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2.2 広島から平和を促進する

印刷用ページを表示する掲載日2012年6月14日
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核兵器の廃絶と平和構築には、長期的な取組が必要である。そのためには、短期的な政策イニシアティブよりも、国際平和に向けた「拠点」の構築がよりふさわしい。私たちは、広島が国際平和拠点として機能するためには、以下に述べる行動が重要になると考えている。

国連訓練調査研究所による公開セッションとひろしま国際プラザ最初に、アジア地域の安全保障のダイナミクスに注目しながら、軍縮プロセスを多国間協議にする戦略について話し合う「広島ラウンドテーブル」の開催を提案したい。これはトラック2での対話の提案であるが、個々の政府代表の参加も受け入れるので、将来的にはトラック1.5、さらには政府間対話であるトラック1を目指すものと言ってよい。政府代表団や個別参加者が広島に集まるこのラウンドテーブルは、核兵器管理や核依存の低減、平和構築について対話する場としてふさわしい。このラウンドテーブルは、さらに、以下のアジェンダを達成するための原動力になるはずである。

[写真提供] ユニタール広島事務所

a.核廃絶へのロードマップの支援

広島は、核廃絶の実現のため、そのプロセスが持続的かつ実質的に進むよう貢献することを固く決意している。広島がその際にとるべき活動として考えられるのは、以下のとおりである。

1) 市民を主体にした国際会議を提案し支援すること。具体的には、国連軍縮特別総会の広島開催を視野に入れた、核廃絶に関する「トラック2イニシアティブ」の開催である。この分野の取組次第では、核軍縮に関する政府間会議の礎を築くなど、具体的な成果が期待できる。
2) NPT運用検討会議の最終文書やICNND、新STARTなど核軍縮の様々な取組や合意について、その具体的な実施状況を評価すること。評価プロセスにおいては、可能であれば、達成度を測るために採点表などを用いる。これによって、核軍縮の取組を可視化できるため、関係各国がさらにコミットするよう動機づけができる。

b.核テロリズムのリスクの削減

核テロリズムは、「核兵器のない世界」の実現への長い道のりの中で、最後までリスクとして残ると思われる。実際、完全な核軍縮が達成できたとしても、テロリストが放射能を含むダーティボム(汚い爆弾)を製造したり、あるいは高濃縮ウランやプルトニウムを使って即席の核装置を考案したりする危険性は常に付きまとうであろう。だが、広島の歴史は、核による恐ろしい破壊は可能であるが、同時に、人々は困難に屈せず核の悲劇や喪失から次第に立ち上がるという、二つのことに気づかせてくれる。ゆえに私たちは、ラウンドテーブルの開催や以下に述べるような人材育成事業を通じて、広島が国際平和拠点としてふさわしいと確信している。

1) 紛争で疲弊した社会に平和を構築し、個人やグループが目的達成のために核テロをはじめとした暴力手段に訴えることのないよう、考えられうる要因をなくすこと。
2) 核物質の安全管理に可能な限り厳しい基準を設け、それを普及させること。さらに、民間利用目的の核物質がテロリストの手に渡らないよう、その安全な保管に関するベストプラクティスを開発し、普及させること。
3) ダーティボムが使用されたとしてもその影響を最小限で抑えるため、また、テロ事件が発生しても物理的・精神的に回復できるような社会を育成するため、ベストプラクティスを開発し、普及させること。

c.平和な国際社会構築のための人材育成

国連訓練調査研究所による研修核兵器のない平和な世界を築き紛争後の復興を達成するには、国際社会が政治家と市民を育て、動員することが不可欠である。教育は、今日実務にあたっている人と将来の世代にとって非常に重要である。私たちは、ふさわしい人材の育成をはじめとして、教材の開発や現場研修などに取り組んでいく必要がある。

こうした取組の支援にあたって、広島は、広範囲をカバーする実際的なプログラムを提供するなど、人材育成の拠点となるよう努めるべきである。そのために考える行動は次のとおりである。

1) 紛争解決や平和構築、紛争予防の専門家育成のために具体的な訓練を提供できるよう、必要な能力を増強すること。
2) 関連する機関と専門家をつなぐネットワークを構築すること。これによって、情報共有の機会及びフィールドでの活動の合間をぬって高度な訓練を受ける機会を与えること。
3) 今後の取組や教育、訓練に生かすため、現場での活動とその成果を蓄積すること。
4) 市民社会、UNITAR、JICA、そして広島大学と連携していくこと。これは、上記の活動を実行するにあたって重要である。

[写真提供] ユニタール広島事務所

d.核軍縮、紛争解決、平和構築のための研究集積

シンポジウム「国際平和拠点ひろしまの実現に向けて」核軍縮と世界平和の達成には、様々な理論的、実験的な研究が欠かせない。卓越した研究拠点を築くことは、知識や知恵を集積し、多様な研究の試みや発見が相乗効果を生み出していくために不可欠である。端的に言えば、広島は核軍縮及び平和構築の分野でのナレッジマネジメントの拠点となるべきである。そしてそのためには、以下の行動が必要である。

1) 大学や研究機関において、様々な形の平和研究を推進すること。
2) 紛争後の復興に関して蓄積される知識が効果的に活用されているか検討すること。
3) 紛争解決及び平和的対話に関わる既存の枠組を検討すること。

e.持続可能な平和支援のメカニズムの構築

原爆ドーム広島は、平和のシンボルとしてだけではなく、平和の実現を目的とした諸活動のネットワークの中心として、その立場を確立しなければならない。世界中から人材や構想、資金を集め、結びつけ、平和のための新たな活動が生まれる支援拠点となることで、広島は、世界平和を支援するメカニズムを備える必要がある。

もしそうした目的のために長期的な取組が必要とされる場合は、財政負担を広島の人々だけに求めるわけにはいかない。また、地方自治体の政治的・財政的状況によって平和実現に向けた活動が抑制されるべきでもない。そうならないよう、自律的な手段を有するメカニズムの設置を、私たちは提案する。広島がその役割と責任を果たすことができるよう、広島県と広島市はその連携を強めるだけでなく、それぞれの強みと個性を生かし、一体化したコミュニティとして難題に取り組むべきである。

世界平和を促進する拠点として、広島は幅広い取組の先頭に立っていくべきである。そのような取組には、平和に関わるイシューの包括的な研究の促進、NGO・政府の職員、ビジネス経験者、研究者など、核廃絶や/もしくは平和構築の実務に携わる人々が議論できる場の提供、そして、持続可能な取組のための「ニーズとシーズ」の包括的なコーディネーションが含まれる。

原爆死没者慰霊碑と原爆ドーム私たちは、本提案の中で提示した項目を追求し、また促進していく拠点として、広島が理想的な選択であると確信している。核による甚大な被害に苦しめられた都市として、広島は核軍縮と核全廃を求める多くの運動の中心地となっている。私たちは日本が核の拡大抑止の受益者であることを認識している。しかしこのことは、核兵器に頼らない平和の方が核抑止力に依存した平和よりはるかに良いという信念を強めるのみである。核軍縮への希望と意志を実際の政策に移すことが、ここでの私たちの目標であり、本提案はその理想へ私たちを導いてくれるはずである。


 本提案は、国際平和拠点ひろしま構想策定委員会及び同タスクフォース委員による議論を基にして作成された第一次報告書であり、今後必要に応じて改訂を加える可能性がある。策定委員会及びタスクフォース委員すべての意見を反映したものでは必ずしもないことをここに補足する。

本構想は、(財)日本国際問題研究所の全面的な協力を得て策定した。

バン・キムン国連事務総長と湯崎広島県知事
平成23年11月、湯崎広島県知事が国連本部を訪問し、潘基文国連事務総長と会談。事務総長は、本構想への全面的な支援を表明された。

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