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就業規則の不利益変更をめぐる判例|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年8月1日

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就業規則の不利益変更をめぐる判例

秋北バス事件 (最高裁大法廷判決 昭和43年12月25日)

原則否定,例外的に合理的な変更の場合に限り肯定するとの考え方を採用した最高裁の先例
「新たな就業規則の作成又は変更によって,既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として,許されないと解すべきであるが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒否することは許されないと解すべきであり,これに対する不服は,団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。」

第四銀行事件 (最高裁第二小法廷判決 平成9年2月28日)

合理性の判断基準の最新例
「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されないが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されない。そして,右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」
慣行としての58歳までの定年退職制度(定年は55歳)を60歳定年制に改めたが,55歳以降の賃金総額は逆に下がったことが合理的と判断された例
従前の定年後在職制度の下で得られると期待することができた金額を二年近くも長く働いてようやく得ることができるというのであるから,この不利益はかなり大きなものである。特に,従来の定年である55歳を間近に控え,58歳まで定年後在職制度の適用を受けて54歳時の賃金を下回ることのない賃金を得られることを前提として将来の生活設計をしていた行員にとっては,58歳から60歳まで退職時期が延びること及びそれに伴う利益はほとんど意味を持たないから,相当の不利益とみざるを得ない。」
「しかしながら,労働力人口の高齢化を背景として」,「60歳定年制の実現が,いわば国家的な政策課題とされ,社会的に強く要請されていたのであり,」「組合からも同様の提案がされていたというのである。したがって,定年延長問題は,被上告人においても,不可避的な課題として早急に解決することが求められていたということができ,定年延長の高度の必要性があったことは,十分にこれを肯定することができる」。一方,「定年延長に伴う人件費の増大,人事の停滞等を抑えることは経営上必要なことといわざる得ず,特に被上告人においては,中高年齢層行員の比率が地方銀行の平均よりも高く,今後更に高齢化が進み,役職不足も拡大する見通しである反面,経営効率及び収益力が十分とはいえない状況にあったというのであるから,従前の定年である55歳以降の賃金水準等を見直し,これを変更する必要性も高度なものであったということができる。」
「また,従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない上,変更後の就業規則に基づく55歳以降の労働条件の内容は,55歳定年を60歳に延長した多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であって,その賃金水準も,他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して,かなり高いものである。」
「定年が55歳から60歳まで延長されたことは,女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては,明らかな労働条件の改善であり,健康上支障のない男子行員にとっても,58歳よりも2年間定年が延長され,健康上多少問題が生じても,60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は,決して小さいものではない。また,福利厚生制度の適用延長や拡充,特別融資制度の新設等の措置が採られていることは,年間賃金の減額に対する直接的な代償措置とはいえないが,本件定年制導入に関連するものであり,これによる不利益を緩和するものということができる。」
「さらに,本件就業規則の変更は,行員の約90パーセントで組織されている組合(……50歳以上の行員についても,その約6割が組合員であったことがうかがわれる。)との交渉,合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから,変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができ,また,その内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであることを考え合わせると,被上告人において就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる。」
「以上によれば,本件就業規則の変更は」,「諸事情を総合考慮するならば,なお,そのような不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると認めることができないものではない。」

みちのく銀行事件 (最高裁第一小法廷判決 平成12年9月7日)

55歳以上の銀行員の賃金に不利益を及ぼす就業規則の変更が合理性を欠き無効と判断された例

事案

高齢化対策の一環として,全従業員の73%を組織する労働組合の同意の上で,55歳に達した時点で管理職の地位にある行員を専任職とし,業績給の50%減額など賃金・賞与を大幅に削減した事案。この銀行の少数組合はこの措置に反対し,その組合員が就業規則の変更を不服として提訴した。

判旨

「賃金体系の変更は,特定の層の行員のみに賃金コスト抑制の負担を負わせており,就業規則の変更によってこのような制度の改正を行なう場合には,一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和する等の経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり,それがないままに労働者に大きな不利益のみを受忍させることには相当性がない」。
「不利益性の程度や内容を勘案すると,賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな判断要素と評価することは相当ではない」。
「企業存続の危機や高度の経営危機状態にあるときは,このような人件費抑制も合理的なものとして認めることができる場合がある。しかし,本件は,就業規則等変更を行う経営上の高度の必要性が認められるといっても,賃金体系の変更は,中堅層の労働条件の改善をする代わりに55歳以降の賃金水準を大幅に引き下げたものであって,差し迫った必要性に基づく総賃金コストの大幅な削減を図ったものではなく」,「それによる賃金に対する影響の面からみれば,高年層の行員に対しては,専ら大きな不利益のみを与えるものであって,他の諸事情を勘案しても,変更に同意しない労働者らに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない」。

羽後銀行事件 (最高裁第三小法廷判決 平成12年9月12日)

週休2日制の実施に伴い平日の所定労働時間を10分間ないし60分間延長する就業規則の不利益変更は合理的で有効と判断された例
「本件就業規則変更により,被上告人らにとっては,特定日以外の平日の所定労働時間が10分間,特定日の所定労働時間が60分間延長されることとなったのであるから,本件就業規則変更が,被上告人らの労働条件を不利益に変更する部分を含むことは,明らかである。また,労働時間が賃金と並んで重要な労働条件であることはいうまでもないところである。」
「変更による実質的な不利益の程度について検討すると,特定日における60分間の労働時間の延長は,それだけをみればかなり大きな不利益と評し得るが,特定日以外の営業日における延長時間は10分間にすぎないものである」。「週単位でみると,所定労働時間が減少している週の方が多く,年単位でみても,所定労働時間が相当に減少しており,むしろ,時間当たりの基本賃金額は,本件就業規則変更によりそれだけ増加したということができる。」
「被上告人らは,本件就業規則変更による時間外勤務手当の減少を重視すべきであると主張している。」しかし,「時間外勤務を命ずることについては使用者に裁量の余地があり,かつ,事務の機械化等が時間外勤務の必要性に影響を及ぼすことも想定することができるのである。右のことからすると,もし本件就業規則変更がされなかった場合に,右変更前の終業時刻から本件就業規則変更後の退勤時刻までの時間につき,法定内あるいは法定外の時間外勤務が当然に行われることになるとはいえず,これが行われることを前提とする被上告人らの主張には,合理的な根拠があるとはいい難い。」
「他方,本件では,完全週休2日制の実施が本件就業規則変更に関連する労働条件の基本的な改善点であり,労働から完全に解放される休日の日数が連続した休日の増加という形態で増えることは,労働者にとって大きな利益であるということができる。」
したがって,「平日の労働時間の延長による不利益及びこれに伴いある程度は生ずるであろうことが予想される時間外勤務手当の減収を考慮しても,被上告人らが本件就業規則変更により被る実質的不利益は,全体的にみれば必ずしも大きいものではないというのが相当である。」
「変更の必要性について検討すると,本件では,金融機関における先行的な週休2日制導入に関する政府の強い方針……からすると,A銀行にとって,完全週休2日制の実施は,早晩避けて通ることができないものであったというべきである。そして,週休2日制は,労働時間を大幅に短縮するものであるから,平日の労働時間を変更せずに土曜日をすべて休日にすれば,一般論として,提供される労働量の総量の減少が考えられ,また,営業活動の縮小やサービスの低下に伴う収益減,平日における時間外勤務の増加等が生ずることは当然である。そこで,経営上は,賃金コストを変更しない限り,右短縮分の一部を他の日の労働時間の延長によって埋め合わせ,土曜日を休日とすることによる影響を軽減するとの措置を執ることは通常考えられるところであり,特に既に労働時間が相対的に短いA銀行のような企業にとっては,その必要性が大きいものと考えられる。加えて,完全週休2日制の実施の際,ごく一部の銀行を除き,平日の所定労働時間の延長措置が執られているというのであるから,他の金融機関と同じ程度の競争力を維持するためにも,就業規則変更の必要性があるということができる。」
更に,「本件就業規則変更後の週36時間40分又は週40時間という所定労働時間は,当時の我が国の水準としては必ずしも長時間ではなく,他行と比較しても格別見劣りするものではない。そうすると,終業時刻の延長をせずに完全週休2日制だけを実施した場合には,所定労働時間が週35時間にまで大幅に短縮されることも勘案すると,本件就業規則変更については,その内容に社会的な相当性があるということができる。」
「以上によれば,本件就業規則変更により被上告人らに生ずる不利益は,これを全体的,実質的にみた場合に必ずしも大きいものということはできず,他方,A銀行としては,完全週休2日制の実施に伴い平日の労働時間を画一的に延長する必要性があり,変更後の内容も相当性があるということができるので」,「本件就業規則変更は,右不利益を被上告人らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものであると認めるのが相当である。」