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会員コラム Vol.8

印刷用ページを表示する掲載日2021年10月19日

2021.11.2

Vol.8

「戸田工業のカーボンリサイクルへの取組み」

 当社は、磁器の絵付けや漆器、歴史的建造物などに欠かせない顔料であるベンガラ製造業として創業以来、およそ200年の歴史を有する化学素材メーカーです。酸化鉄のトップメーカーでもあり、多様なニーズに応じた酸化鉄の製造はもちろん、様々な無機材料の特性を活かした素材やパーツを世界の先進企業へ提供しています。

約20年前に、ごみ焼却炉でのダイオキシン抑制や、重金属・VOCによる汚染土壌の浄化に貢献する酸化鉄系の材料で環境機能材料事業を開始し、現在でも積極的に環境機能材料の開発を行っております。

今回は、カーボンリサイクルに関する当社の2つの取組みについて紹介いたします。

 1つ目は、天然ガスやバイオガス等の主成分であるメタン原料から、高活性鉄系触媒を用いたメタン直接改質法(DMR:Direct Methane Reforming 法)によってCO2 フリーの水素を高効率に製造することが可能な水素製造プロセスおよびシステムの開発です。将来的には、DMR 反応炉の加熱エネルギーとして再生可能エネルギー等を用いることでターコイズ水素(*)の提供を目指しています。

この開発では、当社の DMR触媒の調製技術および DMR反応技術と、共同研究を行っているエア・ウォーター株式会社(本 社:大阪市中央区)のガス精製技術を基に、工業用として一般的に利用される純度 99.99%以上の水素の安定的な製造を可能とするとともに、副生成物として高導電性を有する多層カーボンナノチューブ(以下、「CNT」)を得ることを目指しています。またこのシステムによる水素の製造コストについては、副生される CNTの販売を組み合わせることで日本政府が「水素基本戦略」において2030年の目標としている30 円/N ㎥以下にすることを目指しています。

(*)ターコイズ水素

再生可能エネルギーやカーボンニュートラルエネルギー源を用いて熱分解を行い、かつ精製過程で生ずる固体炭素がCO2として大気中に放出されない場合の精製水素

水素製造図

 図1.水素製造システム概略図

 2つ目は、埼玉大学・柳瀬准教授がCO2吸収材料として基礎研究をされてきたナトリウムフェライトを、戸田工業が長年培ってきた独自の酸化鉄合成技術を用いて工業的に生産し、CO2固体回収材へと加工して社会実装するための開発です。

ナトリウムフェライトは、鉄、酸素、ナトリウムが層状に配列する層状化合物となっており、このナトリウムの部分に燃焼排ガスや大気中等に含まれるCO2を選択的に化学吸着し、100℃程度の加熱によって、連続的に分離回収できる機能があります。また、このナトリウムフェライトから加工したCO2固体回収材を使用することで、従来のアミン溶液を用いたCO2回収液と比べて、CO2を回収するためのエネルギーを約1/3まで削減することが期待できます。さらに、従来のアミン溶液を用いたCO2回収液のような、揮発性、腐食性、空気酸化による劣化がなく、安全に扱える固体吸収材です。

ナトリウムフェライトによるCO2固体回収材は、アミン溶液による回収材の課題を克服し、小規模運用も可能とするものであり、当社では、2024年度までに、このCO2固体回収材を用いたCO2分離回収設備を自社工場内に設置し、自社ボイラー施設から排出されるCO2を分離回収し、自社製品の原料として再利用するカーボンリサイクルを目指しています。また工場のボイラー施設やごみ焼却場等の中小規模施設での実用化に向けても開発を進め、世界的なCO2排出量削減に取り組んでまいります。

固定回収材

 図2. ナトリウムフェライトによるCO2固体回収材

ナトリウムフェライト

図3.ナトリウムフェライト

📌著者プロフィール

志茂 伸哉(しも のぶや)

戸田工業株式会社 事業支援推進室 イノベーション推進グループリーダー

1998年入社 電子写真分野の商品開発、技術企画に従事後、2021年4月より現職

 

 

 

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