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8-15 社宅はいつまでに明け渡さなければならないか|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

労働相談Q&A

8-15 社宅はいつまでに明け渡さなければならないか

質問

私は,今月末で今勤めている会社を定年退職します。これまでは,月1万円の使用料を支払って2DKの社宅に住んでいたのですが,会社から退職後2週間以内に明け渡すように求められています。しかし,転居先がなかなか決まらずに困っています。新しい住居が決まるまで,社宅に住むわけにはいかないのでしょうか。

回答

<ポイント!>
1. 社宅の使用関係が賃貸借に当たる場合は,会社からの解約申入れは6か月前に行わなければなりませんが,使用貸借と認められる場合は,契約に定められた時期に返還することを要します。
2. 通常は,30日から3か月の猶予期間が定められていることが多いので,会社の規程を確認してみましょう。
 
社宅の使用関係
退職後に,いつ社宅を明け渡さなければならないかについては,社宅の使用関係が賃貸借に当たるか,使用貸借に当たるかによって異なってきます。
一般的には,賃貸借とは,使用料を払って他人の物を利用する契約であるのに対し,使用貸借とは,無償で他人の物を使わせてもらう契約です。
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正当な事由
社宅の使用関係が賃貸借に当たる場合は,借地借家法が適用され,解約の申入れは,「正当な事由があると認められる場合でなければすることができない。」とされています(第28条)。また,正当な事由の有無を判断するに当たっては,「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮」するものと定めています。
問題は,労働者が定年などにより従業員でなくなったこと自体が賃貸借解約申入れの「正当な事由」になるかということですが,使用者が他の従業員が入居を必要としていることを立証すれば「正当な事由」ありとされることが多いようです。
 
6か月前の解約申入れ
更に,借地借家法の適用を受ける場合,会社側は解約の申入れを6か月前にしなければならず,建物の賃貸借は,申入れの日から6か月を経過することによって終了します(第27条)。
 
使用貸借の場合
これに対し,使用貸借の場合は,借主は,
1. 契約に定められた時期,
2. 時期を定めていないときは,契約に定めた目的に従い使用・収益を終わった時期,
3. 返還時期も使用・収益の目的も定めていないときは,貸主の請求するときに建物を返還し,明け渡さなければなりません(民法第597条)。
社宅は,従業員に対し,使用者に労働を提供することを容易にする目的で貸与されたものと解されますから,通常は,労働契約終了時に明渡しの義務を負うことになります。
 
賃貸借か使用貸借か
一般的に,社宅の使用料は,民間の賃貸住宅の家賃よりも安く設定されているため,賃貸借なのか,使用貸借なのか,すぐに判断できない場合が多いものです。
有力な考え方は,一般の相場と比べて,賃料と認められない程度に安い場合には使用貸借であり,借地借家法の適用はないとするものです。
この点,裁判例は,社宅の使用料が会社の負担している地代の約半額で,実質的には家屋の維持修繕費用の一部に充てられる程度のものである場合(興国ゴム事件・東京地判昭和46年7月19日)や,同じ立地条件の建物の家賃に比べると,使用料が数分の一である場合(JR東日本建物明渡事件・千葉地判平成3年12月19日)は,賃貸借には当たらないとしています。
 
こんな対応を!
御質問の内容だけでは明確には判断できませんが,月1万円の使用料は通常の相場よりもかなり安いものと思われ,したがって,使用貸借に該当するのではないかと考えられます。したがって,上記に使用貸借の場合で説明したように扱われるものと思われます。
ただ,多くの場合は,社宅管理規程などにより30日から3か月程度の明渡し猶予期間を設けているのが通常です。まずは,会社の規程がどうなっているか確認してください。会社の言い分どおり「2週間以内」と定められている場合は,一般的な猶予期間を考慮してもらって,相当の期間は社宅に住むことを認めてもらうよう,会社側と話し合ってみましょう。