このページの本文へ
ページの先頭です。

広島県内製造味噌から分離した耐塩性酵母Zygosaccharomyces sp.のシュムー形成による接合性評価

印刷用ページを表示する掲載日2022年1月11日

藤原朋子

1 背景

 味噌や醤油の製造には,耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxii等が利用されており,それら酵母の発酵により,アルコールや香気成分が生成されます。食品工業技術センターでは,広島県内で製造された味噌から,多様な特性を有する蔵つきの耐塩性酵母を分離し,保有しています。

 安定したアルコール生成や香りの改善を目的として実用酵母株を開発するとき,性質の異なる株をかけあわせて新しい酵母をつくる交雑育種が有効な方法となります。酵母の交雑には,接合性aと接合性αの二つの細胞が出会うと接合し,一つの細胞となる接合現象が利用されます。保有する耐塩性酵母株を交雑育種資源として活用するためには,接合性が明らかとなっている必要があります。

Z. rouxiiに分類されている種には,Z. rouxii基準株と同様に一倍体の基準株グループと,接合能を有する異質二倍体のハイブリッドグループが含まれています(図1,*1と*2)。ここでは,異質二倍体をZygosaccharomyces sp.と表示します。接合性aと接合性αの細胞は,接合しようとする際,接合に伴う細胞融合に必要な接合突起を形成した細胞であるシュムーを形成します。保有するZygosaccharomyces sp.について接合性を判定するため,シュムー形成を指標として評価する最適な条件を決定しました。

Zygosaccharomyces rouxiiについて

図1 Zygosaccharomyces rouxii について

本研究は,公益財団法人高木俊介パン科学技術振興財団2020年度研究助成を受けて行いました。

2 方法

 接合性既知株として,接合性аにはNBRC1877株を,接合性αにはNBRC1876株を用いました。報告されている醤油麹抽出液を用いた共培養条件*3を参考に,シュムー形成が高頻度でみられる条件を検討しました。NBRC1877株とNBRC1876株の共培養により,検討項目は,培地条件(窒素源,グルコース濃度,食塩濃度,pH)及び培養温度とし,培養3~5日後に顕微鏡観察でシュムー形成度を確認しました。

 決定した条件で,Zygosaccharomyces sp.供試株とNBRC1877株またはNBRC1876株を共培養し,接合性аのNBRC1877株とシュムーを形成し,接合性αのNBRC1876株とではシュムーを形成しない場合,供試株は接合性αと判定し,逆に,接合性а株とシュムーを形成せず,接合性α株とシュムーを形成する供試株は接合性аと判定しました(図2)。

図2接合性判定例

図2 接合性判定例

図中のバーは20μmを示す。矢印はシュムーを指す。

3 結果

(1)シュムー形成が多くみられる,接合性評価の共培養条件を,培地を0.1%酵母エキス,0.2%ポリペプトン,5%グルコース,5%NaCl,pH5.0,培養温度25℃と決定しました(表1)。

表1 接合性評価のための共培養条件検討結果

表1接合性評価のための共培養条件検討結果

シュムー形成度は,目視により,+++(シュムー多数),++(シュムー多め),+(シュムー有り),-(シュムー無し)を判断しました。

(2) Zygosaccharomyces sp.の27株について,接合性aと判定した株が9株,接合性αと判定した株が18株で,全ての株を決定した条件で評価できました。

4 食品企業に向けたPR

広島県の蔵つきの耐塩性酵母株を保有しています。これら保有株の特性を明らかにし,活用する取組みを進めています。保有株のご利用について,Zygosaccharomyces rouxiiの交雑育種による酵母開発について,ご相談や一緒に取組みを進める等対応が可能ですので,お気軽にお問合せください。

引用文献

*1 茂木亮介,渡部潤,上原健二,茂木喜伸,月岡裕一郎 (2019). Zygosaccharomyces rouxiiのゲノム解析(2)~異質二倍体Z. rouxiiのゲノム解析と接合型決定機構~,醤研,45, 191-198.

*2 Watanabe, J., Uehara, K., Mogi, Y., Tsukioka, Y. (2017). Mechanism for Restoration of Fertility in Hybrid Zygosaccharomyces rouxii Generated by Interspecies Hybridization. Appl. Environ. Microbiol, 83, e01187-17.

*3 Mori, H. and Onishi, H. (1967). Diploid Hybridization in a Heterothallic Haploid Yeast, Saccharomyces rouxii. Appl. Microbiol, 15, 928-934.

 

おすすめコンテンツ