4. 生物多様性の保全
 
●現状と課題
 
 本県は,中国山地を形成する1,000m級の山々の北部積雪地帯とそれに続く内陸の台地,そして気候温暖な瀬戸内沿岸部や島しょ部からなり,その複雑な地形と多様な気候によって,豊富な生物相を呈しています。
 平成3年から平成6年に実施した「広島県緊急に保護を要する野生生物の種の選定調査」結果から,絶滅のおそれのある野生生物種を選定しています。
 このうち,緊急に保護対策を要するミヤジマトンボなどの動物7種,オグラセンノウなど植物4種の野生生物種を「広島県野生生物の種の保護に関する条例」に基づく指定野生生物種等に指定しています。
 今後,野生生物について,科学的な個体数管理を行い,体系的に保全していくためには,野生生物の生息状況等に関する基礎的な調査を実施し,現状を把握するとともに,野生生物に関する情報の提供を行い,野生生物保護思想の普及啓発を行う必要があります。
 また,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」や「広島県野生生物の種の保護に関する条例」に基づき,野生生物の保護を進めるとともに,鳥獣保護区や野生生物保護区の指定などにより,生息・生育圏の保全を図る必要があります。
 一方,シカやイノシシなどの一部の野生鳥獣により農林業に深刻な被害が生じており,また,指定野生生物種であるツキノワグマによる人身被害が発生するなど,適切な個体数管理が求められています。
 さらに,外国から持ち込まれた移入種が地域固有の生物や生態系に大きな脅威となっていることが指摘されています。
 
図表3-1-10 広島県内に生息する野生生物種数(動物)
広島県内に生息する野生生物種数(動物)
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-11 広島県内に生息する野生生物種数(植物)
広島県内に生息する野生生物種数(植物)
資料:県自然環境保全室
 
  図表3-1-12 広島県野生生物目録の内訳
区分 目数 科数 種数 文献数 産地数
哺乳類 7 17 43 71 401
鳥類 18 53 295 89 4,776
爬虫類 2 7 16 61 434
両生類 2 7 19   708
淡水魚類 10 29 98 170 3,998
昆虫類 25 361 3,895 1,432 30,683
甲殻類 4 31 135 57 248
クモ類 1 31 271 17 1,199
陸淡水産貝類 11 48 159 212 2,599
動物計 80 584 4,931 2,109 45,046
種子植物 54 155 2,273    
シダ植物 10 23 306    
植物計 64 178 2,579 1,365 31,808
合計 144 762 7,510 3,474 76,854
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-13 絶滅のおそれのある野生生物の種の選定状況
区分 絶滅種 絶滅危惧種 危急種 希少種 合計 県内種数
哺乳類 4 2 1 10 17 43
鳥類 0 10 10 19 39 295
爬虫類 0 0 0 2 2 16
両生類 0 1 0 5 6 19
淡水魚類 0 11 1 2 14 98
昆虫類 0 11 13 4 28 3,895
甲殻類 0 0 0 3 3 135
クモ類 0 0 1 0 1 271
陸淡水産貝類 0 1 2 9 12 159
動物計 4 36 28 54 122 4,931
種子植物 3 39 49 60 151 2,273
シダ植物 0 5 13 9 27 306
植物計 3 44 62 69 178 2,579
合計 7 80 90 123 300 7,510
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-14 指定野生生物種等の指定状況
ツキノマグワ 哺乳類 ヒメシロチョウ 昆虫類
アビ類
(シロエリオオハム,オオハム,アビ)
鳥類 ミズニラ
(シナミミズニラを含む。)
シダ類
ダルマガエル 両生類 オグラセンノウ 種子植物
スイゲンゼニタナゴ 淡水魚類 ツルマンリョウ 同上
カワシンシュガイ 淡水産貝類 ヤチシャジン 同上
(ミヤジマトンボ) 昆虫類 計11種類(内1種は特定野生生物種。実数は10種)
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-15 特定野生生物種
ミヤジマトンボ 昆虫類 1種
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-16 鳥獣保護区等の設置状況
(単位:ha)
区分 平成14年度 第9次計画
(14〜18年度)
箇所数 設定面積 箇所数 設定面積
鳥獣保護区 森林鳥獣生息地 52 40,682 49 38,532
集団飛来地 9 15,466 9 15,466
身近な鳥獣生息地 55 9,486 55 9,486
(特別保護地区) (8) (7,962) (8) (7,962)
116 65,634 113 63,484
休猟区 0 0 0 0
銃猟禁止区域 41 34,367 43 36,330
(放鳥獣)猟区 3 4,631 3 4,631
資料:県自然環境保全室
 
図表3-1-17 野生鳥獣による農作物被害額
(単位:百万円)
区分 H10年度 H11年度 H12年度 H13年度 H14年度
イノシシ 279 357 552 448 411
サル 25 25 33 31 26
シカ 24 18 23 27 39
その他獣類 48 47 50 45 37
鳥類 275 199 189 162 201
651 646 847 713 714
資料:県食品流通安全室
 
[施策の方向]
基礎的調査の実施及び体系的な基礎情報の整備
「広島県野生生物の種の保護に関する条例」等に基づく希少野生生物種の保護の推進
自然保護に関する各種制度等の活用による野生生物生息・生育域の保護・保全
有害鳥獣等の適正な個体数管理による共存の実現
移入種への適切な対応など野生生物の生息環境の保全と再生
 
●施策の展開
 
(1) 基礎的調査の実施,基礎資料の整備
 
生物の多様性を体系的に保全していくため,希少野生生物種の生息状況に関する調査など,自然を科学的・客観的に把握するための基礎的な調査を実施します。
「広島県の絶滅のおそれのある野生生物レッドデータブックひろしま」の改訂など,野生生物保護対策を推進するための基礎資料の整備に努めます。
 
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
 
第2次広島県版レッドデータブックの種の選定事業[自然環境保全室]
 
 絶滅のおそれのある野生生物の現状を把握し,第2次広島県版レッドデータブックとして公表することにより,希少野生生物に配慮した地域開発や県民への意識啓発を行います。
 
[平成14年度事業実績] 選定種決定のための現地調査(夏・秋・冬)やレッドデータブック見直し検討会を開催しました。
[平成15年度事業内容] 選定種決定のための現地調査(春)や選定委員会を開催し,第2次広島県版レッドデータブックを作成,デジタル化による公表を行います。
 
(2) 保護を要する野生生物種の保護
 
「広島県野生生物の種の保護に関する条例」に基づく指定野生生物種の指定,野生生物保護区の指定などにより,緊急に保護を要する野生生物種の保護を図ります。
必要に応じて「広島県野生生物の種の保護に関する条例」に基づく指定野生生物種の見直し等を行います。
ミヤジマトンボなど,県内に生息する希少野生生物種を保存するため,「保護管理計画」に基づく徹底した保護対策を推進します。
 
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
 
ミヤジマトンボの生息環境の整備[自然環境保全室]
 
 ミヤジマトンボ(特定野生生物種)の生息地の環境が海砂の侵入により悪化しているため,その生息環境を整備します。
 
[平成14年度事業実績] 土嚢を積み生息地への海砂の侵入を防止しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,生息環境を整備します。
 
ヤチシャジンの保護管理[自然環境保全室]
 
 ヤチシャジン(指定野生生物種)の保護管理を図るため,その生息環境を整備します。
 
[平成14年度事業実績] 甲山町内の生息場所の草刈等を実施しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,生息環境を整備します。
 
アビ生息調査[自然環境保全室]
 
 県鳥に指定されているアビ(指定野生生物種)について,その飛来数を調査し保護対策を行います。
 
[平成14年度事業実績] 生息海域において,飛来数調査を実施しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,飛来数調査を実施します。
 
(3) 体系的な生態系の保全
 
シカやイノシシなど,一部の野生鳥獣については,生息状況等の変化に伴い,農林水産業に被害を与えるなどの問題が生じているため,鳥獣保護区の適性配置,休猟区の全廃などの対策を講じるとともに,市町村が行う個体数管理対策に対して適切な助言を行います。
指定野生生物種に指定しているツキノワグマの里山定着化を防ぐため,出没地域周辺でのパトロール,奥山への放獣などの保護対策を進めるとともに,隣接の山口県・島根県と協力して「指定鳥獣保護管理計画」を策定し,科学的な個体数管理を講じていきます。
 
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
 
特定鳥獣保護管理計画の策定[自然環境保全室]
 
 ツキノワグマ,イノシシ,ニホンジカについて「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づいた「特定鳥獣保護管理計画」を策定します。ツキノワグマについては,西中国個体群として保護管理するため,山口・島根との3県で策定します。また,イノシシ,ニホンジカについては,著しく増加し,農林作物の被害の拡大により住民と軋轢が生じており,農林作物の被害の沈静化を図るため,国が定めている狩猟規制を緩和し捕獲頭数の増加を目指します。
 
[平成14年度事業実績] ツキノワグマについては,山口・島根との3県共同で検討委員会を設立し,特定鳥獣保護管理計画の素案を策定しました。また,イノシシ,ニホンジカについては,生息環境調査等を実施しました。
[平成15年度事業内容] 特定鳥獣保護管理計画を策定し,計画の達成状況を検証するため,追跡調査を実施します。
 
クマレンジャー事業[自然環境保全室]
 
 クマ出没地域周辺のパトロール等を実施することにより,ツキノワグマの里山への定着化を防止し, 人身被害発生の危険性を軽減します。
 
[平成14年度事業実績] クマ出没地域周辺のパトロールを実施しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,クマ出没地域周辺のパトロール等を実施します。
 
広島県ツキノワグマ対策協議会の設置[自然環境保全室]
 
 ツキノワグマの保護管理対策を円滑に実施するため,県と関係市町村で構成する広島県ツキノワグマ対策協議会を設立し,保護管理対策を検討,実施するとともに,ツキノワグマによる人身事故被害者への見舞金制度を実施します。
 
[平成14年度事業実績] 構成市町村24市町村(うち8市町が新規加入)により,ツキノワグマの保護管理対策について検討しました。
[平成15年度事業内容] 構成市町村28市町村(うち6市町が新規加入)により,引き続き,保護管理対策等を検討,実施します。
 
鳥獣保護区等の設定[自然環境保全室]
 
 鳥獣の捕獲を禁止し,その安定した生存を確保するとともに,多様な鳥獣の生息環境を保全・管理及び整備するため,第9次鳥獣保護事業計画に基づき,鳥獣保護区等を設定します。
 
[平成14年度事業実績] 鳥獣保護区の更新(4箇所1,457 ha),変更(1箇所△21ha),廃止(2箇所△448ha)及び銃猟禁止区域の設定(2箇所55ha),更新(8箇所3,198ha),変更(2箇所△310ha),廃止(3個所△742ha)を行いました。
[平成15年度事業内容] 鳥獣保護区の更新(11箇所5,955ha),廃止(3箇所1,796ha)及び銃猟禁止区域の設定(1箇所1,249ha),廃止(1箇所△424ha)を行います。
 
(4) 野生生物の生息環境の保全・再生
 
「広島県野生生物の種の保護に関する条例」に基づく野生生物保護区の指定や「広島県自然環境保全条例」に基づく野生動植物保護地区の指定などにより,野生生物の生息,生育環境の保全を図ります。
自然生態系との調和を重視した複層林・天然林施業等による森林造成,都市周辺における生態系に配慮した里山林の保全,多自然型護岸の整備,魚介類の産卵・生育等の場として重要な藻場や干潟の保護・保全,ビオトープの整備などにより,野生生物の生息・生育環境の復元・再生を図ります。
臥龍山など,希少な動物類や植生群落が存在し,放置すれば貴重な生態系が失われるおそれのある地域については,自然環境の再生を行います。
絶滅危惧種のほぼ5割が,人手が入ることによって生物多様性のバランスを保ってきた里地里山に生息している現状を踏まえ,地域住民やNPOとの連携による地域の実情に応じた保全対策を推進します。
 
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
 
里山林整備推進事業 [森林保全室]
→詳細はこちら
 
絆の森整備事業 [森林整備室]
 
市民の参画を得た森林整備や,野生生物の生息・生育環境の整備と必要な路網整備を推進します。
 
[平成14年度事業実績] 広島市(0.3ha)と佐伯町(12.17ha)で整備しました
[平成15年度事業内容] 広島市(3.5ha),廿日市市(12.17ha),油木町(8.15ha)を整備します。
 
森林整備事業(造林事業)〔森林整備室〕(再掲)
→詳細はこちら
 
公共事業や開発事業における野生生物に対する配慮 [道路企画室]
 
 規模の大きな事業等を進める際,環境アセスメントを行い,猛禽類等のレッドデータブックに記載されている希少種類等を調査し,存在が確認された場合には,生育環境等を勘案しルート等を決定します。
 
[平成14年度事業実績] 江府三次道路等において,環境調査を行いました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,環境調査を行います。
 
道路改良により生じる法面の自然植生の回復 [道路企画室]
 
 道路法面の緑化については,生態系への影響などを考慮し,周辺の植物を用いた植栽や在来種による植生を行います。法面の緑化は,道路改良や維持修繕の際,必要に応じて行います。
 
平成15年度に講じる施策 (新規)
 
臥竜山麓自然再生事業 [自然環境保全室]
 
 西中国山地国定公園の臥竜山麓八幡原高原地域の湿原には,希少な動物類や植生群落が存在するものの,放置すれば,貴重な生態系が失われるおそれがあるため,過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的として,自然再生事業を行います。
 平成15年度は,県,芸北町(地元市町村),地域住民,専門家,NPO等の参加と連携を図りつつ,全体構想(自然再生推進計画)を策定します。
 
(5) 野生生物保護思想の普及啓発
 
 野生生物や生態系の保全に関する県民の理解を深めるため,広報の実施,愛鳥週間行事等の開催,野生生物保護推進員による啓発などの取組を推進します。
 
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
 
愛鳥週間ポスター及び標語募集[自然環境保全室]
 
 鳥獣保護の意識啓発のため,愛鳥週間に向けて小学生,中学生,高校生を対象にポスター及び標語を募集し表彰します。
[平成14年度事業実績] ポスターには437点(小学生208,中学生148,高校生81),標語には222点(小学生160,中学生10,高校生52)の応募がありました。
[平成15年度事業実績] 引き続き,ポスター及び標語を募集し鳥獣保護の意識啓発をします。
 
平成15年度愛鳥週間ポスター 特選
 
西条町立三坂小学校6年
名越 秀才
東広島市立高美が丘中学校3年
日下部 帆香
 
広島県立神辺旭高等学校3年
吉川 緑香
 
野生生物保護啓発事業[自然環境保全室]
 
 専門的知識を有する講師が,小学生を対象に絶滅危惧種等の現状や保護活動を紹介することにより,野生生物保護意識の形成を図ります。
 
[平成14年度事業実績] 「水生生物」について美土里町立生桑小学校と甲山町立伊尾小学校で,「ヒメシロチョウの生態」について高野町立下高野山小学校で,「希少野生生物」について三次市立川地小学校で,その現状等を紹介しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,3小学校で絶滅危惧種等の現状や保護活動を紹介します。


●コラム● 甲山町自然を守る会 ヤチシャジン保護管理事業
 
[実施主体名等]
甲山町自然を守る会,甲山町,広島県
 
[目的]
広島県野生生物の種の保護に関する条例の指定種であるヤチシャジンの保護管理対策を実施する。
 
[活動概要]
甲山町自然を守る会では,現在17 名で活動しています。
甲山町には,日本列島の代表的貴重植物であるヤチシャジンの自生地があり,当会では,県,甲山町の協力を得て保護活動を行っています。
 
ヤチシャジンについて
キキョウ科の多年草で,湿原に生える植物ですが,きわめて限られた場所にしか生育しておらず,絶滅のおそれのある植物として環境省,広島県のレッドデータブックに掲載されています。
ヤチシャジン写真
ヤチシャジン
 
観察会の実施
現地で湿原の状態や湿原植物について観察し,ヤチシャジンの保護活動のあり方について検討を行います。
観察会時の写真
観察会の様子
 
保護管理計画の策定
平成13年3月に県,甲山町と協議してヤチシャジン保護管理計画を立て,ヤチシャジンの生育実態を記録し,個体数の変化や開花した株数等を調査しています。
 
生育環境の整備・育苗
適切な時期に周辺の草刈,雑木の枝打ちなどの環境整備を行い,さらに種子採取して育苗も行い,増殖にも力を入れています。
下刈り作業時の写真
下刈り作業
 
この他,甲山町周辺の貴重種「コウヤミズキ」「ゲンカイツツジ」「マンシュウボダイジュ」等の保全も行っています。
 
(甲山町自然を守る会会員のコメント)
ヤチシャジンは,下向きのうす紫のキキョウを小さくしたような可憐な花で,心やすらぐ清楚な感じのする花です。
茎の上から下に順に開花する貴重な花で,丈は50cm〜60cmで折れやすい花です。
このヤチシャジンの自生地をいつまでも残し,貴重な自然が観察できるようになればと願っています。

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