第3章 自然と人がふれあう潤いのある広島
 
 人も生態系を構成している一員であることを認識し,貴重な自然の保護や身近な自然の形成による自然との豊かなふれあいを保ちながら,自然への適切な働きかけや賢明な利用を通して,健全な生態系を維持・回復し,自然と県民の間に豊かな交流を保つなど,自然と県民が共生できる豊かで潤いのある環境を確保します。
 
第1節 優れた自然環境と生物多様性の保全
  
1 豊かな森林の保全と再生
  
●現状と課題
  
 森林は,水源かん養,山地災害防止,地球温暖化防止,生活環境保全,保健休養,生物多様性の保全などの多様な機能を有しています。
 本県の森林面積は,県土面積の約7割に当たる613,044ha(平成15年4月現在,全国第10位)であり,横ばいで推移しており,森林蓄積量は微増傾向にあります。
 現存植生は99%以上が代償植生であり,自然植生は非常に貴重なものとなっています。全森林面積に対する保安林率は39%に達し,県土の保全,水源のかん養,土砂の流出その他の災害の防備,レクリエーションの場の提供など,森林の公益的機能の維持増進に大きな役割を果たしています。所有形態別にみると,国有林が48,245haで全体の8%に過ぎず,残りの564,799haが民有林で92%を占めています。民有林の松林は約20万haあり,民有林面積の約36%を占め,全国一です。松林は,県土の保全や景観形成等,様々な機能を通じて,安全で豊かな県民生活を支える重要な役割を担っていますが,依然として猛威をふるっている松くい虫による被害は,県内ほぼ全域に広がっており,貴重な資源である松林を松くい虫被害から守っていく必要があります。
 なお,森林火災が,瀬戸内海沿岸部を中心に発生しており,出火件数は長期的には減少傾向にあるものの,今後も予防啓発による防止が必要です。
  
図表3‐1‐1 保安林面積
保安林面積
資料:県治山室
  
図表3‐1‐2 所有形態別森林面積及び蓄積(平成15.4.1現在)
(単位:千ha,千m,%)
面積・蓄積

所有形態

面積   蓄積  
構成比 構成比
国有林 48 8 6,773 8
民有林 公有林 県営林 9 1 1,580 2
市町村有林 33 5 4,428 5
財産区有林 9 1 940 1
小計 51 8 6,949 8
私有林 514 84 71,652 84
565 92 78,601 92
合計 613 100 85,374 100
(注) 1 国有林は,林野庁「平成14年国有林野事業統計書」(平成15年1月公表)
2 民有林は,県林務管理室「地域森林計画書」(平成14年12月24日公表)
3 小計は,四捨五入のため一致しない。
  
図表3‐1‐3 民有林の資源構成(平成15.4.1現在)
(単位:千ha,千m,%)
区分 面積   蓄積    
構成比 構成比 ha当たり
人工林 針葉樹 165 30 31,465 40 191
広葉樹 4 1 124 0 31
169 30 31,589 40 187
天然林 針葉樹 180 33 29,155 37 162
広葉樹 203 36 17,857 23 88
382 68 47,012 60 123
その他 14 2 - - -
合計 565 100 78,601 100 139
(注) 1 県林務管理室「地域森林計画書」(平成14年12月24日公表)
2 合計は,四捨五入のため一致しない。
 
図表3‐1‐4 松くい虫による被害区域面積及び被害材積
松くい虫による被害区域面積及び被害材積
資料:県森林保全室
  
[施策の方向]
森林の状態や植生,所有の形態等に応じた保全・再生の推進
  
●施策の展開
  
県土面積の7割を占める森林は,水源かん養,山地災害防止,保健休養,生物多様性の保全などの多様な機能を有しており,地域の特性に応じた保全を推進します。
優れた自然環境を有する森林の保全を図るため,「広島県自然環境保全条例」に基づく保全地域等の指定を推進するとともに,「広島県みどりと景観の基金」を活用した公有化の検討や保全地域等の指定に伴う私権の制限に対する補償等,適正な管理を行います。
植物の自生地や野生生物の生息地として重要な天然林は,県自然環境保全地域や保安林として厳正な保護・管理を行います。
重要水源地域においては,流域単位で水源かん養保安林,干害予備保安林を指定し,適切な管理を行います。
上・下流域が一体となって行う水源林の整備を進めるとともに,企業や団体からの協力を受けて造成を実施するなど,県民参加の森づくりを推進します。
奥地森林に広葉樹の植林等による森林構成の多様化や植生の復元等を推進します。
自然生態系との調和を一層重視した複層林や天然林の育成による多様な森林の造成を推進します。
  
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
  
自然保護協力奨励金・立木損失補償事業[自然環境保全室]
  
 優れた自然環境を有する森林の保全を図るため,「広島県自然環境保全条例」に基づく県自然環境保全地域等の指定を行うとともに,「広島県みどりと景観の基金」を活用した県自然環境保全地域等の指定に伴う私権の制限に対する補償等,適正な管理を行います。
  
[平成14年度事業実績] 自然保護協力奨励金として750件3,662千円,立木損失補償金として260件14,489千円を交付しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,指定地域内における立木の伐採規制等各種行為規制の代償として補償等を行い,私権との調整を図ります。
  
流域林業活性化推進事業[林務管理室]
  
 流域を基本単位として,「緑と水」の源泉である多様な森林の整備,木材の生産から流通・加工に至る産地化の形成を図ることで,流域の森林・林業の活性化を図るとともに,多様な森林の整備を促進するために,下流域を含む市町村間等において,情報交換,協議,研修を行い,流域内市町村等の連携と森林整備の実行体制を強化します。
  
[平成14年度事業実績] 太田川流域森林整備センター,瀬戸内流域森林整備センター,江の川・高梁川上流流域森林整備センターにおいて,森林整備実施計画の進行管理,森林・林業情報の収集・提供,木材安定供給確保推進活動を実施しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,同様の事業を計画しています。
  
森林整備地域活動支援事業[林務管理室](再掲)
  
 適切な森林整備の推進を通じて森林の有する多面的機能の発揮を図るため,森林所有者等による計画的かつ一体的な森林施業の実施が特に重要であることから,その実施に不可欠な森林の現況調査等の地域活動を確保するための支援を行います。
  
[平成14年度事業実績] 334団地(47市町村)の27,958haに対し,279,584千円を交付しました。
[平成15年度事業内容] 365団地(46市町村)の29,500haに対し,295,000千円を交付します。
  
森林病害虫駆除事業・松くい虫防除緊急対策事業[森林保全室](再掲)
  
 保安林等公益的機能の高い保全すべき松林を松くい虫から守るため,特別防除(薬剤空中散布)のほか,伐倒駆除,特別伐倒駆除(被害木の焼却・破砕),被害拡大未然防止対策緊急防除(被害木に薬剤空中散布)等を実施するとともに,感染源を除去するために保全すべき松林の周辺松林の樹種転換を推進します。
  
[平成14年度事業実績] 12市町村で空中散布(3,025ha)を実施したほか,予防事業として地上散布(40ha),駆除散布として緊急防除(570m3),特別伐倒駆除(1,050m3),伐倒駆除(7,516m3),衛生伐といった各事業を総合的に実施しました。
[平成15年度事業内容] 12市町村で空中散布(3,010ha),地上散布(39ha),緊急防除(500m3),特別伐倒駆除(1,000m3),伐倒駆除(7,000m3),衛生伐といった各事業について総合的な実施を計画しています。
  
山火事ゼロ推進特別事業等[森林保全室]
  
 林野火災の発生が集中する時季にかけて,ラジオスポット放送や林野火災予防情報システムを活用した「山林乾燥情報」のテレビ放映等により県民への防火意識の啓発を図ります。
  
[平成14年度事業実績] 林野火災予防情報システムの整備を吉田町及び河内町に整備しました。また,「山林乾燥情報」のテレビ放映や山火事予防啓発ラジオスポット放送を行いました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,林野火災予防情報システムの維持管理を行うとともに,テレビやラジオ放送により防火意識の啓発を行います。
  
県民参加のみどりづくり推進事業[森林保全室](再掲)
  
 県民活動組織の体制整備を進めるとともに,関係団体と連携し,県植樹祭等のイベントを開催するなど,森林に対する普及啓発活動を行います。
  
[平成14年度事業実績] 県植樹祭(加計町),緑の集い(緑化センター),緑の少年団交流集会(もみのき森林公園)の開催,森林イベントカレンダー配布や森林ボランティア等の支援により,普及啓発しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,県植樹祭(三良坂町),緑の集い(緑化センター)等を計画しています。
  
水源林造成事業[森林整備室](再掲)
→詳細はこちら
  
森林整備事業(造林事業)[森林整備室](再掲)
  
 奥地の森林を対象に,広葉樹の植林等による森林構成の多様化や植生の復元等を推進するとともに,自然生態系との調和を一層重視した複層林や天然林の育成による多様な森林の造成を推進します。
  
[平成14年度事業実績] 従来のスギ・ヒノキの一斉造林のみでなく,広葉樹造林,育成複層林施業等の多様な森林整備を実施しました。(整備面積:12,000ha)
[平成15年度事業内容] 地域の森林の重視すべき機能に応じて,育成単層林整備のほか,育成複層林の整備等の多様な森林整備を実施します。(整備予定面積:12,100ha)
  
第5期保安林整備計画に基づく保安林の指定の促進[治山室](再掲)
  
 水源かん養,災害防備等の森林の公益的機能の維持増進を図るため,保安林整備臨時措置法による第5期保安林整備計画(平成6〜15年度)に基づき,保安林の量的・質的な配備を積極的に推進するとともに,これらの保安林の適切な管理に努めます。
  
[平成14年度事業実績] 50件,271haの保安林を新たに指定し70件48haの保安林を解除しました。
[平成15年度事業内容] 150件,780haの保安林を新たに指定する見込です。
  
治山事業(山地災害対策事業・保安林整備事業等)[治山室]
  
 県土の開発や都市化の進展に伴う山地災害危険地区対策,水需要の増大に係る水源森林の整備,都市周辺森林における環境保全対策等,県土の保全・基盤の充実を図ります。
  
[平成14年度事業実績] 「第9次治山事業七箇年計画」(平成9年〜15年度,基本方針:災害に強い安全な県土づくり,水源地域の森林機能強化,豊かな環境づくり)に基づき,223箇所において治山施設及び森林の整備を実施しました。
[平成15年度事業内容] 平成14年度に引き続き,計画的に実施します。
  
平成15年度に講じる施策(新規)
  
地球温暖化防止森林吸収源特別対策事業[林務管理室,林業振興室,森林保全室](再掲)
→詳細はこちら


●コラム● もみのき湿原整備事業
 
[実施主体名等]
ひろしま緑づくりインフォメーションセンター(略称GIC)
[構成員:森林ボランティア22団体]
 
[目的]
 平成11年6月に実施したGICのボランティア活動中に確認された湿原の整備を通じて湿原の理解を深め,ボランティア団体の交流を推進するとともに,この湿原を県立もみのき森林公園を訪れる人たちの観察の場にしたいと考えています。
 
[活動概要]
 平成11年度に存在が確認された湿原の広さは約2haと推定されています。
 平成12年度から14年度まで第1期事業として整備し,名称を公募して「もみのき湿原」に決定しました。平成15年度から3か年計画で引き続き事業を継続していきます。
 整備に当たっては,広島大学の指導を受けて,湿原に生えている不要な樹木を除去し,在来植生の湿原植物を保全します。
 また,湿原の管理,利用のため,歩道,木道,サイン等を整備していきます。  
 
 
[第1期事業(平成12年度〜14年度)]
 3か年の湿原整備により,約5,600m2の湿原には,オオミズゴケ,マアザミ,アケボノソウなど湿原特有の植物が自生し,観察の場として提供できるようになりました。
 
[第2期事業(平成15年度〜17年度)]
 平成15年度以降,第1期で整備した湿原の継続整備,周辺の広葉樹林及び遊歩道の整備を計画しています。
 
「もみのき湿原」整備に参加して
 初めての参加で,湿原っていったいどんなところだろうと,期待に胸を膨らませる。
 作業の説明を聞いて,湿原植物の自生地にも周囲と同じ潅木(イヌツゲ,ノイバラなど)が生い茂っていたと知り,これまでのみなさんの作業と「数少ない湿原を守って,みんなが親しめる場所にしたい。」という熱意に驚いた。
 潅木を除去する骨の折れる作業にもかかわらず,みんなとても陽気でにこやか。ここに遊歩道が付いたら・・・・と思うと親子連れや若者,中高年の人たち,みんな憩いのひと時を楽しみながら歩いている様子が目に浮かぶようで,なんだか楽しかった。
 これからも進んで湿原復元に努めたいと思っている。
自然体験活動初級リーダー 飯尾千絵

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