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会員コラム Vol.1

印刷用ページを表示する掲載日2021年7月6日

2021.7.6

Vol.1

「カーボンリサイクルと水素利用の意義」

カーボンリサイクルは,二酸化炭素を原料とみなして有用化する技術である。エネルギーを取り出した後のいわばゴミとしての二酸化炭素を復活再生するためには,電気,光,熱等でエネルギーを投入して有用化する必要があるが,その最も一般的で工業的に扱える技術は水素との反応によるものであり,様々な石油化学品や燃料が製品として想定されている。そういう意味からも,水素は重要な存在である。今回はその水素について改めて考えてみたい。

カーボンニュートラルを実現する上で,(1)原子力利用促進,(2)化石燃料を利用する際は二酸化炭素を固定化(つまりCCUS)をともなう化石資源利用,および(3)再生可能エネルギーの主力電源化が重要視される。日本は地震多発地帯であるため原子力発電所の建設に不利であることは否めない。同様の理由で二酸化炭素の地下貯留も困難であろう。こうした中で,再生可能エネルギーは調整力を持たないながらもCO2排出をともなわない国産資源であるため,その利用促進に期待がもたれる。しかし,太陽光や風力などの再生可能エネルギーは調整力を持たないため,今後ますますその割合が増した際に,つまり,再エネ電力を今以上に大量導入した際に需要と供給をバランスさせるためには,余剰電力の割合を大きくしつつ何らかのエネルギー貯蔵技術を導入して利用することが必要不可欠となる。余剰電力の割合を大きくするという事は,再エネの変動分を極小化させることに他ならない。一方,エネルギー貯蔵技術として,大きくは二つの選択肢が考えられる。蓄電池と水素だ。ここで,蓄電池の利用は,充電した電力を高効率に取り出せるため,エネルギーの効率のみを考えればこれ以外の選択肢はない。事実,電力を水素に変換する際に約30%のエネルギーをロスし,水素から電力と熱にうまく変換できたとしても20%近くのエネルギーをロスする。結果的には余ったエネルギーの半分程度が消えてしまう計算になる。

さて,再生可能エネルギーを主力電源として捉えた場合,例えば瀬戸内海沿岸で最も有効なものは太陽光発電であろうからこれを想定する。ご存知の通り,夏場と冬場の日照を比較した場合,単純に2倍程度の発電量の差が現れる。再エネの季節間変動である。太陽光発電では,地球の自転に起因した日変動と,日々の天気に依存した比較的周期の小さな変動,季節間変動に相当する長周期変動が想定されるが,日変動の平準化(つまり昼間の余った電気を夜に使う)には,蓄電池の利用が好都合である。詳細な説明は省くが,毎日同じ日照が続き,同じ需要を想定できれば,仮に蓄電池の単価が2万円/kWhだとしても,毎日使うことにより,10年間の耐用年数を想定することで,1kWhの電力価格を2,3円引き上げる程度の影響となるにすぎない。しかし実際はそうならず需要も供給も大きく変動する上に,季節間変動を平準化するには,日変動対策の10倍以上の容量の蓄電池を導入する必要が出て来る。つまり1kWhの電力価格を数倍に押し上げる。

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▲再エネの発電量における季節間変動例

ここで水素の出番である。現在,私たちのグループでは水素の経済性評価を行っているが,太陽光を大量導入した場合,必然的に多くの余剰電力を想定する必要が出て来る。この余剰電力が,仮に価値の低い捨てられる電力であると想定した場合,これをうまく水素に回して水素を低コストに製造することが可能となる。これは,あくまで再エネ電源の大量導入に伴う余剰電力の使いまわしにすぎず,あくまでドライビングフォースは再生可能エネルギーの大量導入にある。結果として,我々の計算では,余剰電力をうまく平準化して水素を製造した場合,20円/Nm3という目標価格が達成できそうな見込みである。仮に,これで電気を作ったとしても1 kWh あたりで20円程度の電力が作られる。つまり,太陽光発電の大量導入には,余剰電力の取り回しが必要不可欠となり,この行き先として水素が最も有効であるという構図となる。繰り返しになるが,日々の再エネ電力の平準化はもちろん蓄電池の利用が最も効果的である点は改めて強調したい。

再エネ電力の大量導入→余剰電力の大量発生→低コスト水素の大量製造→水素利活用が重要,という構図となるが,水素が低コストに大量製造できれば,そのまま利用することもできるし,エネルギーキャリアに変換して発電所などで大量に消費することもできる。そして,カーボンリサイクルの原料として利用することも可能となる。「再エネの大量導入」は「水素の大量製造」と同義であり,「水素利活用」とセットで考えるべきことだという事を今一度確認して,初回のコラムとしたい。最後まで読んでいただきありがとうございました。

イメージ図

 

📌著者プロフィール

市川 貴之(いちかわ たかゆき)

・広島大学大学院先進理工系科学研究科教授/広島大学カーボンリサイクル実装プロジェクト研究センター長/広島県カーボンサーキュラーエコノミー推進協議会会長/水素エネルギー協会理事/日本金属学会代議員/日本エネルギー学会新エネルギー・水素部会副部会長/ハイドロラボ株式会社技術顧問/株式会社クロスサイエンティア技術顧問

 

 

 

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