障害を理由とする差別の解消の推進に関する 広島県職員対応要領 ハンドブック 令和6年4月1日改正 健康福祉局 障害者支援課 第1 趣旨 1 障害者差別解消法制定の経緯    1 2 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針    2 3 広島県における取組    2 第2 対象となる障害者    3 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 1 不当な差別的取扱い    4 2 合理的配慮    5 第4 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 1 不当な差別的取扱いと考えられる例    7 2 合理的配慮と考えられる例    9   第5 障害特性に応じた対応 1 視覚障害(視力障害・視野障害・色覚障害・光覚障害)   13 2 聴覚障害   16 3 盲ろう(視覚と聴覚の重複障害)   18 4 肢体不自由   19 5 構音(こうおん)障害   21 6 失語症   22 7 高次脳機能障害   22 8 内部障害   24 9 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な人   27 10 知的障害   29 11 発達障害   30 12 精神障害   37 13 難病   41 【参考1】 障害者に関するマーク   43 【参考2】 コミュニケーションボード   47 【参考3】 関係機関一覧   48 【関係法律】 障害者基本法   50 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律   57 このハンドブックは,障害を理由とする差別の解消の推進に関する広島県職員対応要領(平成28年4月施行。以下「対応要領」という。)第8「研修・啓発」に基づき,職員が障害の特性や多様性を理解するとともに,障害者へ適切に対応するために作成したものです。 このハンドブックでは,障害者差別解消法の趣旨,障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないこと及び合理的な配慮を行うために必要な考え方などについて,記載しています。 なお,障害種別に応じた主な対応として,具体例を記載していますが,あくまで例示であり,記載されているものだけに限定されません。また,対応しなかったからといって,直ちに対応要領第7「人事管理上の措置」に該当するものではありません。正当な理由がある場合及び過重な負担に当たると判断した場合は,障害者にその理由を説明するとともに,理解を得るように心がけてください。 職員が障害について正しく理解し,認識を深め,障害者が安全・安心に暮らせるための障害特性に応じた適切な対応をお願いします。 第1 趣旨 1 障害者差別解消法制定の背景及び経過 近年,障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し,平成18年に国連において,障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択されました。我が国は,平成19年に権利条約に署名し,以来,国内法の整備を始めとする取組を進めてきました。 権利条約は第2条において,「「障害に基づく差別」とは,障害に基づくあらゆる区別,排除又は制限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のあらゆる分野において,他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し,享有し,又は行使することを害し,又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には,あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し,その禁止について,締約国に全ての適切な措置を求めています。 我が国においては,平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において,障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され,さらに,平成23年の同法改正の際には,権利条約の趣旨を踏まえ,同法第2条第2号において,社会的障壁について,「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに,基本原則として,同法第4条第1項に,「何人も,障害者に対して,障害を理由として,差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと,また,同条第2項に,「社会的障壁の除去は,それを必要としている障害者が現に存し,かつ,その実施に伴う負担が過重でないときは,それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう,その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は,障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり,全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け,障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として,平成25年6月に制定されました。我が国は,法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ,平成26年1月に権利条約を締結しました。 法は,平成28年4月1日から施行されました。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化を内容とする改正法が公布されました。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。)) 2 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 法第6条第1項の規定に基づき,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定。以下「基本方針」という。)が策定されました。   基本方針は,障害を理由とする差別の解消の推進は,雇用,教育,医療,公共交通等,障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野に関連し,各府省の所掌に横断的にまたがる施策であるため,政府として,施策の総合的かつ一体的な推進を図るとともに,行政機関間や分野間における取組のばらつきを防ぐため,施策の基本的な方向性等を示したものです。 3 広島県における取組 広島県では,「安心・誇り・挑戦ひろしまビジョン」に掲げる「地域共生社会」の実現に向けて,「広島県障害者プラン」を策定し,障害者施策を総合的かつ計画的に推進しています。 (1)安心・誇り・挑戦ひろしまビジョン 【地域共生社会】 目指す姿 県民誰もが性別、年齢、障害の有無、民族、国籍などの多様性を認め合い、支え合いながら自分らしく活躍でき、安心と活気あふれる共生のまちづくりが進んでいます。 取組の方向 子供世代からの理解促進のための取組や各種団体との連携による様々な活動等を通じて、障害への理解と協働による共生を図ります。また、保健・医療の充実や地域生活の支援体制の構築により、障害者とその家族が身近な地域で安心して生活できる環境の整備を進めます。 (2)広島県障害者プラン(令和6年3月策定) 基本理念 すべての県民が障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現  「安心・誇り・挑戦ひろしまビジョン」や「広島県障害者プラン」に掲げた目標達成に資するよう,対応要領の実効性をできるだけ担保するため,このハンドブックを作成しています。 第2 対象となる障害者 対象となる障害者・障害児(以下「障害者」という。)は,障害者基本法第2条第1号に規定する障害者,すなわち,「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」です。 これは,障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるというモデル(いわゆる「社会モデル」)の考え方を踏まえているものです。したがって,障害者の該当性は、当事者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、障害者手帳の所持者に限りません。 また、法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象としていますが、事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされています。 【補足1】 障害者権利条約における障害のとらえ方 従来の障害のとらえ方は,障害は病気や外傷等から生じる個人の問題であり,医療を必要とするものであるという,いわゆる「医学モデル」の考え方を反映したものでした。一方,権利条約では,障害は主に社会によって作られた障害者の社会への統合の問題であるという,いわゆる「社会モデル」の考え方が随所に反映されています。 【補足2】 障害に関する国際的な分類 障害に関する国際的な分類は,世界保健機関(以下「WHO」)が1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「国際障害分類(ICIDH)」が用いられてきましたが,WHOでは,2001年の総会において,その改訂版として「国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択しました。  これまでの「ICIDH」が身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利を分類するという考え方が中心であったのに対し,ICFはこれらの環境因子という観点を加え,例えば,バリアフリー等の環境を評価できるように構成されています。 <図> ICFの構成要素間の相互作用 ※ この図式では,ある特定の領域における個人の生活機能は健康状態と背景因子(すなわち,環境因子と個人因子)との間の,相互作用あるいは複合的な関係とみなされる。 第3 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 1 不当な差別的取扱い (1)不当な差別的取扱いの基本的考え方 法は,障害者に対して,正当な理由なく,障害を理由として,サービス等の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する,障害者でない人に対しては付さない条件を付するなどにより,障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当します。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではありません。したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには該当しません。このように、不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務又は事業について、本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要があります。 (2)正当な理由の判断の視点 正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です。正当な理由に相当するか否かについて、具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、障害者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、損害発生の防止等)及び事務又は事業の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。 職員は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、職員と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 2 合理的配慮 (1)合理的配慮の基本的な考え方 <合理的配慮とは> 権利条約第2条において,合理的配慮は,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。 法は,権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ,行政機関に対し,その事務又は事業を行うに当たり,個々の場面において,障害者やその支援者等から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,社会的障壁の除去の実施について,必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を行うことを求めています。 合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものとされています。 合理的配慮は、事務又は事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事務又は事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があります。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ「第5 過重な負担の基本的な考え方」に掲げる要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と職員が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、当該行政機関として対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられます。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意すべきです。なお、障害者との関係性が長期にわたる場合には、その都度の合理的配慮とは別に、後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要です。 <意思の表明> 意思の表明に当たっては,具体的場面において,社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを,言語(手話を含む。)のほか,点字,拡大文字,要約筆記,筆談,口話,絵カード,コミュニケーションボード,実物の提示や身振りサイン等による合図,触覚による意思伝達など,障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(手話通訳等の通訳を介するものやICT(コンピューター等の情報通信技術)機器によるものを含む。)により伝えられます。 また,障害者からの意思の表明のみでなく,障害の特性等により本人からの意思の表明が困難な場合には,障害者の家族,支援者・介助者,法定代理人等,コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。 なお,意思の表明が困難な障害者が,家族,支援者・介助者等を伴っていないことなどにより,意思の表明がない場合であっても,当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには,法の趣旨に鑑みれば,当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望まれます。 <環境整備との関係> 法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としています。環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待されます。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれることが重要です。障害を理由とする差別の解消のための取組は、法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要です。 (2)過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。職員は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際には前述のとおり、職員と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。   <過重な負担の要素> ○ 事務又は事業への影響の程度(事務又は事業の目的,内容,機能を損なうか否か) 当該措置を講ずることによるサービス提供への影響,その他の事業への影響の程度 ○ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約,人的・体制上の制約) 施設の立地状況や施設の所有形態等の制約にも応じた,当該措置を講ずるための機器や技術,人材の確保,設備の整備等の実現可能性の程度 ○ 費用・負担の程度 当該措置を講ずることによる費用・負担の程度。複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合,それらの複数の障害者に係る必要性や負担を勘案して判断することとなります。 第4 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例 1 不当な差別的取扱いと考えられる例 行政機関が行政サービスを提供するに際して,次のような取扱いをすることは「不当な差別的取扱い」となるおそれがあります。 正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は以下のとおりです。 ここに記載する事例はあくまで例示であり、これに限られるものではありません。正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であること、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意が必要です。また、客観的に見て正当な理由が存在する場合(第3の1の(2)参照)は、不当な差別的取扱いに該当しない場合があることに留意してください。 (正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例) ○ 障害があることを理由として、一律に行政サービスの利用を拒否すること。 ・ 人的体制,設備体制が整っており,対応可能であるにもかかわらず,障害者の行政サービスの利用を拒否すること。 ・ 身体障害者補助犬の同伴を拒否すること。 ※身体障害者補助犬とは 目や耳や手足に障害のある人の生活をお手伝いする,「盲導犬」・「聴導犬」・「介助犬」のことです。身体障害者補助犬法に基づき認定された犬で,特別な訓練を受けています。補助犬の同伴については,「身体障害者補助犬法」で,人が立ち入ることのできる様々な場所で受け入れるよう義務づけられています。「犬だから」という理由で,受入れを拒否しないでください。 ○ 行政サービスの利用を制限すること(場所・時間帯などの制限)。 ・ 正当な理由なく,障害があることを理由として、一律に対応の順序を後回しにすること,行政サービス提供時間を変更又は限定すること。 ・ 障害があることを理由として、一律に書面の交付、資料の送付、パンフレットの提 供等を拒んだり、資料等に関する必要な説明を省いたりすること。 ・ 正当な理由なく,他の者とは別室での対応を行うなど,行政サービス提供場所を限定すること。 ・ 正当な理由なく,行政サービス選択の自由を制限すること(障害当事者が望まない行政サービスをすすめるなど)。 ・ 行政サービスの利用に必要な情報提供を行わないこと。 ○ 行政サービスの利用に際し条件を付すこと(障害のない人には付さない条件を付すこと)。 ・ 保護者や支援者・介助者の同伴を行政サービスの利用条件とすること。 ・ 行政サービスの利用に当たって,他の利用者と異なる手順を課すこと(仮利用期間を設ける,他の利用者の同意を求めるなど)。 ○ 行政サービスの利用・提供に当たって,他の者とは異なる取扱いをすること。 ・ 正当な理由なく,障害があることを理由として、一律に説明会、シンポジウム等への出席を制限すること。 ・ 本人を無視して,支援者・介助者や付添者のみに話しかけること。 ・ 正当な理由なく,本人の意思又はその家族等の意思(障害のある人の意思を確認することが困難な場合に限る。)に反して,行政サービスを行うこと。 〇事務・事業の遂行上、特に必要ではないにもかかわらず、障害を理由に、来庁の際 に付添者の同行を求めるなどの条件を付けたり、特に支障がないにもかかわらず、障害を理由に付添者の同行を拒むこと。 〇障害の種類や程度、サービス提供の場面における本人や第三者の安全性などについ て考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること。 〇障害があることを理由として、障害者に対して、言葉遣いや接客の態度など一律に 接遇の質を下げる。 (正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例) ○実習を伴う講座において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該実習とは別の実習を設定する。(障害者本人の安全確保の観点) ○車椅子の利用者が畳敷きの個室を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行う。(行政機関の損害発生の防止の観点) ○行政手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認する。(障害者本人の損害発生の防止の観点) 2 合理的配慮と考えられる例 行政機関は,個々の場面において,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合には,次のような合理的配慮を提供することが求められています。合理的配慮を提供する際には,障害者の性別,年齢,状態等に十分に配慮することが必要です。また、合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。ここに記載する事例はあくまで例示であり,必ず実施するものではないこと、これに限られるものではありません。また,ここに記載された事例であっても,負担の程度等によっては過重な負担となる可能性があるため,法,基本方針及び本県の対応要領別紙第5を踏まえ,具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待されます。記載されている例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意する必要があります。 ○ 基準・手順の柔軟な変更 ・ 障害の特性に応じた休憩時間等の調整などのルール,慣行を柔軟に変更すること。 ○ 物理的環境への配慮 ・ 施設内の段差にスロープを渡すこと。 ・ エレベーターがない施設の上下階に移動する際,マンパワーで移動をサポートすること。 ・ 研修会場を1階に移す,トイレに近い場所にする等の配慮をすること。 ○ 補助器具・サービスの提供 【情報提供・利用手続きについての配慮や工夫】 ・ 説明文書の点字版,拡大文字版,テキストデータ,音声データ(コード化したものを含む)の提供や必要に応じて代読・代筆を行うこと。 ・ 手話,要約筆記,筆談,図解,ふりがな付き文書を使用するなど,本人が希望する方法でわかりやすい説明を行うこと。 ・ 文書を読み上げたり,口頭による丁寧な説明を行うこと。 ・ 電子メール,ホームページ,ファックスなど多様な媒体で情報提供,利用受付を行うこと。 【建物や設備についての配慮や工夫】 ・ 表示板,磁気誘導ループなどの補聴援助装置の設置,点字サイン付き手すりの設置,音声ガイドの設置を行うこと。 ・ 色の組み合わせによる見にくさを解消するため,標示物や案内図等の配色を工夫すること。 ・ トイレ,作業室など部屋の種類や,その方向を示す絵記号や色別の表示などを設けること。 ・ パニック等を起こした際に静かに休憩できる場所を設けること。 ・ なお,第3の2の(1)合理的配慮の基本的な考え方<環境整備との関係>においても触れましたが,不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前の改善措置については,合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとされています。そのうち,バリアフリーに関しては下記のような整備が一例として考えられます。 ・施設内の段差を解消すること,スロープを設置し,手すりを取り付ける こと。 ・トイレや浴室をバリアフリー化・オストメイト対応にすること。 ・床をすべりにくくすること。 ・階段や表示を見やすく明瞭にすること。 ・車椅子で利用しやすい高さにカウンターを改善すること。 【職員などとのコミュニケーションや情報のやりとり,行政サービス提供についての配慮や工夫】 ・ 館内放送を文字化したり,表示板で表示したりすること。 ・ 必要に応じて,手話通訳者や要約筆記者を配置すること。 ・ 口話が読めるようマスクを外して話をすること。 ・ ICTを活用したコミュニケーション機器(データを点字に変換して表示する,音声を文字変換する,表示された絵などを選択することができる機器など)を設置すること。 ・ 講演会,研修会等において参加申込書の提出を依頼する場合に,配慮を希望する事項を記入してもらい,必要となる配慮を行うこと。 (合理的配慮に当たり得る物理的環境への配慮の具体例) ○段差がある場合に、車椅子利用者にキャスター上げ等の補助をする、携帯スロープを渡すなどする。  ○配架棚の高い所に置かれたパンフレット等を取って渡す。パンフレット等の位置を分かりやすく伝える。  ○目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、前後・左右・距離の位置取りについて、障害者の希望を聞いたりする。  ○障害の特性により、頻繁に離席の必要がある場合に、会場の座席位置を扉付近にする。  ○疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった際、別室の確保が困難である場合に、当該障害者に事情を説明し、対応窓口の近くに長椅子を移動させて臨時の休憩スペースを設ける。  ○不随意運動等により書類等を押さえることが難しい障害者に対し、職員が書類を押さえたり、バインダー等の固定器具を提供したりする。  ○災害や事故が発生した際、館内放送で避難情報等の緊急情報を聞くことが難しい聴覚障害のある者に対し、電光掲示板、手書きのボード等を用いて、分かりやすく案内し誘導を図る。  〇イベント会場において知的障害のある子供が発声やこだわりのある行動をしてしまう場合に、保護者から子供の特性やコミュニケーションの方法等について聞き取った上で、落ち着かない様子のときは個室等に誘導する。  〇視覚障害のある者からトイレの個室を案内するよう求めがあった場合に、求めに応じてトイレの個室を案内する。その際、同性の職員がいる場合は、障害者本人の希望に応じて同性の職員が案内する。 (合理的配慮に当たり得る情報の取得、利用及び意思疎通への配慮の例)  ○筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字、触覚による意思伝達等のコミュニケーション手段を用いる。  ○会議資料等について、点字、拡大文字等で作成する際に、各々の媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意して使用する。  ○視覚障害のある委員に会議資料等を事前送付する際、読み上げソフトに対応できるよう電子データ(テキスト形式)で提供する。  ○意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認する。  ○駐車場などで通常、口頭で行う案内を、紙にメモをして渡す。  ○書類記入の依頼時に、記入方法等を本人の目の前で示したり、分かりやすい記述で伝達したりする。本人の依頼がある場合には、代読や代筆といった配慮を行う。  ○比喩表現等が苦手な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに具体的に説明する。 ○障害者から申出があった際に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し説明し、内容が理解されたことを確認しながら応対する。また、なじみのない外来語は避ける、漢数字は用いない、時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を念頭に置いたメモを、必要に応じて適時に渡す。  ○会議の進行に当たり、資料を見ながら説明を聞くことが困難な視覚又は聴覚に障害のある委員や知的障害のある委員に対し、ゆっくり、丁寧な進行を心がけるなどの配慮を行う。  ○会議の進行に当たっては、職員等が委員の障害の特性に合ったサポートを行う等、可能な範囲での配慮を行う。 (ルール・慣行の柔軟な変更の例) また、合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例及び該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であることに留意する。  (合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例)  〇試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。  〇イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。  〇電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。  〇介助を必要とする障害者から、講座の受講に当たり介助者の同席を求める申出があった場合に、当該講座が受講者本人のみの参加をルールとしていることを理由として、受講者である障害者本人の個別事情や講座の実施状況等を確認することなく、一律に介助者の同席を断ること。  〇自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること。 (合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例)  〇事務の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点)  〇抽選申込みとなっている講座への参加について、抽選申込みの手続を行うことが困難であることを理由に、講座への参加を事前に確保しておくよう求められた場合に、当該対応を断ること。(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであることの観点)  〇イベント当日に、視覚障害のある者から職員に対し、イベント会場内を付き添ってブースを回ってほしい旨頼まれたが、混雑時であり、対応できる人員がいないことから対応を断ること。(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点) 第5 障害特性に応じた対応 障害者と接する際には,それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。また,障害者一人ひとりによって障害に個人差があり,複数の障害がある場合は,必要な対応が多岐にわたってくることがあります。このため,どのような支援が必要か,わからない場合には,積極的に本人に必要な支援方法を尋ねてください。以下に,代表的な障害特性と対応時に配慮すべき事項について簡潔にまとめています。 このほか,障害児については,成人の障害者とは異なる支援の必要性があります。子どもは成長,発達の途上にあり,乳幼児期の段階から,個々の子どもの発達の段階に応じて一人ひとりの個性と能力に応じた丁寧に配慮された支援を行う発達支援が必要です。また,子どもを養育する家族を含めた丁寧かつ早い段階からの家族支援が必要です。特に,保護者が子どもの障害を知った時の気持ちを出発点とし,障害を理解する態度を持つようになるまでの過程においては,関係者の十分な配慮と支援が必要です。 また,医療的ケアを要する障害児については,配慮を要する程度に個人差があることに留意し,医療機関等と連携を図りながら,個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し,適切な支援を行うことが必要です。 1 視覚障害(視力障害・視野障害・色覚障害・光覚障害) 〔視覚障害とは〕 何らかの原因によって視機能に障害があることで,全く見えない場合と見えづらい場合とがあります。  なお,見えづらい場合の中には ・細部がよくわからない ・光がまぶしい ・暗いところで見えにくい ・見える範囲が狭い ・特定の色がわかりにくい などの症状があります。 〔主な特性〕 ○ 先天性で受障される人のほか,最近は糖尿病性網膜症などで受障される人も多く,高齢者では,緑内障や黄斑部変性症が多い。 ○ 視力障害 視覚的な情報を全く得られない又はほとんど得られない人と,文字の拡大や視覚補助具等を使用し保有する視力を活用できる人に大きく分けられます(全盲,弱視といわれることもあります。)。 ・ 視力をほとんど活用できない人の場合,音声,触覚,嗅覚など,視覚以外の情報を手がかりに周囲の状況を把握しています。 ・ 文字の読みとりは,点字に加えて最近では画面上の文字情報を読み上げるソフトを用いてパソコンで行うこともあります(点字の読み書きができる人ばかりではありません。)。 ・ 視力をある程度活用できる人の場合は,補助具を使用したり,文字を拡大したり,近づいて見るなどの様々な工夫をして情報を得ています。 ○ 視野障害 目を動かさないで見ることのできる範囲が狭くなります。 ・ 求心性視野狭窄 見える部分が中心だけになって,段々と周囲が見えなくなります。遠くは見えるが足元が見えず,つまずきやすくなります。 ・ 中心暗転 周囲はぼんやり見えるが真ん中が見えません。文字等,見ようとする部分が見えなくなります。 ○ 色覚障害 色を感じる眼の機能が障害によりわかりづらい状態です(色が全然わからないというよりは,一定の色がわかりづらい人が多い。)。 ○ 光覚障害 光を感じその強さを区別する機能が,障害により調整できなくなる状態です。暗順応(明→暗で目が慣れてくること)や,明順応(暗→明で目が慣れてくること)がうまくできません。 ○ 障害の状況によって,明るさの変化への対応が困難なため,移動などに困難さを生じる場合も多くあります。 ○ 「見えないからできない」のではなく,「見えなくても教えてもらえばできる」ことが多くあります。 ○ 外出する際は,白杖を使用したり,盲導犬を連れていたりします。 ※白杖とは 視覚障害のある人が歩行するときに使う道具です。地面に杖の先端を触れさせながら歩くことで,障害物の段差,路面の変化を知らせてくれるだけでなく,車の運転手,自転車,歩行者などに視覚障害のある人であることを知らせ,注意喚起を行います。道路交通法では,目が見えない者以外の者が,政令で定める杖を携えて道路を通行することは禁止されています。 〔困っていること〕 ○ 一人で移動することが困難です。特に,慣れていない場所や混雑した場所での移動には大きな不安を伴い,一人で移動することが非常に困難となります。 ○ 耳からの情報をたよりにしています。目から情報を得にくいため,音声や手で触れることなどにより情報を得ています。また,視覚障害のある人すべてが点字を読めるとは限りません。 ○ 不慣れな場所では,自分がどこにいるのか,そばに誰がいるのか,説明がないとわからなくなります。 ○ 人の視線や表情が理解できず,コミュニケーションに苦労します。 ○ 文字の読み書きが困難です。また,タッチパネル式の機械はうまく操作できません。 ○ 点字ブロックの上に,物や自転車などが置かれていると,移動の邪魔になるだけでなく,けがや事故につながるなど極めて危険です。 〔主な対応〕 ○ 音声や点字表示など,視覚情報を代替する配慮が必要です。 ○ 視覚障害のある人は困っていても,自ら介助等を求めることが困難な場合があります。困っているように見えたら,まず,声をかけて,どのような手助けを必要としているか尋ねます。 ○ 声をかけるときには前方から近づき「○○さん,こんにちは。△△です。」など,自分の名前を伝えます。 ○ 説明するときには「それ」,「あれ」,「こっち」,「このくらいの」などと指差し表現や指示代名詞で表現せず,「あなたの正面」,「○○くらいの大きさ」などと具体的に説明します。 ○ 中途受障の人では白杖を用いた歩行や点字の触読が困難な人も多いため留意が必要です。 ○ 視覚障害のある人の移動介助を行う場合,次のことに留意する必要があります。 ・ まず,どのような介助が必要なのか聞き,本人の希望を聞いた上で支援を行います。 ・ 誘導は,視覚障害のある人の手を引くのではなく,視覚障害のある人に,自分の肘か肩を持ってもらいます。 ・ 誘導する人は脇をしめ,周囲の状況(「階段があります」など)を説明しながら移動すると安心感が高まります。特に段差の前では,一度立ち止まり,指示することが大切です。 ・ 相手の早さに合わせて,半歩程度横前を歩くことが基本です。もし身長差がある場合には,肩や腕に手を添えてもらうなど,歩きやすいように工夫します。 ○ 盲導犬には,触ったり食べ物を与えたりしないようにします。 ○ 普段から通路(点字ブロックの上等)に通行の妨げになるものを置かない,日頃視覚障害のある人が使用しているものの位置を変えないなど周囲の協力が不可欠です。 ○ 主に弱視の場合,室内における照明の状況に応じて,窓を背にして座ってもらうなどの配慮が必要です。 ○ 色覚障害のある人には,色の使い方(色の組み合わせ,明度差),色の使い方以外の工夫(色名,文字,記号情報の併記,線の太さや線種の調整)などの配慮が必要です。 2 聴覚障害 〔聴覚障害とは〕 聴覚障害のある人には,音などが聞こえない人や聞こえにくい難聴の人がいます。また,言語獲得前(小さい子どもの時)に失聴した人,人生の途中で事故や病気で聞こえなくなり中途で失聴した人(中途失聴者)がいます。 言語障害には,言葉の理解や表現が困難な言語機能の障害と,発音や発声だけがうまくできない音声機能の障害があります。また,聴覚障害と言語障害が重複する重複障害のある人もいます。 〔主な特性〕 ○ 聴覚障害は外見上わかりにくい障害であり,その人が抱えている困難も他の人からは気づかれにくい側面があります。 ○ 聴覚障害のある人のコミュニケーション方法には,手話,筆談,要約筆記,口話,身振り・手振り,指文字,空書など様々な方法があります。聴覚障害のある人は,その人なりの方法により,話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせて使っています。 ○ 補聴器や人工内耳を装用している場合,スピーカーを通じる等,残響や反響のある音は,聞き取りにあまり効果が得られません。 ○ 聴覚の活用による音声言語の習得に課題があることにより,聴覚障害のある人の日本語の読み書きの力は様々であるため,筆談の場合は,相手の状況に合わせる必要があります。 ○ 文字,絵,図,写真,表情など,見てわかるものが大事な情報取得の手段となります。 〔困っていること〕 ○ 外見ではわかりにくい障害のため,周囲の人に気づいてもらえないことがあります。特に難聴者・中途失聴者の場合は,話せる人も多く,聞こえる人が「挨拶をしたのに無視された」などと誤解をされることがあります。失聴した年齢時期,障害程度などによって障害の現れ方は様々です。 ○ 音によって周囲の状況を判断することができません。放送や呼びかけ,車の音,自転車のベルなどに気がつかないことがあります。また,周囲の情報が入らないので状況判断ができない場合があり,危険な目にあうことがあります。特に,災害時の音声による情報取得が困難であり,避難等に不安があります。 ○ JRの駅やバスセンターなどで施設内放送が聞こえないため,とまどったり,車内での放送が聞こえず,乗り過ごしてしまったりすることがあります。また,公共施設内の放送や病院の呼び出しに気づかず,そのまま待ち続けることもあります。 ○ 会話が困難なため,不便さを伝えることが困難です。 ○ 特に言語障害のある場合は,知りたいことを質問できない不便さから,周囲の人々に理解されず,日常生活にさほど不自由していないと誤った理解をされることがあります。 〔主な対応〕 ○ 会話をしようとするときは,まず,会話方法を確認し,先天的な聴覚障害,中途失聴,難聴など聴覚障害の内容,程度を踏まえた,その人に合ったコミュニケーション方法を採用します。 ○ 手話,口話,筆談,文字表示など,目で見てわかる情報を提示するため,手話通訳者,要約筆記者の配置などをして,聴覚障害者の内容,程度を踏まえたコミュニケーションをとる配慮が必要です。特に,イベント等を開催する場合は,手話通訳や要約筆記などの活用に配慮する必要があります。 ○ 音声だけで話すことは極力避け,パソコン,メール,ファックス,掲示板,パネル及びメモ帳などを活用し,視覚的な情報伝達方法も併用します。 ○ スマートフォンなどのアプリに音声を文字に変換できるものがあり,これらを使用すると筆談を補うことができます。 ○ 補聴器や人工内耳を装用し,残響や反響のある音を聞き取ることが困難な場合には,代替する対応への配慮(磁気誘導ループの利用など)が必要となります。 ○ 言語障害や音声機能障害のある人には,一つひとつの言葉をよく聞き取り,内容の確認を行う必要があります。 ○ 広報などの各種案内には,電話番号の他にファックスやメールでも申し込みや問い合わせができるように,ファックス番号やメールアドレスを表記する必要があります。 ○ 各種学校等(小中高等学校,幼稚園,保育園等)に聴覚障害者の保護者がいる場合は,緊急の連絡手段としてファックスやメールが使用できるようにする必要があります。 ○ 会話をする場合は,わかりやすい話し方を心がける必要があります。 ・ 顔の見える位置で,口を大きくあけてはっきりと動かします。 ・ 文節で区切ります(例 ここに/名前を/書いてください。)。 ・ 複数の人が一度に発言しない。 ○ 目が合ってから話をします。理解できたら,うなづき返事をします。 ○ 筆談するときは,できるだけ要件や時系列で箇条書きにするなど,わかりやすい,誤解しない書き方を工夫します。 ○ 少しでも手話を学んで手話での会話ができるように努力します。 ○ 詳細な内容を説明するときは,手話通訳者の派遣を依頼します。 3 盲ろう(視覚と聴覚の重複障害) 〔視覚と聴覚の重複障害とは〕 視覚と聴覚の両方に障害があります。 〔主な特性〕 ○ 視覚と聴覚の重複障害のある人を「盲ろう」と呼んでいますが,障害の状態や程度によって様々なタイプに分けられます(視覚障害,聴覚障害の項を参照のこと)。 <見え方と聴こえ方の組み合わせによるもの> ・ 全く見えず聴こえない状態の「全盲ろう」 ・ 見えにくく聴こえない状態の「弱視ろう」 ・ 全く見えず聴こえにくい状態の「盲難聴」 ・ 見えにくく聴こえにくい状態の「弱視難聴」 <各障害の発症経緯によるもの> ・ 盲(視覚障害)から聴覚障害を伴った「盲ベース盲ろう」 ・ ろう(聴覚障害)から視覚障害を伴った「ろうベース盲ろう」 ・ 先天的,あるいは乳幼児期に視覚と聴覚の障害を発症する「先天性盲ろう」 ・ 成人期以後に視覚と聴覚の障害が発症する「成人期盲ろう」 ○ 盲ろう者がそれぞれ使用するコミュニケーション手段は,障害の状態や程度,盲ろうになるまでの経緯,あるいは生育歴,他の障害との重複の仕方によって異なり,介助方法も異なります。 ○ 盲ろう者は,情報の取得や外出が困難なため,テレビやラジオを楽しんだり,一般の本や雑誌を読むこともできず,家族といてもうまく会話することができないため,孤独な生活を強いられることが多くなります。 〔困っていること〕 ○ 情報入手,コミュニケーション及び移動などの様々な場面で大きな困難が生じます。自分の力だけで,情報を得たり,人と会話したり,外出・移動することが困難です。このため社会から孤立してしまうことがあります。 ○ 社会参加をするためには,情報入手及びコミュニケーションの支援や移動の介助が不可欠です。 ○ 生活環境や視覚障害と聴覚障害の程度,またその障害の発症時期により,コミュニケーションの方法が一人ひとり異なります。 ○ 家族や周りの支援者が,手のひらに文字を書いたり,触手話や指点字など,それぞれにあったコミュニケーション方法を生み出す努力と工夫をしています。 ○ 様々なコミュニケーション方法として,次のものがあります。 ・ 手書き文字 手のひらに指先などで文字を書き伝えます。 ・ 触手話 相手の行う手話に触れて,手話の形や動きで読み取ります。 ・ 指点字 点字タイプライターのキーの代わりに,盲ろう者の両手の人差し指,中指,薬指の6本の指を点字の6点に見立てて,直接たたいて点字を表す方法です。 ・ 文字筆記 視覚の活用が可能な人に対して,紙やパソコンに文字を筆記して伝えます。文字の大きさ,間隔及び線の太さなど,見え方に合わせた配慮が必要です。 ・ 音声 聴覚の活用が可能な人に対して,耳元や補聴器のマイクなどに向かって話します。声の大きさ,抑揚,速さ及び音の高さなど,聞こえ方に合わせた配慮が必要です。 〔主な対応〕 ○ 話が通じているか,常に確認する必要があります。 ○ 障害の状態や程度に応じ視覚障害や聴覚障害のある人と同じ対応が可能な場合がありますが,同様な対応が困難な場合が多く,手書き文字や触手話,指点字などの代替する対応や移動の際にも配慮するなど,盲ろう者に合ったコミュニケーション方法を見つける必要があります。 ○ 通常の対応が困難な場合には,手書き文字,触手話及び指点字など視覚と聴覚に代替する対応への配慮が必要です。 ○ 言葉の通訳に加えて,視覚的・聴覚的情報についても意識的に伝えます。 (例)状況説明として,人に関する情報(人数,性別等)や環境に関する情報(部屋の大きさや机の配置,その場の雰囲気等)など 4 肢体不自由 〔肢体不自由とは〕 事故などによる手足の損傷あるいは腰や首,脳の血管などに損傷を受けたり,先天性の疾患などによって生じる上肢・下肢にある麻痺や欠損などにより,歩くことや物の持ち運びなど日常の動作や姿勢の維持が不自由になります。病気や事故で脳に損傷を受けた場合には,言葉の不自由さや記憶力の低下などを伴うこともあります。肢体不自由の中でも脳性麻痺・脊髄損傷・筋ジストロフィーなどで全身に障害がおよぶものを全身性障害といいます。 筋ジストロフィーは,筋肉が萎縮し,その機能を失っていく病気で,いくつかのタイプに分類されます。全身の筋肉の萎縮変性は常に進行性であるため,その後,歩行不能になり全面的な介助を必要とする重度身体障害となります。 〔主な特性〕 <車椅子を使用している場合> ○ 主な症状は次のとおりです。 ・ 脊髄損傷(対麻痺又は四肢麻痺,排泄障害,知覚障害,体温調節障害など) ・ 脳性麻痺(不随意運動,手足の緊張,言語障害,知的障害重複の場合もあります。) ・ 脳血管障害(片麻痺,運動失調) ○ 病気等による筋力低下や関節損傷などで歩行が困難な場合もあります。 ○ ベッドへの移乗,着替え,洗面,トイレ,入浴など,日常の様々な場面で援助が必要な人の割合が高い。 ○ 段差や坂道が移動の大きな妨げになります。 ○ 手動車椅子で自走できない障害者のなかには,電動車椅子を使用する人もいます。 ○ 障害が重複する場合には,呼吸器を使用する場合もあります。 <杖などを使用している場合> ○ 主な症状として,脳血管障害(歩行可能な片麻痺,運動失調)があります。 ○ 麻痺の程度が軽いため,杖や装具歩行が可能な場合や,切断者などで義足を使用して歩行可能な場合は,日常生活動作は自立している人が多い。 ○ 失語症や高次脳機能障害がある場合もあります。 ○ 長距離の歩行が困難であったり,階段,段差,エスカレーターや人ごみでの移動が困難な場合もあり,配慮が必要です。 〔困っていること〕 ○ 主に下肢の障害のために歩行が不安定な人や車椅子,杖などを使用している人は,階段など段差があるところでの昇降に苦労します。また,ドアの開閉が困難なことがあります。 ○ 手や指,腕などに障害のある人は,高い所にあるものが取りにくく,床に落ちているものは拾いにくいことがあります。 ○ 脳性麻痺や脳血管障害により,会話の困難な人がいます。 ○ 下肢や体幹に障害のある人は,体のバランスをとることが難しいため,転倒したり,よろめいたりしてしまうことがあります。 ○ 車椅子を利用していると, ・ スペースがなかったり,段差や障害物があるために,移動することができないことがあります。 ・ 高いところにあるものや,床にあるものなどを取ることが困難です。 ・ ATMや自動販売機など,正面から向きあうと足が入らずに使いにくい場合があります。 ○ 脊髄損傷の人は,手足が動かないだけでなく,感覚もなくなり,体温調節が困難です。 ○ 脳性麻痺の人の中には,発語の障害に加え,顔や手足などが自分の思いとは関係なく動いてしまう(不随意運動)ため,自分の意思を伝えにくい人もいます。 ○ 障害者用駐車スペースが少なかったり,障害者用駐車スペースを健常者が駐車していて,利用できない場合があります。 〔主な対応〕 <車椅子を使用している場合> ○ 移動介助を行う場合,次のことに配慮します。 ・ 車椅子を動かすときには,周りに障害物がないかどうか確認し,まず「動かします」,「前に進みます」など声をかけます。 ・ 方向転換や停止時にも声をかけます。車椅子を急に押したり,押す手を急に離さないようにします。 ・ 停止の際はもちろん,介助者が車椅子から少しでも離れる場合はブレーキをかけるようにします。 ・ 急なスロープを下るときは,後ろ向きでゆっくりと下るようにします。傾斜がある場所では加速がかかり危険なことが多いので,特に注意する必要があります。 ・ 前輪は,側溝や小さい段差ほどひっかかりやすいので,特に注意します。 ・ 自転車とすれ違うときは減速するか,よけるようにします(車椅子は急にかわす動きができません。)。 ○ 段差をなくす,車椅子移動時の幅・走行面の斜度,車椅子用トイレ,施設のドアを引き戸に改良するなどの配慮が必要となります。 ○ 机アプローチ時に,車椅子が入れる高さや作業を容易にする手の届く範囲の考慮が必要です。 ○ ドア,エレベーターの中の開閉ボタン操作などの配慮が必要です(ボタンを代わりに押す。乗降しやすいようにドアを開けておくなど。)。 ○ 会話する場合,目線が合うよう膝をついてしゃがんだり,前かがみになるよう心がけます。 ○ 脊髄損傷者は体温調整障害を伴うことがあるため,部屋の温度管理に配慮が必要です。 ○ なるべく施設の入り口やスロープに近い場所に駐車場を確保します。 <杖などを使用している場合> ○ 滑りやすい床など転びやすいので,雨天時などの対応が必要です。 ○ トイレでの杖おきの設置や靴の履き替えが必要な場合に椅子を用意するなどの配慮が必要です。 ○ 上肢の障害があれば,片手や筋力低下した状態で作業ができるよう配慮が必要です。 ○ なるべく施設の入り口やスロープに近い場所に駐車場を確保します。 5 構音(こうおん)障害 〔構音(こうおん)障害とは〕   声帯の振動によってつくられた原音は,喉頭から上に続く咽頭,口腔,鼻腔などの付属管腔に共鳴して音声となりますが,その付属管腔に形態的又は機能的異常があるために正しい語音をつくることができない言語障害をいいます。 〔主な特性〕 ○ 正確に話す言葉自体を聞き取ることが困難な状態となります。 ○ 話す運動機能の障害,聴覚障害,咽頭摘出などの原因があります。 〔主な対応〕 ○ しっかりと話を聞きます。 ○ 会話補助装置などを使ってコミュニケーションをとることも考慮します。 6 失語症 〔失語症とは〕 主に脳出血,脳梗塞などの脳血管障害によって,脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより,いったん獲得された,聞く,話す,読む,書くといった言語機能が障害された状態をいいます。 〔主な特性〕 ○ 聞くことの障害 ・ 音は聞こえるが,「ことば」の理解に障害があり,「話」の内容がわかりません。 ・ 単語や簡単な文ならわかる人でも,早口や長い話になるとわからなくなります。 ○ 話すことの障害 ・ 伝えたいことをうまく言葉や文章にできません。 ・ 発話がぎこちない,言いよどみが多くなったり,誤った言葉で話したりすることがあります。 ○ 読むことの障害 ・ 文字を読んでも理解が難しい。 ○ 書くことの障害 ・ 書き間違いが多い,また「てにをは」などをうまく使えない,文を書くことが難しい。 〔主な対応〕 ○ 表情がわかるよう,顔を見ながら,ゆっくりと短い言葉や文章で,わかりやすく話しかけます。 ○ 一度でうまく伝わらないときは,繰り返して言ったり,別の言葉に言い換えたり,漢字や絵で書いたり,写真・実物・ジェスチャーで示したりすると理解しやすい。 ○ 「はい」,「いいえ」で答えられるように問いかけると理解しやすい。 ○ 話し言葉以外の手段(カレンダー,地図,時計など身近にあるもの)を用いると,コミュニケーションの助けとなります。 7 高次脳機能障害 〔高次脳機能障害とは〕 転落や交通事故による脳外傷,脳出血や脳梗塞,クモ膜下出血などの脳卒中,脳炎など,脳がダメージを受けることによって生じる認知面の障害のことをいいます。 脳にダメージを受けると,コミュニケーションをとる,必要な情報に集中する,記憶する,計算する,計画を立てる,感情をコントロールする,相手の気持ちを理解するなど,認知面に問題が起こり日常生活や社会生活が難しくなっていることがあります。 しかし,これらの症状は,問題点が特定の状況にならないと見えてこないことがあり,周りから気づきにくく,また,本人も気がついていないことがあります。わかりにくい障害であり,本人の性格だと誤解されることも多くあります。 〔主な特性〕 ○ 以下の症状が現れる場合があります。 ・ 記憶障害 すぐに忘れてしまったり,新しい出来事を覚えることが苦手なため,何度も同じことを繰り返したり質問したりします。 ・ 注意障害 集中力が続かなかったり,ぼんやりしていてしまい,何かをするとミスが多く見られます。二つのことを同時にしようとすると混乱します。主に左側で,食べ物を残したり,障害物に気がつかないことがあります。 ・ 遂行機能障害 自分で計画を立てて物事を実行したり,効率よく順序立てられません。 ・ 社会的行動障害 ささいなことでイライラしてしまい,興奮しやすい。こだわりが強く表れたり,欲しいものを我慢できません。思い通りにならないと大声を出したり,時に暴力をふるったりします。 ・ 病識欠如 上記のような症状があることに気づかず,できるつもりで行動してトラブルになります。 ○ 失語症(失語症の項を参照)を伴う場合があります。 ○ 片麻痺や運動失調等の運動障害や眼や耳の損傷による感覚障害を持つ場合があります。 〔困っていること〕 ○ 記憶力の低下 ・ 約束や予定を忘れたり,ちょっと前のことを覚えていません。 ・ 同じことを何度も聞きます。 ○ 注意力の低下 ・ 一つのことを続けられません。 ・ 同時に複数のことができません。 ・ 同じミスを繰り返します。 ・ 気が散りやすく,作業が続けられません。 ○ 遂行機能の低下 ・ 行き当たりばったりの行動をします。 ・ 言われないと行動しようとしません。 ・ トラブル時の対応ができず混乱します。 ○ 社会的行動障害 ・ ささいなことで激怒します。 ・ 人づきあいがうまくいかなくなります。 ・ 行動のブレーキが利かず,我慢できません。 ・ ささいなことにこだわって先に進めません。 〔主な対応〕 <記憶障害のある人への配慮> ○ 手がかりがあると思い出せるので,手帳やメモ,アラームを利用したり,ルートマップを持ち歩いてもらうなどします。 ○ 自分でメモを取ってもらい,双方で確認する。また,忘れているときは,メモをするように声をかけて,一緒に確認します。 ○ 残存する受傷前の知識や経験を活用します(例えば,過去に記憶している自宅周囲では迷わず行動できるなど)。 <注意障害のある人への配慮> ○ 短時間なら集中できる場合もあるので,こまめに休憩を取るなどします。 ○ 一つずつ順番にやる。伝えたいことは,一つずつ簡潔に伝え,内容が理解できているか確認します。 ○ テレビを消すなど,目に見えるもの,耳に入ってくる情報を制限して,集中できる環境を作ります。 ○ 左側に危険なものを置かない。 <遂行機能障害のある人への配慮> ○ 手順書を利用します。 ○ 段取りを決めて目につきやすいところに目標を掲示します。 ○ スケジュール表を見ながら行動したり,チェックリストで確認します。 <社会的行動障害のある人への配慮> ○ 感情をコントロールできない状態にあるときは,上手に話題や場所を変えて,気分転換やクールダウンを図る。また,感情を刺激するようなものは避けます。 ○ あらかじめ行動のルールを決めておきます。 8 内部障害 〔内部障害とは〕 内部機能の障害であり,身体障害者福祉法では「心臓機能」,「呼吸器機能」,「腎臓機能」,「膀胱・直腸機能」,「小腸機能」,「肝臓機能」,「ヒト免疫不全ウィルス(HIV)による免疫機能」の7種類の機能障害が定められています。 〔主な特性〕 ○ 心臓機能,呼吸器機能,腎臓機能,膀胱・直腸機能,小腸機能,肝臓機能,HIVによる免疫機能のいずれかの障害により日常生活に支障があります。 ・ 心臓機能障害 全身に必要な血液を送り出すポンプの役割を果たす心臓の機能が,様々な病気により低下してしまう状態。動悸や息切れなどの体力低下が見られ,ペースメーカー等を体内に埋め込んでいる人もいます。 ・ 呼吸器機能障害 様々な病気により,肺の機能が低下して,酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかずに酸素が不足する状態。呼吸困難や息切れなどがその主症状であり,携帯用酸素ボンベを使用している人もいます。 ・ 腎臓機能障害 様々な病気により,腎臓の働きが悪くなり,身体にとって有害な老廃物や水分を排泄できなくなり,不必要な物質や有害な物質が身体に蓄積する状態。人工透析を行ったり,移植を受け,拒絶反応予防のために免疫抑制剤を服用している人もいます。 ・ 膀胱・直腸機能障害 尿をためる膀胱,便をためる直腸が様々な病気のために機能低下し,又は機能を失ってしまった状態。そのため,排泄物を体外に排泄するためのストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設する人もいます。ストーマを保有している人を「オストメイト」といいます。 ・ 小腸機能障害 様々な原因によって小腸が広い範囲に切除された場合と,小腸の病気によって働きが不十分で消化吸収が妨げられ,通常の経口摂取では栄養維持が困難な状態。小腸は消化・吸収に関係する器官であり,機能の低下により食事の管理制限が必要となります。 ・ 肝臓機能障害 肝臓の機能が著しく低下した状態。肝臓移植を受け,拒絶反応予防のために免疫抑制剤を服用している人もいます。 ・ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害 HIVとはヒト免疫不全ウイルスという病原体で,このウイルスが人に感染し,発病すると,白血球の一種であるリンパ球を破壊し,免疫機能を低下させ,発熱,下痢,体重減少,全身倦怠感などが現れます。特定の病状が現れたとき,エイズの発症となり,様々な感染症が起きるリスクが高まります。HIV感染症は,適切な治療を行うことでエイズの発病を遅らせたり,症状を軽くすることができます。 ○ 疲れやすく長時間の立位や作業が困難な場合があります。 ○ 常に医療的対応を必要とすることが多くなります。 〔困っていること〕 ○ 外見からわかりにくく,周りから理解されにくいため,電車やバスの優先席に座りにくいなど,心理的ストレスを受けやすい状況にあります。 ○ 障害のある臓器だけでなく,全身状態が低下しているため,体力が低下し,疲れやすい。重い荷物を持ったり,長時間立っているなどの身体的負担を伴う行動が制限されます。肝臓機能障害のある人は,こういったことが顕著に現れます。集中力や根気が続かず,トラブルになる場合もあります。 ○ 障害者用駐車スペースが空いていても,障害が外見からわかりにくく,周りから理解されにくいため利用できないことがあります。 ○ 「心臓機能障害」で心臓ペースメーカーなどを使用している人は,携帯電話から発せられる電磁波等の影響で誤作動する恐れがあります。 ○ 「呼吸器機能障害」のある人は,タバコの煙などにより,大きな影響を受けます。 ○ 「腎臓機能障害」には,人工透析治療を受けている人がいます。定期的な通院への理解と時間の配慮が必要です。 ○ 「膀胱・直腸機能障害」で人工肛門・人工膀胱を使用されている人は,専用のトイレが必要です。 〔主な対応〕 <心臓機能障害のある人への配慮> ○ 椅子に座ってもらってから話を始めます。全体的に動悸,息切れ,疲れやすいなどの体力低下があるため,椅子を用意するなどの配慮が大切です。 ○ 重い物を代わって持つなど,声をかけて手伝います。階段はなるべく避け,エレベーターやエスカレーターを勧めるなどのほか,本人に聞いて必要な介助を行います。ゆっくりした日常生活動作は支障がなくても,活発な動作になると身体的な不調や発作を誘発することがあります。 ○ ペースメーカーをつけている場合,携帯電話などの機器が発する電磁波の影響により誤動作を起こす可能性があります。近くにペースメーカーをつけている人がいる場合,電源を切るなどの配慮が必要です。 <呼吸器機能障害のある人への配慮> ○ ゆっくり歩く,適宜休憩する,椅子に座らせるなどの対応を心がけます。椅子を勧めるときは,楽な姿勢でゆっくりと話をしてもらい,長時間にならないようにします。 ○ 呼吸器機能障害のある人は慢性的な呼吸困難,息切れ,咳等の症状があり苦しい状態となっています。ゆっくりとした日常生活動作には支障がなくても,それ以上の動作になると息苦しさが起こる場合があります。息切れが現れたら,休憩して呼吸を整えるよう働きかけます。 <腎臓機能障害のある人への配慮> ○ 腎臓機能の不全による人工透析のための定期的な通院に配慮する必要があります。腎臓病の人は,体にたまった老廃物を排泄できないため,人工透析が大切な治療となります。 ○ 文字を読んだり書いたりする場合には,視力に問題がないか確認します。腎性網膜症・糖尿病性網膜症などにより,視力が低下している人がいます。 <膀胱・直腸機能障害のある人への配慮> ○ 膀胱,直腸に障害があり,スト−マ装具を利用している人をトイレに案内する際には,ゆとりのある広めの洋式トイレに案内します。設置してある場合はオストメイト対応トイレに案内します。 <小腸機能障害のある人への配慮> ○ 小腸機能障害により口からの食事が摂れず,鼻に管を入れ栄養を摂る,静脈から直接栄養を注入するなどの対応が必要な人がいますので,栄養補給のために必要な時間への配慮が必要となります。 <肝臓機能障害のある人への配慮> ○ 肝臓機能障害のある人は,体力低下や疲れやすさといった症状が,特に顕著に現れます。風邪などにも感染しやすくなっており,肝臓機能に悪影響を及ぼすこともあるので,対応者は,風邪をひいている場合はうつさないよう配慮する必要があります。 <ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害のある人への配慮> ○ プライバシーには十分注意した対応をするよう配慮します。また,免疫機能障害(HIV感染症やAIDS)を正しく理解し,偏見や差別をなくすよう配慮します。 9 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な人 〔重症心身障害とは〕 重度の身体障害と重度の知的障害などが重複している最も重い障害です。自分で日常生活を送ることは困難であり,自宅で介護を受けたり,専門施設などに入所したりして生活しています。口の動きや目の訴えで意思を伝えますが,常時介護している人でないと理解しにくい。また,医学的管理がなければ,呼吸することや栄養を摂取することも困難な状態を「超重症心身障害」といいます。 〔主な特性〕 ○ 姿勢 ほとんど寝たままで自力では起き上がれない状態が多く,座るのがやっとです。 ○ 移動 自力での移動や寝返りが困難で,座ったまま移動したり,車椅子などで移動を行います。 ○ 排泄・入浴 全面的な介助が必要となります。また,オムツを使っていることが多いため,同性の介護が原則となります。 ○ 食事 自力ではできないため,スプーンなどで介助します。誤嚥を起こしやすい。また,通常の食事が食べられない人は,細かく刻んだり飲み込みやすいようにトロミをつけたりします。外食時には,ハサミやミキサーの貸し出しがあると助かります。 ○ 変形・拘縮 手,足が変形又は拘縮しており,側わんや胸郭の変形を伴う人が多くいます。 ○ 筋緊張 極度に筋肉が緊張し,思うように手足を動かすことができません。 ○ コミュニケーション 言語による理解が困難です。声や身振りで表現します。常時介護している人でなければ理解が困難です。声や身振りの表現力は弱いが,笑顔で応えます。 ○ 健康 肺炎気管支炎を起こしやすく,70%以上の人がてんかん発作を起こすため,いつも健康が脅かされています。痰の吸引が必要な人が多い。 ○ 趣味遊び 音楽,散歩,おもちゃ,ムーブメントが好きな場合が多い。 ○ 超重症心身障害 超重症心身障害のある人は,水分と食べ物を鼻から胃へ注入する管をつけたり,呼吸がうまくできないため人工呼吸器をつけたりしています。このような障害のある人は常に医師の管理が必要なため,外出することが難しいのが現状です。 〔困っていること〕 ○ 自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由と,年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害が重複しています。 ○ ほとんど寝たままで自力では起き上がれない状態が多い。 ○ 移動,食事,着替え,洗面,トイレ,入浴などが自力ではできないため,日常の様々な場面で介助者による援助が必要です。 ○ 常に医学的管理下でなければ,呼吸することも栄養を摂ることも困難な人もいます。 ○ 重度の肢体不自由や重度の知的障害はないが,人工呼吸器を装着するなど医療的ケアが必要な人もいます。 〔主な対応〕 ○ 意思疎通を図ることが非常に難しいが,本人に合った方法をとることが重要となります。具体的には,アイコンタクトやスキンシップ,口の動き等によって思いを伝えたり,コミュニケーションをとることができます。また,介護している人等を通して意思疎通を図る方法もあります。 ○ 人工呼吸器などを装着して専用の車椅子で移動する人もいるため,電車やバスの乗降時等において,周囲の人が手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要です。 ○ 体温調整がうまくできないことも多いので,急な温度変化を避ける配慮が必要です。 ○ 車椅子やストレッチャーでの移動時に人手が必要なときは,介護している人に声をかけてください。 ○ 人工呼吸器などの医療機器のアラームが鳴っているときは,速やかに介護している人に知らせてください。 10 知的障害 〔知的障害とは〕 発達期に何らかの原因で知的な能力が年齢相応に発達していない状態であること及び社会生活への適応に困難があることをいいます。 主な特徴は,「ことばを使う」,「記憶する」,「抽象的なことを考える」などに少し時間がかかります。また,仕事の手順をすぐ覚えることや,人とのやりとりにすばやく対応することが困難な場合があります。しかし,周囲の理解や支援によって,一歩―歩成長していける可能性を持っています。 障害の現れ方は,人それぞれで個人差があります。障害を感じさせない人もいます。言葉や行動の意味が相手にうまく伝わらず,周りから誤解や偏見を受けることがあります。重度障害のため常に同伴者と行動される人もいますが,障害が軽度の場合は会社で働いている人も大勢います。 また,犯罪の被害者になりやすく,場合によっては加害者と間違われる場合もあります。 〔主な特性〕 ○ おおむね18歳頃までの心身の発達期に現れた知的機能の障害により,生活上の適応に困難が生じています。 ○ 「考えたり,理解したり,読んだり,書いたり,計算したり,話したり」する等の脳の知的な機能に発達の遅れが生じています。 ○ 金銭管理,会話,買い物,家事などの社会生活への適応の状態に応じた援助が必要です。 ○ 主な原因として,ダウン症候群などの染色体異常,又は先天性代謝異常によるものや,脳症や外傷性脳損傷などの脳の疾患がありますが,原因が特定できない場合もあります。 ○ てんかん(精神障害(てんかん)の項を参照)を合併する場合もあります。 ○ ダウン症候群の場合の特性として,筋肉の低緊張,多くの場合,知的な発達の遅れがみられること,また,心臓に疾患を伴う場合があります。 〔困っていること〕 ○ 複雑な会話や抽象的な概念を理解するのが苦手です。 ○ 人に尋ねたり,自分の意見を言うのが苦手な人もいます。 ○ 漢字の読み書きや計算が苦手な人もいます。 ○ 一つの行動に固執したり,同じ質問を繰り返す人もいます。 ○ 突発的な出来事に対して,状況に応じた行動をすることが困難です。 ○ 差別や虐待を受けていても気づいてない人がいます。 ○ 自身の健康,病状あるいは治療に関しての理解が苦手な人がいます。 〔主な対応〕 <話をする場合の配慮> ○ 言葉による説明などを理解しにくく,複雑で抽象的な話は混乱してしまうため,できるだけゆっくり,ていねいに,わかりやすく,具体的に話すことが必要です。 ○ 話しかけるときは,相手が安心するよう,なるべく優しい口調と表情で話しかけます。 ○ 相手がきちんと理解しているか,時間がかかっても確認しつつ話を進める必要があります。 ○ 説明がわからないときには,本人をよく知る支援者に同席してもらうなど,理解しやすくなる環境を工夫します。 ○ 知的障害のある人は,使う言葉や表現があいまいなことがあるため,断片的な言葉からでも,できるだけ意図をくみ取るよう努める必要があます。 ○ 絵,写真,実物,カード等を見せて話をすると,状況理解がしやすくなり気持ちが通じやすくなります。 <文章を作成する場合の配慮> ○ 漢字の読み書きが苦手な人もいるため,漢字を少なくするとともに,ルビ(ふりがな)を付けるなどの配慮を行います。 ○ 文章は短く(一文を30文字以内にする)切ります。そして内容は,一文にひとつとします。 ○ 時刻の伝達は,24時間表記より,12時間表記の方がよい。 ○ 写真,絵,ピクトグラム(絵文字,絵単語)など,わかりやすい情報提供を工夫します。 <その他の配慮> ○ 「赤信号でも渡る」,「車が来ても避けない」といった危険がわからない,助けを求めることができない場合があるため,優しく声をかけて危険であることを知らせるなどの対応をします。 ○ 状況の変化に柔軟に対応できず,「ひっくりかえる」,「泣きわめく」などのパニック行動を起こすことがあるため,落ち着ける場所に誘導するなどの対応をします。 ○ 「ぴょんぴょん跳ねたりする」,「一つのことにこだわる」といった誤解されやすい行動をとる場合があるため,思い込みで判断せず,見守るなどの対応をします。 11 発達障害 〔発達障害とは〕  発達障害の概念については,様々な立場からの見解があります。また,国際的な医学上の診断基準の大幅な改訂が進んでおり,診断名やその位置づけも大きく変わろうとしています。ただし,本資料では,平成17年4月に施行された発達障害者支援法の「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」という定義に沿うものとします。 主な発達障害の特性については,下図のとおりですが,重複して現れる人もかなりの頻度で存在します。以前は,知的な遅れがないか軽度である場合に「軽度発達障害」と呼ぶこともありましたが,発達障害としての特性が強いにも関わらず,困難が「軽い」と誤解されることから,「軽度」という表現は避けるようになりました。生来的に発達障害があったにも関わらず,低年齢期には特性が目立たずに見過ごされ,思春期・成人期以降で診断を受ける例(いわゆる「大人の発達障害」)も少なくありません。実際に発達障害者支援センターへの相談においては,成人期の相談が半数以上を占めています。 一方で,知的な遅れ(軽度から最重度まで様々)を伴う人やてんかん等を併せもつ人もまれではありません。自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)等で知的な遅れを伴う場合に,発達障害としての特性が見逃され,適切な支援を受けずにいる場合もあります。知的な遅れを伴う場合,そうでない場合でも,発達障害としての十分な支援を受けられないまま不適切な対応と相まって,二次的に他の精神疾患を併せもつ例もあります。 上図には示されていませんが,「感覚刺激に対する過敏さあるいは鈍感さ」が見られる場合もあります。また,政令・省令により「言語の障害」,「協調運動の障害」なども発達障害者支援法の対象としています。 発達障害の原因についてはまだわかっていませんが,生まれながらの脳機能の障害と考えられています。保護者の育て方や本人の努力不足が原因で起こるものではありません。 「病気が治る」という意味では,発達障害そのものが治るということはありませんが,早期からの適切な支援と周囲の理解,発達障害の特性に合った生活環境の整備により,地域社会で誰もが自分らしく,生きていけるのです。 〔現れ方(特性)の代表的な例〕 発達障害のどの特性が,どのように,どれくらいの強さで現れるかは,人それぞれで異なります。また,対人関係における特性については,ライフステージや周囲の人の受入れ程度や接し方によって,同じ人でも場面や状況によって多様に変化することが多くあります。 下記の現れ方も全ての人に必ず現れるというわけではありませんし,程度も異なります。 ○ 情報理解の困難さ ・ 情報を理解したり,伝えたりする困難さがあります。 ・ 一度に多数の情報を理解することが難しいことがあります(シングルフォーカス)。 ・ 行間や裏の意味を読み取れずに,字義どおりの理解をしてしまうことがあります。 ・ 言葉よりも視覚的なものが理解しやすいことがあります。 ○ 情報処理の困難さ(情報の整理統合) ・ 複数の情報の中から必要な情報だけに注目する困難さがあります。 ○ 表出コミュニケーションの困難さ ・ 自分からコミュニケーションしようとする困難さや,自分の気持ちを伝える困難さがあります。 ・ 独特な言葉選び,難解な言葉を場や状況にそぐわずに多用することがあります。 ・ 独特のイントネーションが見られることがあります。 ・ 真意とは関係なく,おうむ返しの返事をする場合も多い。 ○ 社会性の困難さ ・ 場面や状況を読み取りながら瞬時に相手の気持ち,人間関係をつかむのが苦手です。 ・ 相手の表情や声のトーンを読みすぎて,勘違いをしやすいこともある。 ・ 一方的に自分の思いついたこと,印象などを口にだす。 ・ 自分流に状況を判断してしまう。相手と自分との気持ちの違い,周囲の感情等に気づかない。 ・ 他者・相手との距離感(物理的にも,心理的にも)が掴めず,必要以上に接近する。 ○ 学習(読む,書く,計算する)の困難さ ・ 知的水準にそぐわない程度の,識字,読み,筆記,計算理解,空間認知,図式理解などでの困難さがあります。 ・ 道が覚えられない。地図が読めない。しばしば訪れるところでも道に迷うなど。 ○ 転導性(注意を集中させておくことの困難さ) ・ 様々な刺激に影響を受けて,次から次へと突き動かされて行動してしまうことがあります。 ・ 注目しなくてはいけない部分に注目できない。注目しなくていい部分が気になる。 ○ 衝動性(状況などを判断しない,突発的な行動) ○ 多動性(落ち着きがなく,じっとしていられない行動,話し続けてしまう行動) ○ 切り替えの困難さ(注意しすぎる困難さ) ・ 一つの話題から次に移れない。同じ話題に何度も戻る。周りが他の話題に移っても話が終わらないなど。 ○ 般化の困難さ・関係理解の困難さ ・ 一つの場面でできていることが,他の場面でできないことがあります。 ・ 個々の経験から一般的な対応を習得(応用)することが難しい。  ※ 般化とは,初めに条件付けされた刺激や条件以外の,類似した別の刺激や条件においても,反応や学習効果を生じさせるようにすること。 ○ 変化・変更への対応の困難さ ・ いつもと同じは得意だけど,いつもと違うは苦手です。 ○ 整理統合の困難さ(時間の整理統合) ・ 活動(予定)の見通しがつかないことがあります。 ○ 整理統合の困難さ(空間の整理統合) ・ 同一の場所を多目的に使うと混乱することがあります。 ○ 感覚の特性 ・ 感覚刺激の反応,五感のいずれか,あるいはいくつかに過敏さや鈍感さがある場合があります。 視覚:光に対する過敏さ(蛍光灯の光,日光,光の揺らめきなど)。 聴覚:機械の音,こそこそ話,BGM,運動会のピストル音など。 味覚:受け付けられない食べ物があり,同じ食べ物しか食べれず,極端な偏食に陥ることがある(色,形,食感=触覚のケースもある。)。 嗅覚:髪のにおい,物のにおい,衣服のにおいなどに過敏。 触覚:材質によっては着られない服がある。下着のタグや縫い目が痛い。暑さに敏感なのに寒さに鈍感であったりする(又はその逆)など。 ○ 微細・粗大運動の特性(不器用さや運動バランスの悪さなど) ・ 脳の情報処理の特性による運動面への影響が見られます。 ・ 道具の使い方がぎこちない。力の入れ具合・加減が難しい。 ・ ボール投げ,縄跳び,体操などでちぐはぐな動きを示すなど。 ○ 感情コントロールの困難さ ・ 感情が入り乱れ,外からの情報を認識できない状態になる。 ・ 自分の感情の状態に気づいていないまま,混乱がエスカレートする。 ○ 記憶の維持の困難さ ・ 昨日覚えたことを忘れてしまう。 ・ 大切なことでも,次により興味のある情報が入ると忘れてしまう。 ○ 長期記憶の特性 ・ 一度覚えたこと(経験したこと)の記憶が消えない。忘れない特性があります。 ・ 記憶の時系列的順序が崩れ,かなり以前の記憶と目前の現在との混同が見られる場合もあります。 〔主な対応〕 発達障害のある人の言動は,一見すると「わがまま」,「身勝手」,あるいは「大人げない(年齢不相応)」に感じられ,本人に対する指導や注意(叱責)という対応をしがちですが,生来的な困難によるものであり,そうした対応はむしろ状況を悪化させます。 発達障害のある人の様々な行動の困難さの背後には,「本人の特性」と周囲の「環境・状況の刺激や複雑さ」が相互に作用して,本人の行動の現れ方に影響を与えています。 したがって,ゆっくりと落ち着いた声で,一つ一つ段階を追って,わかりやすく説明することが必要です。 さらに,発達障害のある人の課題となっている行動への対応には,何がその行動への刺激・引き金となっているかを見つけ,環境・状況を整理する視点が必要となります。 その環境整備の2本柱が「場の構造化」と「視覚的構造化」です。 <場の構造化> ○ 物理的構造化@「刺激を遮断して目の前の活動に集中させる工夫」 ・ 刺激(目,耳,鼻から入ってくる様々な情報)を何らかの方法で遮断して,目の前の活動や知らせたい情報に注目させる工夫が有効です。 (例)仕切り,カーテン,間接照明,サングラス(場合により屋内でも使用),エアコン,防音,イヤーマフや耳栓,ノイズキャンセリング型イヤホン等,掲示物の除去,BGMを止める,強いにおいのものを置かない,最小限の道具など。 ○ 物理的構造化A「活動の場所を明確にする工夫」 ・ 境界を明確にし,エリアを設定(作業をするエリア,食事をとるエリア,休憩するエリアなど)し,場所と活動を一対一対応にする工夫が有効です。 ・ 座る場所や活動する場所を明確に提示することも大切です。 ○ スケジュール「日課・行動予定について明確に提示する工夫」 ・ 「いつ」,「どこで」,「何をするのか」の情報を視覚的に提示する。 次の活動への切り替え,見通し(予測)をもった行動,スケジュールの変更等の支援を視覚的に順序だてておこなう工夫が有効です(タイマーなど)。 各人の特性や能力,し好に応じて,視覚的タイプや情報量などを個別化します。 ・ 一日の活動を提示する。カレンダー等の活用も有効です。 ○ ワークシステム「いくつかの活動を明確にする工夫」 ・ 物事を順序だてて考え実行していくことや,行動の優先順位をたてて進めることに困難を感じる人が多いため,「何を」,「どれだけの量」,「いつ終わるのか」,「終わったら何があるのか」の4つの情報を視覚的に明確に伝える「ワークシステム」が有効です。 <視覚的構造化> ○ 視覚的指示「具体的に指示する工夫」 ・ 材料を見ると活動がわかるように指示する。 ・ カットアウトジグ(はめ込みになっている治具)を使い,やり方を指示する。 ・ 絵や写真で示す工夫,絵による辞書を活用する。 ・ 絵・文字による手順を指示する(カード,リストなど)。 ・ 完成品(完成後の見本)を提示する(実物,絵,写真等)など。 ○ 視覚的整理統合「材料や道具などを整理統合して提示する工夫」 ・ 材料を一目でわかるように分類する。迷わずにピックアップできるように仕分けする。 ・ 視覚的な境界を設ける(仕切り,境界線を引く,棚番号を付けるなど)。 ・ 容器を固定する。中身と容器を一対一対応にする。 ・ テンプレートにする。 ・ チェックシート,記入欄を明確に設けるなど。 ○ 視覚的明瞭化「材料や指示を明確に指示する工夫」 ・ 色による識別,マーキング,ハイライトをつける。 ・ 材料や数,量を制限する。 (例)最低数量・最大数量を決め,それに達したときの行動をワークシステムとして決めておく。 ○ ルーティンの活用「習慣化して伝える,習慣を活用する工夫」 ・ 「いつもと同じは得意」,「ルーティンの保持」の特性を活用して,様々な活動,様々な流れを,いつもと同じ流れで伝えます。 (例)スケジュールのチェックの仕方,ワークシステムのチェックの仕方,皿洗いなど左から右の流れで伝えるなど。 <その他,感覚過敏・不器用さ等への対応> ○ 明るさを細かく調整する。 ○ 下着のタグを外しておく。裏返しに着て縫い目が直接あたらないように着る。 ○ 運動会のスタートの合図などで,ピストルでなく,シグナルや旗を使う。 ○ グリップ付きの筆記用具,すべりを押さえた用紙など道具を工夫する。 ○ 一般の常識にとらわれずに,服装等刺激の少ないものを身に着けることを周囲が了解する。 (例)室内や対面時でもサングラス着用,つばの広い帽子の着用,手袋,ノーネクタイ,イヤーマフ等の利用などを広く許容する。 <読字・識字の困難への対応> ○ 学習障害のなかでも読字・識字の困難がある人には,読み上げて内容を伝えることや,拡大ルーペ,拡大文字の利用等,視覚に困難のある人に対するものと同様の対応が効果的な場合もある。 「主な対応」は,何もない状態では様々な周囲の状況や自分の状況を,理解し整理することが困難な部分を補う支援になります。構造化があることで,自ら理解し自ら行動することができるようになり,自立的な活動ができます。 「視覚的なツールを使うとこだわりが強くなる。」などの誤解もまだまだ多く聞かれますが,構造化は事前に様々な活動の見通しを伝えたり,変更を伝えたりと柔軟な理解を促すことができる支援です。反対に構造化を活用しない状況だと,自分のルールでしか動けなかったり,変更に対応できない場合もあります。構造化は発達障害のある人へのバリアフリーでもあります。上記で示した構造化や視覚的支援の考え方は,障害のある人に限らず,様々な生産現場や工事現場,オフィスの事務改善,公共の場での案内・誘導などでも応用されているユニバーサルデザインです。 〔参考情報〕 発達障害についての知見は日々進展しており,発達障害のある人への対応についても,新しい集積が日々行われています。図書・紙媒体の資料だけでなく,インターネット等でも参考となる情報が多くあります。こうした情報も活用をしてください。以下は,公的機関による参考情報の一例です。 <広島県> ○ 「発達障害との出会い」〜発達障害に係る県民向け啓発パンフレット〜 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/62/1245372748537.html ○ 「発達障害支援ハンドブック」 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/62/hattatsushougaishienhandbook.html <国の機関> ○ 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター http://www.rehab.go.jp/ddis/ ○ 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育情報センター http://icedd.nise.go.jp/ ○ 国立特別支援教育総合研究所 インクルDB http://inclusive.nise.go.jp <就労支援> ○ 障害者職業総合センター(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構) http://www.nivr.jeed.or.jp/index.html 12 精神障害 〔精神障害とは〕 統合失調症や気分障害(躁うつ病)などの精神疾患では,幻覚や妄想,不安やイライラ感,ゆううつ感,不眠などが認められます。これらの症状は,薬を服用することや環境が安定することにより,軽快していきます。 一方で,「自発性がない」,「集中力や持続性がない」,「人付き合いに緊張しすぎる」などの症状が見られることがあり,周囲から怠けているかのように見えるなどの誤解を受けることがあります。しかし,決して,怠けているとか,意思が弱いということではありません。これらの症状は,病気の症状が落ち着いてくる経過の中で認められるものです。 〔主な特性〕 ○ 精神障害の原因となる精神疾患は様々であり,原因となる精神疾患によって,その障害特性や制限の度合いは異なります。 ○ 精神疾患の中には,長期にわたり,日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態が続くものがあります。 ○ 代表的な精神疾患として,統合失調症や気分障害等があります。 統合失調症 〔主な特性〕 ○ 発症の原因はよくわかっていませんが,100人に1人弱かかる,比較的一般的な病気です。 ○ 「幻覚」や「妄想」が特徴的な症状ですが,その他にも様々な生活のしづらさが障害として現れることが知られています。 ○ 陽性症状 ・ 幻覚 実態がなく他人には認識できないが,本人には感じ取れる感覚のこと。中でも,自分の悪口やうわさ,指図する声等が聞こえる幻聴が多い。 ・ 妄想 明らかに誤った内容を信じてしまい,周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのこと。誰かに嫌がらせをされているという被害妄想,周囲のことが何でも自分に関係しているように思える関係妄想などがあります。 ○ 陰性症状 ・ 意欲が低下し,以前からの趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなります。 ・ 疲れやすく集中力が保てず,人づきあいを避け,ひきこもりがちになります。 ・ 入浴や着替えなど清潔に保つことが苦手になります。 ○ 認知や行動の障害 ・ 考えがまとまりにくく,何が言いたいのかわからなくなります。 ・ 相手の話の内容がつかめず,周囲にうまく合わせることができません。 〔困っていること〕 ○ 統合失調症などの多くの症状は,症状が不安定な時期を過ぎると,次第に回復し,安定していきます。その経過の中では,無気力になったり,集中力や持続力が低下したり,落ち込んだり,疲れや眠気を感じ,ひきこもりがちになるなど,日常生活や社会生活のしづらさが見られます。 〔主な対応〕 ○ 統合失調症は,脳の病気であることを理解し,病気について正しい知識を学ぶ必要があります。 ○ 薬物療法が主な治療となるため,内服を続けることに配慮する必要があります。 ○ 社会との接点を保つことも治療となるため,本人が病気と付き合いながら,他人と交流したり,仕事に就くことを見守る必要があります。 ○ 一方で,ストレスや環境の変化に弱いことを理解し,配慮した対応を心掛ける必要があります。 ○ 一度に多くの情報が入ると混乱するので,伝える情報は紙に書くなどして整理して,ゆっくり具体的に伝えることを心掛ける必要があります。 ○ 症状が強いときには無理をしないよう,しっかりと休養をとったり,速やかに主治医を受診することなど本人に促す必要があります。 気分障害 〔主な特性〕 ○ 気分の波が主な症状として現れる病気です。うつ状態のみを認めるときはうつ病と呼び,うつ状態と躁状態を繰り返す場合には,双極性障害(躁うつ病)と呼びます。 ○ うつ状態では気持ちが強く落ち込み,何事にもやる気が出ない,疲れやすい,考えが働かない,自分が価値のない人間のように思える,死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとするなどの症状が現れます。 ○ 躁状態では気持ちが過剰に高揚し,普段ならあり得ないような浪費をしたり,ほとんど眠らずに働き続けたりします。その一方で,ちょっとした事にも敏感に反応し,他人に対して怒りっぽくなったり,自分は何でもできると思い込んで人の話を聞かなくなったりします。 〔主な対応〕 ○ 薬物療法が主な治療となるため,内服を続けることに配慮します。 ○ うつ状態のときは,無理をさせず,しっかりと休養をとれるよう配慮します。 ○ 自分を傷つけてしまったり,自殺に至ることもあるため,自殺などを伺わせるような言動があった場合には,本人の安全に配慮した上で,速やかに専門家に相談するよう本人や家族等に促します。 依存症(アルコール及び薬物など) 〔依存症とは〕 依存症は,快楽を得るために,依存している物質(アルコールや薬物など)や行為をやめようと思っていてもやめられない状態をいいます。依存症は,必ずしも体の中に物質が入っているというわけではありません。依存症は,アルコール・薬物・たばこなどの物質に依存する「物質嗜癖(しへき)」のほか,ギャンブル・買い物・仕事などに依存する「プロセス嗜癖」などがあります。 〔主な特性(アルコール依存症)〕 ○ 飲酒したいという強い欲求がコントロールできず,過剰に飲酒したり,昼夜問わず飲酒したりすることで身体的,社会生活上の様々な問題が生じます。 ○ 体がアルコールに慣れることで,アルコールが体から抜けると,発汗,頻脈,手の震え,不安,イライラなどの離脱症状が出ます。 ○ 一念発起して断酒しようとしても,離脱症状の不快感や,日常生活での不安感から逃れるために,また飲んでしまいます。 〔困っていること〕 ○ 自分の力だけで依存を断ち切るのは困難です。依存症は,心や体に変化が起こり,自分自身でもコントロールができない状態です。依存には,自分の意志でコントロールできない「精神依存」や,実際にその物質を中断すると体に異常(離脱症状など)を生じる「身体依存」などが見られます。 ○ 依存症には治療が必要です。依存症は病気であり,そのため,身体的,家族的,社会的に様々な問題が生じてきています。したがって,治療が必要とされるが,まだまだ個人の問題だととらえられ,なかなか治療に対する周囲の理解が得られないことがあります。 〔主な対応(アルコール依存症)〕 ○ 本人に病識がなく(場合によっては家族も),アルコール依存症は治療を必要とする病気であるということを,本人・家族・周囲が理解します。 ○ 一度断酒しても,再度飲酒してしまうことが多いため,根気強く本人を見守ります。 てんかん 〔てんかんとは〕 脳の神経の一部が活発に活動しすぎるために,「てんかん発作」がくり返し起きる病気です。てんかん発作は,神経の機能(はたらき)に対応した症状が現れます。身体の一部あるいは全身がけいれんしたり,また意識だけが失われるなど症状は様々です。「てんかん」は,100〜200人に1人の割合で生じ,日本には約100万人の人がいると推計されています。遺伝病ではなく,どの年代でも見られる身近な病気で,薬や外科治療によって発作のほとんどはコントロールできます。 〔主な特性〕 ○ 何らかの原因で,一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより,発作が起きます。 ○ 発作には,けいれんを伴うもの,突然意識を失うもの,意識はあるが認知の変化を伴うものなど,様々なタイプのものがあります。 〔困っていること〕 ○ 正しい情報が知られていないため,「差別」,「誤解」,「偏見」が問題になりやすい病気です。 ○ 疲れすぎたり,寝不足が続くと発作が起きやすくなります。 ○ 発作が起きることへの不安から,新しいことに挑戦することをあきらめたり,ひきこもりがちになることもあります。 〔主な対応〕 ○ 誰もがかかる可能性がある病気であり,専門家の指導の下に内服治療を行うことで,多くの人が一般的な生活が送れることを理解します。 ○ 発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能なので,発作がコントロールされている場合は,過剰に活動を制限しません。 ○ 発作が起こったら,まわりの人ができることは,次のとおりです。 ・ 危険を避ける。意識の失われる発作では,危ないものを遠ざける。倒れる危険性のある場合には,頭を床に打たせないようタオルなどやわらかいものを敷く。 ・ 動作に自然に寄り添う。発作が起きている間は,無理に動かさない。意識がなくて歩きまわるときは後ろから付いていくなど,自然に寄り添う。 ・ 発作の様子をくわしく見ておく。時計を見て発作が起きている時間を確認する,発作の間の表情の変化を観察するなど発作の様子をくわしく見ておくと病気を知る手がかりになる。 ○ 発作が起こったら,やってはいけないことは,次のとおりです。 ・ 口にハンカチなどの物を入れる。 ・ けいれんを止めようと体を押さえる。 ・ 早く意識を戻そうとして刺激する。 認知症 〔主な特性〕 ○ 認知症は,単一の病名ではなく,種々な原因となる疾患により記憶障害など認知機能が低下し,生活に支障が出ている状態です。 ○ 原因となる主な疾患として,アルツハイマー型認知症,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症(ピック病など)があります。 ○ 認知機能の障害の他に,行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状(徘徊,不穏,興奮,幻覚,妄想など)があります。 〔主な対応〕 ○ 超高齢化社会を迎え,誰もが認知症とともに生きることになる可能性があり,また,誰もが介護者等として認知症に関わる可能性があります。また,若年性認知症もあり,認知症は皆にとって身近な病気であることを理解します。 ○ 各々の価値観や個性,想い,人生の歴史等を持つ主体として尊重し,できないことではなく,できることに目を向けて,本人が有する力を最大限に活かしながら,地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう,支援していく必要があります。 ○ 早期に気づいて適切に対応していくことができるよう,小さな異常を感じたときに,速やかに適切な機関に相談できるようにします。 ○ 行動・心理症状(BPSD)については,BPSDには,何らかの意味があり,その人からのメッセージとして聴くことが重要であり,BPSDの要因として,様々な身体症状,孤立・不安,不適切な環境・ケア,睡眠や生活リズムの乱れなどに目を向けます。 ○ 症状が変化した等の場合には,速やかに主治医を受診し,必要に応じて専門機関に相談することなどを促します。 13 難病 〔難病とは〕 発病の仕組みが明らかでなく,かつ,治療方法が確立していない希少な疾病であって,当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とします。 また,根本的な治療は困難であるものの,適切な治療や自己管理を続けることで通常に近い生活を送ることができる疾病,もしくは病名もあります。 なお,難病における大きな問題として,病気を持ちながら就労を継続することの困難さや,長期にわたり療養を必要とするものが多いことから,一人ひとりが難病のある人の状態を理解し,サポートしていくことが大切となります。 〔主な特性〕 ○ 神経筋疾病,骨関節疾病,感覚器疾病,血液系など様々な疾病により,多様な障害を生じ,各分野の専門医でなければ診断できない疾病も少なくありません。 ○ 常に医療的対応を必要とすることが多い。 ○ 病態や障害が進行する場合が多い。 ○ 疾病によっては,疲れやすい,重い物を持つことができない等の症状が見られます。 ○ 症状や病態は,個人によって様々であり,同じ疾病でも,重症で全面介助の生活を送っている人もいれば,ほとんど問題なく日常生活を送っている人まで様々です。 ○ 症状に変化があり,一日の中でも軽い症状と重い症状になる場合があります。また,日によって変化が大きい等の特徴があります。進行性の症状がある疾病では,大きな周期でよくなったり悪化したりを繰り返すという難病特有の症状が見られます。 ○ 合併症のある人も多く,治療のために使用する薬の副作用により別の疾病を発症する,機能障害が数年かけて進行するなど,二次障害が生じる場合もあります。 〔困っていること〕 ○ 難病のある人の多くは,難病への無理解や先入観による偏見や差別で悩んでいます。 ○ 疾患の症状や治療から発生する肉体的な苦しみのほか,大きな不安など精神的にも苦しんでいます。 ○ 外見でわかるものだけでなく,外見からはわからない症状等(痛みやしびれ,食事の制限,疲れやすさなど)があるため,一人で苦しんでいる人もいます。 ○ 「難病」=「働けない」という誤解をされやすいため,病気のことを職場に隠して仕事をすることにもつながっています。 ○ 職業生活と疾患管理の両立の難しさに悩んでいます。 〔主な対応〕 ○ 周りから理解されずに苦しんでいる障害のある人がいることを知って理解と配慮をしていくことが大切です。 ○ 難病のある人には,障害者認定の基準に含まれない機能障害があり,例えば,病気による疲れやすさや痛み,また,疾病によっては,皮膚の症状や自律神経障害,貧血なども見られます。無理のない仕事の内容,生活支援など,その人に合った理解と配慮が必要です。 ○ 疾病の種類や症状,程度が様々です。「難病のある人」とレッテルを貼って,誤解や偏見を持たないようにします。 ○ それぞれの難病の特性が異なり,その特性に合わせた対応が必要です。例えば,「言語障害」や「四肢麻痺」などの症状のために,会話や意思伝達が困難な場合があり,症状に合ったコミュニケーションをとる必要があります。 ○ 病状が進行する場合,病態・障害の変化に応じた対応が必要です。 ○ 排泄の問題,疲れやすさ,状態の変動などに留意が必要です。 ○ 症状を維持するため,定期的に通院や服薬が必要な場合には,職場などで理解と配慮が必要です。 【参考1】障害者に関するマーク 障害者に関するマークには,主に次のようなものがあります。 障害には,身体内部や聴覚障害など,外見ではわからないものもあるため,障害者が誤解を受けたり,我慢を強いられることもあります。 これらのマークを見かけたときは,御理解,御協力をお願いします。 マ ー ク 名  称  及  び  説  明  等 障害者のための国際シンボルマーク 障害者が利用できる建物,施設であることを明確に表すための世界共通のシンボルマークです。 駐車場などでこのマークを見かけた場合には,障害者の利用への配慮をしてください。 ※ このマークは「すべての障害者を対象」としたものです。特に車椅子を利用する障害者を限定し,使用されるものではありません。 (所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会) 身体障害者標識 肢体不自由であることを理由に免許に条件を付されている人が運転する車に表示するマークで,マークの表示については,努力義務となっています。 危険防止のためやむを得ない場合を除き,このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は,道路交通法の規定により罰せられます。 (所管:警察庁) 聴覚障害者標識 聴覚障害であることを理由に免許に条件を付されている人が運転する車に表示するマークで,マークの表示については,義務となっています。 危険防止のためやむを得ない場合を除き,このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は,道路交通法の規定により罰せられます。 (所管:警察庁) 盲人のための国際シンボルマーク 世界盲人会連合で1984年に制定された盲人のための世界共通のマークです。視覚障害者の安全やバリアフリーに考慮された建物,設備,機器などに付けられています。信号機や国際点字郵便物・書籍などで身近に見かけるマークです。 (所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会) マ ー ク 名  称  及  び  説  明  等 耳マーク 聞こえが不自由なことを表す,国内で使用されているマークです。聴覚障害者は見た目にはわからないために,誤解されたり,不利益をこうむったり,社会生活上で不安が少なくありません。 このマークを提示された場合は,相手が「聞こえない」こと を理解し,コミュニケーションの方法への配慮をしてください。 自分が受けたい援助を示したカードを利用することもあります。(右参照) (所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会) ほじょ犬マーク 身体障害者補助犬同伴の啓発のためのマークです。 身体障害者補助犬とは,盲導犬,介助犬,聴導犬のことを言います。「身体障害者補助犬法」が施行され,公共の施設や交通機関はもちろん,デパートやスーパー,ホテル,レストランなどの民間施設でも身体障害者補助犬が同伴できます。 補助犬はペットではありません。体の不自由な方の,体の一部となって働いています。社会のマナーもきちんと訓練されているし,衛生面でもきちんと管理されています。 (所管:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部) オストメイトマーク 人工肛門・人工膀胱を造設している人(オストメイト)のための設備があることを表しています。 オストメイト対応のトイレの入口・案内誘導プレートに表示されています。 (所管:公益社団法人日本オストミー協会) ハート・プラスマーク 「身体内部に障害がある人」を表しています。身体内部(心臓,呼吸器,腎臓,膀胱・直腸,小腸,肝臓,免疫機能)に障害がある人は外見からはわかりにくいため,様々な誤解を受けることがあります。 内部障害のある人の中には,電車などの優先席に座りたい,近辺での携帯電話使用を控えてほしい,障害者用駐車スペースに停めたい,といったことを希望していることがあります。 (所管:特定非営利活動法人ハート・プラスの会) マ ー ク 名  称  及  び  説  明  等 要約筆記シンボルマーク 「要約筆記」という文字による通訳を社会一般に認知してもらい,聴覚障害者とのコミュニケーションに配慮を求めていくためのシンボルです。 (所管:特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会) 「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク 白杖を頭上50cm程度に掲げてSOSのシグナルを示している視覚に障害のある人を見かけたら,進んで声をかけて支援しようという「白杖SOSシグナル」運動の普及啓発シンボルマークです。 白杖によるSOSのシグナルを見かけたら,進んで声をかけ,困っていることなどを聞き,サポートをしてください。 (所管:岐阜市福祉部障がい福祉課) 手話マーク 5本指で「手話」を表す形を採用し,輪っかで手の動きを表現しています。マークの意味は,「手話で対応します」「手話通訳者がいます」です。 (所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟) 筆談マーク 相互に紙に書くことによるコミュニケーションを表現しています。マークの意味は,「筆談で対応します」「要約筆記者がいます」です。 (所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟) あいサポートシンボル 障害のある人を支える「心」を2つのハートを重ねることで表現しています。後ろの白いハートは,障害のある人を支える様子を表すとともに,「SUPPORTER(サポーター)」の「S」を表現しています。 ベースとしている「橙色(だいだいいろ)」は,鳥取県出身で日本の障害者福祉に尽力された糸賀一雄氏の残した言葉「この子らを世の光に」から「光」や,「暖かさ」をイメージするものとしています。 また,「だいだい(代々)」にちなみ,あいサポーター(障害者サポーター)が広がって,共生社会が実現されることへの期待も込められています。 ※ 広島県は,平成23年10月から実施 マ ー ク 名  称  及  び  説  明  等 サポートマーク 内部障害,聴覚障害,発達障害,高次脳機能障害のある人,義足や人工関節を使用している人など「外見からは援助を必要としていることがわからない人」が,援助を得やすくなるよう,身に着けることで援助を必要としていることを示すマークです。 (所管:山口県健康福祉部障害者支援課) ※ 広島県は,平成27年12月から実施 ヘルプマーク 義足や人工関節を使用している人,内部障害や難病の人,又は妊娠初期の人など,外見から分からなくても援助や配慮を必要としている人々が,周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで,援助を得やすくなるよう,作成したマークです。 (所管:東京都福祉保健局障害者施策推進部計画課) ※ 広島県は,平成29年7月から実施   広島県思いやり駐車場利用証 身体・精神・知的障害,難病,高齢,けが,妊娠などによって車の乗降や歩行の困難な人が,公共施設やショッピングセンターなどに設けられた専用の駐車スペースを安心して利用できるように,「思いやり駐車場」制度を導入しています。 設置(管理)者の協力により「思いやり駐車場」として登録いただいた専用駐車スペースを必要とする人(制度対象者)に,県の発行する「利用証」を交付しています。 上マーク:身体障害,知的障害,精神障害,難病,高齢により,障害や症状が固定している人には,緑色の利用証を交付しています。 下マーク:対象となる施設に表示しています。 ※ 平成23年7月から実施 (表面)   (裏面) パーキンソン病・SOSカード パーキンソン病患者は,薬の効果がなくなり急に動けなくな ることがあります。「ウェアリングオフ症状」と言います。 このカードを持った人が動けないのを見かけたら,何か手助 けを必要としていないか進んで声を掛けて下さい。 「外見からは援助を必要としていることがわからない人」でも,援助を必要としていることを示すカードです。 (所管:全国パーキンソン病友の会・広島県支部) 【参考2】コミュニケーションボード 障害者の中には,話し言葉でのコミュニケーションが苦手な人もいます。しかし,絵や記号などわかりやすい方法があれば伝え合えることがあります。「コミュニケーションボード」とは,話し言葉に代わるコミュニケーションツールです。言葉でうまく伝え合えないとき,またそのやりとりの最中に,このコミュニケーションボードを差し出し,絵を指さしてもらいます。 【参考3】関係機関一覧 区 分 名  称  /  所  在  地 電 話 視覚障害 社会福祉法人 広島県視覚障害者団体連合会 〒732-0009 広島市東区戸坂千足二丁目1-5 082-229-2320 公益社団法人 広島市視覚障害者福祉協会 〒732-0052 広島市中区千田町一丁目9-43 082-249-7177 聴覚語障害 広島県聴覚障害者センター   〒734-0007 広島市南区皆実町一丁目6-29 082-254-0085 一般社団法人 広島県ろうあ連盟 〒734-0007 広島市南区皆実町一丁目6-29 082-252-0303 広島県難聴者・中途失聴者団体連合会  〒734-0007 広島市南区皆実町一丁目6-29 082-259-3327 盲ろう 広島盲ろう者友の会 〒734-0007 広島市南区皆実町一丁目6-29 082-253-5469 肢体不自由 広島県身体障害者施設協議会 〒732-0816 広島市南区比治山本町12-2 082-254-3416 広島県心身障害児者父母の会連合会 〒733-0021 広島市西区上天満町5-33 082-578-7525 高次脳機能 広島県高次脳機能センター 〒739-0036 東広島市西条町田口295-3 082-425-1455 地方独立行政法人広島市立病院機構 広島市立リハビリテーション病院 〒731-3168 広島市安佐南区伴南一丁目39-1 082-848-8001 医療法人社団清風会 廿日市記念病院 〒738-0060 廿日市市陽光台5-12 0829-20-2300 医療法人社団中川会 呉中通病院 〒737-0046 呉市中通一丁目3-8 0823-22-2510 社会医療法人千秋会 井野口病院 〒739-0007 東広島市西条土与丸六丁目1-91 082-422-3711 公立みつぎ総合病院 〒722-0393 尾道市御調町市124 0848-76-1111 社会医療法人祥和会 脳神経センター 大田記念病院 〒720-0825 福山市沖野上町三丁目6-28 084-931-8650 三次地区医療センター 〒728-0013 三次市十日市東三丁目16-1 0824-62-1103 社会福祉法人萌生会 高次脳機能障害サポートネットひろしま 〒731-0154 広島市安佐南区上安二丁目30-15 082-847-0031 区 分 名  称  /  所  在  地 電 話 内部障害 広島県身体障害者施設協議会 〒732-0816 広島市南区比治山本町12-2 082-254-3416 重症心身障害 全国重症心身障害児(者)を守る会広島県支部 〒731-5122 広島市佐伯区五日市町皆賀104-27 082-533-6222 知的障害 一般社団法人 広島県手をつなぐ育成会 〒733-0004 広島市西区打越町17-27 082-537-1773 広島県知的障害者福祉協会 〒732-0816 広島市南区比治山本町12-2 082-254-3416 発達障害 広島県発達障害者支援センター 〒739-0001 東広島市西条町西条414-31 082-490-3455 広島市発達障害者支援センター 〒732-0052 広島市東区光町二丁目15-55 082-568-7328 こども発達支援センター 〒720-8512 福山市三吉町南二丁目11-22 084-928-1351 特定非営利活動法人 広島自閉症協会 〒731-5153 広島市佐伯区河内南二丁目44-21 082-892-3860 精神障害 公益社団法人 広島県精神保健福祉家族会連合会 〒735-0006 安芸郡府中町本町三丁目11-9 082-285-3837 広島県精神障害者支援事業所連絡会 〒739-2105 東広島市高屋町桧山267-1 082-493-8750 広島県精神保健福祉士協会 〒739-2693 東広島市黒瀬町南方92 0823-82-3000 広島県立総合精神保健福祉センター 〒731-4311 安芸郡坂町北新地二丁目3-77 082-884-1051 広島市精神保健福祉センター 〒730-0043 広島市中区富士見町11-27 082-245-7746 広島県断酒会連合会 〒731-0232 広島市安佐北区亀山南五丁目41-23 082-814-1874 広島ダルク 〒730-0052 広島市中区千田町一丁目9-43 082-258-1256 社会福祉法人光の園 広島マック 〒732-0817 広島市南区比治山町1-12 082-262-6689 公益社団法人 日本てんかん協会広島県支部(波の会) 〒739-0041 東広島市西条町寺家5044-1 082-421-0645 難病 難病対策センター 〒734-8551 広島市南区霞一丁目2-3 082-257-5072 広島難病団体連絡協議会 〒734-0007 広島市南区皆実町一丁目6-29 082-236-1981 【関係法律】  障害者基本法(昭和45年法律第84号) 第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 二 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 (地域社会における共生等) 第三条 第一条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。 一 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。 二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。 三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。 (差別の禁止) 第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。 3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。 (国際的協調) 第五条 第一条に規定する社会の実現は、そのための施策が国際社会における取組と密接な関係を有していることに鑑み、国際的協調の下に図られなければならない。 (国及び地方公共団体の責務) 第六条 国及び地方公共団体は、第一条に規定する社会の実現を図るため、前三条に定める基本原則(以下「基本原則」という。)にのつとり、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に実施する責務を有する。 (国民の理解) 第七条 国及び地方公共団体は、基本原則に関する国民の理解を深めるよう必要な施策を講じなければならない。 (国民の責務) 第八条 国民は、基本原則にのつとり、第一条に規定する社会の実現に寄与するよう努めなければならない。 (障害者週間) 第九条 国民の間に広く基本原則に関する関心と理解を深めるとともに、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加することを促進するため、障害者週間を設ける。 2 障害者週間は、十二月三日から十二月九日までの一週間とする。 3 国及び地方公共団体は、障害者の自立及び社会参加の支援等に関する活動を行う民間の団体等と相互に緊密な連携協力を図りながら、障害者週間の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない。 (施策の基本方針) 第十条 障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、かつ、有機的連携の下に総合的に、策定され、及び実施されなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を講ずるに当たつては、障害者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない。 (障害者基本計画等) 第十一条 政府は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者のための施策に関する基本的な計画(以下「障害者基本計画」という。)を策定しなければならない。 2 都道府県は、障害者基本計画を基本とするとともに、当該都道府県における障害者の状況等を踏まえ、当該都道府県における障害者のための施策に関する基本的な計画(以下「都道府県障害者計画」という。)を策定しなければならない。 3 市町村は、障害者基本計画及び都道府県障害者計画を基本とするとともに、当該市町村における障害者の状況等を踏まえ、当該市町村における障害者のための施策に関する基本的な計画(以下「市町村障害者計画」という。)を策定しなければならない。 4 内閣総理大臣は、関係行政機関の長に協議するとともに、障害者政策委員会の意見を聴いて、障害者基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。 5 都道府県は、都道府県障害者計画を策定するに当たつては、第三十六条第一項の合議制の機関の意見を聴かなければならない。 6 市町村は、市町村障害者計画を策定するに当たつては、第三十六条第四項の合議制の機関を設置している場合にあつてはその意見を、その他の場合にあつては障害者その他の関係者の意見を聴かなければならない。 7 政府は、障害者基本計画を策定したときは、これを国会に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。 8 第二項又は第三項の規定により都道府県障害者計画又は市町村障害者計画が策定されたときは、都道府県知事又は市町村長は、これを当該都道府県の議会又は当該市町村の議会に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。 9 第四項及び第七項の規定は障害者基本計画の変更について、第五項及び前項の規定は都道府県障害者計画の変更について、第六項及び前項の規定は市町村障害者計画の変更について準用する。 (法制上の措置等) 第十二条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。 (年次報告) 第十三条 政府は、毎年、国会に、障害者のために講じた施策の概況に関する報告書を提出しなければならない。 第二章 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策 (医療、介護等) 第十四条 国及び地方公共団体は、障害者が生活機能を回復し、取得し、又は維持するために必要な医療の給付及びリハビリテーションの提供を行うよう必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、前項に規定する医療及びリハビリテーションの研究、開発及び普及を促進しなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者が、その性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じ、医療、介護、保健、生活支援その他自立のための適切な支援を受けられるよう必要な施策を講じなければならない。 4 国及び地方公共団体は、第一項及び前項に規定する施策を講ずるために必要な専門的技術職員その他の専門的知識又は技能を有する職員を育成するよう努めなければならない。 5 国及び地方公共団体は、医療若しくは介護の給付又はリハビリテーションの提供を行うに当たつては、障害者が、可能な限りその身近な場所においてこれらを受けられるよう必要な施策を講ずるものとするほか、その人権を十分に尊重しなければならない。 6 国及び地方公共団体は、福祉用具及び身体障害者補助犬の給付又は貸与その他障害者が日常生活及び社会生活を営むのに必要な施策を講じなければならない。 7 国及び地方公共団体は、前項に規定する施策を講ずるために必要な福祉用具の研究及び開発、身体障害者補助犬の育成等を促進しなければならない。 (年金等) 第十五条 国及び地方公共団体は、障害者の自立及び生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講じなければならない。 (教育) 第十六条 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによつて、その相互理解を促進しなければならない。 4 国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材等の提供、学校施設の整備その他の環境の整備を促進しなければならない。 (療育) 第十七条 国及び地方公共団体は、障害者である子どもが可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けられるよう必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、療育に関し、研究、開発及び普及の促進、専門的知識又は技能を有する職員の育成その他の環境の整備を促進しなければならない。 (職業相談等) 第十八条 国及び地方公共団体は、障害者の職業選択の自由を尊重しつつ、障害者がその能力に応じて適切な職業に従事することができるようにするため、障害者の多様な就業の機会を確保するよう努めるとともに、個々の障害者の特性に配慮した職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介の実施その他必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害者の多様な就業の機会の確保を図るため、前項に規定する施策に関する調査及び研究を促進しなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者の地域社会における作業活動の場及び障害者の職業訓練のための施設の拡充を図るため、これに必要な費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。 (雇用の促進等) 第十九条 国及び地方公共団体は、国及び地方公共団体並びに事業者における障害者の雇用を促進するため、障害者の優先雇用その他の施策を講じなければならない。 2 事業主は、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者を雇用する事業主に対して、障害者の雇用のための経済的負担を軽減し、もつてその雇用の促進及び継続を図るため、障害者が雇用されるのに伴い必要となる施設又は設備の整備等に要する費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。 (住宅の確保) 第二十条 国及び地方公共団体は、障害者が地域社会において安定した生活を営むことができるようにするため、障害者のための住宅を確保し、及び障害者の日常生活に適するような住宅の整備を促進するよう必要な施策を講じなければならない。 (公共的施設のバリアフリー化) 第二十一条 国及び地方公共団体は、障害者の利用の便宜を図ることによつて障害者の自立及び社会参加を支援するため、自ら設置する官公庁施設、交通施設(車両、船舶、航空機等の移動施設を含む。次項において同じ。)その他の公共的施設について、障害者が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等の計画的推進を図らなければならない。 2 交通施設その他の公共的施設を設置する事業者は、障害者の利用の便宜を図ることによつて障害者の自立及び社会参加を支援するため、当該公共的施設について、障害者が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等の計画的推進に努めなければならない。 3 国及び地方公共団体は、前二項の規定により行われる公共的施設の構造及び設備の整備等が総合的かつ計画的に推進されるようにするため、必要な施策を講じなければならない。 4 国、地方公共団体及び公共的施設を設置する事業者は、自ら設置する公共的施設を利用する障害者の補助を行う身体障害者補助犬の同伴について障害者の利用の便宜を図らなければならない。 (情報の利用におけるバリアフリー化等) 第二十二条 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるようにするため、障害者が利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の普及、電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進、障害者に対して情報を提供する施設の整備、障害者の意思疎通を仲介する者の養成及び派遣等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、災害その他非常の事態の場合に障害者に対しその安全を確保するため必要な情報が迅速かつ的確に伝えられるよう必要な施策を講ずるものとするほか、行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たつては、障害者の利用の便宜が図られるよう特に配慮しなければならない。 3 電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者は、当該役務の提供又は当該機器の製造等に当たつては、障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない。 (相談等) 第二十三条 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に総合的に応ずることができるようにするため、関係機関相互の有機的連携の下に必要な相談体制の整備を図るとともに、障害者の家族に対し、障害者の家族が互いに支え合うための活動の支援その他の支援を適切に行うものとする。 (経済的負担の軽減) 第二十四条 国及び地方公共団体は、障害者及び障害者を扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は障害者の自立の促進を図るため、税制上の措置、公共的施設の利用料等の減免その他必要な施策を講じなければならない。 (文化的諸条件の整備等) 第二十五条 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に文化芸術活動、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化芸術、スポーツ等に関する活動の助成その他必要な施策を講じなければならない。 (防災及び防犯) 第二十六条 国及び地方公共団体は、障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするため、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講じなければならない。 (消費者としての障害者の保護) 第二十七条 国及び地方公共団体は、障害者の消費者としての利益の擁護及び増進が図られるようにするため、適切な方法による情報の提供その他必要な施策を講じなければならない。 2 事業者は、障害者の消費者としての利益の擁護及び増進が図られるようにするため、適切な方法による情報の提供等に努めなければならない。 (選挙等における配慮) 第二十八条 国及び地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより行われる選挙、国民審査又は投票において、障害者が円滑に投票できるようにするため、投票所の施設又は設備の整備その他必要な施策を講じなければならない。 (司法手続における配慮等) 第二十九条 国又は地方公共団体は、障害者が、刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となつた場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人となつた場合において、障害者がその権利を円滑に行使できるようにするため、個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修その他必要な施策を講じなければならない。 (国際協力) 第三十条 国は、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を国際的協調の下に推進するため、外国政府、国際機関又は関係団体等との情報の交換その他必要な施策を講ずるように努めるものとする。 第三章 障害の原因となる傷病の予防に関する基本的施策 第三十一条 国及び地方公共団体は、障害の原因となる傷病及びその予防に関する調査及び研究を促進しなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害の原因となる傷病の予防のため、必要な知識の普及、母子保健等の保健対策の強化、当該傷病の早期発見及び早期治療の推進その他必要な施策を講じなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害の原因となる難病等の予防及び治療が困難であることに鑑み、障害の原因となる難病等の調査及び研究を推進するとともに、難病等に係る障害者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めなければならない。 第四章 障害者政策委員会等 (障害者政策委員会) 第三十二条 内閣府に、障害者政策委員会(以下「政策委員会」という。)を置く。 2 政策委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。 一 障害者基本計画に関し、第十一条第第四項(同条第九項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。 二 前号に規定する事項に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に対し、意見を述べること。 三 障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。 3 内閣総理大臣又は関係各大臣は、前項第三号の規定による勧告に基づき講じた施策について政策委員会に報告しなければならない。 (政策委員会の組織及び運営) 第三十三条 政策委員会は、委員三十人以内で組織する。 2 政策委員会の委員は、障害者、障害者の自立及び社会参加に関する事業に従事する者並びに学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。この場合において、委員の構成については、政策委員会が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調査審議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない。 3 政策委員会の委員は、非常勤とする。 第三十四条 政策委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。 2 政策委員会は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。 第三十五条 前二条に定めるもののほか、政策委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。 (都道府県等における合議制の機関) 第三十六条 都道府県(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)を含む。以下同じ。)に、次に掲げる事務を処理するため、審議会その他の合議制の機関を置く。 一 都道府県障害者計画に関し、第十一条第五項(同条第九項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。 二 当該都道府県における障害者に関する施策の総合的かつ計画的な推進について必要な事項を調査審議し、及びその施策の実施状況を監視すること。 三 当該都道府県における障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を要する事項を調査審議すること。 2 前項の合議制の機関の委員の構成については、当該機関が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調査審議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない。 3 前項に定めるもののほか、第一項の合議制の機関の組織及び運営に関し必要な事項は、条例で定める。 4 市町村(指定都市を除く。)は、条例で定めるところにより、次に掲げる事務を処理するため、審議会その他の合議制の機関を置くことができる。 一 市町村障害者計画に関し、第十一条第六項(同条第九項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。 二 当該市町村における障害者に関する施策の総合的かつ計画的な推進について必要な事項を調査審議し、及びその施策の実施状況を監視すること。 三 当該市町村における障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を要する事項を調査審議すること。 5 第二項及び第三項の規定は、前項の規定により合議制の機関が置かれた場合に準用する。 附 則 抄 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から施行する。 附 則 (平成二十三年八月五日法律第九十号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。 一 第二条並びに附則第四条、第五条(同条の表第三号及び第四号に係る部分に限る。)、第八条第二項及び第九条(内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第三十七条第二項の表の改正規定に係る部分に限る。)の規定 公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日 二・三 (略) (検討) 第二条 国は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律による改正後の障害者基本法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 2 国は、障害者が地域社会において必要な支援を受けながら自立した生活を営むことができるようにするため、障害に応じた施策の実施状況を踏まえ、地域における保健、医療及び福祉の相互の有機的連携の確保その他の障害者に対する支援体制の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) 第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 三 行政機関等 国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体(地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)第三章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。第七号、第十条及び附則第四条第一項において同じ。)及び地方独立行政法人をいう。 四 国の行政機関 次に掲げる機関をいう。 イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関 ロ 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうちニの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ハ 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(ホの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ニ 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの ホ 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの ヘ 会計検査院 五 独立行政法人等 次に掲げる法人をいう。 イ 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。ロにおいて同じ。) ロ 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(独立行政法人を除く。)又は特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、政令で定めるもの 六 地方独立行政法人 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人(同法第二十一条第三号に掲げる業務を行うものを除く。)をいう。 七 事業者 商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。 (国及び地方公共団体の責務) 第三条 国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。 (国民の責務) 第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。 (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備) 第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。 第二章 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。 一 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向 二 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 三 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 四 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項 3 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。 4 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない。 5 内閣総理大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。 6 前三項の規定は、基本方針の変更について準用する。 第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置 (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。 (国等職員対応要領) 第九条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該国の行政機関及び独立行政法人等の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第三条において「国等職員対応要領」という。)を定めるものとする。 2 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。 3 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 4 前二項の規定は、国等職員対応要領の変更について準用する。 (地方公共団体等職員対応要領) 第十条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該地方公共団体の機関及び地方独立行政法人の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第四条において「地方公共団体等職員対応要領」という。)を定めるよう努めるものとする。 2 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 3 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めなければならない。 4 国は、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人による地方公共団体等職員対応要領の作成に協力しなければならない。 5 前三項の規定は、地方公共団体等職員対応要領の変更について準用する。 (事業者のための対応指針) 第十一条 主務大臣は、基本方針に即して、第八条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 第九条第二項から第四項までの規定は、対応指針について準用する。 (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 (事業主による措置に関する特例) 第十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。 第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置 (相談及び紛争の防止等のための体制の整備) 第十四条 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。 (啓発活動) 第十五条 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。 (情報の収集、整理及び提供) 第十六条 国は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うものとする。 (障害者差別解消支援地域協議会) 第十七条 国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下この項及び次条第二項において「関係機関」という。)は、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。 2 前項の規定により協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、協議会に次に掲げる者を構成員として加えることができる。 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体 二 学識経験者 三 その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者 (協議会の事務等) 第十八条 協議会は、前条第一項の目的を達するため、必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うものとする。 2 関係機関及び前条第二項の構成員(次項において「構成機関等」という。)は、前項の協議の結果に基づき、当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を行うものとする。 3 協議会は、第一項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるとき、又は構成機関等が行う相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関し他の構成機関等から要請があった場合において必要があると認めるときは、構成機関等に対し、相談を行った障害者及び差別に係る事案に関する情報の提供、意見の表明その他の必要な協力を求めることができる。 4 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理する。 5 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。 (秘密保持義務) 第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 (協議会の定める事項) 第二十条 前三条に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、協議会が定める。 第五章 雑則 (主務大臣) 第二十一条 この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会とする。 (地方公共団体が処理する事務) 第二十二条 第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長その他の執行機関が行うこととすることができる。 (権限の委任) 第二十三条 この法律の規定により主務大臣の権限に属する事項は、政令で定めるところにより、その所属の職員に委任することができる。 (政令への委任) 第二十四条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。 第六章 罰則 第二十五条 第十九条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。 附 則 (施行期日) 第一条 この法律は、平成二十八年四月一日から施行する。ただし、次条から附則第六条までの規定は、公布の日から施行する。 (基本方針に関する経過措置) 第二条 政府は、この法律の施行前においても、第六条の規定の例により、基本方針を定めることができる。この場合において、内閣総理大臣は、この法律の施行前においても、同条の規定の例により、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた基本方針は、この法律の施行の日において第六条の規定により定められたものとみなす。 (国等職員対応要領に関する経過措置) 第三条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、この法律の施行前においても、第九条の規定の例により、国等職員対応要領を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた国等職員対応要領は、この法律の施行の日において第九条の規定により定められたものとみなす。 (地方公共団体等職員対応要領に関する経過措置) 第四条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、この法律の施行前においても、第十条の規定の例により、地方公共団体等職員対応要領を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた地方公共団体等職員対応要領は、この法律の施行の日において第十条の規定により定められたものとみなす。 (対応指針に関する経過措置) 第五条 主務大臣は、この法律の施行前においても、第十一条の規定の例により、対応指針を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた対応指針は、この法律の施行の日において第十一条の規定により定められたものとみなす。 (政令への委任) 第六条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。 (検討) 第七条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、第八条第二項に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。 (障害者基本法の一部改正) 第八条 障害者基本法の一部を次のように改正する。 第三十二条第二項に次の一号を加える。 四 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。 (内閣府設置法の一部改正) 第九条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。 第四条第三項第四十四号の次に次の一号を加える。 四十四の二 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)第六条第一項に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。