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味噌から分離した蔵つきの耐塩性酵母について

印刷用ページを表示する掲載日2021年1月28日

藤原朋子

1 背景

味噌中のエタノールや香気成分は,耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxii等の発酵により生成されています。品質の安定した味噌を製造する目的で,仕込時に,培養した耐塩性酵母の添加が行われている一方,蔵つきの耐塩性酵母を利用した味噌製造も行われています。広島県の酵母資源として活用を図ることを目的に,広島県内で製造された味噌から分離した蔵つきの耐塩性酵母の特性を明らかにしました。ここでは,多様性が顕著であったA製造所の蔵つき酵母について特性を示します。

本研究は,公益財団法人高木俊介パン科学技術振興財団2020年度研究助成を受けて行っています。

Zygosaccharomyces rouxiiについて予備知識*1】

・味噌や醤油の主発酵酵母です。

・味噌や醤油から分離された株(NBRC1876,NBRC1877等)は接合能を回復した異質二倍体と確認されています。

・上記株のゲノムサイズは基準株の約2倍であり,基準株ゲノムと99-100%相同なT-サブゲノムと80-90%相同なP-サブゲノムから構成されることが確認されています。

基準株とハイブリッドグループの関係図

2 方法

耐塩性酵母の分離は,YPD培地(酵母エキス1%,ポリペプトン2%,グルコース2%)に10%の食塩を添加した培地を使用し,平成25年度に実施しました。比較対照株として,NBRCの4株及び広島県味噌協同組合で使用されているD-9株を用いました。

倍数性の判定はフローサイトメーターによる解析で行いました。PCR手法により,Z. rouxiiの基準株グループあるいはハイブリッドグループの判定*2 と接合遺伝子のa型,α型及びT-サブゲノム由来かP-サブゲノム由来かを解析*3 しました。

食塩濃度と生育pH域,生育温度域及び糖類発酵性・資化性の各試験は培養により生育を確認しました(結果表に各方法を示します)。

3 結果

培養酵母の添加を行っていないA製造所の麦味噌及び米味噌から分離した8株について紹介します。

(1)同じ味噌から分離した株の中に一倍体も存在し,二倍体のハイブリッドグループの接合遺伝子情報推定では,いずれもP-サブゲノム由来で,接合型aの株もαの株も存在しました(表1)。

(2)基準株グループのNBRC1130T株及びNBRC0740株が食塩3Mでは生育しないのに対し,分離した蔵つきの一倍体は二倍体と同様に食塩3Mでも生育しました(表2)。

(3)基準株グループのNBRC株が15℃や40℃では生育しないの対し,分離した蔵つきの一倍体は二倍体と同様の温度域で生育しました(表3)。

(4)一倍体で糖類資化性が一部異なる株(分類d以外の株)が存在しました(表4)。

このように,紹介した蔵つきの一倍体は生育特性の面で異質二倍体と同様の特性を有しており,存在が指摘されている異質一倍体*4の可能性もあるかもしれません。

特性を示す株の分離減及び倍数性と接合遺伝子の推定結果

食塩濃度と育成ph域

育成温度域

糖類発酵性及び資化性

4 食品企業に向けたPR

紹介した株の他に,異なる製造所及び味噌から分離した耐塩性酵母株を複数保有し,特性を明らかにしています。食品工業技術センターでは,これらの耐塩性酵母株を接合育種へ利用することや味噌や醤油以外の食品へ活用する取り組みを進めていきたいと考えています。保有株のご利用について,ご相談や一緒に取組みを進める等対応が可能ですので,お気軽にお問合せください。

引用文献

*1  Watanabe, J. (2019). Genomic Analysis of Soy Sauce Yeast. Journal of the Brewing Society of Japan, 114, 342-349 (渡部潤. 醤油酵母のゲノム解析, 醸造協会誌).

*2  Ogata, T., Kuroki, K., Ito, K., Kondo, A., and Nakamura, K. (2018). Variations in mating-type-like (MTL) loci direct PCR-based tracking of Zygosaccharomyces strains formed by mating. J. Gen. Appl. Microbiol, 64, 127-135.

*3  Watanabe, J., Uehara, K., Mogi, Y., Tsukioka, Y. (2017). Mechanism for Restoration of Fertility in Hybrid Zygosaccharomyces rouxii Generated by Interspecies Hybridization. Appl. Environ. Microbiol, 83, e01187-17.

*4  Watanabe, J., Uehara, K., Tsukioka, Y. (2018). Can Interspecies Hybrid Zygosaccharomyces rouxii Produce an Allohaploid Gamete? Appl. Environ. Microbiol, 84, e01845-17.

 

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