食材への物質含浸技術の開発 ~凍結含浸法,高温急速含浸法,常圧含浸法~
柴田賢哉,谷本暁,坂本みのり,宮地夏奈,角本由梨佳
背景
当センターは,平成14(2002)年,形状ある食材に酵素等の物質を急速に導入する方法「凍結含浸法」を開発しました。この技術を使用して製造した「凍結含浸食」は,超高齢社会が進展する中,見た目の良い介護食品として注目されています(図1)。当センターでは,この20年間,食品企業と連携して製品化を進めるとともに,含浸技術のブラッシュアップを図り,生産性の高い含浸技術,簡易な含浸技術など,新しい物質含浸方法を開発してきました。次項以降で,その概要を紹介します。
図1 従来の介護食(ミキサー食)と凍結含浸食の見た目の比較
3つの物質含浸方法
当センターで開発した物質含浸方法は,3つに大別されます(表1)
表1 3つの物質含浸方法
3つの物質含浸方法を使って食材に酵素を含浸し,介護食用のやわらか素材を製造する工程比較は図2のとおりです。含浸工程での「加熱の有無」及び「減圧の有無」に差があります。
図2 酵素含浸素材の作製工程
含浸までの手順の違いは(1)~(3)のとおりです。酵素含浸後は,食材内で酵素を反応させて軟化し,加熱して酵素失活,殺菌を行います。
(1)凍結含浸法
凍結後に解凍した食材を酵素液に浸漬して減圧します。大気圧の1/10以下の減圧下で約5分間処理し,食材内の空気を排出します。減圧から常圧に圧力を戻して酵素液を含浸します。
(2)高温急速含浸法
加熱した高温食材を酵素液に浸漬して減圧します。大気圧の1/10以下に減圧し,食材内の空気と水蒸気を急激に排出します。圧力速度を制御しながら常圧に圧力を戻して酵素液を含浸します。
(3)常圧含浸法
加熱した高温食材を低温の酵素液に浸漬します。高温食材を常温まで急速に冷却させて,酵素液を含浸します。
3 含浸方法の比較
3つの物質含浸方法には,大きく3つの違いがあります。
(ア)含浸処理前に,凍結・解凍工程が必須であるか
(イ)含浸処理直前に食材を加熱して高温のまま含浸処理するか
(ウ)含浸処理に減圧操作を必要とするか
この違いにより,各方法で含浸できる食材の大きさ,含浸に必要な時間,物質含浸量が異なります(表2)。介護食製造では,3つの方法を駆使することで,様々な食材の種類や大きさに対応できます(図3)。
表2 含浸食材の比較(鶏ムネを肉を例として)
図3 凍結含浸法で軟らかくした食材
4 食品企業に向けたPR
(1)やわらか食の製造
食材に酵素を含浸して酵素分解することで,見た目の良いやわらか食が製造できます。食事には,見て食べて美味しい,加えて具材感が欠かせません。
(2)高付加価値食品の製造
食材に物質を含浸して食材価値を高めます。何を含浸してどのような食材に加工するかはアイデア次第です。含浸食品のことなら当センターにご相談ください。