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県が実施する海洋生物モニタリング調査の基盤となる研究成果について

印刷用ページを表示する掲載日2011年11月21日

海洋生物モニタリング調査の基盤となる研究成果

 現在,広島県の沿岸域で広く普及している潮間帯生物のモニタリングは,平成14年度に作成した「広島県海岸・干潟生物調査マニュアル」を活用して頂いますが,本マニュアルを作成するに当たっては,広島県保健環境センターの研究成果を参考としています。
 今回の瀬戸内海水環境等調査事業では,従来の生物調査マニュアルと比べ,より一層専門的な知識が必要であり,参加したボランティアの方からの質問にもあるとおり,定義などを明確にする必要があるため,これまでの取組状況と併せて,調査の基盤となった研究成果の一部を紹介します。

1 広島湾岩礁海岸の潮間帯生物調査【平成7(1995)年度実施】

 広島県では,海域生態系を回復させるためには,原因を究明する手法として,直接,生物を調べ解析する手法を検討してきました。ここでは,海岸生物に注目し,広島湾における生物をリストアップし,生物と環境の関連について解析してきました。
 広島湾は湾奥部の汚濁水域から,湾口部の外洋水の影響を受ける清浄水域まで,環境が多様で生息する岩礁潮間帯生物種も多様であった。調査の結果,これらの生物は,全体では150種あまり,湾奥部で79種,湾口部で131種を確認しました。
 これらの生物を用いた一般市民にも利用できる環境評価手法を検討しました。
 生物と水質の汚濁の指標とされているCOD値等との関係を明らかにしました。COD濃度(1.6-2.8 mg/l)を4つの濃度帯に分け,それぞれの生物の生息数の程度から,8つの分類群にまとめたのが,表1になります。

表1 潮間帯生物の分布と汚濁度の関係潮間帯生物の分布と汚濁度の関係

2 海岸生物による海域環境評価法の検討

 表1の生物群のうち,潮間帯中部以上に見られる種を主体とした環境指標種20種の分布の偏りは明瞭に分かれました(表2)。

表2 指標生物20種(主に潮間帯中部以上に分布する種)の分布指標生物20種(主に潮間帯中部以上に分布する種)の分布

 これら生物の分布状況から簡易な環境評価式を作成し,海域環境を「きれいな海」から「大変よごれた海」まで4つの階級に評価する手法を考案しました。この評価法を検討する際には,表3に掲げた要件を考慮して,清浄域群と汚濁域群からそれぞれ5種,合計10種を選定しました(表4)。

表3 環境指標種の選定要件

1.種名の同定が容易な種
2.地理的分布範囲の広い優先種
3.調査時期(5月から10月)に出現している種
4.環境要件(透明度,栄養塩等)に特徴的な分布を示す種
5.多様な分類群から選定する

表4 選定した指標種10種

清浄域群フサイワヅタ(緑藻類)
ウスカワカニノテ(紅藻類)
カメノテ,又はサルノカシラガイ(甲殻類)
オオヘビガイ(貝類)
ユズダマカイメン(海綿類)
汚濁域群アナアオサ(緑藻類)
ツノマタ(紅藻類)
シロスジフジツボ(甲殻類)
ムラサキイガイ(貝類)
シロボヤ(海綿類)

 これら10種の生物の分布状況を広島湾の周辺で調査し,その結果から簡易な環境評価式を作成し,表5のとおり海域環境を「きれいな海」から「大変よごれた海」まで4つの階級に評価する手法を考案しました。

表5 磯の生物による水環境の簡易評価表(抜粋)

評価階級環境評価値状態
Iきれいな海76-100点自然状態が残された場所が多く,水質も良好で生態系保全の場として非常に重要です。
II少しよごれた海51-75点潮干狩り,魚釣り,生物観察,一部で海水浴も楽しめます。
IIIよごれた海26-50点潮干狩り,魚釣りなどが楽しめますが,海水浴には適していません。
IV大変よごれた海0-25点水に親しむ場としてはあまり適していません。

3 海岸生物による環境評価【平成8-10(1995-97)年度実施】

 前述の「海岸生物による簡易環境評価法」を用いて,県内全域の環境評価を行ってきました。図1から図4は,化学的指標による結果と,「海岸生物による簡易環境評価法」を用いた調査結果を比べたものです。

広島県海域の水環境(海岸生物による環境評価)
図1 広島県海域の水環境(海岸生物による環境評価)

広島県海域のCOD

図2 広島県海域の水環境(COD全層平均)


広島県海域の透明度

広島県海域の全リン図4 広島県海域の水環境(全リン表層平均)

 例えば,COD値が低い「きれいな海域」(環境基準A類型の基準値以下)において,透明度が低いために,清浄海域の岩礁で多量に分布している指標生物「オオヘビガイ」が非常に少ない,ということが重ねてみることで判明しました。
 こうした場合,生物評価では1ランク低下し,「少しよごれた海」という判定になります。

4 海洋生物モニタリングの現在の状況

 当調査手法は,海岸部の環境修復を進めていく上で,水質浄化の面でも重要な働きをしている海岸生物の生息環境を知り,「豊かな生態系の維持」を考えていく上で,有用な情報となります。各種の化学的指標の結果に,生物学的指標による生態系の評価を加味することで,生態系に対する影響への監視が必要となります。
 このような観点から「海岸生物による簡易環境評価法」を基にした「広島県海岸・干潟生物調査マニュアル」を平成14年度に発行しました。
 このマニュアルでは,「市民が容易に発見できること」を要件とし,前述の表2にある指標生物20種(主に潮間帯中部以上に分布する種)を選定しました。環境評価式は,広島県で一番きれいな地点が100点になるように修正しています。

 生物の生息場の再生やボランティア清掃など,市民が海と触れ合う機会が年々増え,小学生から社会人を対象とした環境教育活動として「海岸・干潟生物調査マニュアル」が活用されています。

【参考文献】
 広島県の海岸生物モニタリング調査報告書(平成11年 広島県保健環境センター)

図3 広島県海域の水環境(透明度平均)

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