での地域間競争があり,香味決定に重要な酵母や原料米の開発については,地域の公設試験研究機関や大手酒造会社による研究開発が行われています。

 平成24年に県内酒造業界からの新品種開発への強い要望を受け,県内酒造好適米(酒米)生産者の競争力強化を図るとともに,酒造業者の活性化につながる「酒どころ広島らしい高品質な“売れる酒”」の新たな製品化・ブランド化を促進するために,広島県の栽培環境に適し,かつ県内酒造業者のニーズに適した酒米の新品種の開発を実施しました。

 酒米の開発目標は,酒造会社へのニーズ聞き取りによって次の4項目に決定しました。

1.収量性の高い「八反錦1号」を上回る多収性,2.高温登熟障害耐性(高温下で登熟(穀物の種子などが,出穂後成熟していくこと)した場合に,玄米品質の低下(図1)及び溶解性(米の溶けやすさ)の低下が生じにくい特性)を有し,3.心白の大きさ(図2)が高精米によって割れない「小」~「中」程度,4.主要な酒米である「山田錦」以上の溶解性。

米の写真
図1 登熟期に高温条件で栽培した酒米(上)と普通条件で栽培した酒米(下)
登熟期に高温で栽培した米には未熟粒(乳白米,基白米,背白米)等が多く発生している。
未熟米は,胚乳部分のデンプン蓄積が不良となることで発生する。

図2 米の断面図の写真

2 方法

 開発目標を満たした系統を効率的に選抜するために,少量の試料(約2g)で醸造適性(消化性)の評価が可能な簡易的な評価技術を確立し,開発初期から,消化性や高温登熟耐性等の醸造適性を確認しながら開発を進めました。個体及び系統は集団育種法によって選抜を進め,新たな酒米「広系酒44号」及び「広系酒45号」を開発しました。

3 開発品種の系譜

 「広系酒44号」は,交配親として「八反錦1号」や「こいおまち」「蔵の華」といった「八反」,「雄町」および「山田錦」の特徴を受け継いだ系譜です(図3)。

「広系酒45号」は,溶解性に優れる「改良雄町」と,高温登熟耐性に優れる「西南136号」を交配して育成された品種です(図3)。
図3 開発した酒米の系譜

4 開発品種の特性

 「広系酒44号」の特性について,心白は目標通りの「中」程度の大きさでした(表2)。収量性は対照の「八反錦1号」よりもやや劣っていましたが,施肥条件の改良により収量性の改善が見込めます。(表)高温登熟試験では整粒粒比が「八反錦1号」よりも高かったことから,高温登熟耐性に優れると考えられます(図4)。

 「広系酒45号」の特性について,心白は目標よりもやや大きめですが(表2),収量は「八反錦1号」と収量は同等か,やや多収でした(表1)。高温登熟試験では登熟期が同時期である「山田錦」よりも整粒粒比が高い傾向であったことから,高温登熟耐性に優れると考えられます(図4)。

表1及び表2の画像

図4 高温登熟における整粒粒比

 県内各産地で栽培した新品種両品種の消化性Brixの複数年での比較結果を,図5に示しました。「広系酒44号」及び「広系酒45号」では,「八反錦1号」や「山田錦」と比較して高い消化性を複数年で確認することができました。また,図中のエラーバーは年次変動を示しており,新品種両品種の年度変動は小さい結果でした。令和2年度,本県は早生品種の登熟期の気温が高く推移し,「八反錦1号」は高温登熟障害によって消化性が低下しましたが,同圃場で同時期に登熟した「広系酒44号」は消化性の低下が見られませんでした。同年,「山田錦」も高温登熟障害によって消化性が低下しましたが,同圃場で同時期に登熟した「広系酒45号」は消化性の低下が見られませんでした。

図5 新品種の蒸米消化性Brix値

5 パイロットスケール醸造試験結果

 両新品種及び対照品種に「八反錦1号」を用いてパイロットスケール(原料米量100kg)醸造試験を実施しました。各試験区のもろみ経過(BMD曲線)を図6に示しました。「広系酒44号」は,もろみ初期の溶解は「八反錦1号」よりも高く推移しました,もろみ後期の溶解は「八反錦1号」よりも低く推移しました。もろみ初期の傾向は消化性試験と同様の傾向でした。最高BMD値は「八反錦1号」が50だったのに対して,「広系酒44号」は53でありやや高い傾向でした。「広系酒45号」は,発酵期間を通じて高い溶解性を示しました。最高BMD値は57で,供試した3品種の中で最大でした(図6)。

図6 醸造試験経過 BMD曲線

 製成酒の官能評価を実施したところ,香りに関しては,対照含め3品種で大きな差は認められませんでしたが,味に関しては「八反錦1号」が「メリハリのある味わい,苦味,線細い」という評価だった一方で,「広系酒44号」は「口当たり柔らか,丸みある,なめらか,苦味残る」,「広系酒45号」は,「まとまりある,まるみ,なめらか,ふくらみ」という評価でした。新品種の製成酒は,高い溶解性を反映した酒質でした。

6 食品企業へ向けたPR

 「広系酒44号」及び「広系酒45号」で醸造した製成酒は,「ふくらみある,なめらか」な味わいになります。「広系酒45号」は,今後,奨励品種として登録を行うこととしています。「広系酒44号」は,今年度に希望する県内酒造会社で醸造試験が実施されており,その試験結果によって,今後の扱いを検討する予定となっています。

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