第2章 地球環境の保全に貢献する広島
 
 今日の環境問題の中でも,世界的な規模で進行し,人類共通の課題となっている地球の温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨などの地球環境問題に的確に対応し,その保全に積極的に貢献するため,足元からの取組みを積極的に推進します。
 
第1節 地球温暖化防止対策の展開
 
二酸化炭素排出量削減対策の推進
 
● 現状と課題
 
(1) 地球の温暖化
 
 地球温暖化は,太陽の光により温められた地面が放出する熱(赤外線)を吸収する大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度が高まり熱の吸収が増えるため,気温が上昇する現象で,海面上昇や異常気象の増加,農林水産業への被害,健康への影響などが予想されています。
 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書(平成13年4月公表)によると,今後100年で地球の平均気温は最大で5.8度上昇すると予測されています。
 南極の巨大氷棚の崩壊,サンゴの白化など,世界各地で地球温暖化に起因すると思われる現象が数多く報告されています。特に海面上昇の影響を受ける恐れがあるのは,マーシャル諸島など土地の高さが海面から数mしかない小島嶼国やバングラデシュのガンジス・プラマプトラ川など河口のデルタ地帯などで,仮に海面が1m上昇した場合,オランダで6%,バングラデシュで17.5%,マーシャル諸島のマフロ環礁で80%の土地が水没してしまいます。
 本県でも,宮島厳島神社の回廊の水没などについては,地球温暖化との関連が指摘されています。 
 世界各国における二酸化炭素排出量は,1998年度現在,年間約229億tが排出されていますが,日本の排出量は,米国,中国,ロシアに次いで世界第4位です。
 
図表2-1-1 世界各国の二酸化炭素排出量割合(1998年度)
世界各国の二酸化炭素排出量割合(1998年度)
資料:米国オークリッジ国立研究所
 
図2-1-2 全地球平均気温の変化
全地球平均気温の変化
資料:IPCC第3次評価報告書第1作業部会資料より作成
 
(2) 我が国及び県内の状況
 
 我が国は,平成14(2002)年6月に,先進国の温室効果ガス排出量について,法的拘束力のある数値目標を定めた「京都議定書」を批准しました。これにより,平成20(2008)年から平成24(2012)年までの間に,平成2(1990)年に比べて温室効果ガスを6%削減する国際的な責務を負うこととなります。
 我が国における二酸化炭素排出量は増加傾向にあり,本県も同様の傾向を示しています。
 本県の平成11(1999)年度における二酸化炭素排出量は,平成2(1990)年度に比べ5.7%増加しています。
 部門別の排出割合は産業部門が最も多く,次いで民生部門,運輸部門となっています。本県の排出状況は,全国と比べて産業部門の比率が高くなっています。
 部門別の推移を見ると,産業部門からの排出は横ばいに推移しています。これは,経済団体連合会環境自主行動計画に基づく取組みの実施や省エネルギー管理の徹底等によるものと考えられます。
  
図表2‐1‐3 部門別二酸化炭素排出量
特別二酸化炭素排出量
資料:県環境政策室
  
図表2‐1‐4 二酸化炭素排出量の内訳
二酸化炭素排出量の内訳
資料:県環境政策室
  
図表2‐1‐5 二酸化炭素排出量伸び率(基準年H2年度対比)
二酸化炭素排出量伸び率(基準年H2年度対比)
資料:県環境政策室
  
 運輸部門の排出量については,78%が自動車から排出されており,平成8(1996)年度をピークとして近年減少しているものの,自動車の登録台数の増加に伴い,平成2(1990)年度の排出量と比較して15%増加しています。
 民生部門は平成2(1990)年度の排出量と比較し,18%増加しています。このうち,一般の事務所やサービス業,学校,病院等を対象にした業務部門については,平成2(1990)年度と比較して約9%増加していますが,これは,産業構造の変化等によりオフィスビルや商業施設等の需要が拡大していることが増加要因と考えられます。
 また,家庭部門は,依然として増加傾向にあり,平成2(1990)年度と比較し約25%増加し,一世帯当たりの排出量は全国平均値よりも高い状況にあります。これは,新たな機器の普及やより快適な生活を求めて,機器の保有台数や使用時間が増加していることが要因と考えられます。
 エネルギーの消費状況について,電灯・電力消費量,都市ガス販売量等でみると,エネルギー消費量は増加しており,いずれも家庭用が大きなウエイトを占めています。都市ガス販売量については,大口事業者の消費増により工業用が大きく増加しています。
  
図表2-1-6 用途別電灯・電力消費量
用途別電灯・電力消費量
資料:中国電力株式会社
  
図表2-1-7 用途別都市ガス販売量
用途別都市ガス販売量
資料:県統計年鑑
  
図表2-1-8 自動車の保有台数の推移(再掲)
自動車の保有台数の推移(再掲)
資料:中国運輸局
  
図表2-1-9 種類別燃料油販売量(再掲)
種類別燃料油販売量(再掲)
資料:中国経済産業局
  
[施策の方向]
産業・運輸・民生の各部門ごとの状況を踏まえた実効性ある二酸化炭素排出量削減対策の推進。
   
●施策の展開
  
「京都議定書」に定められた温室効果ガス削減目標の達成に貢献していくため,平成15年度に「広島県地球温暖化防止地域計画」を策定し,実効性のある取組を推進していきます。
温室効果ガスの排出状況の推移,国や他の都道府県の動向,産業・運輸・民生の各部門ごとの状況を踏まえた実効性ある二酸化炭素排出量削減対策を推進していきます。
  
(1) 産業・民生(業務)部門
  
温室効果ガスの排出量が相当程度多い事業者において,温室効果ガスの自主的な削減に向けた計画的な取組の促進を図ります。
化石燃料の利用等に伴う二酸化炭素の排出を抑制するため,新エネルギーや省エネルギーに資する設備投資に対する支援を行うとともに,新・省エネルギー機器等の開発,ライフサイクルアセスメント(LCA)手法の普及等を推進します。
排熱エネルギー等が効率的に利用できる場所におけるコージェネレーションシステム,地域冷暖房システム等の利用促進,ESCO事業の普及促進等を図ります。
都市化によるヒートアイランド現象を緩和し,気温の上昇を防ぎ,人の健康や生活環境を保全するため,人工排熱の削減,人工化された地表面被覆の改善,都市における緑化や水辺空間の創出等を促進します。
  
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
  
県立広島病院天然ガスコージェネレーション設備事業[県立病院室]
  
 発電効率の高い天然ガスミラーサイクルガスエンジンコージェネレーションシステムを設置し,発電することで商用電力の電力負荷平準化を行っています。さらに排熱を既設の蒸気ヘッダーに投入し,蒸気ボイラー用燃料の削減を図ることで,二酸化炭素や硫黄酸化物排出量を削減します。
   
[平成14年度事業実績] 天然ガスコージェネレーションシステムを設置しました。
[平成15年度事業内容] 天然ガスコージェネレーションシステムを稼動させ,二酸化炭素や硫黄酸化物の排出量削減に努めます。
  
沼田川工業用水道事業[水道整備室]
  
 二酸化炭素排出量削減のために,惣定配水池に太陽光発電装置を設置しています。
  
[平成14年度事業実績] 太陽光発電装置を設置し2,700kWhを発電し,1,036kgの二酸化炭素排出量を削減しました。
[平成15年度事業内容] 引き続き,太陽光発電装置を運転します。
  
  
平成15年度に講じる施策(新規)
  
広島県地球温暖化防止地域計画策定事業[環境政策室]
  
 地球温暖化問題が深刻さを増す中で,地域の生活環境や自然環境を将来にわたって良好に保ち,社会的・自然的条件に応じた県独自の地球温暖化対策を実施していくため「広島県地球温暖化防止地域計画」を策定し,実効性のある取組を推進します。
  
温室効果ガス削減へ向けた事業者の取組強化方策[環境政策室,環境対策室]
  
 温室効果ガスの排出量が相当程度多い事業者における温室効果ガスの自主的な削減を促進するための仕組みを構築します。
  
県庁舎屋上緑化モデル事業[財産管理室]
→詳細はこちら
  
(2) 運輸部門
  
低公害車等の普及促進に向けた県民・事業者の責務を明確化するとともに,新車販売店における自動車排出ガスの規制等に関する情報提供の徹底を図ります。(再掲)
自動車を一定台数以上使用する事業者における低公害車等の計画的な導入を促進します。(再掲)
行政及び産業界等で構成する「中国地方低公害車導入促進協議会」による普及啓発活動等の推進を図ります(再掲)。
鉄道,路線バス等の公共交通機関の利便性の向上,パークアンドライドの実施等の交通需要マネジメント(TDM)の推進等により,自家用自動車の交通量の低減を推進します。(再掲)
貨物自動車の効率的運行,共同輸配送,鉄道・船舶利用輸送等の促進等による自動車の使用の合理化を図るとともに,物流拠点の整備等により,物流の効率化・円滑化を推進します。(再掲)
不要なアイドリングや急発進・急加速の自粛など,エコドライブ(環境に配慮した自動車の運行)を促進するため,県民・事業者の責務の明確化と,アイドリングストップの推進を図ります。(再掲)
道路交通流の円滑化を図るため,路上工事の縮減に留意しつつ,道路の立体交差化,交差点の改良,交通管制システムの高度化などの基盤整備を推進します。(再掲)
  
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
  
環状道路・バイパスの整備[道路企画室](再掲)
  
パークアンドライドの推進[都市企画室](再掲)
  
街路事業[都市整備室](再掲)
  
公共交通機関の利便性の向上[交通規制課](再掲)
  
交通管制システムの高度化[交通規制課](再掲)
→ア,イ,ウ,エ,オの詳細はこちら
  
(3) 民生(家庭)部門
  
広報や地球環境問題をテーマとした講演会の開催等により,環境への負荷の少ないライフスタイルの確立に向けた普及・啓発を行います。
省エネルギー機器や環境共生建造物の普及を促進する仕組みづくりを行います。
市町村や「広島県地球温暖化防止活動推進センター」,「地球温暖化対策地域協議会」,「地球温暖化防止活動推進員」,「環境にやさしいひろしま県民会議」等と適切な役割分担のもとに連携を図り,地域における地球温暖化防止対策のきめ細かく効率的な取組を推進します。
  
平成14年度に講じた施策・平成15年度に講じる施策
  
省エネルギーの推進[循環型社会推進室]
  
 省資源・省エネルギー型ライフスタイルを定着させるため,「環境にやさしいひろしま県民会議」と連携し,県民の省資源・省エネルギー意識の高揚と実践活動の促進を図ります。
  
[平成14年度事業実績]
事業名 内容等
リーダー研修会 地域の省エネ事例発表,講演会等を川尻町で開催
講演会の開催 グリーンコンシューマーの取組や地球環境とエネルギーに関し2回開催
環境にやさしい買い物キャンペーン 環境配慮製品の購入及び買い物袋持参の推進,啓発チラシ等の啓発用品配布,パネル・ポスター展示,買い物袋持参状況調査等を実施
普及啓発活動 省資源・省エネルギーを呼びかける懸垂幕の掲示やテレビ・ラジオスポット,県民だより,各種パンフレット配布等による広報活動
  
[平成15年度事業内容] 引き続き,「環境にやさしいひろしま県民会議」と連携した県民運動を推進します。また,広島県地球温暖化防止推進センター((財)広島県環境保健協会)と連携し,地域での地球温暖化対策の取組を推進します。
  
平成15年度に講じる施策(新規)
  
県民総ぐるみ温暖化防止推進事業[環境政策室]
  
 日常生活から排出される二酸化炭素排出削減に向けて,実効性のある温暖化対策を推進するため,地域住民,事業者,行政,地球温暖化防止活動推進センターなどにより構成されるパートナーシップ型の組織であり,地域の温暖化対策について協議する「地球温暖化対策地域協議会」の運営マニュアルを作成し,その設立と活動を支援します。
 また,地球温暖化対策の推進に熱意と見識を有する者の中から,地球温暖化防止活動推進員を委嘱することにより,地域の温暖化対策をリードする人材を養成し,各地域においてきめ細かく効率的な取組を推進します。
  
図表2‐1‐10 地球温暖化対策地域協議会の概念図


●コラム● 府中町脱温暖化
[事業名称]
 安芸府中・ECOMUNITY(エコミュニティ)実験事業
 
[実施主体]
 府中町脱温暖化市民協議会/(財)広島県環境保健協会
 
[実施主体]
 府中町脱温暖化市民協議会/(財)広島県環境保健協会
 
エコマネー
 
まつりリユース市風景
 
まつりのごみダイエット作戦
[概要]
 町ぐるみでの脱温暖化をめざして,平成14年9月,府中町公衆衛生推進協議会を中心に,町内会連合会,女性会等各種団体により「府中町脱温暖化市民協議会」が結成されました。
 協議会が実施した事業のキーワードは「エコマネー(地域通貨)」と「エコミュニティ」。地域の活動の活性化を図るため,地域通貨を導入する例が全国的にも多くあるが,府中町では,特に脱温暖化に焦点を絞って,エコマネーを導入しました。
 「エコミュニティ」は,エコロジーとコミュニティをあわせた造語で,エコマネーを利用することで,環境保全と地域社会に価値をみいだせるようなまちづくりをねらいとしています。
 事業の核となるのが,各家庭で省エネ行動を実践し,エネルギー使用量を調査する「省エネトライアル」で,省エネトライアルに参加すると,エコマネー「FUTURE(ふちゅー)」が獲得できます。未来を意味する"FUTURE"を"ふちゅー"と読み,1億と5億の2種類を発行しており,参加で1億,さらに二酸化炭素の削減率に応じて,加算されるというしくみです。
 獲得したエコマネーは,町内のお祭りでのリユース市や脱温暖化ゲーム,産直野菜市,ヒマラヤザクラのオーナー権など,いずれも環境保全に意味のあるものと交換できます。また,府中町公衆衛生推進協議会で実施する祭りのごみダイエット作戦に,エコサポーターとして参加しても獲得できます。
 
省エネトライアルによるエコマネーの発行と回収
  「省エネトライアル」によるエネルギー使用料調査を行い,CO2削減率に応じてエコマネー「FUTURE(ふちゅー)」を発行し,町内のお祭りや環境フォーラムで回収します。
 
(主催者のコメント)
 今回の試行的実施によって,エコマネーそのものをPRすることとエコマネーを流通させる基盤をつくることができました。事業の後半期に行った住民参加型体験学習会では,「府中町をどんな町にしたいか」そのために「エコマネーをどのように使いたいか」などをテーマにエコミュニティの将来像を描いていきました。町内の河川清掃やごみ減量等によってエコマネーを獲得したり,修理工房やレンタサイクルにエコマネーを使用できるなど,住民から出たさまざまなアイディアは大きな産物となりました。
 今後は長期的な取り組みの中で,脱温暖化をはじめ水質浄化,ごみ減量などの環境保全行動に,エコマネーを活用することで,将来像を実現していきたいと考えています。

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