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生揚げ醤油の火入れ工程による香気成分の変化

印刷用ページを表示する掲載日2021年1月28日

藪宏典,坂井智加子,藤井一嘉

1 背景

通常,醤油は醤油諸味を搾って得られた生揚げ醤油を,ブレンド調合し,火入れを行った後,ろ過して出荷されます。火入れ処理は酵素の失活と風味の改善を目的に行われますが,加熱温度や時間により味や風味が異なってくるため重要な工程となっています1)。火入れした醤油には約300種類の香気成分が確認されており,原料や発酵過程から生成する成分の他にも,火入れにより生成する成分も多く存在しています。今回は火入れ処理に伴い生成する香気成分について,実際に人が嗅いで検出するにおい嗅ぎ装置(GC-O)と,成分の同定をするガスクロマトグラフィー質量分析機(GC-MS)を用いて分析をしました。

2 方法

当センターでH30年度に試作した生揚げ醤油をサンプルとしました。火入れ操作は,ガラスバイアルにサンプルを入れて密栓し,ヒートブロックで加熱し,加熱終了後に氷中で急冷しました。

GC-O用のサンプルは16倍希釈(終濃度塩分18%,エタノール1%),GC-MS用のサンプルは無希釈とし,サンプルを60℃で20分保温後,SPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS)で60℃,20分間濃縮してGC-O及びGC-MSに導入しました。

GC-O及びGC-MSのカラムはJ&W Scientific DB-Wax(カラム長60m,ID 0.25mm,膜厚0.25μm)を使用し,GC-MSでのサンプル間の成分強度比は,各成分のピーク面積と内部標準物質のピーク面積との比で算出しました。

3 結果

今回行った火入れ条件と,その官能結果を表に示します。基準の火入れ委条件(3)と比べて,火入れ条件の強弱によって味・香りの印象が違いました。火入れが弱いとほこりっぽく感じ,火入れが強すぎると焦げ臭がつくことが分かりました。

火入れ条件と香り・味の印象の違い

各サンプルについて,GC-Oで分析した結果を図1に示します。火入れが弱い(サンプル(0),(1).(2))と,香る成分が約30成分に対して,火入れを強くする(サンプル(3),(6))と,香る成分が約40成分と増えることが分かりました。また,香る成分の質についても,火入れが弱いサンプルは分析時間の後半に出てくる揮発性の低い香りが多く,火入れが強いサンプルは分析時間の前半に出てくる揮発性の高い香りが多いことが分かりました。

火入れの条件によるGCOでの検出成分数と官能強度の違い

GC-MSにより,GC-Oで検出した香る成分のうち22成分について同定できました。そのうち,火入れに従い増加する成分は7成分(2-Methylbutanal:香ばしい香り,2,5-Dimethyl pyrazine:香ばしい香り,6-Methyl-5-heptan-2-one:華やかな香り,2-Ethenyl-6-methyl-pyrazine:香ばしい香り, Guaiacol:煙・薬品の香り, HEMF:カラメルの甘い香り,4VG:煙・薬品の香り)でした(図2)。

官能検査により,火入れが進むにつれて感じられた焦げ臭い,薬品臭等はこれらの成分の増加が関係していると思われます。

また,今回のGC-Oでは検出できませんでしたが,GC-MSの分析により醤油の官能評価が悪くなると報告のある成分の2-アセチルピロール(2-AP)2)も火入れに従い増加していることが分かりました。

火入れにより増加した成分

4 食品企業に向けたPR

GC-OとGC-MSを用いることで,食品の香りの分析(人が実際に感じる香りとその成分の同定)が可能です。また,食品に限らず製品に関する異臭クレームについても相談を受けています(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/26/foodfaq1-4.html)。

香りの分析には技術的課題解決支援事業(略称:ギカジ)で対応しますので,まずはセンターにお問い合わせください。

参考文献

1)志村保彦, しょうゆの基本技術 (その3) 精製加工技術 生揚げから製品まで, 日本醸造協会誌, 96, 814-822 (2001).

2)北海道立総合研究機構,醤油品質の客観的評価技術の開発, https://www.hro.or.jp/pdf/25_seika_sangi_5.pdf(2020年11月16日閲覧).

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