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13-3 会社でいじめにあっている|労働相談Q&A

印刷用ページを表示する掲載日2018年7月31日

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13-3 会社でいじめにあっている

質問

私は,今年春の異動で新しい部署に配属になったのですが,部長との折り合いが悪く,私が作成した書類を故意に長期間放置したり,必要のない備品庫の整理を命じたり,「あなたは会社にとって何の役にも立っていない。」とみんなの前で罵倒したりと,様々な嫌がらせを受けています。同僚も,部長の態度に同調し,私をことさらに無視するようになり,精神的に追い込まれた私は,現在,神経科に通院しています。このままでは退職せざるを得ない状況ですが,なんとかならないのでしょうか。

回答

<ポイント!>

  1. 職場におけるいじめや嫌がらせは,人格権を侵害する不法行為です。
  2. いじめや嫌がらせを受けた場合,のちのちの証拠のために,言動を書面などに記録しておきましょう。

人格権の侵害

職場におけるいじめや嫌がらせは,労働者の名誉やプライバシーなどの人格権を侵害する行為であり,不法行為として損害賠償責任が生じます。
人格権とは,人の生命・身体・自由・名誉・名前・貞操・信用など,法的保護の対象となる人格的な利益のことをいいます(「法律学小辞典」有斐閣)。民法第710条は,身体・自由・名誉だけを挙げていますが,これは例示であって,人格権には信用や名前なども含まれると解されています。

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違法性の判断

具体的に,どのような行為が人格権を侵害するいじめとして違法とされるのか,その一般的な判断基準を設けることは困難です。結局は,事案ごとに,個々具体的に判断することとなります。以下に,いじめに関する裁判例を挙げておきますので,参考にしてください。

いじめに関する裁判例

関西電力事件・最三小判平成7年9月5日

(事案の概要) 特定の政党員やその同調者であるとの理由で,職場の内外で労働者を継続的に監視する態勢をとった上,その労働者が極左分子であるとか会社の経営方針に非協力的な者であるなどとその思想を非難して,他の従業員に接触,交際をしないよう働き掛け,種々の方法を用いて職場で孤立させた。更に,退社後に尾行したりし,ロッカーを無断で開けて私物の手帳を写真に撮影したりした。

(判旨) これらの行為は,労働者らの職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害するとともに,その名誉を毀損するものであり,また,プライバシーを侵害するものでもあって,人格的利益を侵害するものというべく,これら一連の行為が会社としての方針に基づいて行われたというのであるから,それらは,それぞれ会社の不法行為を構成するものといわざるを得ない。

松蔭学園事件・東京高判平成5年11月12日

(事案の概要) ある教師に対する校長の嫌悪感からエスカレートし,13年間にわたって教師の職務を一切奪った上,職員室内や「第三職員室」と称する場所に他の教職員から隔離して,一日中机の前に座っていることを強制したり,自宅研修の名目で職場から完全に排除するとともに,賃金の額も据え置き,一時金も一切支給しなかった。

(判旨)教師の取った態度にも反省すべき点がなかったわけではないが,この点を考慮しても,学校法人の行った言動あるいは業務命令等を正当づける理由とはならず,その行為は,業務命令権の濫用として違法,無効であることは明らかであって,学校法人の責任は極めて重大である。
これらの違法行為は,学校法人の設置する学園の校長又は副校長によって行われたものであるから,学校法人は,民法709条(不法行為),715条(使用者責任),710条(財産以外の損害賠償)に基づき,その不法行為によって教師が被った損害を賠償すべき義務がある。

京都セクシュアルハラスメント(呉服販売)事件・京都地判平成9年4月17日

(事案の概要) 会社は女子更衣室で密かにビデオ撮影がされていることに気付きながら,それを放置していた。これを理由に女性社員が「会社を今は好きになれない。」と発言したところ,取締役が女性社員の異性関係等を他の社員の前で公然と発言し,また,朝礼の際に,会社で勤務を続けるか否か考えてくるようにと,退職を示唆するような発言を行い,このため人間関係がぎくしゃくするようになり,退職を余儀なくされた。

(判旨)取締役の発言により,周りの社員が女性社員との関わり合いを避けるようになったことから,会社に居づらい環境になっていたのに,取締役は何の措置も取らなかった。そして,そのため,女性社員は退職しているから,取締役は,退職による損害を賠償する責任を負う。
会社は,雇用契約に付随して,社員のプライバシーが侵害されたり,社員がその意に反して退職することがないように,職場の環境を整える義務がある。したがって,盗撮の真相を解明する努力をして再発を防止したり,取締役の発言に対して謝罪や撤回などの措置を取るべき義務があったにもかかわらず,何の措置も取らなかったのであるから,会社は,ビデオ撮影や退職によって生じた女性社員の損害を賠償する責任を負う。

全国商工会連合会事件・東京地判平成10年6月2日

(事案の概要) 有夫の女性だけを対象にした退職勧奨を断ったときから,不合理な配転を繰り返し受け,各職場において数々のいじめ,嫌がらせを受けたとして女性労働者が訴えを起こした。

(判旨) (有夫の女性であることなどを理由に女性労働者を特定して退職を勧奨したとは認められないとした上で,)配置転換の必要性がなかったとは認められないし,これにより女性労働者が通常甘受すべき程度を超えた不利益を被ったとも認められない。配置された各職場において,必ずしも労働者自身が満足すべき内容の職務を与えられたとはいえず,職場の人間関係もうまくいかなかったことが窺われるけれども,これも本人の長年にわたる芳しくない勤務態度,協調性の欠如に起因するところが大きいといわざるを得ず,不法行為を構成するほど違法性を帯びた職場のいじめや嫌がらせとまではいうことができない。

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こんな対応を!

職場内でいじめを受けている場合は,いじめに当たる言動の具体的な状況を,日時や場所,周囲の状況などとともに,書面に書き留めておきましょう。それをもって,上司や人事労務担当者などに職場環境の改善を求め,必要がある場合には,配置替えなどを要求しましょう。
いじめにあった場合,同僚に理解を求め,サポートしてもらうのが一番ですが,場合によっては,上司や同僚など職場ぐるみでいじめを行うケースもあります。そのようなケースは,人事労務担当部署に話をし,それでもだめなら,労働相談機関や弁護士に相談しましょう。
最終的には,司法機関に訴えて,行為者にいじめをやめるよう求める仮処分を申請したり,人格権の侵害として損害賠償を求めることとなります。

「パワー・ハラスメント」について

なお,最近では,職場におけるいじめ(のあるもの)を「パワー・ハラスメント」としてとらえ,問題とする動きがあります。パワー・ハラスメントは,

  1. 職権などのパワーを背景にして,
  2. 本来業務の範疇を超えて,
  3. 継続的に,
  4. 人格と尊厳を傷つける言動を行い,
  5. 労働者の働く環境を悪化させたり,雇用不安を与えること

などと定義されていますが,セクハラと異なり法令上の根拠はなく,裁判例においても一般的に認められるまでに至っていません。ただし,最近の裁判例の中に,就業規則中の「パワーハラスメント」の規定を前提にしてではありますが,上司が部下について「やる気がないなら,会社を辞めるべき,あなたの給料で非常勤職員が何人も雇える,これ以上迷惑をかけないで下さい」といった趣旨の文章をポイントの大きな赤字で作成し,本人を含む部下十数名にメールで送信したケースにつき,パワー・ハラスメントの意図があったとまではいえないが(このメールの目的は部下を「叱咤督促」することにあり,表現方法は別として,目的は是認できるとしています),名誉毀損にあたるとして慰謝料5万円を認めたものがあります(A保険会社上司(損害賠償)事件・東京高判平成17年4月20日)。